2026年、夏の快晴の日。
備北ハイランドサーキット。
観客席が熱気と期待に包まれる中、アナウンスが場内に響き渡った。
《走行開始です。まずはBコースでの参加者からの走行です》
頼子は双眼鏡を構え、興奮気味に言った。
「Bコース……ドロテアさんのところじゃない?」
葵が静かに微笑みながら頷いた。
「みんな、盛り上がってますね」
花蝶課長は腕を組み、感心した様子で呟いた。
「二階堂……あのクルマもランエボか?」
頼子はすぐに答えた。
「え? エボⅥ……。あれは」
中嶋剣が補足した。
「クラウディアのクルマだ」
花蝶課長は興味深そうに目を細めた。
「お、知ってるのか?」
中嶋は軽く頷いた。
「『ユニティ・エッジ』という走り屋チームのリーダーを務めている女性ですよ。メンバー全員が平民――所謂一般市民だけで構成されたチームです」
花蝶課長は少し驚いた顔をした。
「やけに詳しいな……まさか変なチームに入って暴走してないだろうな?」
中嶋は慌てて手を振った。
「そんなことするわけがないじゃないですか!走り屋の知り合いはドロテア達や岡崎裕一っていうプロレーサーなどの限られた人しかいないですよ。その岡崎はクルマではなくオートバイで……」
頼子が横から笑いながら突っ込んだ。
「でも結果的には、美幸と上手くいったんだよね?」
中嶋は少し頰を赤らめて誤魔化した。
「そりゃあ、そうだけど……」
葵が突然指を差した。
「あ、来ましたよ。ピクシス・マスールのランエボです!」
その瞬間、サーキットに轟音が響き渡った。
ギャアアアアアッ!!
キィイイイイン!!
ゴアシャアァァァ!!
キュイイイ!!
ゴォアアア!!
ギャギャギャアアア!!
観客席が一気に沸き上がった。
頼子は双眼鏡を握りしめ、興奮した。
「す、凄いスキール音……あれ絶対にタイヤ消耗してるよね?」
中嶋は腕を組んで頷いた。
「ああ、かなり走り込んでたからな……」
コース上。
ドロテアは紫の瞳を鋭く光らせ、無線で指示を飛ばした。
「クラウディアさん、あなたもなかなかやりますわね」
クラウディアのエボⅥから、自信たっぷりの声が返ってきた。
「ドロテア先輩も! 負けてられませんよ」
ドロテアは優雅にアクセルを踏み込みながら、凛とした声で命じた。
「わたくしもです。――――リュシー、後ろに走ってるS13パトカーの相手にしてやりなさい」
リュシーが荒々しく応じた。
「了解! ハリエット、白いS13が迫ってくる前にブロック!ケイト、ハリエットのフォローを!ミリアム、S14をインで突いてカウンターステアだ!」
ハリエットが冷静に。
「了解です。リュシー様!」
ケイトが明るく。
「フォローします!」
ミリアムが元気よく。
「了解! ボクのエボⅤの実力を見せてあげるよ!」
セーフティーカーとしてコースを先導するトゥデイでは——夏実が興奮気味に叫んだ。
「凄い……ここでカウンターステア!?」
美幸はハンドルを握りしめ、静かに微笑んだ。
「私達も負けてられないわね。セーフティーカーだけど」
夏実が後方を確認して声を上げた。
「美幸! 後ろ!」
美幸はミラー越しに確認し、冷静に言った。
「あれは、ギャランVR-4……! 乗ってるのはコトハね」
夏実は身を乗り出した。
「どうする?」
美幸は穏やかに答えた。
「私達はレース参加者達の先導するだけ。普通に振る舞いましょう」
夏実は少し残念そうに頷いた。
「了解……ん?」
その時、コトハのギャランVR-4がトゥデイの横に並び、軽くクラクションを鳴らして合図を送ってきた。
コトハはニヤリと笑いながら、口パクで伝えた。
「(花蝶さんをちゃんと見送りなさい。お姉ちゃんに感謝する事ね)」
夏実は少し驚いた顔で呟いた。
「……和やかな笑みで私達に合図を送った?」
美幸は静かに微笑んだ。
「――コトハらしいわね」
Bコースを疾走するランエボ軍団とセーフティーカーとして先導するトゥデイ、そしてコトハのギャランVR-4。
第二回おつまーる走は華々しく、そして熱く、幕を開けていた。