底辺退魔師、ボロボロの魔法少女を拾う   作:非表示

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「あのぉ~」

「なんだ?」

「ちょっと思ったんですけど、一宮さんの術式? ……って、ようするに人を『洗脳』できるってことですか?」

「人聞き悪いな……」

「でもやってることはそうですよね?」

 

 俺の術式【天箭】は矢で射た相手の魂に命令することで、肉体を操作することができる。

 ただし効果時間は平均30秒、調子がいい時でも40秒くらい。

 

 しかもある程度の霊力でガードされるとそもそも刺さらないから、大抵の悪霊や退魔師には通用しない。

 

 まぁ、橘に協力してもらって使った【竜牙】は、多分『速度』も『パワー』も『効果時間』も拡張されてたけど……

 

「……えっち」

「おいコラちょっと待て。あんたがなに想像してるか知らんけど、たった30秒で一体なにができるってんだよ? そもそも生まれつきの能力なんだから俺のせいじゃないだろ?」

「でも、昨日はいきなりくっついて来たじゃないですか」

「それは霊力をより多く渡すために仕方なくだな……」

「生まれつきの力とか、霊力を渡すためとか、言い訳ばっかり……」

 

 え、これ俺が悪いの? けど訴えられたら俺が負ける気がする。

 

「……わ、悪かった。以後気を付ける」

「ふふ、冗談ですよ」

 

 なんなんだよ……

 昨夜スライムを倒した後、俺は橘を車に乗せて家まで送った。

 それだけだ。

 

 なのに昨日の今日で、なんか橘が俺を揶揄ってくるようになった。

 けど、女子高生の考えなんて俺にわかるわけないしな……

 

「じゃあ今日は私が教える番ですね」

「え、あぁ術式制御の話か?」

「そうです。霊力操作を教えてもらう代わりに、私は術式(まほう)の制御を教える。それで等価ですから」

 

 別にそこまで期待してるわけじゃない。

 俺の弱さは痛いほど理解してる。

 術式の改変、拡張なんて、そんな簡単にできるわけがない。

 

「私も一宮さんに習って、実際に体感してもらおうと思います」

 

 そう言って橘がソファに座る俺の後ろに回り込む。

 その手が俺の両肩に乗った。

 

「肩揉みでもしてくれるのか?」

「まぁ、ついでにそれでもいいですけど。気持ちよくなってる暇はないと思いますよ」

「え?」

「この前は一宮さんに無理をさせないように、術式(まほう)の処理を私が代行しました。でも今回は『術式(まほう)を操る』という感覚を一宮さんに覚えてもらうのが目的なので、少し刺激的にいきます」

 

 少しだけ、橘が俺の肩を握る力が強くなると同時に後ろで霊力の揺らぎを感じた。橘の変身だ。

 でも、そんなのどうでもよかった。

 

 肩じゃない……心臓が……なぞられてるみたいだ……

 

「なんだ、これ……なんかゾクゾクする……」

「今、私は一宮さんの術式(まほう)をほんの少しだけ突っついたり撫でたりしてると思ってください。今あなたが触られているものがあなたに刻まれた術式(まほう)です」

「これが俺の術式……」

 

 俺は今まで、こんなに具体的に術式というものを認識したことはなかった。

 

「じゃあ、ちょっと強めに触りますね」

「お、ううううううううううううううううううううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 雷が俺の頭の上に落ちて来たのかと思った……

 

 あまりの激痛に床を転げまわれば、数秒で痛みは引いていく。

 天を仰ぐ俺の視界に横から入って来た橘は、何故か満面の笑みだった。

 

「あんたってさ、Sなの?」

「さぁ、どっちだと思いますか?」

 

 なんか笑ってる。

 すごくこわいです。

 

「でも、場所というか形というかなんとなくわかったんじゃないですか?」

 

 まぁ、あんな激痛浴びせられればな……

 ここが術式が保管されてる位置ってことだろ?

 

「でも、これを操るなんてどうすればいいのかまったくわからん」

「それはさすがに少しずつ実験していくしかないですね。まぁ、私は最初からできましたけど」

 

 そう言って彼女は胸を突き出す。

 あんまりおっきくはない。

 

「なんか今、変なこと考えていませんでしたか?」

 

 おそるべし魔法少女の魔法。

 まさか心まで見透かそうとしてくるとは。

 

「考えてないです」

「……それならいいですけど」

 

 それから俺はまたソファに座らされ、何度か激痛を食らわされた。

 何度も食らってるうちに少しずつ輪郭がわかっていく。それに集中して霊力操作と同じ要領で自分の術式に自分で触っていくらしい。

 

 術式というものを認識することが術式を鍛える第一段階ってことか。

 あとは霊力操作で術式に干渉していくと……なるほど、理屈は大体わかった。

 練習すればできるようにはなりそうだ。

 

「それにしても最初からできたか……橘が魔法少女になったのって……」

「2年前です。先輩に当たる予言の魔法少女さんにスカウトされました。ちなみにその予言の魔法少女さんいわく、アナザートが現れるようになったのは5年前かららしいですよ」

 

 5年前……

 なるほど、まだその程度の期間しか経ってないなら……それに予言の魔法少女の力でアナザートの出現場所を把握して、魔法少女がそれを即座に片付けてきたのなら、退魔師と魔法少女の邂逅が俺と橘が初だったとしても不思議はない。

 

 退魔師は言わずもがな、魔法少女もかなり少数だろうしな……

 

「最初からってことは魔法少女になってから術式は強くなってないのか?」

「いえ、色々努力したり魔法の種類を増やしてきましたよ!」

 

 だよな……

 じゃなきゃ、俺の術式を弄れるほどの術式干渉技術が身についているわけがない。

 

 でも、だとしたら……

 

「橘は、どうやって術式の位置や輪郭を理解したんだ?」

「それは……最初からわかっていたとしか……」

 

 魔法少女に覚醒する段階で、今俺がされたような術式の位置を理解する処置をされた?

 でも、それなら最初の……一人目の魔法少女はどうやって術式の位置や形を特定した?

 

 もしくは、そういう才能がある奴を選んで魔法少女にしてる?

 または……それを可能とする道具かなにか……?

 

 ッチ、可能性が多すぎて絞れねぇな。

 

「あの、もしかして私のことで色々悩んでくれてますか?」

「まぁ、魔法少女がなんなんだってことはずっと考えてるよ」

「申し訳ないです」

「別に、あんたが謝ることじゃないだろ」

 

 俺が謝って欲しいのは、生まれつき霊能力を持っていたわけでもないこんな子供に力を与えて戦わせてる誰かにだ。

 

「ま、今日はこの辺にしとくか」

「はい。そうですね」

 

 本日も依頼人は一人も来なかった。

 魔法少女のことも気がかりではあるが、それとは別に色々まずいことがある。

 

 金がない。

 

 依頼がないのに橘へのバイト料だけ増えてく。

 いや、多分橘はバイト代とか要らないとか普通に言ってくれそうだけど……流石に大人としてそれは問題だ。それに一応術式の開発は手伝ってもらってるわけだしな。

 

 

 そう思ったのも束の間、事務所の中に一羽の鴉が飛び込んで来る。

 

 窓が開いてるわけじゃない。窓を〝透過〟して、それは事務所に侵入してきた。

 

 霊体の鴉。

 協会が伝令に使う式神の一種だ。

 

 鴉は俺の目の前まで飛んで来て、その姿を文字へと変化させる。

 

 

『【餓者髑髏(がしゃどくろ)】復活の兆しあり。都内を拠点とする退魔師は来たる5月24日に決戦の用意をし、協会本部へ集結せよ。なお、5月24日までは積極的に餓者髑髏の配下となる悪霊を間引くこと。配下の悪霊の討伐には特別手当を与える』

 

 

 5月24日って後二週間しかねぇじゃん。

 しかも都内の退魔師は強制参加かよ……

 

 餓者髑髏なんて伝説級の妖怪、俺が相手にできるわけもねぇし……

 

 いや……けど配下なら……

 

 特別手当(ボーナス)か……

 復活の兆しありってことは、まだ復活してるわけじゃない。

 それで配下が発生してるってことは、封印かなにかから漏れた霊力が原因で悪霊が湧いてるんだろう。

 

 それくらいなら俺にもやれるんじゃないか?

 

 というか、このまま事務所で橘と駄弁ってるだけじゃ普通に来月厳しいし……やれることはやっていかなきゃだよな。

 

「いくかぁ……」

「どこにですか?」

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