名探偵コナン:星の維持者(プレザーバー)と明日への事件録   作:凜々

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まじめな話は一旦置いといて、娘の初めてのイベント『運動会』!
さぁ!!神聖サーヴァントが一般人にまぎれて目立たないように父兄種目に参加できるのかーーーー!?


第4話:全力の「パパ」、あるいは白熱の校庭

六月。梅雨の晴れ間に恵まれた名古屋市内のある小学校では、熱気に満ちた運動会が開催されていた。

「いいか、誠。重ねて言うが、音速(マッハ)は出すな。地面を蹴る時に土を爆ぜさせるな。一等賞は狙ってもいいが、二位との差は一メートル以内に留めろ。分かったな」

 保護者待機席。衛宮守は、ハチマキを締めた楠木誠の肩を掴み、怨念に近い熱量で言い聞かせていた。

「……ああ。昨晩、動画サイトで『平均的な父親の走行フォーム』を五千回反復視聴した。イメージトレーニングは完璧だ」

 誠は真剣な眼差しで、トラックを見つめる。その瞳は、星の滅亡を阻止せんとする時と同じ、あるいはそれ以上の決意に満ちていた。

「その『完璧』が一番怖いんだがな……」

 守は深いため息をついた。ふと隣を見れば、金森彰(ギルガメッシュ)が、学校側が用意したパイプ椅子を「我が座るには硬すぎる」と一蹴し、宝物庫から出したのか、金糸の刺繍が施された豪奢なソファに踏ん反り返っている。その横では神代翠(エルキドゥ)が、近所の奥様方に囲まれ、「まあ、楠木さんのお宅の方は皆さんモデルさんみたい!」と黄色い声を浴びながら、完璧な微笑みでファンサービスを振りまいていた。

(目立つなと言った端からこれだ……。頭が痛い……)

 守はこめかみを押さえた。彼が経理として、いかに「楠木家はごく一般的な家庭である」という偽装書類を積み上げようとも、この素材(英霊)たちの輝きは隠しようがない。

 

「――続いての種目は、一年生保護者による『障害物競走』です!」

 放送が流れる。誠がスタートラインに立った。

 合図のピストルが鳴る。誠は計算通りの「人間らしい」前傾姿勢で駆け出した。

(……よし。歩幅は七十センチに固定。腕の振りは九十度。周囲のパパたちとの距離を維持……)

 しかし、誠の「人間らしさ」は、あまりにも「美しすぎた」。

 無駄のない筋肉の動き、一切のブレがない体幹。それは運動会というより、オリンピックの100メートル決勝を見ているような、異様なまでの静謐な躍動感。

「……おい。誠の奴、網くぐりなのに伏せの姿勢がプロの特注(ミリタリー)仕様になってるぞ」

 守のツッコミが虚しく響く中、誠は網を時速五キロ(計算通り)でくぐり抜け、パン食い競争のエリアへ。

(ここで『必死さ』を演出する。顔の筋肉を三パーセント弛緩させ、口を大きく開く……)

 誠は必死の形相(を装った完璧な演技)でパンに食らいついた。しかし、反射神経が良すぎるせいで、揺れるパンの軌道をコンマ数秒で先読みしてしまい、一瞬の淀みもなく「パフッ」とスマートに仕留めてしまった。

「パパ、頑張れーーー!」

 観覧席から紬の声が響く。

「……!」

 その瞬間、誠の魔力回路が僅かに励起した。

 最後のリレー形式の直線。誠は「全力」を出したつもりはなかったが、紬の応援により「精神的高揚によるパラメーターの微増」が発生。

 ドォン、と小さな衝撃波を足元に残し、誠はゴールを駆け抜けた。二位との差、一メートル。計算通り……のはずだったが、ゴールテープを切った後の制動距離が足りず、彼はそのまま校庭の砂塵を巻き上げながら、フェンスの手前まで滑り込んでようやく止まった。

 

「……やりすぎだ、馬鹿者が」

 守が額に手を当てて天を仰ぐ。周囲の保護者たちは「今、一瞬だけ残像が見えなかったか?」とザワついている。

 一方で、金森彰は「フン、雑種にしては良い走りだった。褒美をやるべきだな」と、何もない空間(王の財宝)から金貨でも出しそうな気配を見せたため、翠が慌ててその腕を制した。

 

お昼時。守が投影し、誠が固定した「絶対に中身が寄らない、温度を保つ魔法の重箱」が広げられた。

「パパ、すごかった! びゅーんってなってたよ!」

 砂だらけになった誠のジャージを、紬が小さな手でパンパンと叩く。

「……そうか。紬が喜んでくれたのなら、計算外の加速も……無駄ではなかったな」

 誠は、砂を噛んだ口内で微かに笑った。

「やれやれ。午後には綱引きがあるんだ。今度は『地面にめり込まない』ように気をつけてもらおうか。……ほら、アスクレピオス(浅倉)が、お前の心拍数が一瞬跳ね上がったことに気づいて、『解剖させろ』ってうるさいぞ」

 守から手渡されたスポーツドリンクを飲み干しながら、誠は名古屋の青空を見上げた。

 

神話の戦場に比べれば、この平穏な喧騒はあまりにも脆い。

 だが、この砂の匂いと、娘の笑い声。これこそが、自分がこの世界で「維持」すべき宝物なのだと、星の端末は改めて実感していた。

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