底辺退魔師、ボロボロの魔法少女を拾う 作:非表示
ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
一宮十矢はもう一週間以上眠っている。
私のせいだ。私が魔法を混ぜたりしたから。
後遺症の予想もできなかった。初めてやることだった。そんな無茶の実験台にした。
体のどこが不良なのかわからない。
だから現代医学でも、回復魔法でも治せない。
このまま彼がずっと目覚めなかったら、私は……
「ねぇ一宮さん、霊気錬成できるようになりましたよ。ねぇ見てくださいよ、霊痕知覚も常在結界も霊力譲渡も、できるようになりましたよ。すごくないですか? たった1週間でこんなにできるようになったんですよ? ねぇ……」
嫌だ。
「でも、一宮さんの精度に比べるとまだまだで、教えてください。もっと教えてくださいよ。お願いします。お願い……ごめんなさい……」
謝ったってなんにも解決なんてしない。
わかってるけど、他にできることがなんにもなかった。
私はずっと無力だ……
病室で俯いていると、後ろの扉が開く。
「あれ、桃花ちゃんも来てたんだ。やほー」
「氷見さん……も、お見舞いですか?」
「まぁそうだね。先輩には恩が沢山あるし」
でもさ、と添えて彼は話を続ける。
「桃花ちゃんはこんなところでなにしてんの?」
「……見ての通りお見舞いですけど」
「なんで? 意味なくない? 見舞いしたら目が覚めるわけでもないっしょ」
「なんですかその言い草、一宮さんに助けられたのはあなたも同じじゃないですか。なのに……」
「だからだよ。なに無意味なことに時間使ってんのっつってんの。お前だけだろ。先輩を治せるかもしれない人間は。だって先輩をこんな風にしたのはお前なんだから」
殺気の籠った黒い瞳を彼は私に向ける。
そこには私にはない強さがあった。
幼い時から異能を知り、妖魔と命を懸けて戦って来た彼のソレには、私のような素人感はない……殺し合いに勤める本物の殺気。
一宮さんもたまに似た顔をする時があったけど、向けられるのは初めてだ。
「はは……なんてね、冗談だよ。先輩ならきっと仕方ないって流してくれるよ。でも、もし君がこの状況に少しでも申し訳なさってヤツを感じているのなら、君に一つ、俺から提案がある」
「なんですか? 一宮さんを治せるなら私はなんでもします」
「じゃあ俺の弟子になってよ。君は退魔師のことを知るべきだ。君の力と俺らの力の融合……そこに先輩を目覚めさせるヒントはきっとある。そうでしょ?」
そうだ……そもそもの原因、問題は私の合成に不備があったことだ。
だったら、その不備を解消するために合成を完璧なものにする必要がある。
それでこそ、なにが間違っていたのを発見できる。
「わかりました。私に霊能力を教えてください」
「うん、無理」
◆
氷見さんの案内の元やって来たのは、かなり不思議な場所だった。
その敷地内には古めかしいお寺が沢山がある。
東京にこんな場所があるなんてまったく知らなかった。
霊痕知覚を習得したお陰か、この敷地全体から微力な魔力を感じる。
多分、人避けの結界……
「無理って言ったのはさ、先輩の霊力操作技術は俺なんかじゃ足下にも及ばないからって意味。多分現代の退魔師にあの人以上の練度の人はいないんじゃないかな? あの人はそういう意味じゃ天才だった」
退魔師は術式によって大きく力の差があるというようなことを一宮さんも言っていた。
だから霊力操作がどれだけ卓越していても、術式に恵まれなければ退魔師としては弱いということなんだろう。
けど今なら氷見さんの言うこともわかる。
いくら霊力の操作ができるとは言っても、手も触れずに霊力を譲渡するなんて芸当……どれだけ頑張ってもできるようになる気がしない。
「今の君の霊力操作の練度は、普通の退魔師と同じくらいはある。一週間でここまで仕上げてきたのはさすがに驚いたよ。でも、だからこそ君に試験を受けさせても大丈夫だと思えた」
試験……本当は一宮さんの弟子として挑むはずだった。
でも、彼が目覚めない以上仕方ない。
これも退魔師の力を知り、一宮さんを目覚めさせるためだ。
話しながら私たちは大量にあるお寺の1つへ入っていく。
「キュ」
兎がいた。
白い毛のちゃんちゃんこを着た兎……
「なんですかあれ……」
「式神ってヤツだよ」
え、説明終わり?
全然意味がわからない。
兎は私たちに一礼すると先を指さし、先導を始めた。
地下へ続く階段だ。
「行こっか」
「はい……」
付いて行くと、そこは灰色に囲まれた広い空間だった。
コンクリートのパネルが床、天井、壁すべてに打ち込まれていて全体的に頑丈そうだ。
そして、その部屋の中央に一人の老人が立っている。
「お久しぶりッス。
「お前の教師をしていたのはもう5年以上も前の話だ。今は教鞭も取っておらん」
「でも、俺にとっちゃ先生ッスから」
「……まぁよい。それでその小娘が貴様の弟子か?」
「その通りッス」
そう言って氷見さんは私へ前に出るように促す。
「初めまして、橘桃花と申します」
「儂は
「なるほど、ではあなたに力を見せればよろしいのでしょうか?」
「あぁ、その通りじゃよ」
そう言って、老人は和服の胸元から紙のようなものを取り出し、手前に投げる。
床に落ちたそれから魔力が放出され、次の瞬間にはその場所に狼のような姿の悪霊が現れた。
「桃花ちゃん、退魔師の術式っていうのは基本的に強化されない。でも例外はあるんだ。術式自体に永続的に性能を向上させる効果が付加されている場合だ。百敷先生の術式はその筆頭」
氷見さんが壁際まで離れながらそう説明する。
どうやら、もう試験は始まるようだ。
「ある条件を満たした悪霊を使役して手札にする。使役する悪霊は術者に絶対服従で、いつでも好きな時に出したり消したりできる」
「橘と言ったな? 貴様に課す課題は儂の出す悪霊百匹の討伐だ。どのような悪霊をいつ何匹召喚するかは儂が決める。貴様はただ計百匹の悪霊を討伐すればよい」
そう言いながら彼自身も氷見さんとは逆方向の壁際まで下がっていく。
「なるほど、了解です」
「では、始めよ」
霊気錬成を憶えた今の私なら変身することなく魔法を扱える。
勿論変身した方が威力も精度も上がるが、この程度の悪霊が相手なら必要ない。
「
創造した魔力の弓矢を構える。
だから私はあなたの真似をする。
ありがとうございます。
私は感謝と共に、黒い毛皮を纏う狼の悪霊へ矢を射る。
桃色の光の矢は狼の眉間を貫き、それは消滅していく。
霊気錬成によって魔法の威力が格段に向上している。
これならいける!
「弓か……まるであの男のようだ。自分の立場を弁えもせず、無駄な努力を繰り返し、分不相応な夢を見ていた無能。たしか、一宮十矢だったか? きっと今頃はくたばっておるだろうがな」
そう……一宮さんってそういう扱いだったんですね……
「換装【ハーティア】」
「なんじゃ……その姿は……?」
「あの、手持ちのモンスター全部出していいですよ。全部殺して、一宮さん以下の無能にしてあげます」
「そうか……あの男の知人か……。ならば合格させるわけにはいかぬな」