底辺退魔師、ボロボロの魔法少女を拾う   作:非表示

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 この世には普通の人には見えない悪鬼羅刹が存在する。

 

 幽霊。妖怪。魔物。神。古来より様々な名称で呼ばれてきたそれらは科学の発達した現代においても、稀に姿を現し、人に災いを与える。

 

 それらを始末し事態を解決することが『退魔師』の役割だった。

 

 

 

 たしかに俺には才能があった。

 子供のころから幽霊っぽいものが見えたし、頑張ればそれを祓うこともできた。

 そんな素質を認められてスカウトされ、退魔師を育成する専門の高校を卒業し、一応霊能力者として事務所を構えている。

 

 けれど、俺の才能は本当に『最低限』のものでしかなった。

 俺はただ見えて祓える〝だけ〟なんだ。

 もっと高位の退魔師は『口寄せ』や『占い』や『五行術』なんかの魔法染みたことをする。

 

 俺が出会った最強の退魔師は時を止めていた。

 絶対に勝てないって見た瞬間に悟ったし、自分に才能がないこともそいつを見て理解した。

 

 今となっては、自分が特別だなんて妄想はゴミの日に出したし、霊能力者として慎ましやかに弱っちい幽霊を祓って生きている。

 

 しかしだ……

 

「今月やべぇ……」

 

 まじで稼げない。

 そもそも江戸とか平安に比べて怪異の数が圧倒的に減ってる。

 逆に今生き残ってるのは相当高位の連中だ。

 

 そんなのは俺みたいに個人で活動してるヤツが相手にしていい存在じゃない。

 退魔師協会の本部にいるエリートたちの案件だ。

 

 特にここ最近は、めちゃくちゃ強いのとしか遭遇してない。

 その時の俺の役割は本部への報告だけだ。

 

 あとは依頼人の勘違いのパターンは結構あるが、その時は依頼料の満額は貰わないようにしている。

 だから貯金がまったく貯まらない。

 

「どうする? バイトでもするか?」

 

 夕焼けを背負いながら、事務所の執務机に広げた四桁しかない通帳の預金残高を眺め、俺は一人自問自答を繰り返す。

 

 これなら今からサラリーマンとして就職した方がマシな気がしてきた。

 でも最終学歴高卒で、しかも普通の学校じゃないから学力に力を入れてたわけじゃないし、そもそももう28だし……

 

「あぁ、ヤバ……今月の事務所の家賃どうすりゃいいんだ……」

 

 そう呟き、文字通り頭を抱えた。

 

 

 

 

 その瞬間だった――

 

 

 

 

 

 パリン、というより『ドカン』って感じだった。

 俺の背後にあった事務所のガラスが割れ、なにかが中へ放り込まれて来た。

 

 いや、放り込まれてきたという表現は正しくない気がする。

 

 だって、俺の目の前で立ち上がったそれはどう見ても『人間』、しかも『少女』と呼ぶべき年齢の人物だったからだ。

 しかし、その出で立ちはどう見ても普通じゃない。

 

「はぁ……はぁ……なんて魔力量なの……?」

 

 桃色の髪はサイドで結ばれツインテールを形成している。

 身長は140cmくらい。青みがかった瞳は日本人離れしている。

 

 それよりなにより、問題はその衣装だ。

 両手に持った桃色のステッキには羽が生えていて、同色を基調としたロリータ系のファッションはなんというか……まるで……漫画やアニメで見る……そう……

 

 

 ――【魔法少女】みたいだった。

 

 

「一般人? すいません、少し寝ていてください」

 

 そう言って彼女は俺にステッキを向けた。

 瞬間、俺に向かってなんらかの『霊力』が飛んでくる。

 

 が、それはかなり……俺如きの『常在結界』でも弾けるほどに〝微弱〟な力だった。

 

「な、なんで? スリープが効かない!?」

 

 俺にその、技かなにかが通用しなかったことで彼女が驚きの声を上げたと同時にもう一人、『何か』が俺の事務所に入って来る。

 

「ゴミ女が、八つ裂きにしてくれる」

 

 一人、そう数えたが間違いだったらしい。

 それはどう見ても人間ではなかった。

 

 鋭利で長い爪。蝙蝠のような黒い羽。灰色の肌。顔にある大きな単眼。

 異形。怪物。

 だが、俺が相手にしているような霊的存在とは違う。

 

 悪霊や妖怪は物理的な性質を持たず、術によって物理世界に干渉する。

 だがこいつの肉体は明確に物理的な強度を持っていた。

 

「魔将グレンダール……強すぎる……」

「当然だろう。我は魔王様の配下の中でも五本の指に入る強者だ。貴様のような小娘(メスガキ)に遅れを取るなどありえん」

 

 よく見れば魔法少女の方はボロボロだ。

 対して異形の方はかなり余裕がありそうに見える。

 この判断は彼らの対話を聞いても間違ってはいなさそうだ。

 

 

 それにしても、ふざけた話だ。

 どんな事情があるか知らんが、俺の事務所をどんだけぶっ壊せば気が済むんだこいつら……

 

「おい」

 

 頭は怒りで染まっている。

 けど、大人としてなんとかそれを堪えて出た言葉がそれだった。

 

「あ、すぐ逃げてください!」

「ニンゲン、誰の許しを得て口を開いた?」

 

 異形の方が俺に向かって手を翳す。

 それにも『霊力』が籠っていて、紫色の波動のようなものが放出される。

 

 だが、さっきの魔法少女の一撃とは規模が違う。

 籠った霊力以上に、術式効率が異常に高い感じだ。

 

 常在結界が……破られる……

 

「ガハッ!」

 

 波動に吹き飛ばされ、俺の身体は宙を飛び、壁に背中が激突する。

 

 痛っつ……ヤバ、嘗めてた……

 魔法少女の方が大したことなかったから、こいつもいけるかなとか思っちまった。

 異形の一撃は、俺の才能の無さを思い出させる一撃だった。

 

「やめろ、グレンダール! その人は関係ないでしょ!」

「ククク……ニンゲンなど我らにとっては生きているだけで咎人よ」

 

 残虐な笑みを浮かべる異形。

 俺を庇うように位置取りを変える魔法少女。

 

「この……魔力さえあればまだ戦えるのに……!」

 

 魔力……ってなんだ?

 もしかして霊力のことか?

 

「無駄なことよ。貴様と我では魔法使いとしての格が違う。例え魔力量に10倍の差があっても勝つのは我だ」

 

 10倍……

 

 待て……あの魔法少女の技に籠った霊力は、極めて微弱だった。

 

 いや……あの異形が使っていた術も、術式の性能こそ理解不能なレベルで超越したものだったが、込められた霊力自体は大したことがなかった。

 それこそ、俺の持つ霊力と比べても百分の一にも満たないような……

 

 あぁ、背中痛ぇ……

 多分どっか折れてる……

 意識が……

 

 いや、起きろ。起きて、考えろ。

 

「ゴホッ、ゲホッ……なぁ、あんた……」

 

 俺は魔法少女に向かって話しかける。

 

「れい……魔力ってのがありゃ、勝てるのか?」

「え?」

「ニンゲン……これ以上我らの戦いに口出しすればただではおかぬぞ?」

 

 はっ、人のこと吹っ飛ばしておいて今更何言ってんだこいつ……

 

 誰に味方するかは決まった。

 後は、俺の考えていることができるかどうか、意味があることなのかどうか……

 

 まぁ、けど、やるしかねぇか。

 

「うるせぇ、グレンダールだかコールタールだか知らねぇが……テメェは許さねぇ」

 

 最後の力を振り絞り、俺は霊能力者の『基礎』として習った霊力操作を実行する。

 

「霊力譲渡」

 

 薄れ行く意識の中、俺は魔法少女に俺が持つすべての霊力を譲渡した。

 

「これは……! すごい、魔力が回復してく……いや、それ以上に、私の限界を超えて流れ込んでくる!!?」

「なんだ……何が起こった……?」

 

 魔法少女の杖がピンク色の光を放つ。

 

「いけ」

 

 そう呟くことしか俺にはできなかった。

 だが、どうやらそれで充分だったらしい。

 

「いくよ。魔力創成(マジカルクリエイト)【ハーティア・ストライク】!!」

 

 それは、俺が知っている霊能力とはまったく違う法則によって運用されていた。

 一の霊力を一の現象に変えるのが霊能力だとすれば、この魔法少女の技は一の霊力を〝百の現象〟へ変える術。

 

「な、な、な……なんなのだ……この力はッ……!!」

 

 極光と共に放たれた大砲のような霊力が、異形の怪物を包み、その体を消滅させていく。

 

「ザマァみろ」

 

 そう吐き捨てる俺の意識はそろそろ限界だった。

 日々の運動不足が祟ったのかもしれない。

 

「おじさん、助けてくれてありがとうございました!」

 

 誰がおじさんだ……俺はまだ二十代……

 

 と、言う気力もなく、俺はその場で意識を失ったのだった。

 

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