少しおかしな艦娘達と提督が生きるために 作:大和
プロローグ
――辺境鎮守府、到着
潮風は、どこか錆びた匂いがした。
高野玲奈は、輸送車の窓から荒れた海岸線を見つめていた。
中央の整った鎮守府とは違う。
建物は補修跡だらけで、桟橋はところどころ欠けている。
“辺境”という言葉が、これほど似合う場所もない。
隣には大和が座っていた。
その体は座席に収まりきらず、膝を抱えるようにしている。
だが、その表情は穏やかで、玲奈の肩にそっと手を添えていた。
「……本当に、ここでやっていくのですね、玲奈さん」
「うん。中央には戻れないし、戻る気もない。
でも……あなたがいてくれるなら、私は大丈夫」
大和は静かに微笑む。
その笑みは、戦艦としての威容よりも、恋人としての温かさを感じさせた。
輸送車が停まり、扉が開く。
潮風が一気に吹き込み、玲奈は深く息を吸った。
「――着いたわね。ここが、私たちの新しい鎮守府」
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◆ “半個艦隊にも満たない”出迎え
桟橋に並んでいたのは、わずか十人の艦娘たち。
駆逐艦――暁、島風、雪風、冬月。
重巡――青葉。
空母――鳳翔。
潜水艦――伊13。
そして、玲奈が連れてきた大和。
本来、1個艦隊は24人。
半個艦隊でも12人。
だが、ここには10人しかいない。
玲奈は思わず息を呑んだ。
(……これで、航路奪還? 司令部は正気なの?)
艦娘たちの表情は、どこか影があった。
暁は姿勢を正しているが、瞳が揺れている。
前の鎮守府が襲撃され、自分だけが生き残った少女。
雪風は明るく振る舞うが、その笑顔はどこか空虚だ。
何度艦隊が壊滅しても、自分だけ帰ってきた“幸運艦”。
冬月は無表情。
姉妹艦を全て空襲で失い、心を閉ざしている。
島風は落ち着きなく走り回る。
だがその幼さは、何かを隠すための仮面のようだった。
青葉は記者のように明るく振る舞うが、時折沈黙が長い。
鳳翔は微笑むが、どこか疲れた母のような雰囲気。
伊13は玲奈の影に隠れるようにして、ほとんど口を開かない。
玲奈は胸の奥が痛んだ。
(……ここは、事情を抱えた子たちの“避難所”みたいな場所なんだ)
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◆ 玲奈の決意
大和がそっと玲奈の手を握る。
「玲奈さん。
あなたなら……この子たちを導けます」
「……導く、か。
私はただ、上層部に逆らっただけの落ちこぼれよ」
「私は、あなたが正しいと思ったからついてきたのです。
中央でも、ここでも……あなたは私の提督です」
玲奈は深く息を吸い、艦娘たちの前に立つ。
「――今日からこの鎮守府の指揮を執る、高野玲奈です。
戦力は少ない。状況も厳しい。
でも……私は、あなたたちを見捨てない。
絶対に」
その言葉に、艦娘たちの表情がわずかに揺れた。
大和は静かに微笑む。
その背後で、荒れた海が波を打つ。
こうして――
“少しおかしな提督と艦娘たちが生きるための物語”
が始まった。