2026年、夏の夜。
群馬・妙義山のワインディングロード。
スコーティアホワイトのエボⅣが、夜の峠道を軽やかに駆け上がっていた。
ケイト・フルニエは紫色の髪を風に揺らし、いつもの明るい表情でハンドルを握っていた。
しかし——後方から水色のEG6シビックが猛烈な勢いで迫ってきた。
リィズ・ホーエンシュタインだった。
EG6はエボⅣのインを鋭く突き、強引に並走。
リィズの冷たい声が無線越しに響いた。
「その程度の走りで妙義を走ってるなんて、笑えるわね。ちょっと遊んであげる」
ケイトは慌ててアクセルを踏み込んだが、EG6のシャープなラインとパワーに徐々に引き離されていく。
最終コーナーでリィズのEG6が完璧なオーバーテイクを決め、先に山頂を通過した。
バトルの結果は……ケイトの完敗。
山頂の駐車スペースで、エボⅣが静かに停車した。
リィズはEG6から降り、金髪を軽く払いながら、冷笑を浮かべて近づいてきた。
「フン……あなたね。そんなウデでよくもまぁ妙義山で走ろうなんて思ったもんね。それとも何? 他の峠じゃ遅すぎて誰にも相手して貰えないの?エボⅣが泣くわよ」
ケイトは運転席から降り、紫色の髪を垂らしたまま、うつむいて黙っていた。
「……」
リィズはさらに言葉を続けた。
「あなたが走り屋名乗るなんて10年早いのよ!」
ケイトは唇を噛み、ようやく小さな声で返した。
「……次は勝って見せます!」
リィズは鼻で笑い、冷たく言い放った。
「そう? 漸く自分の遅さに気付いたみたいね……分かったら教習所に行って免許取り直してから出直しなさい!!」
ケイトは拳をぎゅっと握りしめ、震える声で、しかしはっきりと言った。
「……絶対に勝ってみせますから」
リィズは肩をすくめ、EG6に戻りながら最後に一言。
「期待してるわよ、泣き虫メイドさん」
水色のEG6は夜の闇に溶けるように去っていった。
ケイトはエボⅣのボンネットに寄りかかり、紫色の髪で顔を隠すようにうつむいた。
肩が小さく震えていた。
「……うぅ……」
そのとき、遠くから低く野太いターボ音が近づいてきた。
ピレネーブラックのエボⅢが滑り込み、ハリエットが降り立った。
続いてトゥデイ(JW1型)も到着し、美幸と夏実が顔を出した。
ハリエットは黄金色の瞳を細め、ケイトの様子を見てすぐに察した。
「ケイ……どうしたんですか?」
夏実はトゥデイから降りて駆け寄り、ケイトの肩を抱いた。
「ケイトちゃん! 泣いてるのか? 誰かに絡まれたのか?」
美幸は眼鏡を押し上げ、静かに状況を読み取った。
「エボⅣのタイヤの擦れ……誰かとバトルしたのね」
ケイトは涙を拭いながら、震える声で言った。
「水色のEG6……リィズ・ホーエンシュタインっていう人に……完敗して……すごく悔しくて……」
夏実は拳を握りしめ、即座に反応した。
「EG6? あのシビックか!ケイトちゃん、悔しいなら次は絶対に勝とう!あたしたちも一緒に練習してやる!」
美幸はケイトの頭を優しく撫でながら、穏やかに言った。
「大丈夫よ、ケイトちゃん。負けたのは今日だけ。次に会ったら、ピクシス・マスールと墨東署の力を見せてあげましょう」
ハリエットはエボⅢに寄りかかり、黄金色の瞳で夜の峠を見つめた。
「ふふ……面白い相手が出てきましたね。ケイ、次は私がしっかりサポートするから……絶対に勝ちましょう」
ケイトは涙を拭い、ようやく小さく頷いた。
「……うん。絶対に……次は勝ってみせます!」
妙義山の夜風が、四人の髪を優しく揺らした。
ケイトのエボⅣは、まだ熱を帯びたまま静かに佇んでいたが、そのボンネットに寄りかかるケイトの瞳には、再び小さな闘志の炎が灯り始めていた。
5日後
群馬・妙義山のワインディングロード。
夜の峠は静かに湿り気を帯び、ヘッドライトの光だけが道を切り裂いていた。
水色のEG6シビックが、いつものように軽快にコーナーを攻めていた。
リィズはハンドルを握り、冷たい視線を前方に固定している。
すると、後方から白い光が急速に近づいてきた。
スコーティアホワイトのエボⅣ——ケイトだった。
リィズはミラー越しにエボⅣを確認し、唇の端を歪めた。
「ん……? 誰、あなた」
ケイトはエボⅣをリィズの横に並べ、緊張した声で言った。
「あ、あの……」
リィズはすぐに思い出したようで、嘲るように笑った。
「ああ……この前シッポ巻いて逃げたメイドさんね。まだウロウロしていたの?」
ケイトはハンドルを強く握りしめ、紫色の髪を少し震わせながら、はっきりと言った。
「5日間走り込んで練習しました……その、リベンジさせてください!」
リィズは鼻で笑い、冷たく言い放った。
「あなたみたいな遅いドライバーにイキって走られると邪魔過ぎて迷惑なのよ!!」
ケイトは一瞬うつむいたが、すぐに顔を上げ、青い瞳に決意を宿して繰り返した。
「……お願いします」
リィズはため息をつき、EG6のエンジンを高らかに吹かした。
「フン、納得いかないのね。全く……しょうがないわね。きっちり思い知らせてあげるよ―――レベルの違いを。ね」
——スタート!
EG6が鋭い加速で先行し、妙義山のテクニカルなコーナーを攻め始めた。
リィズのFF最速を自負するラインは、相変わらずシャープだった。
しかし、たった5日間で徹底的に練習を積んだケイトのエボⅣは、前回とは明らかに違っていた。
ピクシス・マスールの仲間たちと墨東署の面々が付きっきりでアドバイスをし、ケイト自身も「怖がり」を少しずつ克服しながら、ラインを磨き上げていた。
中盤の連続ヘアピンで、ケイトはエボⅣの4WDを活かした安定したトラクションでリィズに食らいつき、最終セクションの高速左コーナーで、見事なオーバーテイクを決めた。
エボⅣが山頂を先頭で通過した。
勝負の結果は……ケイトの勝利!
駐車スペースでエボⅣが停まると、ケイトはシートベルトを外し、震える手でドアを開けた。
「か……勝った。勝ちました……よ」
リィズはEG6から降り、金髪を乱暴に払いながら、信じられないといった顔でケイトを睨んだ。
「こんな馬鹿な……私のシビックはFF最速の筈よ!?」
ケイトは息を荒げながらも、紫色の髪を指で直し、はっきりと言った。
「リィズさん……」
リィズは唇を噛み、悔しさを隠せないまま続けた。
「……けどね。こっちから仕掛けたバトルよ。このまま引き下がると走り屋界隈の笑いモノになって再起不能よ。待ってなさい……必ずリターンマッチを挑んでやるから覚悟しておきなさい!!」
ケイトは小さく、しかし力強く頷いた。
「……はい。次も、絶対に負けません」
リィズはEG6に戻り、ドアを強く閉めながら最後に一言。
「ふん……覚えてなさいよ、泣き虫メイド」
水色のEG6は夜の闇に消えていった。
ケイトはエボⅣのボンネットに寄りかかり、ようやく大きな息を吐いた。
紫色の髪が汗で少し張り付き、青い瞳には達成感と新たな決意が宿っていた。
「……勝った……本当に勝った……」
そのとき、後方から低く野太いターボ音が近づいてきた。
ピレネーブラックのエボⅢ(ハリエット)と、トゥデイ(美幸・夏実)が到着した。
ハリエットがエボⅢから降り、黄金色の瞳でケイトを見て微笑んだ。
「ケイ……勝ったんですね。おめでとう」
夏実はトゥデイから飛び降り、ケイトの肩をバシンと叩いた(優しい力加減で)。
「やったじゃん、ケイトちゃん!たった5日間でここまで成長するなんて、すごいわ!」美幸は眼鏡を押し上げ、静かに微笑んだ。
「よく頑張ったわ、ケイトちゃん。あなたの努力が実ったのよ」
ケイトは涙を浮かべながら、みんなに頭を下げた。
「……みんな、ありがとうございます。次は……もっと強くなって、リィズさんにリターンマッチで勝てるように頑張ります!」
妙義山の夜風が、四人の髪を優しく揺らした。
ケイトのエボⅣは、まだ熱を帯びたまま静かに佇んでいたが、
そのボンネットに寄りかかるケイトの横顔には、初めての勝利の余韻と、次の戦いへの静かな覚悟が浮かんでいた。
翌日
墨東署交通課の駐車場。
いつものように白黒のトゥデイ(JW1型)が停まっている横に、昨日妙義山で戦ったばかりのスコーティアホワイトのエボⅣが並んでいた。
ケイトはエボⅣのボンネットに寄りかかり、紫色の髪を少し乱したまま、ぼんやりと遠くを見つめていた。
まだ昨夜の勝利の余韻が残っているのか、頰がわずかに赤い。
そこへ、いつものメンバーが集まってきた。
夏実はトゥデイのボンネットに腰をかけ、豪快に笑いながら声をかけた。
「よお、ケイトちゃん! 昨日の勝利、おめでとう!5日間でここまで成長するなんて、マジですごいわよ!」
美幸は眼鏡を軽く押し上げ、穏やかな笑顔で近づいた。
「ええ、本当に頑張ったわね、ケイトちゃん。リィズさんのEG6を相手に、最後のコーナーで綺麗に抜いた瞬間……見事だったわ」
ハリエットはピレネーブラックのエボⅢに寄りかかり、黄金色の瞳を細めてくすくす笑った。
「ふふ……ケイが勝つなんて、ちょっと意外でしたね。でも、あの粘り強い走り……ピクシス・マスールの一員として誇らしいです」
リュシーはラビットS601を押しながら、赤い瞳でケイトを見て小さく頷いた。
「まあ、よくやったよ。あのEG6、相当速かったのに、最後で逆転するなんて……お前、5日間で何したんだ?」
ケイトは紫色の髪を指でいじりながら、照れくさそうに微笑んだ。
「うう……みんなにいっぱい教えてもらったおかげです。怖がらずにラインを取ること、ブレーキングのタイミング、4WDの使い方……あと、美幸さんと夏実さんの講習会の話も参考になりました」
夏実はケイトの肩をバシンと叩き(優しい力加減で)、大笑いした。
「はははっ! うちの講習会が役に立ったなんて嬉しいよ!ウィリー50メートルは基本、ってちゃんと伝わったかな?」
ケイトは慌てて両手を振った。
「え、えっと……ウィリーはまだちょっと怖くて……でも、アクセルターンは少しできるようになりました!」
美幸はトゥデイのボンネットを優しく撫でながら、静かに言った。
「リィズさん、かなり悔しそうだったわね。『必ずリターンマッチを挑んでやる』って言ってたけど……次はもっと厳しい戦いになると思うわ。ケイトちゃん、準備はできてる?」
ケイトは少し緊張した顔になりながらも、青い瞳に強い光を宿して頷いた。
「はい……絶対に負けません。もう一度勝って、リィズさんに『レベルの違い』をちゃんと見せたいんです」
リュシーが腕を組み、赤い瞳でケイトを見た。
「まあ、気合いは十分みたいだな。お嬢も『ケイトが勝ったって聞いたら喜ぶだろう』って言ってたよ。次はみんなでサポートしてやるから、安心しろ」
ハリエットがくすくす笑いながら、三つ編みを弄んだ。
「ふふ……ケイトが成長する姿、なんだか可愛いですね。次は私がしっかりエスコートしてあげますから、安心して走ってくださいね」
中嶋剣が白バイを停めて近づいてきて、苦笑いを浮かべた。
「……お前ら、また妙義で派手にやってたらしいな。学校の講習会の話もまだ尾を引いてるっていうのに、今度はケイトちゃんまで峠バトルかよ……」
夏実は中嶋の肩をバシンと叩き、笑った。
「中嶋、心配しすぎだって!ケイトちゃんはちゃんと成長してるんだから!次はリィズとのリターンマッチ、絶対に勝たせてやるよ!」
ケイトはみんなの顔を見回し、涙を浮かべそうな笑顔で言った。
「……みんな、ありがとうございます。私、もっと強くなって……ピクシス・マスールのみんなと、墨東署の皆さんに恥ずかしくない走りができるように頑張ります!」
駐車場に、朝の陽射しが差し込む中、温かい笑い声とエンジンの低い唸りが混じり合った。
2026年の墨東署は、今日も平和ではなかった。
でも、それでいい。
ケイトの小さな勝利と新たなリターンマッチへの決意が墨東署交通課にまた一つ、熱い風を吹き込んでいた。
フルスロットルで、走り続けよう——次は、絶対に勝つ!