少しおかしな艦娘達と提督が生きるために 作:大和
――冬月、沈黙の理由
夕暮れの訓練場は、赤い光に染まっていた。
今日の訓練は、駆逐艦組の連携行動。
暁は元気を取り戻し、雪風も少し明るくなった。
島風は相変わらず走り回っている。
だが――
冬月だけは、ずっと無言だった。
玲奈はその様子を見ながら、胸の奥がざわつく。
(……冬月。あなたの心は、まだ止まったままなのね)
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◆ 訓練中の異変
「冬月、次はあなたの番よ。
回避行動、やってみて」
玲奈が声をかけると、冬月は静かに頷いた。
「……了解」
大和が模擬弾を発射する。
冬月は――動かない。
「冬月、危ない!」
暁が叫ぶ。
雪風が息を呑む。
だが冬月は、弾がかすめる直前でようやく身体を傾けた。
その動きは遅く、ぎこちない。
玲奈は訓練を止めた。
「冬月、どうしたの?
あなたならもっと動けるはずよ」
冬月は俯いたまま、ぽつりと呟いた。
「……動けません」
「どうして?」
「……動いても……意味がないから」
その言葉に、空気が凍りついた。
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◆ 冬月の“空白”
玲奈は冬月を訓練場の端に連れていき、静かに問いかけた。
「冬月。
あなた……前の鎮守府で、何があったの?」
冬月はしばらく沈黙していた。
風が吹き、髪が揺れる。
やがて、冬月は小さく口を開いた。
「……空襲でした。
突然、警報が鳴って……
気づいたら、姉さんたちが……」
声が震える。
「……みんな、いなくなっていました」
玲奈は息を呑んだ。
冬月は続ける。
「冬月だけ……生き残りました。
でも……冬月は、何もできなかった。
助けられなかった。
だから……」
冬月は胸に手を当てた。
「……冬月の中は、空っぽなんです。
何をしても……何を言われても……
心が動かないんです」
玲奈はそっと冬月の手を握った。
「冬月。
あなたは“空っぽ”なんかじゃない」
冬月は首を振る。
「……違います。
冬月は……壊れています」
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◆ 玲奈の言葉
玲奈は冬月の肩に手を置いた。
「壊れているなら、直せばいい。
空っぽなら、また満たせばいい」
冬月は驚いたように玲奈を見た。
「……そんな簡単に……」
「簡単じゃないわ。
でも、あなたは一人じゃない」
玲奈は微笑む。
「暁も、雪風も、島風も……
みんな傷ついてる。
でも、少しずつ前に進んでる」
冬月の目が揺れた。
「冬月。
あなたの心が動かないなら……
私が動かしてあげる」
冬月は息を呑んだ。
「あなたがもう一度笑えるように。
もう一度、誰かを守りたいと思えるように。
私はあなたを見捨てない」
冬月の目に、初めて“感情”が宿った。
「……提督……」
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◆ 大和の支え
その時、大和が静かに近づいてきた。
「冬月さん。
あなたが感じている痛みは……
決して弱さではありません」
冬月は大和を見上げる。
「私は戦艦として、多くの仲間を失いました。
そのたびに心が軋みました。
でも……玲奈さんが支えてくれた」
玲奈は照れくさそうに笑う。
「だから……冬月さん。
あなたも、誰かに支えられていいのです」
冬月は小さく震えた。
「……支えられて……いいんですか……?」
「もちろんよ」
玲奈が答える。
「あなたは一人じゃない」
冬月の目から、ぽろりと涙が落ちた。
「……冬月……もう一度……戦いたいです……
みんなと……一緒に……」
玲奈は冬月を抱きしめた。
「その気持ちがあれば、十分よ」
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◆ 仲間たちの声
暁が駆け寄る。
「冬月! 一緒に頑張ろうよ!
暁はレディだから、仲間を支えるわ!」
雪風も手を握る。
「雪風、冬月ちゃんの幸運にもなるよ!」
島風は笑顔で言う。
「冬月ちゃん、走るの苦手なら島風が引っ張るね!」
冬月は涙を拭き、微笑んだ。
「……ありがとう。
冬月……頑張ります」
玲奈はその姿を見て、胸が温かくなった。
(この子たち……本当に強い)
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◆ 冬月の再生が始まる
こうして、
冬月の“空白”は、仲間の声で少しずつ満たされ始めた。
壊れた艦隊は、また一歩――
確かに前へ進んだ。