底辺退魔師、ボロボロの魔法少女を拾う   作:非表示

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「暇だな~」

「暇ですね~」

「このカステラ美味いよ。差し入れしてくれてありがとな」

「いえ、お客様用でしたけど来ないものは仕方ありません」

 

 橘が俺の事務所でバイトを始めて一週間。

 部活にも入っていない彼女は、放課後は毎日ここを訪れるようになった。

 

「別に毎日来なくてもいいんだぞ? 用事がある時はこっちから連絡するし」

 

 たまにバイト代より高い差し入れを持ってくるし、金に困ってるわけでもないんだろう。

 女子高生がおっさんと駄弁っても退屈なだけだろうに。いや、おっさんじゃねぇけど。

 

「私がここへ来ているのはあなたの膨大な()力量の秘密を知りたいからです。『俺から得られるものがあるなら好きなだけ持っていけばいい』って仰ってくれたじゃないですか」

「言ったけど、基本こうしてるだけだぞ?」

「でも、どこにヒントがあるかはわかりませんから」

 

 そう言って彼女は毎日この事務所を訪れる。

 俺もそろそろ申し訳なくなってきた。

 

 なにせ俺は俺の霊力が魔法少女に比べて多い理由を、多分わかっているから。

 

 俺が不安なのは、それを橘に伝えることで橘がここでバイトする理由がなくなり、依頼を達成できなくなり、金欠だったころに戻るんじゃないかってことだ。

 

 でもなー、橘には命を救われたし。

 橘は俺の仕事に協力してくれたし。

 

 まぁ、こいつがいなくなっても元の生活に戻るだけ。

 仕方ないか、この前の依頼はラッキーだったと思おう。

 

「橘」

「はい?」

「術式に干渉できるってことは基本的な霊力……魔力操作はできるんだよな?」

 

 俺は他人の術式に介入する技術なんて聞いたこともない。

 多分、退魔師にそんなことができるヤツはいないと思う。

 

 そもそも霊能力における『術式』というのは強化も進化しない普遍的な力だ。

 だが、この前の依頼で俺の術式は橘によって明確に『強化』されていた。

 

 初めて会った時に使っていた術式もそうだけど、魔法少女という存在は退魔師よりも術式を制御する力に長けている。

 

 それはつまり、霊力の操作技術にも長けているってことなんじゃないだろうか。

 

「一応、できると思います」

「じゃあ簡単だ。自分の()力を操作し、体から少し伸ばす。そして自然界にある()力を包んで、自分の中に取り込むイメージだ」

 

 これは、退魔師の基本的な技術の一つであり、『霊気精錬』と呼ばれるものだ。

 

 簡単に言えば、自然に揺蕩う霊力を吸い込んで自分の霊力に変換する技術。

 人間は悪霊と違って物理的な存在であるがゆえに、霊力との親和性が低い。

 

 この技術が使えなければ、術式に回す燃料(れいりょく)を確保することすらできないほどだ。

 

 対して、魔法少女の術式(まほう)は霊力効率が極めてよく、そんな技術がなくても術式(まほう)を使用できてしまうのだろう。

 まぁ、その分操作は難しそうだけど……

 

 つまりこれが、退魔師(オレたち)魔法少女(カノジョたち)にある『大きな霊力の差』の原因ってわけだ。

 

「魔法ではなく、魔力そのものの操作……そんなの聞いたこともないです。私の知ってる魔力操作は〝個別の魔法〟の『起動させる速度』や『規模』を操るモノで、魔法を介さない魔力操作なんて考え方は……」

「え、じゃあ呪いから自分を護る『常在結界』とか霊力を感じ取って相手の位置や痕跡を探す『霊痕知覚』も使えないのか?」

「そもそも出会った時に見せてくれた『魔力を渡す』方法も知りません……教えてください!」

 

 なるほど、なんとなくわかってきた。

 俺たちが使う『霊能力』と魔法少女が使う『魔法』の根っこが同じ理屈(モノ)であることは、魔力=霊力である時点で確定だろう。

 魔法と術式が、個人の才能によって左右される個別の能力という点も同じ。

 

 だが、その技術の方向性にはかなりの違いがあるようだ。

 

 俺たちの霊能力では、霊力操作の一種(ジャンル)として〝術式〟がある。

 だが、魔法少女の場合は〝魔法(じゅつしき)〟しかなく、その運用に技術体系が特化している。

 

「わかった、俺にわかることは教えるよ。けど全部ってなると結構時間かかるけど……」

「大丈夫です。そのためにアルバイトを始めたんですから!」

「オーケー、それじゃあ基礎から始めようか」

「ありがとうございます。でも、いいんでしょうか? 私ばかり得をすることになります」

 

 ……いや、とっくに俺は得を貰ってると思うんだが。

 根が真面目なんだろう……それなら俺も教えてもらうとするか。

 

「じゃあ俺にも術式……魔法の制御を教えてくれ。この前手伝ってくれたヤツを俺は一人でもできるようになりたい」

「わかりました、それなら等価ですね!」

 

 俺が言えたことではないが、魔法少女の技術を俺に流すのに迷いはないんだろうか。

 

 でも橘の顔は俺のそんな心配は杞憂とばかりに晴れていた。

 彼女自身がそれでいいなら、俺はなにも言うまい。

 

「じゃあ説明するぞ。霊力操作の基本は自然の霊力を感じることだ。魔力の流れがどうとか言ってたし、見たり感じたりはできるんだろ?」

「はい。霊体は見えませんでしたが、目視できる距離の魔力の流動なら」

「うん。じゃあそれで自分を見るんだ。伸ばしたり、縮めたり、丸めたり角張らせたり、最終的には手足よりも柔軟に操れるようになってもらう」

「わかりました」

 

 ソファに座った橘はスリッパを脱いで座禅を組み、目を瞑った。

 それが彼女にとって最も集中できる姿勢なんだろう。

 

「今から俺が少しずつ霊力をあんたに譲渡していく。その感覚を憶えてくれ」

 

 小さく頷いた橘に向けて俺は手を翳す。

 手の平から放たれた霊力を操り、橘の腹を目掛けて霊力を少しずつ入れていく。

 それが霊力譲渡……霊力を他者と共有する霊力操作技術だ。本来は接触によって渡すものだが、それだと急に渡し過ぎるから、多少ロスってるくらいが丁度いい。

 

「なんだかぽかぽかします」

「霊力ってのは要するにその人間の生命エネルギーだ。それが増加することによって肉体機能も活性化される」

 

 とはいっても、アスリートになれるわけでもない微々たる強化だが。

 

「なるほど」

「まぁ、この前と違ってゆっくり注ぐから心配しなくていい。あんたはただそれの質感とか大きさとか匂いとか色を感じて、物理的なものと同じようにイメージできるようになればいい」

「はい」

 

 これまでも魔法を使って来たからか、橘はそれなりに才能がありそうだ。

 少しずつだが、すでに自分の霊力を動かせて来ている。

 

「これなら半年もかからずに『霊気精錬』を習得できると思うぞ」

「え、そんなにかかるんですか?」

 

 そんなにって、俺は習得するのに丸1年かかったけどな……

 

「焦る必要なんてないだろ。まだ高校生なんだし」

「……そう、ですね」

 

 瞑想を終えて目を開いた橘の声は、どこかパッとしないものだった。

 

「なにか気になることでもあるのか?」

「いえ、別に……」

「ま、同時に色々教えても何だし、そろそろ事務所を閉める時間だ。今日はこの辺にしとくか。今の練習を思い出して自分の霊力を操る訓練は暇な時に続けてくれ」

「かしこまりました。それではまた明日、私の方も一宮さんに色々教えます!」

「そりゃ助かるよ。家まで車で送って行こうか?」

「いえ、一人で帰れますから」

「そうか。じゃあまた明日」

 

 

 

 

 橘が事務所から出て行くのを見送った後、ソファに寝転がった俺は天井を見上げた。

 

「おかしいだろ、普通に考えて……」

 

 はぁ……なんで俺がこんなこと考えなきゃいけないんだ……って思えれば楽なんだろうが、橘桃花は俺の恩人だ。

 だったら俺が考えるべきだ。

 

 

 ――【魔法少女】とは、なんだ?

 

 

 退魔師はずっと昔から存在していた。

 それこそ、日本という国ができるより前から……いやもっと昔、紀元前からいたはずだ。

 

 橘が「私たち」と言っていたことから魔法少女も複数いるのだろう。

 なのに、俺と出会うまで魔法少女と退魔師の接触が一切なかったと考えるのは無理がある。

 

 魔法少女が記憶を操作できるとしても、『常在結界』を有する退魔師にそう簡単に記憶操作なんてことが可能とは思えない。

 

「いや、そもそも考え方が違うのか……」

 

 

 ――魔法少女ってのは、いつ誕生した?

 

 

 これが、彼女たちの存在を紐解く重要な疑問な気がする。

 

「明日聞いてみるか」

 

 これ以上は考えてもわからなさそうだ。

 橘が持って来てくれたカステラを食べようと体を起こす。

 

「え?」

 

 すると、机の上には俺のじゃないスマホが置かれていた。

 

「あいつ……抜けてるとこもあるんだなぁ……」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ただいま」

 

 橘桃花(わたし)が玄関を開けそう呟くと、リビングからドタドタと足音が近づいてきてお母さんが玄関まで走って来る。

 

「こんな時間までどこ行ってたの!?」

「こんな時間ってまだ7時でしょ。お母さんの言う通り部活にも入ってないんだから好きにさせてよ」

「なんでそんなこと言うの!? 私にはもうあなたしかいないのに……」

 

 うるさいな。

 そう思いながらお母さんの横を通り過ぎて、私は自分の部屋に戻り、ベッドに身を投げた。

 

 私が魔法少女になったのは今から2年前。

 消防士だったお父さんが火事の現場で死んですぐのことだった。

 

 あの時の私は、お父さんが死んだ悲しみと病み切ったお母さんからの過干渉で、少し……結構……ナイーブになっていた。

 

 最初は楽しかった。

 魔法なんて特別な力に目覚めて万能感を感じていたし、世界を救っているって自覚が自己肯定感を上げてくれて、心に余裕が持てた。

 

 でも、最近はそんな余裕はなくなっていた。

 

 2年前の異世界人(アナザート)は私でも勝てるような雑魚ばかりだったけれど、時が経つにつれ現れるのはどんどん強敵ばかりになっていく。

 私を魔法少女にしてくれた『予言の魔法少女』いわく、アナザートの技術が進んでどんどん大きな(ゲート)を造れるようになっているのだとか。門が大きくなれば多くの魔力を持つ存在もこっちの世界に来れるのだとか。

 

 この前の魔将グレンダールだって、一宮さんの協力がなければ私は確実に負けていた。

 

 そして……きっと死んでいた。

 

 いや、(それ)で本当に許されるだろうか。

 もし、生きたまま捕まったら、私はどんな目に遭うんだろう。

 

 そんな不安が、最近は頭の中をぐるぐるとめぐっている。

 

「怖い、怖いよ……」

 

 

 ――ハーティア、出動よ。異界門(ゲート)が開くわ。

 

 

 頭に声が響く。

 予言の魔法少女による思念通信だ。

 

「……換装【ハーティア】」

 

 呟きと共に、私の衣装は変化していく。

 逃げてはいけない。私が逃げたら多くの人が死んでしまうから。

 

 私に選択肢はない。

 私は予言の魔法少女によって指示された場所に向けて窓から飛び出した。

 

 

 三日月が見下ろす夜の街を私は飛翔する。

 

 私の魔法『創造(クリエイト)』は魔力をあらゆるものに変化させる。

 魔力で創った翼で飛翔することや、肉体や建物の修復に用いることも可能だ。

 

 ただ記憶操作とかはどうにもならないから、魔法少女の衣装に込められた力を使っているけど、物質的な意味であれば私は魔力がある限りなんでも造れる。

 

 目的地である予言の魔法少女より告げられた近くの公園に到着するまで、5分とかからなかった。

 

「やっぱり速いなぁ。だから、『遅い』って言うべきなんだろうね」

 

 話し方からしてもうめんどくさそうな相手だ。

 

 それは魔将グレンダールよりもさらに異形な怪物だった。

 ブクブクと太った黒い体は流動的に蠢いていて、そのシルエットは球体に近い。

 

 どこから発声しているのかも定かではないが、それはたしかな知性を持って、私を見下すような声を出す。

 

「この5年間の戦闘記録から、キミたちがゲートの出現タイミングと位置を探知していることはわかっていたんだ」

「わかっていたからなんだと言うのですか?」

「話は最後まで聞きなよ? このボク……魔王軍四天王が一翼、〝粘液王(スライムキング)ビヨルバロン〟の能力の一つ『分裂』は肉体を切り分けることが可能なのさ。そして、切り分けた肉体であれば、キミたちに感知されないような極小のゲートをくぐることも可能ってワケ」

 

 なにか、嫌な予感がする……

 

「まぁ、極小ゲートを通れるような分体ではキミたちみたいな魔法少女を相手するのは不可能だ。けどね、一般人相手なら話は違うんだよ」

「……一般人?」

「そう。ボクは頭がいいから、情報収集は徹底するし、人間の弱点も知ってるんだ。だから〝橘桃花〟ちゃん、キミはここで終わり」

 

 こいつ、なんで私の名前を知ってるの……?

 

 その疑問を解消させるように、公園の木陰から誰かが姿を現す。

 いや、誰かという表現は正しくないかもしれない。

 現れたのは一人ではなく大勢だ。30人近くいる。

 

「嘘……なんで……みんなが……」

 

 現れた人たちはみんな、私と同じ制服を着ていた。

 ほとんどはまだ一カ月しか一緒じゃないけど、数人は小学校や中学校からの仲の人もいる。

 

 それは私と同じ〝円華高校1年4組〟のみんなだった。

 

「ボクは体の一部を取り込ませた相手を操ることができるんだよ。意味わかる? 無理矢理動かして首の骨を折ったりとかも、簡単ってこと」

 

 スライム――ビヨルバロンがそう言うと、みんなの首が90度に回った。

 そのままギチギチと、無理矢理に顔を真後ろに向けようと動いている。

 

「待って!」

「フフ、状況を理解してくれて嬉しいよ。キミたちはゲートの予見能力に頼りすぎた。だからそれをクリアされると一気に後手になる。つまりキミたちってさ、アタマが悪いんだよ」

 

 人質……洗脳……

 そんなことを平気でやるような、そんな相手と私は『殺し合い』をしているのだと、そんな自覚が頭の中を黒く染めていく。

 

「どうしたのかな? 今までボクの同胞を何百と屠ってきた勇者でしょ? この世界を護ってきた英雄でしょ? そんなカオは似合わないよ。ほら、笑って。ボクがグチャグチャにしてあげるから」

 

 

 怖い。

 

 

「そうだ、キミをボクの127人目のお嫁さんにしてあげるよ。ボクってさ、単為生殖(ぶんれつ)性的生殖(こうはい)どっちもできるんだ。でも単為生殖だと多様性がなくなっちゃうから、定期的に交尾相手(およめさん)が必要なんだ。魔法少女ならきっとまだボクも知らない遺伝子が手に入るからピッタリ」

 

 

 恐い。

 

 

肉体(カラダ)を弄って妊娠効率を上げてあげるから安心してね。精神(ココロ)を弄ってボクを愛せるようにしてあげるから安心してね。フフ……動いちゃダメだよ。動いたら同級生(こいつら)全員殺すから」

 

 

 その巨体から無数の触手が伸びる。

 ウネウネと蠢きながら、それは私へ伸びてくる。

 

 どうすればいい?

 

「勇者も聖女も賢者も王様も、みんなバカだった。人間って結局そんなものだよね。だから魔王軍(ボクら)に世界を盗られた。この異世界(ふたつめ)も同じ。人間っていうバカな種族は、結局のところボクらに統べられる定めなんだよ」

 

 魔法少女として私はみんなを救わなくちゃいけない。

 ここで抵抗したらみんなが死ぬ。

 

 でも、なにもしなかったら、私が――死ぬ?

 

「嫌ッ……!」

 

 迫る触手を私はステッキで弾いた。

 

「は?」

「ま……今のは、ちが……」

「テメェ、人間(ゴミ)の分際でなにしてんだよぉ!?」

 

 周りのみんなの首がまた動き出す。

 ギチギチと音を鳴らして、少しずつ回転していく。

 

 90度を超えて……100度を超えて……人間の可動域を超えて……回ろうとしている。

 

「やめて……」

 

 私の力じゃこの怪物を一撃で倒せない。

 そもそも、こいつを倒せばみんなが解放されるのかもわからない。

 

 私か、みんなか、選ぶしかない。

 いや答えは出てる。選ぶべきは私自身だ。みんなはもう助からない。そう諦めれば、まだ戦える。

 私が全部こいつの言う通りにしても、こいつがみんなを解放してくれる保障なんてないんだから。

 

 

 でも――それをしたら、私の中で壊れちゃいけないなにかが壊れる。

 

 

 無理だ。私は弱い。

 

 

 怖い……

 

 

「ごめんなさい……お願い、お願いします……私を好きにしていいから……みんなを……助け……」

「フフ……ダーメ」

 

 私を見下し、バカにしたような声でビヨルバロンはそう言った。

 

 その瞬間――

 

 

 ――ドサリ。

 

 

 クラスメイトの一人が突然倒れる。

 ドサリ、ドサリ、ドサリ、次々にみんなが倒れていく。

 

 なに……?

 

「こういうことがあるかもしれねぇなら、スマホ忘れんなよ。おっちょこちょい」

 

 全員が倒れると、彼は私たちの前に姿を現した。

 

「男だって……? 誰だ!? 魔法少女じゃないな!?」

「俺? そうだな……俺は、お前の敵だ」

 

 魔将グレンダールから私の命を救ってくれた恩人。

 

「一宮さん……どうしてここに……」

「住所は履歴書で知ってたし、あんたの家にスマホを届けに行ったんだが、その途中で魔法少女(あんた)が飛んでいくのが見えてな。方角はわかったから、『霊痕知覚』で追って来たんだ。これずっと発動すると結構疲れるんだぜ?」

「スマホ……」

 

 ほんとだ。事務所を出てから触った記憶がない。

 

「敵? あぁそうかい。だからボクの人質を殺したのか」

「殺す? 俺が人を殺すわけないだろ。つーかそんな力ねぇよ、俺の矢は物理的な干渉力を持たないからな」

 

 矢……この前の依頼の時にそういう『構え』をしていたから、もしかしたらと思ってたけど一宮さんの術式(まほう)はやっぱり『弓矢』を使うものみたいだ。

 

 さっきみんなが倒れたのは、その『矢』が刺さったから?

 でも物理的に干渉しないってどういう……

 

「俺の矢が射止めるのは『魂』だ」

 

 一宮さんがそう言うと、クラスメイトたちがゾンビのような動きで立ち上がる。

 

「なんだお前、バカなのか? 殺してないならなにも解決してないだろ。人形劇の続きだ。お前たち――」

 

 ビヨルバロンの声に重なるように、一宮さんが命じる。

 

「自害しろ!」

「お前ら、自分を護れ!」

 

 その瞬間、まるでPCがエラーを起したようにクラスメイトたちの動きが止まる。

 

「お前のは洗脳系の魔法だろ? つまり、俺と同じだ。相反する二つの命令を同時に処理する機能なんて人間は持ち合わせていない。だから『停止』する。つっても俺の矢は数十秒しか持たないけどな」

「自分で自分の能力の弱点をバラすなんてやっぱり人間はバカだよ。だったらキミの能力の効果が終わるのを待てばいいだけじゃないか」

「ハッ、バカはお前だ」

 

 一宮さんが私の隣まで移動し、私の肩に手を回す。

 

「い、一宮さん……? ち、近いです……!」

「悪いな、おっさんにくっつかれるのは嫌かもしれないけど、ちょっと我慢してくれ」

「おっさん……なんですか?」

「おっさんじゃねぇよ!」

 

 理不尽だ……

 

「オホン、霊力譲渡ってのは本来は接触によって行う技術なんだよ。でもだから、今回は初回(あのとき)の数倍の霊力を渡せる」

 

 あの時って……グレンダールの時……の数倍……?

 嘘……グレンダール戦で貰った量は私の最大魔力の百倍以上の量だったのに……その更に数倍って……?

 

「色々あったみたいだな。顔見ればなんとなくわかるよ。心が折れたって顔だ。だから、あんたが俺に言ってくれた言葉を今返すよ」

 

 彼の手が、私の背中を押す。

 

 

「諦めるな」

 

 

 あぁ……そうか……この人は私の〝味方〟だ……

 

 

 私は今、独りじゃない。

 

 

「なにをゴチャゴチャ言ってるんだよ!」

「悪かったな雑魚種族(スライム)。なんで俺が自分の能力の弱点を教えたか、って話だったよな? 理由は単純だ」

 

 一宮さんから溢れた大量の魔力が私の中に入って来る。

 それは今まで感じたこともないほどに膨大な量。

 初めて魔法少女になった時のような万能感が、私の頭を埋めていく。

 

 恐怖が、消えていく……

 

「俺と橘が揃った時点で、お前に勝ち目はねぇんだよ。そうだろ、魔法少女?」

 

 神々しいほどの光の奔流が、私の杖から溢れ出す。

 

「はい!」

「は? はは、なんだ……そのフザケタ魔力量は……」

 

 あぁ……私は一体なにを怖がっていたのだろう。

 

 

 私は今――この世界で一番強いのに。

 

 

魔力創成(マジカルクリエイト)――」

 

 

 私は創造の魔法少女。

 

 私の魔力は(あらゆる)物へ形を変える。

 私の魔法は魔力が許す限り(すべてがか)能な力。

 

 最強の力。

 

 

「――【星屑の大魔法(ハーティア・スターストライク)】!!」

 

 

 夜空より降り注ぐ巨大な魔力の岩石は、私の願いに呼応して、私の嫌いなものだけを消滅させる。

 

「なんで……ボクは……天才なのに……」

 

 夜空を彩る桜色の隕石を見つめたビヨルバロンは、すべてを諦めたように呟き、体を微動だにしなかった。

 

 そして、見惚れたようにその一撃を受け入れる。

 

 

 粘液王(スライムキング)ビヨルバロンは、その肉の一片すら残さずに消失した。

 

 

 同時に同級生(みんな)が自分を護るように低姿勢で丸まる。

 

「お、命令の抵抗がなくなったな。〝洗脳の原因を取り除け〟」

 

 一宮さんがクラスメイトたちに命令すると、その口から黒い粘液が吐き出されていく。

 それは地面に落ちると共に潰れていく。

 

「あ、やべ。おい、さっさと元の姿に戻れ!」

「え、あ……わかりました!」

 

 すぐに私は換装を解除して、元の姿に戻る。

 そして、〝洗脳の原因を取り除いた〟みんなも正気に戻っていく。

 

「頭痛っつ……」

「どこだここ?」

「なんで俺たちこんなところにいたんだっけ?」

「てか空暗っ、今何時だ?」

 

 どうやらみんなに操られていた時の記憶はないらしい。

 

 じゃあ、私が記憶を消す必要もないか。

 

「……ねぇ、桃花ちゃん」

 

 クラスで一番仲がいい秋葉(あきは)ちゃんが、私を指さしながら小首を傾げる。

 

「その人誰? なんで抱き合ってるの? え、もしかして彼氏!?」

「「あ……」」

 

 やっぱり私は、みんなの記憶を消すことにした。

 

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