逮捕しちゃうぞ2026   作:マブラマ

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FILE.22 おつまーる走の準備

2026年、夏の朝。

墨東署交通課の駐車場。

 

中嶋剣は白バイの整備を終え、いつものように駐車場を横切ろうとしたところで、足を止めた。

「おおっ……」

そこに立っていたのは、見慣れた水色ショートヘアの女性——リュシー・ムーアクロフトだった。

しかし、今日の彼女はいつものメイド服ではなく、まったく違う衣装を着ていた。黒を基調とした、タイトでセクシーなレーシングスーツ風の衣装。

胸元と袖口に赤いラインが入り、腰回りが強調されたデザイン。

普段のメイド服とは打って変わった、攻撃的でスタイリッシュな装いだった。

中嶋は思わず声を上げた。

「おお、リュシー。珍しい格好してるな! まるで見違えたぞ」

リュシーは不機嫌そうに腕を組み、赤い瞳で中嶋を睨んだ。

「あー、恥ずかしい……」

そこへ、頼子と葵もやってきて、目を丸くした。

頼子は眼鏡を光らせ、興奮気味に言った。

「中嶋君、浮気するつもりでしょ?」

葵は長身を少し屈めて、優しく、しかし的確に突っ込んだ。

「確かにリュシーさんは綺麗な女性かもしれませんけど、狂犬である故誘う前にフラれてしまうかと」

リュシーは顔を赤らめ、苛立った様子で言い返した。

「中嶋か。ああいや……ちょっと着替えるタイミングがなくてな。そのせいで、この衣装のまま来たんだが……周りの奴等、びっくりした顔で見てくるからなぁ。衣装が変わったくらいで、そんなに驚くことか?」

頼子は目を輝かせて近づいた。

「驚くに決まってんじゃん! だって、セクシーというか……いい衣装じゃない!」

中嶋は少し照れくさそうに頷いた。

「まあ、普段、メイド服だからなぁ。そんな風に思われるのは仕方ないと思うぞ」

リュシーは腕を組み、そっぽを向いた。

「そんなもんかね……」

中嶋は素直に答えた。

「そうさ」

頼子はさらに興奮して、リュシーの衣装を上から下まで眺めながら言った。

「凄く似合ってるよ! 私、この衣装着たい!」

リュシーは少し驚いた顔をした。

「そうなのか?」

頼子は元気よく頷いた。

「そうだよ!」

葵は優しく、しかし現実的に釘を刺した。

「頼子さん、自分の年齢考えて下さいね」

頼子は全く気にせず、リュシーに詰め寄った。

「年齢なんか関係ない! ねえねえ、これ何処で手に入れたの? 教えてよ!」

リュシーは少し面倒くさそうに答えた。

「は? いやこれ、オーダーメイドだぞ」

中嶋は素直に感想を述べた。

「オーダーメイドか……俺は好きだな」

リュシーは赤い瞳を細めて中嶋を見た。

「へえ……あんたはこういう趣味なのか?」

中嶋は肩をすくめた。

「カッコいいしな。着てたら慣れるんじゃないか? で、何のためにこの衣装を?」

リュシーは少し照れくさそうに、しかしはっきりと言った。

「第2回おつまーる走の為だ。S13だけ目立ってちゃ盛り上がらねえからな」

中嶋は納得したように頷いた。

「エボⅡだったよな」

リュシーは小さく頷いた。

「ああ、参加する連中はびっくりするぜ。S13だろうがS14だろうがS15だろうと関係ない。それと……」

中嶋は首を傾げた。

「?」

リュシーは少し視線を逸らし、ぼそっと言った。

「ありがとうな」

そう言って、リュシーは珍しく柔らかい微笑みを浮かべた。

頼子は目を輝かせて叫んだ。

「と言う事はドロテアさんやハリエットちゃん達も同じ格好なんだ!」

リュシーは小さく頷いた。

「勿論だ」

中嶋は少し驚いた顔で言った。

「へえ……ピクシス・マスール全員で統一衣装か。お前ら、意外と本気だな」

リュシーはすぐにいつもの毒舌に戻り、中嶋を睨んだ。

「うるさいな、お前には関係ないだろ」

中嶋は苦笑いを浮かべながら、肩をすくめた。

「まあ、そうだな……」

駐車場に、朝の陽射しが差し込む中、リュシーの新しい衣装姿が少しだけ特別な朝の空気を生み出していた。

夏実はトゥデイの横から顔を出し、ニヤニヤしながら言った。

「リュシー、似合ってるじゃん!次のおつまーる走、楽しみだね!」

美幸は眼鏡を押し上げ、静かに微笑んだ。

「ふふ……ピクシス・マスール、ますます本格的ね」

リュシーは照れくさそうに髪を掻き上げ、赤い瞳を少し逸らした。

「……ったく、みんな余計なこと言うなよ」

しかし、その口元にはほんの少しだけ、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トゥデイのボンネットに腰をかけていた夏実は、リュシーの新しい衣装姿を見て目を輝かせ、好奇心を抑えきれずに聞いた。

「ねえねえ、おつまーる走って何?リュシーちゃんがそんな衣装を着てまで参加するイベントなんでしょ? 詳しく聞かせてよ!」

リュシーは少し照れくさそうに黒い手袋をはめた手を腰に当て、赤い瞳で夏実を睨みながらも、ため息をついて説明を始めた。

「……まあ、いいか。折角だし説明してやるよ。おつまーる走は、走り屋YouTuberの『おつまーる』が主催する非公式の峠イベントだ。正式名称は『おつまーる走』。通称『おつまーる』って呼ばれてる。第1回は2023年10月7日、場所は備北ハイランドサーキットで開催された。最初は小さな集まりだったらしいけど、YouTubeで配信されて話題になって、参加者がどんどん増えたんだ。第2回も同じ備北ハイランドサーキットで開催される予定。今回は前回より規模が大きくなって、走り屋だけでなく、ギャラリーやスポンサーも絡んでくるらしい。ルールはシンプルで、『公道レースは禁止。サーキット内で安全に走ろう』ってのが建前だけど……実際は参加者同士のタイムアタックや、セッションごとのバトルがメインだ。参加車両は国産車が中心で、特にシルビア、チェイサー、マークⅡ、ハチロクあたりが多い。ピクシス・マスールは、お嬢の提案で全員参加することになった。だからこの衣装だ。統一感を出して、チームとして目立とうって話なんだよ」

夏実は目を輝かせ、興奮気味に身を乗り出した。

「へえ! サーキットで走り屋が集まってタイムアタックか!なんか楽しそうじゃん! あたしたちも混ぜてよ!」

リュシーは即座に赤い瞳を細め、呆れたように手を振った。

「冗談だろ?お前らのトゥデイが来たら、ただのレースじゃ済まなくなる。おつまーるは『走り屋同士の交流とタイムアタックを楽しむ』のが趣旨なんだ。本気の逮捕しちゃうぞモードで来られたら、参加者全員逃げ出すぞ。

余談だがS13の一台がパトカー仕様を施して参加してたぞ」

夏実はトゥデイのボンネットをバシンと叩き、笑いながら言った。

「ははっ! それ面白いわ!じゃあ次はトゥデイもパトカー仕様で参加するか?『墨東署公式エントリー』って看板付けてさ!」

美幸は眼鏡を押し上げ、静かに微笑みながら言った。

「夏実……それは本気でやめましょう。おつまーる走は走り屋の交流イベントよ。私たちが本気で参加したら、ただの取り締まりになってしまうわ」

リュシーは腕を組み、赤い瞳で夏実を睨んだ。

「そうだぞ。お前らが来たら、ただのレースじゃなくなって、ただの『墨東署の公開処刑』になる。……まあ、面白そうではあるけどな」

夏実は残念そうに肩を落としたが、すぐに目を輝かせて言った。

「じゃあ、せめて応援に行くのはどう?トゥデイでピットインして、みんなを応援するだけでもいいじゃん!」リュシーは小さく笑い、珍しく素直に答えた。

「……まあ、それならいいかもな。お前らが来たら、ギャラリーもびっくりするだろうし」

美幸はトゥデイのボンネットを優しく撫でながら、静かに微笑んだ。

「ふふ……第2回おつまーる走、楽しみね。ピクシス・マスールのみんなの走り、しっかり見せてもらいましょう」

駐車場に、夏の陽射しが差し込む中、リュシーの新しい衣装とおつまーる走の話題で、いつもの墨東署らしい賑やかな空気が広がっていた。

夏実はトゥデイの助手席に乗り込みながら、ニヤリと笑った。

「よし! 第2回は絶対に観戦に行くぞ!リュシーちゃんのエボⅡ、楽しみにしてるからな!」

リュシーは照れくさそうに鼻を鳴らし、赤い瞳を逸らした。

「……ったく、期待しすぎだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦会議の続きは、いつものようにトゥデイのボンネットをテーブル代わりにして行われていた。

中嶋は腕を組み、深刻な顔で言った。

「確かにこのまま参加したら大騒ぎになるな。だったら、同じトゥデイを用意してセーフティカーに改造するのはどうだ?」

美幸は眼鏡を軽く押し上げ、少し驚いた様子で聞き返した。

「セーフティカー? それって先導車両の……」

中嶋は頷き、熱を込めて説明した。

「そうだ。それなら参加しても不自然ではないと思うぞ。レースの先導役としてコースを回れば、走り屋たちの様子を自然に観察できるし、何かあったときにもすぐに動ける。お前たちのトゥデイ(JW1前期型)をベースに、外装をセーフティカー風に仕上げればいい」

リュシーは腕を組み、赤い瞳で中嶋を睨みながら言った。

「第1回に出てたS13パトカーは外見だけパトカーで中身は普通のシルビアだからな。あれはただのネタ車両だったけど、今回は本気でやるなら、ちゃんと機能するセーフティカーを作った方がいいかもな。その丸目ライトのトゥデイはもう希少車種になってるから、探すの時間かかるぞ?それにパトカーの払い下げは基本的には無理だからな。普通は」

中嶋は首を傾げた。

「普通ってどういうことだ?」

リュシーは肩をすくめた。

「日本でパトカーの払い下げ出来ないなら海外経由で払い下げ車両を購入して改造するか。もしくは純正のMTのトゥデイを探してまで改造するかだな」

美幸は少し考え込み、冷静に指摘した。

「確かにアイデアは面白いけど……問題は時間と予算ね。第2回はもうすぐ開催されるんでしょう?希少なJW1前期型をもう一台探すのは難しいわ。払い下げ車両を海外から持ってくるとなると、車検や改造の期間もかかるし……」

頼子が眼鏡を光らせ、突然手を挙げた。

「私、いい案浮かんだかも?」

夏実は興味津々で身を乗り出した。

「何々?」

頼子は少し得意げに言った。

「美幸が乗ってる同じトゥデイを探すのは無理なら、JA4型……2代目を探して改造するのは現実的じゃないかな?」

美幸は少し悩むような顔をした。

「うーん、それはそうだけど……」

夏実はすぐに首を振った。

「雰囲気が違うのよね……」

その時、ハリエットが黄金色の瞳を輝かせてスマホの画面を見せながら割り込んだ。

「そういうと思って、事前に探しときましたよ。ほら、JW1前期型のトゥデイ、年式は1987年、車検整備付、修復歴なし!それに白黒のMT。どうです?」

中嶋は画面を覗き込み、すぐに顔をしかめた。

「ハリエット、よく見つけたな……だが、これは修復する必要があるな。よく見てみろ。錆だらけだ。これは一日だけじゃ済まされないぞ」

美幸はスマホの画面をじっくり見て、感心した様子で言った。

「グーネットで見つけたのね……あら、ホント、同じJW1だわ」

夏実は画面を覗き込みながら、興奮気味に聞いた。

「ハリエットちゃん、まさか買うの?」

ハリエットは優雅に髪を払い、自信たっぷりに答えた。

「ドロテア様が買うと宣言しました」

リュシーは目を丸くして驚いた。

「お嬢が!? それは本当か?」

ハリエットはにこやかに頷いた。

「はい、リュシー様。本当です」

駐車場に、しばしの沈黙が落ちた。

夏実はトゥデイのボンネットをバシンと叩き、笑いながら言った。

「ドロテアさん、相変わらず太っ腹だな!じゃあ、これをベースにセーフティカー仕様に仕上げるってことか?」美幸は画面をもう一度確認し、静かに微笑んだ。

「ふふ……これは面白いことになりそうね。希少なJW1前期型をもう一台……しかも白黒のMT。ドロテアさんのセンス、さすがだわ」

中嶋は苦笑いを浮かべながら言った。

「まあ、ドロテアさんが動いてくれるなら心強いが……改造の期間がかなりタイトになるぞ。第2回おつまーる走まで、ちゃんと間に合うのか?」

ハリエットは黄金色の瞳を輝かせ、自信満々に答えた。

「ドロテア様が『絶対に間に合わせる』とおっしゃっています。ピクシス・マスール全員で協力すれば、問題ありません」

リュシーは腕を組み、赤い瞳で中嶋を睨みながら言った。

「中嶋、お前も手伝えよ。バイクしか乗らないって言ってるけど、こういう時は力仕事が必要だぞ」

中嶋は肩をすくめ、苦笑いした。

「わかったよ……俺も協力するさ。白き鷹として、セーフティカーの整備くらいは手伝える」

夏実は拳を握りしめ、闘志を燃やした。

「よし! 決まりね!新しいトゥデイをセーフティカーに仕上げて、おつまーる走に潜入!走り屋どもを監視しつつ、万が一のトラブルにも即対応……完璧な作戦じゃん!」

美幸はトゥデイのボンネットを優しく撫でながら、静かに微笑んだ。

「ええ……この子(現行トゥデイ)と、新しいトゥデイⅡ。二台のトゥデイが並ぶ姿……なんだか感慨深いわね」駐車場に、朝の陽射しが差し込む中、新たなトゥデイ調達とセーフティカー改造の計画が墨東署交通課とピクシス・マスールの共同プロジェクトとして動き始めた。

夏実はトゥデイの助手席に乗り込みながら、明るく叫んだ。

「よし! 第2回おつまーる走、絶対に面白くなるわよ!セーフティカー・トゥデイ、フルスロットルでデビューだ!」

美幸は眼鏡の奥で静かに微笑み、トゥデイのエンジンを軽くかけた。

「ふふ……楽しみね」

2026年の夏は、おつまーる走を舞台に新たな伝説が生まれようとしていた。

フルスロットルで、走り続けよう——!

(セーフティカーも一緒に)

 

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