2026年、夏の午後。
東京スカイツリー周辺の駐車場。
墨東署の巡回ルートを回っていたトゥデイ(JW1型)が、ゆっくりと滑り込むように停まった。
美幸がハンドルを握り、夏実が助手席でアイスコーヒーを飲みながら外を眺めていた。
すると、隅っこの薄暗いスペースで、小さく蹲っている紫色の髪の女性を見つけた。
「ケイト……?」
夏実がドアを開け、駆け寄った。
ケイト・フルニエはエボⅣ(スコーティアホワイト)の横で膝を抱え、肩を震わせていた。
タイヤが完全にパンクし、車体が傾いている。
「こ、こう言うときに限って……タイヤ、パンクしちゃった……うぅ……」
夏実は目を丸くした。
「何してるの?」
ケイトはビクッと跳ね上がり、青い瞳を涙でいっぱいにして顔を上げた。「ひぃぃっ……!? え? あ、夏実さんに美幸さん……!」
美幸もトゥデイから降り、眼鏡を押し上げながら近づいた。
「どうしたの?」
ケイトはもう我慢できなくなったのか、大きな声で泣き出した。
「うあああああん!!」
美幸は慌ててケイトの肩に手を置いた。
「ケイト!?」
夏実は頭を掻きながら、呆れたように呟いた。
「泣き付かれてしまった……」
ケイトは涙を拭いもせず、すがるような目で二人を見上げた。
「助けてくださぁい!」
美幸はすぐにエボⅣのタイヤを確認し、冷静に状況を把握した。
「どうしたの?」
ケイトは鼻をすすりながら、震える声で説明した。
「タイヤ……パンクしちゃって……その、私のエボⅣが……人に頼ろうとしてたけど怖くて……中嶋さんより怖いです……」
夏実は一瞬固まり、すぐに笑い飛ばした。
「待って。意味分からないけど……エボⅣのタイヤがパンクしちゃったって事なの?」
美幸は優しくケイトの背中をさすりながら、穏やかに言った。
「大変だったわね……」
ケイトは涙目で頷いた。
「どうすれば……?」
美幸はトゥデイのトランクから工具箱を取り出し、すぐに動き始めた。
「私が手伝うわ!タイヤ交換するだけでホイールは?」
ケイトは慌てて頷いた。
「ホイールは何ともないです……」
美幸は眼鏡を押し上げ、プロらしい手つきでジャッキを準備しながら言った。
「だったらタイヤだけ交換ね。夏実、スペアタイヤ出して。ケイトちゃんはここで少し休んでて」
夏実は工具箱からスペアを取り出しながら、ニヤリと笑った。
「了解! ケイトちゃん、安心しろよ。あたしたちのフルスロットルサービス、受けてやるわ!」
ケイトは涙を拭いながら、ようやく小さく微笑んだ。
「あ……はい! ありがとうございます……」
美幸は素早い手つきでパンクしたタイヤを外し始め、静かに言った。
「エボⅣは重い車だから、路肩でパンクするのは危ないわね。次からは、万が一のときのために私たちに連絡して。いつでも駆けつけるから」
夏実はジャッキを支えながら、豪快に笑った。
「そうだよ! メイド軍団のエボが困ってるって聞いたら、フルスロットルで飛んでくるからね!」
ケイトは二人の手際の良さに、ようやく安心したように息を吐いた。
「……美幸さん、夏実さん……本当にありがとうございます。私、怖がりで……みんなに迷惑かけちゃって……」
美幸は新しいタイヤをはめながら、優しく微笑んだ。
「迷惑だなんて思ってないわ。仲間が困ってるんだもの。助けるのは当然よ」
タイヤ交換が完了すると、ケイトのエボⅣは再び安定した姿勢を取り戻した。
夏実は手を拭きながら、満足げに胸を張った。
「よし、完了!これでまた峠を攻められるわね、ケイトちゃん!」
ケイトは涙を拭い、深々と頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます……!お二人には、何度助けられても足りません……」
美幸は眼鏡を押し上げ、静かに言った。
「これからも、困ったときはすぐに連絡してね。私たち、墨東署の婦警コンビは、いつでもフルスロットルで駆けつけるから」
スカイツリーの巨大な影の下、三人は笑顔で並び、エンジンの熱気がまだ残る駐車場に立っていた。
2026年の夏の午後は、
また一つ、温かい絆で彩られた。
夏実はケイトの肩を軽く叩き、ニヤリと笑った。
「よし! これで一件落着!次はみんなでファミマ寄って、祝勝アイスでも食おう!」
美幸は小さく微笑みながら、トゥデイのドアを開けた。
「ええ……いいわね」
ケイトも涙を拭い、ようやく明るい笑顔を見せた。
スカイツリーの見守る中、墨東署の婦警コンビとメイド走り屋の日常は、今日も優しく、賑やかに続いていくのだった。
イオン東雲店、漫画コーナーの一角。
突然、明るい声が響いた。
「あ、美幸さん! 夏実さん!」
振り向くと、モナコレッドのエボⅤのオーナー、ミリアムが漫画の棚の前で手を振っていた。
いつもの元気な笑顔だが、今日は少し困ったような表情を浮かべている。
夏実は景品のぬいぐるみを抱えたまま、にこっと笑った。
「ミリアムちゃん、どうしたの?」
ミリアムはスマホ(iPhone17)を差し出しながら、照れくさそうに言った。
「ちょっと悩んでることがあって、漫画を買いたくて……」
夏実は首を傾げた。
「漫画?」
「うん、お小遣いで買えるのが片方のシリーズだけで……ねえ、どっちが良いと思う?」ミリアムが画面を見せてくれたのは、同じ「とある」シリーズの二作品だった。
『とある科学の超電磁砲』
『とある暗部の少女共棲』
主人公は違うけど、どちらも同じ世界観の人気作だ。
夏実は画面を覗き込み、すぐに目を輝かせた。
「 Railgun か……暗部か! どっちも面白そうだけど……」
美幸は眼鏡を軽く押し上げ、静かに微笑んだ。ミリアムはスマホを握りしめ、期待の眼差しで二人を見た。
「ボク、どっちにしようか迷っちゃって……」
夏実は少し考えてから、豪快に笑った。
「よし、決めた!ミリアムちゃんには『とある科学の超電磁砲』をおすすめするわ!派手なバトルに可愛い女の子がいっぱい出てくるし、ミリアムちゃんの明るい性格にぴったりだと思うわ!暗部の方は確かに深いけど、ちょっとシリアスすぎて今はRailgunから入った方が楽しめるんじゃないかな?」
ミリアムは目をキラキラさせて頷いた。
「うん! ボクもRailgunの方が気になってたんだ!じゃあこれにする! ありがとう、夏実さん!」
美幸は小さく笑いながら、補足した。
「私も同感よ。『超電磁砲』はアクションと日常のバランスがいいわ。暗部の方は後で、もっと世界観に慣れてからゆっくり読むといいと思う」
ミリアムはレジに向かいながら、嬉しそうに手を振った。
「わかった! じゃあ今から買ってくるね!またみんなで感想語り合おう!」
夏実は背中に向かって大きく手を振り返した。
「楽しんでな、ミリアムちゃん!」
美幸は眼鏡の奥で優しく微笑んだ。
「ふふ……ミリアムちゃんらしいわね」
二人はそのまま、リュシーたちへのプレゼントを選びに再び店内を歩き始めた。
イオン東雲店の明るい照明の下、ミリアムの軽やかな足音が、今日も元気に響いていた。夏実は隣を歩く美幸に、小声で囁いた。
「 Railgun 推しで正解だったろ?」
美幸は静かに頷いた。
「ええ。ミリアムちゃんの笑顔に一番合うのは、きっとあっちよ」
二人は顔を見合わせて、くすりと笑った。
2026年の夏の午後は漫画一冊の小さな選択から生まれる温かい日常で満ちていた。