逮捕しちゃうぞ2026   作:マブラマ

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FILE.7 正丸峠でのワインディングロード

2026年、夏の午後。

榛名山から少し移動した正丸峠のワインディングロードは、木々の緑が濃く、路面が乾いた絶好の峠道になっていた。

先頭を走るのは、白黒のホンダ・トゥデイ(JW1前期型)。

美幸が冷静にハンドルを握り、夏実が助手席でニトロのスイッチに指を這わせながら興奮気味に叫んでいる。

その少し後ろに、五台のランサーエボリューションが美しい隊列を組んでいた。

ピレネーブラック、エボⅢ(ハリエット)、スコーティアホワイト、エボⅣ(ケイト)、モナコレッド、エボⅤ(ミリアム)、スコーティアホワイト、エボⅡ(リュシー)、クイーンズシルバー、エボⅠ(ドロテア)。そして――そのさらに後方に、ぽつんと一台の白い車が必死についてきていた。

AE85スプリンタートレノ(ハチゴートレノ)。

頼子がレンタカーで借りてきた、奇跡的にほぼ純正状態の個体だ。

頼子は眼鏡をくいっと押し上げ、両手でハンドルを握りしめながら小さく叫んでいた。

「うわわわっ! みんな速い……! ハチゴー、がんばって!」

3A-Uエンジンが悲鳴を上げながらも、なんとかワインディングを駆け上がろうとしている。

リトラクタブルヘッドライトはまだ綺麗にポップアップしたまま、しかし加速は明らかに他の車に比べて控えめだ。

 

夏実がトゥデイの窓から顔を出し、後ろを振り返って大笑いした。

「頼子ー! ハチゴー、かわいい声出してるわよー! もっとアクセル踏めー!」

美幸はミラー越しに頼子のトレノを確認しながら、眼鏡の奥で小さく微笑んだ。

「頼子……無理はしないでね。ハチゴーは低中速トルクがそれなりにあるけど、高回転は苦手だわ。コーナーでは丁寧にラインを取って」

中嶋は白バイ(ZX-9R)で一番後ろを固めながら、無線で声をかけた。

「頼子、焦るな。ハチゴーは軽いのが取り柄だ。ブレーキングを早めにして、コーナー手前でしっかり減速しろ。無理にスピード出そうとすると、すぐに息切れするぞ」

リュシーがエボⅡの窓から顔を出し、赤い瞳で呆れながら叫んだ。

「はぁ……あんなショボいエンジン音でよくついてこれるな。N13型ラングレーよりマシかもな!」

ハリエットはピレネーブラックのエボⅢを軽やかに流しながら、くすくす笑った。

「勘違いの天才がハチゴーで正丸峠に挑むなんて……まるで漫画のワンシーンですね。ぷぷぷ」

ドロテアはクイーンズシルバーのエボⅠを優雅に操りながら、扇子を広げて微笑んだ。「ふふ……ハチゴーも可愛いですわ。みんなで優しくエスコートしてあげましょう」

頼子は汗だくになりながら、ハンドルを必死に握っていた。

「みんな……ありがとう! ハチゴー、がんばってるよ……! リトラクタブルもまだ綺麗に動いてるし……!」

 

しかし、次の急な右コーナーで——―――――――ハチゴーのエンジンが「キュルルル……」と息切れし、明らかにスピードが落ちた。

夏実はトゥデイから身を乗り出して叫んだ。

「頼子ー! 足ブレーキしてやるか!?」

頼子は慌てて首を振り、眼鏡がずり落ちそうになりながら必死にシフトダウンした。「だ、大丈夫! ハチゴーもプライドがあるんだから……!」

中嶋が白バイでスッと横に並び、穏やかな声でアドバイスを送った。

「頼子、アクセルは半分でいい。ハチゴーはパワーで勝負する車じゃない。ラインとタイミングで走るんだ。昔の俺みたいに、膝を擦るくらいの気持ちでいけ」

頼子は涙目になりながらも、にっこり笑った。

「えへへ……中嶋君、ありがとう……! ハチゴー、今日だけはがんばるね!」

正丸峠のワインディングに、トゥデイのターボ唸り、エボ軍団のバックファイア、そしてハチゴートレノの控えめな3A-Uサウンドが混じり合う。

頼子のAE85スプリンタートレノは、貴重な純正状態のまま、みんなに囲まれながら、ゆっくりと、しかし確実に峠を登り続けていた。

夏実はトゥデイの助手席で拳を握り、笑顔で叫んだ。

「よし! ハチゴーも一緒に山頂までフルスロットルよ! 置いていかないぞ!」

美幸は眼鏡の奥で優しく微笑みながら、アクセルを少し緩めた。

「ええ……今日はみんなで、のんびり行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正丸峠の山頂近くにある小さな展望駐車場。

みんながエンジンを冷ましている中、頼子の白いAE85スプリンタートレノだけが、まだ少し熱を持ったボンネットを開けたまま、3A-Uエンジンが「キュルル……キュルル……」と小さく息をしていた。

頼子は眼鏡を曇らせながら、エンジンルームを覗き込んで小さく呟いた。

「うう……ハチゴー、がんばったね……でも、なんか息切れしちゃった……」

美幸が眼鏡を押し上げ、頼子の隣に立って冷静にエンジンルームをチェックした。

「頼子、ハチゴーのメンテナンス、ちゃんとやってる? この子はもう40年選手よ。ハチロクより地味だけど、意外と繊細なところがあるの」

夏実がトゥデイから降りてきて、豪快に笑いながらエンジンルームを覗き込んだ。

「ははっ! 頼子、ハチゴーのメンテはどうなってるのよ? 教えてよ!」

美幸は眼鏡の奥で小さくため息をつきながら、頼子に説明を始めた。

「まず、ハチゴーの心臓部である3A-UエンジンはSOHC 8バルブのシンプルな構造だから、壊れにくいけど、放っておくと確実に弱るわ。定期メンテナンスのポイントはこれよ:

1.エンジンオイル&フィルター

3000〜5000kmごとに交換が理想。3A-Uは低回転トルクを活かす車だから、粘度の高いオイル(10W-30や5W-30)がおすすめ。古くなるとスラッジが溜まりやすい。

2.タイミングベルト

ハチゴーの最大の弱点の一つ。10万kmまたは5〜6年ごとに交換必須。ベルトが切れるとバルブがピストンに当たる干渉エンジンじゃないけど、切れた瞬間エンジンが止まる。テンショナープーリーも一緒にチェックしてね。

3.点火系(デスビ・プラグ・コード)

振動と経年劣化でデスビコネクターの配線が切れやすい。ハチロクと同じく、エンジンがかかりにくい・アイドリング不安定の原因No.1。プラグは1万kmごとに交換。

4.クラッチ&ミッション

頼子のはATだけど、MT仕様ならケーブル式クラッチが伸びやすい。ワイヤー調整を定期的に。AT車はATFを4万kmごとに交換しないと、変速ショックが出るわ。

5.足回り・ブレーキ

リアがドラムブレーキだから、制動力はハチロクより弱め。ブレーキパッド・ライニングは2万kmごとにチェック。サスペンションのブッシュも劣化しやすいから、ゴムが硬くなってきたら交換を。

6.ボディ錆

ハチゴー最大の敵。特にフロアパン、フェンダー内側、トランク下が錆びやすい。定期的に下回り洗浄と防錆処理を。

7.電装系

リトラクタブルヘッドライトのモーターやワイパースイッチが接触不良を起こしやすい。頼子の子はまだ綺麗に動いてるみたいだけど、40年選手だからいつ不具合が出てもおかしくないわ」

頼子は眼鏡を押さえながら、しょんぼりとした顔で聞いた。

「えへへ……じゃあ、私が借りてるこの子、どのくらいの頻度でメンテすればいいの?」美幸は優しく微笑みながら答えた。

「最低でもオイル交換は3000kmごと。タイミングベルトは次回車検までに必ず交換ね。リトラクタブルヘッドライトは動きが重くなってきたらグリスアップを忘れずに。ハチゴーはパワーがない分、丁寧にメンテしてあげれば長く乗れる子よ」

 

 

 

夏実はハチゴーのボンネットを優しく叩きながら笑った。

「まあ、ハチゴーも可愛いじゃん! 今日の正丸峠、みんなに囲まれて一生懸命ついてきてくれたもんな。次はちゃんとメンテして、また一緒に走ろうよ!」

リュシーがエボⅡから降りてきて、赤い瞳でハチゴーを眺めながらぼやいた。

「ショボいエンジン音の正体がわかったわ……3A-U、意外と手がかかるんだな」

ハリエットがくすくす笑いながら、言い放つ。

「勘違いの天才が、貴重な純正ハチゴーを引き当てて、さらにメンテの勉強まで……今日は収穫多かったですね」

中嶋は白バイに跨がったまま、穏やかに言った。

「頼子、ハチゴーはパワーで勝負する車じゃない。メンテをしっかりやって、ラインを丁寧に走れば十分楽しいぞ」

頼子は眼鏡の奥で目を輝かせ、元気よく頷いた。

「うん! これからハチゴーのメンテ、ちゃんと勉強するね! 次に来るときは、もっと綺麗な状態でみんなの後ろについてくよ!」

ハチゴーのボンネットを開けたまま、みんなでエンジンルームを眺めていると、ハリエットが黄金色の瞳を輝かせて、にやりと笑った。

「ハチゴーにドッカンターボ載せた例がありますよ?」

頼子は眼鏡をずり落ちそうにしながら、勢いよく振り向いた。

「え? マジで? ドッカンターボ!?」

ミリアムがモナコレッドのエボⅤに寄りかかりながら、明るく手を挙げた。

「でもイツキはドッカンターボ載せたよね?」

中嶋がコーヒーの紙コップを止めて、怪訝な顔をした。

「え?」

ハリエットは三つ編みを軽く弄びながら、得意げに続けた。

「頭文字Dの武内樹ですよ。秋名スピードスターズのハチゴー使い。最初は普通のハチゴートレノだったのに、ドッカンターボをぶち込んで『ハチゴーターボ』として走ってたじゃないですか。パワー不足のハチゴーを一気に化け物にする、典型的な改造例です」

頼子は目をキラキラさせながら、ハチゴーのエンジンルームを指差した。

「ええっ! じゃあ私のこの子にも……ドッカンターボ載せられるの!? すごい! ハチゴーがハチロク並み、またはそれ以上に速くなるってこと!?」

 

 

夏実はトゥデイのボンネットに腰をかけ、豪快に大笑いした。

「はははっ! 頼子、あんた、またすぐ乗り気ね! ハチゴーにドッカンターボって、頭文字Dのイツキと同じ道を歩む気なの!」

美幸は眼鏡を押し上げ、冷静に分析しながら口を挟んだ。

「理論上は可能よ。3A-Uエンジンはブロックが丈夫だから、ターボ化のベースとしては悪くないわ。ただ……」

美幸が少し声を低くして続けた。

「ハチゴーの場合、ドッカンターボを載せると、まずトランスミッションとクラッチが悲鳴を上げるわ。AT仕様の頼子の子なら尚更ね。デフも強化必須。足回りも完全に崩れるから、フル強化しないとコーナーで制御不能になる。燃料系統も全交換、冷却系も大改造……結局、予算がハチロク並みかそれ以上かかるわよ」

リュシーが赤い瞳でハチゴーを眺め、呆れたように言った。

「ショボいエンジンにドッカンターボって……無茶苦茶だな。ラビットスクーターにターボ載せるようなもんじゃねえか」

ハリエットがくすくす笑いながら、毒を交えて言った。

「でも、武内樹は実際にやってましたよ。『ハチゴーはパワーで勝負する車じゃない』って言われてたのに、ドッカンターボで『俺はハチロクだ!』って叫びながら走ってたんですよ。結果は……まあ、みなさんご存知の通りですけど」

中嶋は苦笑いを浮かべながら、頼子の肩を軽く叩いた。

「頼子、お前がハチゴーにドッカンターボ載せたら、絶対に『イツキ2号』って呼ばれるぞ。覚悟はあるか?」

頼子は眼鏡の奥で目を輝かせ、両手を握りしめた。

「えへへ……ちょっと興味出てきたかも! ハチゴーがターボでブォンって吹き上がるの、想像したらワクワクする……!」

夏実はバシンと頼子の背中を叩き、ニヤリと笑った。

「よし! 決まりね! 次に会うとき、頼子のハチゴーがドッカンターボ仕様になってたら、みんなで正丸峠リベンジよ! ハチゴーターボ vs エボ軍団 vs トゥデイのフルスロットル勝負!」

美幸は小さくため息をつきながらも、優しく微笑んだ。

「頼子……やるならちゃんと計画的にね。まずはタイミングベルト交換からよ」

ハリエットが黄金色の瞳を細めて、最後に一言。

「勘違いの天才が、今度は改造の天才になるんですか? 楽しみですわ。ぷぷぷ」

頼子はハチゴートレノのボンネットを閉め、みんなで一息ついていると、ミリアムが突然目を輝かせて立ち上がった。

「だったらこんなのはどうかな? モトコンポやモンキーにR1にトランクルームに積めるのはどうかな?」

その瞬間、駐車場が一瞬静まり返った。ハリエットが黄金色の瞳を細めて、首を傾げた。「え? 何故R1なんですか?」

ミリアムはモナコレッドのエボⅤに寄りかかり、得意げに胸を張った。

「トゥデイをモトコンポ載せられるなら同じ軽自動車に載せられるのかなって!」

リュシーが水色ショートヘアを掻き上げ、赤い瞳で即座にツッコミを入れた。

「ミリアム、R1はスバルの車種で四人乗りだ。後部座席を取っ払わないと無理だぞ」

夏実はトゥデイのボンネットに腰をかけ、豪快に笑いながら手を振った。

「面白いアイデアだけど、R1の後部座席は狭いからシートを撤去しても無理だよ。トランクも想像以上に小さいし」リュシーがさらに追い打ちをかけた。「モトコンポはギリ載せられるとして、モンキーは無理だ。諦めな」

ハリエットが三つ編みをくるくると巻きながら、くすくす笑った。

「ライフも無理ですよ。初代や2代目ならまだしも、3代目以降はボディが大きくなってて、トランクの形状も変わってるし」

ミリアムが慌てて両手をぶんぶん振った。

「まだ言ってないよ?!」

夏実はニヤリと笑いながら、トゥデイのボディを軽く叩いた。

「トゥデイの後継だけど載せるのは厳しいと思うわ。2代目ならまだしも、3代目以降や後継のN-WGNは多分無理」

ミリアムは肩を落とし、モナコレッドのエボⅤに寄りかかってため息をついた。

「うう……せっかくいいアイデアだと思ったのに……」

頼子が眼鏡をくいっと押し上げ、明るくフォローした。

「えへへ……でも、ミリアムちゃんの考えることって面白いよね! ハチゴートレノにモトコンポ積もうとしてる時点で、もう十分伝説だよ!」

 

 

中嶋は白バイに跨がったまま、苦笑いを浮かべながら言った。

「……お前ら、相変わらずスケールがでかいな。ハチゴーにドッカンターボの話から、いきなり軽自動車にバイク積む話になるなんて」

美幸は眼鏡の奥で優しく微笑みながら、みんなを見回した。

「ふふ……でも、こういう馬鹿馬鹿しい話ができるのも、楽しいわよね。ハチゴートレノも、今日だけは特別に『積載夢計画』の主役になれたんだから」

リュシーが赤い瞳でミリアムをチラリと見て、呆れ半分に笑った。

「ミリアム、お前はいつもこうだな。アイデアは面白いけど、現実が伴わない……」

ハリエットがくすくす笑いながら、最後に一言。

「でも、それがピクシス・マスールのミリアム・ヘイワードですよ。ぷぷぷ」

ミリアムは頰を膨らませながらも、すぐに笑顔に戻った。

「うう……次はもっと現実的なアイデア出すね! ……多分!」

夏実はトゥデイの助手席に飛び乗り、拳を握りしめて叫んだ。

「よし! ハチゴーターボ計画も、軽自動車積載計画も保留! 今日はみんなで正丸峠をもう一周、フルスロットルで流そう! ハチゴーも置いていかないからね!」

駐車場に、再び笑い声とエンジンの低い唸りが響き渡った。

貴重な純正AE85スプリンタートレノは、今日もみんなの輪の中で、少し照れくさそうに、しかし誇らしげに佇んでいた。

 

 

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