2026年、夏の夕暮れ。
墨東署交通課の応接室は、珍しく静かな空気に包まれていた。
テーブルを挟んで座っているのは、美幸、夏実、中嶋の三人。
そして、向かい側に座っているのは、背筋を伸ばした40代半ばの男性だった。
男性は深く頭を下げ、声にわずかな震えを混ぜながら言った。
「……この度は、本当に申し訳ありませんでした。兄の近藤、そしてその息子が、墨東署の皆さんに多大なご迷惑をおかけしました。私、近藤の弟の近藤健一と申します。警察官の家に生まれた者として、兄のしたことは許されることではありません。息子までも同じ過ちを繰り返したこと……心からお詫び申し上げます」
部屋にしばらく沈黙が落ちた。
夏実は腕を組んだまま、珍しく真面目な顔で相手を見つめていた。
美幸は眼鏡の奥で静かに相手の表情を観察し、中嶋は黙ってコーヒーカップを手に持ったままだった。
やがて、美幸が穏やかな声で口を開いた。
「近藤健一さん……ご家族として、辛い思いをされたことと思います。009事件のとき、私たちは兄上から『警察の誇りを傷つけられた』とまで言われました。そして今年、息子さんからも同じようにトゥデイを傷つけられました。……正直、怒りも悲しみもありました」
夏実は隣で大きく頷いた。
「そうだよ。あのとき、中嶋もあたしも怪我したし、トゥデイにも傷がついた。親子二代にわたって墨東署を敵視されるのは、正直、いい気分じゃなかったわ」
近藤健一は再び深く頭を下げた。
「本当に……申し訳ありません。兄は警察官としての正義を歪めてしまい、息子もその影響を受けて同じ道を歩んでしまいました。私は民間企業で働いていますが、家族として責任を感じて、どうしても直接お詫びしたくて今日お伺いしました」
中嶋が、静かにカップを置いて口を開いた。
「……お前さんの気持ちはわかった。ただ、謝罪だけじゃ終わらないこともある。009事件の被害者は今も何人か残っているし、今年の件も正式に記録に残っている。これからは、近藤の名前を背負うなら、二度と同じ過ちを繰り返さないでくれ」
近藤健一は顔を上げ、力強く頷いた。
「はい……肝に銘じます。兄と甥が犯した罪は、私がこれからの人生で少しでも償っていきたいと思います」
美幸は眼鏡を軽く押し上げ、柔らかな笑みを浮かべた。
「謝罪は受け取りました。これで一件落着……というわけにはいきませんが、少なくとも恨みは解消されたと思います。近藤さんも、どうかご自愛ください」
夏実は立ち上がり、近藤健一の肩を軽く叩いた(力加減はかなり控えめだった)。
「まあ、元気出せよ。親父さんと息子さんがああだったからって、あんたまで同じ道を行く必要はないからね」
近藤健一はもう一度深く頭を下げ、応接室を後にした。
ドアが閉まった後、夏実は大きく息を吐き出した。
「……25年越しに、ようやく一件落着って感じだな」
美幸は窓の外の夕焼けを眺めながら、静かに言った。
「ええ。親子二代の因縁……ようやく終わったわね」
中嶋はコーヒーカップを空にし、苦笑いを浮かべた。
「これで墨東署も、少しは平和になるといいんだが……」
夏実は拳を握り、いつもの笑顔に戻った。
「平和になるわけないでしょ!あたしたちがいるところが平和だった試しがないんだから!」
美幸も小さく笑いながら立ち上がった。
「そうね……これからもフルスロットルで走り続けるだけよ」
三人は顔を見合わせ、静かに、しかし力強く頷き合った。
近藤親子との長い因縁は、今日、弟の謝罪をもってようやく幕を閉じた。
墨東署交通課は、今日も平和ではなかった。
でも、それでいい。
昭和のトゥデイと、二人の婦警、そして白き鷹はこれからも変わらず、街を守り続けていく。
逮捕しちゃうぞ、フルスロットルで——!