うわっ、前からタケノコが!!   作:七夕ナタ

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 お気に、感想、評価、ここすき、誤字報告いつもありがとうございます。ちょっと色々あって遅れてしまいました。


 


まだあわあわわ展開あわわ

 

 

 

 『みんなのために、わんわんお! ヤチヨカップの公式実況担当、忠犬オタ公で〜すっ! 今日も元気に、職務果たしちゃいまーす!』

 

 『今週もヤチヨカップ特集、暫定四位までは公式を要チェキ! 君の推しはいるか〜? ではでは、ランキングトップスリーの発表だ! 三位、“癒やし系アイドル湯雲ぬくみ”! 二位、“ハイスペエルフ、テレリリ・ティートテート”!』

 

 『そして、下馬評通り独走状態だぁっ! 堂々第一位、“ブラックオニキス!”もはや、この三人で決定か? ちな圏外だけど、ランキング爆上げ中の“チーム”がいるんだよね。みんな知って───』

 

 

 「おつ〜。体調どう、もう大丈夫そ?」

 

 「うん、もう大丈夫」

 

 

 ───久しぶりに四人で集まった真実の家。

 いつもと変わらぬ様子で声を掛けてくれた芦花に、もう大丈夫だと返事をして椅子に腰を下ろす。一人掛けの籐椅子に腰かけた真実は、モニターで流していたツクヨミ公式ニュースを停止させてリモコンを放り出した。

 

 

 「いやー、『黒鬼』圧倒的だねえ~~」

 

 「んー、終盤でこの差はちょっとキツいかなぁ」

 

 「むぅー、どうしたらいいのだー!」

 

 

 三人用のソファを悠々と占領していた芦花も白旗を上げるように天を仰ぎ、ひとりバスタブに漬かっていたかぐやは、バスタオル一枚の半裸姿で唸り声をあげながら頭をかきむしっている。

 

 いやいや人んちで何て恰好してるんだこの宇宙人は、なんて驚くことなかれ。ここは確かに真実の家だが、真実の家でも仮想空間ツクヨミの中にあるプライベートルーム。グルメインフルエンサー『まみまみ』の家の中なのである。

 

 家のデザインとしては、湖の上に浮かぶ開放的な家屋と言ったところか。なんとも不思議なデザインだが、このツクヨミならではの様式美とでもいうか、慣れてしまえば神秘的な雰囲気さえ感じる。

 

 ……本当ならリアルで集まる予定だったけれど、私の体調が戻ったばかりなのを考慮して急遽、集合場所はツクヨミに変更になったのだ。とほほ、御心配をおかけしてしまいました。

 

 

 「いやー、黒鬼、強いね~~。まあ、帝様だもんね〜」

 

 「うぅ、真実の裏切り者ぉ〜!」

 

 「一応、二推しでかぐやも推してまーす」

 

 「や〜だ〜! かぐやだけにして〜!」

 

 

 バスタオル姿のまま、浴槽の中で暴れてランキングの結果に不満をあらわにしているかぐや。ちなみに、家主の真実は『帝アキラ』のファンなので一人ニコニコとご満悦な様子でこの家の自慢の釣り堀に釣り糸を垂らしていたりする。

 

 そんな真実の様子に、かぐやは恨めしそうに視線を送っているがどこ吹く風といったところだ。

 

 

 「くそー、帝出てこい! 勝負しろー」

 

 「あ、それいいんじゃない。かぐやVS帝でゲーム対決ってのは?」

 

 「さっすが芦花、それだ!」 

 

 「───無理に決まってるでしょ。そんな提案を受けてくれるわけないじゃん。向こうはトッププロゲーマーだよ? 私たちとなんかじゃ格が違うって…!」

 

 

 いや「それだ!」じゃないわ。芦花も余計なことを言っちゃいけません。そこのおバカは甘やかしたり、もてはやしたりなんてしたらってすぐに調子に乗っちゃうんだから…!

 

 そりゃかぐやだって人気や知名度といったものは、ここ数日の間に加速度的に伸びて売れてきてはいるが、流石にそれだけではまだまだ『黒鬼』になんて遠く及ばないだろう。

 

 もちろん配信者としての人気もそうだが、単純なゲーマーとしてのゲームの実力も雲泥の差だ。ゲームに対する飲み込みも早く、筋がいいのも確かだが、それだけでどうにかなるような問題じゃない。

 

 

 「だってえ~! ヤチヨカップ終わっちゃうよ? 迎えが来るかもしれないし~!」 

 

 「そんなこと言って、一向にアンタのお迎えなんて来ないじゃん! 来るなら早く来てくれ~、早く連れて帰ってくれ~~」

 

 「あー、彩葉がいじわるゆってる!」

 

 

 ああ。そういえばあったな、そんな設定。あの出会いから数日経ってもなんの音沙汰もなく、一向にその予兆すら見られないものだからすっかり忘れていた。ほらいまだ、いま。いま来るんだよ、いま来なくてどうするんだ、この我儘なかぐや姫が住んでいた月のお仲間さんたち。

 

 ほんと何してんの。遅いくらいよ、何ちんたらサボってんの。さっさとこの破天荒な宇宙人を故郷へと連れて帰ってくれ。

 

 ……なによ、そんな顔してこっち見たってダメだからね、別に意地悪なんて言ってないから、ごくごく普通の文句と不満なんかを口に出してるだけだからこっちは。

 

 

 「……え? かぐやちゃん築地から迎えが来るの?」

 

 「わー、家出ー? 中々アグレッシブだね〜」

 

 

 おっと、やばい。いけないいけない。

 せっかく、かぐやの正体や嘘を混ぜてこっちの事情を隠しているというのに、ただでさえ仲の良い芦花や真実にも隠し事をしてしまっているのに、そんな二人の前で堂々と喋ってしまっていた。

 

 流石に油断しすぎた……さあ、どうやって誤魔化そうか。そんなことを考えていると、

 

 

 「わっ、ビックリした!」

 

 

 かぐやの眼前にいきなり、メッセージの着信を知らせるアイコンと共に巻物が出現する。

 

 ツクヨミ内でわかりやすく可視化されたメール機能だ。ここ最近では届くメールなどスパムや宣伝が大半だったので、ヤチヨカップ出場以来ほとんどかぐやがメールを読むことはなかったのだけれど……嫌な予感がする。

 

 

 「……え、これって」

 

 

 彼女本人の妙なところで優れた直感とでも言えばいいのか、かぐやが面白いと思うコトへの優れたセンサー。何かしらの大きな予感があったのだろう、かぐやはすぐにメールを開いて驚愕の声を漏らした。 そして、異様にぎらつく目で私を見つめる。

 

 それはまるで空腹に悩まされていた大きな獣が、ようやく罠にかかった獲物を前にして涎を垂らして歓喜を露わとするような、食卓に並べられたお目当ての食材にようやくありつけたような。

 

 な、何よ…なんなのよ…!?

 

 

 「彩葉……」

 

 「何?」

 

 「いーろーはー……」 

 

 「……何、怖いって?」

 

 「彩葉言ったよね。プロゲーマー様は格が違うって……」

 

 「だ、だから、何よ……?」

 

 「……言ったよね?」

 

 「え???」

 

 

 え、なに? なんなのそのしたり顔は? 待ってよ、なんでそんなニヤニヤと私のほうを見て来るのよこの宇宙人。

 

 待って、噓でしょ? ねえ、やめてよ。ほんとお願いします…!

 

 ───元々、悪い予感はしていたんだ。

 新しいもの好きの“あの男”が、かぐやという存在を見逃す訳がない。こういう事をしてくる可能性は大いにあった。だから、『黒鬼』関連の情報はかぐやに見せなかったんだ。その為に、さっきも速攻で火消しにかかったんだ。それなのに……。

 

 

 「じゃあさー、断れないよねぇ! 格上のプロゲーマー様からの挑戦は! 大物釣れたぁ、よっしゃー!」

 

 

 

 

 Black onyX 帝アキラ さんからのメッセージ 

 

 初めましてかぐやちゃん! 

 俺はブラックオニキスの帝アキラ ファン数 百万人おめでとう! 

 

 ここからは提案なんだけど、KASSENで『帝VSかぐや姫の竹取合戦』……ってのはどう? 

 

 かぐやちゃんが負けたら……やっぱ俺と結婚、かな?……なんて! こっちが負けたら、なんでもお願い聞くよ。俺らでツクヨミ盛り上げようぜ!

 

 

 

 え、終わった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 事態を飲み込む暇もないほどにソッコーで決まった、かぐや対帝アキラのバトルは『世紀の竹取合戦』なんて仰々しいくらいに大看板を背負って私の前に現れやがった。なんだこれ。え、なんだこれ? 訳もわからないまま、いきなり轢き逃げされたみたいな気分なんだけど…!

 

 超絶満員な会場の中、モニター席では実況を務める元プロゲーマー『乙事照(おっこてる)(こと)』と共に解説を務めている『忠犬オタ公』が場を温め盛り上げる為の口上を述べている……や、やめてくれ。

 

 

 『ヤチヨカップの結果発表も残り一時間ですよね』

 

 『この勝負の結果次第では、かぐや・いろPに逆転のチャンスも!?』

 

 『ルールはSENGOKU 3対3の3本勝負───』

 

 

 ほんと……な、なんでこんなことに……! かぐやの配信ではお決まりとなった、いつもの姿を隠す為の狐に着ぐるみスキンを纏った私は、ただ茫然と立ち尽くしながらツクヨミの空を眺めていた。

 

 上空には透明なボディの巨大なレプトケファルスが立ち昇る煙のように、ゆるやかな動きでその身体をくねらせながら悠々と空を泳いでいた。うおー、でけー! いいなー! 私も一緒に無限の彼方に連れて行ってくれ〜!

 

 因みにレプトケファルスとはなんぞや、と思うかもしれないが……実は私も詳しくはよく知らない。だが以前、先輩が「レプトケファルスってのはウナギやウツボなんかの『葉の形をした透明な幼生』の総称だ。ラテン語で『小さい頭』って意味らしくて……」とかなんとか言ってた気がする。詳しいなウナギ博士か?

 

 嘘か本当かは知らないが、そういったよくわからん知識をどこから持って来てるんだあの人? チヨちゃんもチヨちゃんで、謎の対抗意識で豆知識を披露して来る時があるし……あの2人は『ねぇ、知ってる?』なんてこっちに語りかけて来る豆粒サイズの謎の生物なんじゃないだろうか。

 

 

 「あわ、あわわわわ……!」

 

 『ねー、ま〜だ〜?」

 

 

 そんな現実逃避とも言える最中、チラリと横を見てみれば、興奮して今にも泡を吹いて倒れてしまいそうな真実の姿を横目に捉え、そしてかぐやは未だに現れないブラックオニキスに対して不満げな様子で口を尖らせている。こちらの気も知らないで、平常運転というか嫌味なくらいに2人はいつも通りの様子だ。

 

 どうして私がこんな目に…!

 さっきからため息しか出てこないぞ、もうほんとなんなんだこの状況は。私がいったいなにをしたというのだ。どうして私ばっかりこんなことに……くそう、神様なんて嫌いだっ。

 

 とうとう、待ちぼうけ状態に暇になったかぐやが犬DOGEと戯れ始めようとしたその時、会場上方の岩壁が、内側から膨れ上がるように爆発した。

 

 

 『来ました! 黒鬼です!』

 

 

 爆発して舞い上がった土煙。砕けた岩の破片の隙間から、“虎バイク”に乗った帝が巨大な鬼のエネミーと戦いながら落ちて来たのが見えた。

 

 ───あー、なるほど。今日は()()()()()()なのか“あの男”。

 

 ちなみに、“虎バイク”とは文字通り虎が左右の前足で前輪を挟み、左右の後ろ足で後輪を掴んだ状態で疾走するバイク型の乗り物で、使い方としては虎の背に乗ってバイクとしての移動を可能にしている……ごめん、意味わかんないよね。私も意味わかんないし、なんだあれ。

 

 拡大されたモニターに、帝がバイクに乗ったまま鬼へタックルしている姿が映る。衝撃の直前、虎バイクを蹴り跳躍した帝は、宙に浮いたまま棍棒型の武器から仕込み刀を抜いて一閃。

 

 いや、何度も目にも止まらぬ速さで鬼の身体を切り刻んでいく。そして鞘へ刀を納めるように、棍棒型の武器へ刀を納刀する。すると次の瞬間、刻まれたそれらは爆ぜて会場の空へと打ち上がるド派手な花火となって消えていった。

 

 “あの男”が好みそうな試合前の()()だ。

 会場のボルテージが上がる、この瞬間の為なら、なんだってやる人だ。そして、その思惑通りに盛大な歓声と共にブラックオニキスが迎え入れられる。

 

 今日、私たちは……いや、私は“この男”に挑み勝たなきゃならないのか。この期に及んでも尚、私はこの勝負に対してあまり前向きにはなれなかった……どうせなら、先輩もこの場に居てくれたらよかったのに。

 

 力になってほしくて連絡はしてみたものの、帰ってきた返答は私が望んでいたようなものではなかった。文句を言いつつ、なんだかんだで毎回ノリノリでかぐやと遊んでいた癖、どうして今回に限ってはのらりくらりと逃げられてしまった……くそう。

 

 ───宙に浮いていた帝が虎バイクへと着地して加速すると……ん? なんだあれ?

 

 チラリ、と帝が乗る虎バイクの背後で何か奇妙なものが存在していることに気がつく。

 

 虎バイクを走らせた帝がドリフトを決めるようにして会場に降り立つ。そしてそれに続くようにしてチームメンバーの乃依もやって来て……いや、ほんとにそれなに?

 

 

 『黒鬼の、ご来臨───!!』

 

 

 いや、ちょっと待て。

 アンタが引きずってるソレってチームメンバーだったのか。ブラックオニキスって、リーダーの帝アキラにメンバーの乃依、雷、といった3人で結成されてるグループじゃないのか?

 

 狐の着ぐるみで顔を隠していなければ、きっと今の私は途轍もなく引き攣った表情をしていただろう。思わず、帝が文字通りに引きずって来たソレを凝視してしまう。

 

 ジャラジャラと重たそうな太い鎖で、全身を拘束するかのように簀巻きにされた囚人と見間違ってしまいそうになる光景。ここに来るまでに、虎バイクに括り付けられたまま引き摺られて来たようで、何やらぐったりしている哀愁漂う姿。

 

 そして極め付けは、可愛いイラストがたくさん見つかる某フリー素材サイトに出て来そうな、デザインタッチが特徴的な着ぐるみのスキン……いや、そのスキンどっからどう見ても『い◯すとや』の桃太郎でしょ?

 

 え??? 虎バイクに乗って現れた黒鬼に、変な桃太郎が拷問されたような状態で引き摺られて来たんだけど??? というかなんで桃太郎???

 

 思わず、思考が停止する。え、もしかして勝負はもう始まってる感じなの? こっちの思考を掻き乱して正常な判断力を低下させる盤外戦術的な感じなのかそれは。

 

 

 『なんだか面白いことになってますねー!』

 

 『おっと、ここで情報が入って来ました。えー、どうやら黒鬼のチームメンバーなのですが、グループメンバーの雷さんが数日前から体調を崩してしまい療養中とのことで、本日限定でブラックオニキスの裏方スタッフが代理として参戦しているようです!』

 

 『なるほど、もしかして“噂のあの人”ですか! だとすると、以前から黒鬼がアップしていた動画の方にも何度か出演しているようで、黒鬼ファンからも認知されているみたいですし問題はなさそうです。それと雷さん、お大事にー!』

 

 『しかし今日もまた随分と変な……いえ! 個性的な着ぐるみを着てるみたいですね! 果たして、今回もあの妙ちくりんな姿のまま活躍する姿を見せてくれるのでしょうか! 』

 

 『あ、本日限定のチーム名まで申請されてるみたいですよ。えー、なになに【カニカマはほぼカニ、なので今日の黒鬼はほぼ黒鬼】……いや意味わかんね〜!!』

 

 

 なんだそりゃ!? 初耳なんですけどっ!?!!?

 

 

  「いやー、すまんすまん。うちの臨時のチームメンバーが直前で逃げ出しそうになってさ、ここまで連れて来るのに手間取っちゃったわけよ……とまあ、そんな説明は置いておいてだ。どーも、対戦受けてもらってありがと」

 

 「あ、ああ、あの! 私っっ、ふぁふぁファンでっ!」

 

 「え、まじ? いつも応援ありがとう、けど───まみ、悪いけど今日は手加減できない」

 

 「え、名前……おふ───っ!」

 

 

 え、このまま何事もなかったかのように続ける感じなのか? そこに居る戦いが始まる前から瀕死寸前みたいな桃太郎はそのまま放置でいいのか? というかなんだそのふざけたチーム名…!?

 

 派手な登場を終えてこちらに挨拶をして来る帝に、どうみても状況が見えてない真実が興奮を抑えきれないと言った様子で話しかけた。その姿はどっからどう見ても推しに盲目的になっている熱狂的なファンだ。

 

 帝は、相手が自分のファンだとわかると嬉しそうな顔した後、ファンサとしてウインクを放った。おおかた、『まみまみ』というユーザーネームから本名を推測したのだろう。

 

 推しから名前を呼ばれ自分に向けてファンサまでしてもらった真実はというと、ズギューンとハートを撃ち抜かれたようで『!?』と何やら幸せに満ちた顔で、止まる直前の駒のようにクルクルと回りながら倒れてしまった……ま、真実ィィィィ!!!??

 

 

 

 「うわ〜、ないわー。純朴そうな女子高生相手に甘い顔魅せて落とし込むとか最低だな。こいつ年下の女の子の純情弄んで楽しんでますよ、どう思います乃依きゅん? 許しちゃおけませんよねこんな奴」

 

 「へえ……帝あとで集合」

 

 「ちょっと待て、ただカッコつけてファンサしただけなのに酷い言われようしていないか……!?」

 

 「というか、やっぱり今から俺帰ってもいい? 胃が痛くなってきた気がする、絶対にロクなことにならないってこの試合! 頼むから帰らせてくれ! 俺を巻き込むなよ!」

 

 「おっと、今更何言ってんだよリンさん。ここまで来たら一蓮托生でしょ?」

 

 「ふざけんなこのやろう」

 

 

 思わず倒れた真実に駆け寄って抱き起こす。酷い、誰がいったいこんなことを……おのれ、帝アキラ……っっ!!

 

 睨みつけた先で、何やらコソコソと会話しているようであったが、内部通信用のボイスチャットに切り替えているようで会話はこちらに聞こえてこない。というか、いつの間にかあの変な桃太郎も復活してるし。

 

 やっぱり、こっちの思考を掻き乱すどころか試合開始前から相手を脱落させる盤外戦術だったんだ……おのれ帝ォ…!

 

 

 「ダメだ、全然起きない…!」

 

 「ねえどうする〜? 代わりに誰か呼ぶ? 3人居ないとダメだし」

 

 「それしかないでしょ、いきなりで悪いけど芦花に連絡して出てもらうしか」

 

 「あ! そういえば、芦花だけじゃなくてリンも時間ができたら試合見に来てくれるって言ってたし、もしかしたら観客席いるかもよっ!」

 

 「え、マジ?」

 

 

 かぐやが気絶した真実のアバターから、装飾として装備されていたおにぎりを毟って食べながら訊いてくる。おい毟んな。こんな時に何食べてんの……あ、仮想空間で味しないからってってペッてすんな。

 

 どうするも何も、気絶している真実を叩き起こすか観客席にいる芦花を呼んで代わりに出てもらうしかないだろう。3対3というチーム戦のルールである以上、私とかぐやだけではゲームに勝つどころがゲームとして成立すらしない。

 

 観客席に居る芦花へ連絡すればすぐにこの場へ降りて来てくれるだろう。

 

 だが『黒鬼』に勝つための戦力を整えるという意味では、もう一声欲しいところだ。別に芦花のゲームの腕を疑っているというわけではなく、シンプルな理由としてこの試合をどうにかできてしまいそうなくらいにあの人が強いであろうからだ。

 

 お願い、どうか通話に出てくれ…!

 そんな断腸の思いと共に、ウインドウを開いてフレンド欄から目当てのユーザーネームを選択して通話ボタンを押した。いやほんと先輩お願いします、どう頑張っても私たちだけじゃ無理そうなんですって…!

 

 

 「あれ? 誰か着信鳴ってね」

 

 「俺じゃないぞ」

 

 「いやリンちゃんがTELってない?」

 

 「あ、マジじゃん……え゛」

 

 

 …………え?

 

 思わず、思考が固まる。

 どういうわけか。通話ボタンを押した瞬間、すぐ近くからその着信音は聞こえてきた。隣を見てみれば、かぐやも同じような表情(かお)して着信音が鳴り響いた一点を見つめている。

 

 いやいや、そんなまさか。偶々、そう、偶然にも同じようなタイミングで相手チームにもどこからか連絡が入って来ただけだろう。その可能性は十分にあり得る話だ。

 

 一旦、コール中だった通話を切ってもう一度通話を掛け直す。

 

 再び目の前で鳴り響く着信音。

 

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 

 ……もう一度、通話を切って掛け直す。

 鳴り響く着信音の発生源は、目の前のヘンテコな桃太郎の着ぐるみで姿を隠した相手チームのユーザー。

 

 3コール以上無視される私の電話、そして3コール以上鳴り響く着信音。

 

 ───………は???

 

 

 「可愛い後輩からの電話を、無視するんはあかんやろ」

 

 「……?…!?……!…!!……!…?…!!?」

 

 

 思わず、こちらに背を向ける着ぐるみ姿の相手にそんな言葉が出てくる。おっといけないいけない、自分が思っていたよりも語気が強くなってしまった気がする。

 

 すると、そんな私の言葉に反応したのか。わかりやすいくらいに肩を跳ねさせて動揺する相手の後ろ姿が目の前にあった……へえ、そんなところに居たんですね先輩。しかも私たちには内緒で、そんな見たこともない着ぐるみで姿まで隠して。

 

 ふと、数日前のやりとりが頭を過ぎる。

 

 

 『おねが〜い。かぐやたちと一緒にKASSENにでて〜?」

 

 『むり』

 

 『その、先輩…できれば私の方からもお願いしたくて……』

 

 『うっ、可愛い後輩からのお願いでも無理なものは無理! 悪いな、その日は友人に頼み事されてて相談に乗りに行かなきゃいけないんだ! てな訳でさらば!』

 

 『ええぇぇ〜!! リンのバカァァー!!』

 

 

 ははっ……そういうことだったんですね先輩。へー、可愛い後輩のお願いは断るんやけど、そないなことしよるんですね。ええ根性しとるわぁ、どんなつもりなんかちゃんと話してくれはるんやろか?

 

 ───そんなことを考えていると空から巨大な玉手箱が降ってきた。嘘でしょ。こ、これってもしや……!

 

 

 「呼ばれて飛び出てなんとやら、じゃっじゃーん! 呼んだー?」

 

 「えええええええ!?!?!?」

 

 

 ヤ、ヤチヨ……ヤチヨだ……! 玉手箱の中から両手を広げて、ぴょーんと飛び出しながら現れたのは、このツクヨミの管理人であり私の永遠の推し、バトル用の爽やかな衣装に身を包んだ月見ヤチヨだった。

 

 だが恐らくは本人ではないはずだ。KASSENに時折現れる『お助けヤチヨ』と呼ばれるシステム。基本的にチーム同士の実力差によってパワーが上下する仕様になっている。

 

 

 「え〜、ヤチヨちゃんが入るの?」

 

 「ウフフフッ、この前の試合では帝様側についてましてよ〜……それに、随分と面白そうなことになってるみたいだからねぇ

 

 「………っっ!?!?」

 

 「おろろ〜? どうしてヤッチョから目を逸らすのかにゃー、挨拶してくれないなんて私は悲しいな〜……こっち見ろ

 

 「!!!?!??」

 

 

 おっと、なぜだかわからないが、私の推しがなんだかダークモードだぞ。だがしかしそれもそれですごく可愛いと思います!!

 

 

 「あえ? ヤチヨがチームに入ってくれんの?」

 

 「そりゃあもちのろん! それじゃあ2人とも、今回はヤッチョが力になっちゃうよー? フフフッ、絶対勝とうね……じゃあ、まずはあそこに居る裏切り者からケチョンケチョンにしちゃおうか?

 

 「お? おおー! さっすが! 話がわかるじゃーん!」

 

 

 なんだか負のオーラを背後に滲ませながらも、可愛らしくポーズを決めて、にっこりと笑う私の可愛い推し……あ、やばい、急にこの試合に勝ちたくなってきたかも……それはそうと、絶対逃しませんからね先輩?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 『試合開始ですっ!』

 

 

 「───それじゃ、お手並み拝見と行きますか……乃依! リンさん! “作戦”通りよろしくッ!」

 

 「りょ〜。そっちこそヘマしないでねー、助けに行くのめんどいし」

 

 「やだやだやだ! ひとりで行きとうない! 誰か俺と一緒に逝ってくれ! ひとりで逝くのだけはやだ! 頼むから誰か一緒に来て、そんでもって身代わりになってくれ!!!」

 

 「え、なんでそんなビビってんの……もしかして緊張してる? 大丈夫だって、リンさんの実力ならトライデントくらいどうってことないって」

 

 「ふざけんなこのやろう! そういうことじゃないんだよっ!」

 

 「んじゃ、また後でねリンちゃん。がんばって〜」

 

 「やだぁぁぁ!!!」

 

 

 

 私を置いて行くなアアアア!!

 

 法螺貝の音が鳴り響き、ついにKASSENが始まってしまった。いやだ、やりたくない。お願いだから帰らせてください! くそう、正体を隠したまましれっと試合に参加して、適当にやってしれっと試合を終わらせるつもりだったのに……っ!

 

 なんで試合開始前から正体バレする羽目になっとんじゃ!? どれもこれもアキラくんがファンサで真実ちゃんを気絶させたのが原因だろうがっ! 余計な事しやがって、顎もぎ取るぞこのやろう!!!

 

 ……『KASSEN』のゲームモードの一つ、『SENGOKU』モードのルールを軽く説明しておこう。

 

 円形の大きなステージを左右に大きく二つに分かれていて、右端には『Aチーム』の拠点である天守閣、左端には『Bチーム』の天守閣があり、お互い自陣の天守閣にある幕営地から出発してどちらが先に相手チームの天守閣を落とせるか、というゲームになっている。

 

 左右の天守閣の間には三本の道があり、それぞれ上の道がトップレーン、真ん中の道がミドルレーン、下の道がボトムレーン。相手の天守閣は最初から落とせるわけではなく、まずはトップとボトムそれぞれにある櫓まで向かい、中ボスの牛鬼を倒して占拠する必要がある。

 

 味方チームのメンバーが櫓を占拠すると相手の天守閣前に『大将落とし』と呼ばれるギミックが出現するので、それを天守閣に打ち込めば勝利だ。

 

 そしてプレイヤーの残機は3つ。味方がどちらかの櫓を占拠すると自陣の天守閣にジャンプ台が出現し、デスしてもそれを使えば占拠した櫓まで僅か十秒ほどで飛んでいける。

 

 それから地上にはミニオンと呼ばれる中立モブが配置されている。こちらにも対処する必要がある。なにせミニオンから攻撃を受けるとHPが減ってしまう、だが逆に倒してゲージを溜めると必殺技のウルトが撃てるようになる。

 

 ───そしてアキラくんの言っていた作戦とは、トップ、ボトム、ミドル、三つのレーン全てに1人ずつ進んで攻撃を仕掛けるトライデントと呼ばれる作戦だ。

 

 

 「あー、帰りてー。もう適当にミニオンにキルされて観戦してようかな〜」

 

 

 思わずそんな言葉が出てくる。いや、マジでミニオンにキルされてやろうかな……いやダメか。そんな事したら黒鬼のファンから殺されそうだな。

 

 トップレーンにはアキラくんが、ボトムレーンには乃依きゅんが、そしてミドルレーンの担当は俺だ。とは言ってもミドルの役割なんてそうそうないから、適当にミニオンを狩りつつフォローしながら逃げまわろう、うん。

 

 ───虎バイク跨りながらそんな風に思っていると、

 

 

 『おーっと! 黒鬼はトライデント! トライデントです! それに対してかぐやいろPは……えっと、どういう作戦なのでしょうか?』

 

 

 モニター席の忠犬オタ公ちゃんから何やら困惑したような声が聞こえてきた。いったいどうしたのだろう、ふとマップを開いて状況を確認してみると……え?

 

 ……な、なんで3()()()()()()()()()()()()()()()()()? というか待って、待て待て待て。チームメンバー2人を置き去りにして、明らかに1人だけ()()()()()()()()でフィールドを疾走してる奴がいるんですけど……!?

 

 その距離は、もはや目と鼻の先とも言える距離にまで接近していた。

 

 ───次の瞬間、風に靡く絹のような美しい白い髪が視界に映り込んだ。

 

 

 「───や、来ちゃった♡

 

 「ひぇ……こ、来なくていいです」

 

 「えー、ひどーい。あなたの為に駆け付けたのに。まさかとは思うけど、このまま逃げられるだなんて思ってた? フフフ、逃すわけないじゃん

 

 

 向かい側から満面の笑み浮かべてやって来た大魔王。なんてこった、明らかに激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム状態だぞい。しかもこいつ、俺が使ってる虎バイクのような()()()()使()()()()()()()()()()()()───!!!

 

 なんで徒歩でライド使ってるプレイヤーより速く走れるんだよ…! しかもお前、()()()()()()()()()()()()!?

 

 全力疾走して来たヤチヨの手に握られたそれは、サカバンバスピスが担ぐ神輿。通称・『サカバン神輿』と呼ばれる地上を中速で進む為の乗り物(ライド)……あろうことか、こいつは本来は腰を下ろしてフィールドを進む為の乗り物を()()()()()()来やがった…!

 

 向かい側から疾走して来たヤチヨが、軽く身体を沈ませると、次の瞬間勢いよく跳躍する。そして宙に浮いたまま片手を後方へ引き絞るその姿は、まるでハンドボール選手のようで……!?

 

 

 「嘘だろお前、マジかよ!!」

 

 「ヤオヨロ〜〜っっ!!」

 

 「自分の配信の挨拶を攻撃ボイスみたいに叫ぶんじゃねえ!」

 

 

 ───ヤオヨロって攻撃する時の挨拶だったのか。

 

 そしてそのまま片手で、神輿に罅が入り指が沈み込むほどの握力で握り締めていた『サカバン神輿』をこちら目掛けて投げつけて来た。なんて恐ろしい攻撃して来やがるんだこの歌姫、神輿にくっ付いてるサカバンくん涙目じゃん!

 

 まるで砲弾のように放たれた神輿を直撃する寸前に、虎バイクを傾けて僅かな隙間へと滑り込む事によって回避する。しかし、どうにか攻撃を回避できたものの、急ブレーキをかけた反動によって体勢を崩してしまい地面を転がることとなってしまった。

 

 ───安心したのも束の間。頭上から傘型の武器を振り下ろして追い討ちを仕掛けてきたヤチヨの攻撃を、同じく傘型の武器を抜いて受け止めることによって防御する。

 

 ウゴゴ……こいつ力つよっ! お前のステータスどうなってんじゃ!? こんなのどう考えたって腕力ゴリラじゃん! 腕が持っていかれそうな衝撃に驚いていると、オープンチャットではなく俺にのみ向けた個別の内部通話に切り替えたボイスチャットが飛んでくる。

 

 

 「おお〜、流石だねリン。今のを避けちゃうんだ……」

 

 「……ひ、人違いです。ぼくリンじゃないよ…!」

 

 「───へえ、この期に及んでまだ惚ける気なんだぁ。でもさ、そういう嘘付くのはヤッチョ的にはマイナスポイントかな〜。だってその()()、私がリンにあげた奴でしょ?」

 

 「チ、チガウヨ。これ売られてた中古品…!」

 

 「へー、そういうこと言っちゃうんだ。ヤッチョ悲しくて泣いちゃいそう。だってその武器は私がリンの為に作った、このツクヨミで()()()()()()()()なのにね。それを中古品とか言っちゃうんだ

 

 

 え、そうだったの? 知らんかったわ、てっきりヤチヨなりきりセットみたいな感じで市販されてる武器かと思ってました。

 

 

 「お、落ち着け。お前は何か誤解してる、落ち着いて話し合えば俺たちは分かり合えるはずだ…! まずは対話するところから始めよう?」

 

 「ふふふ、大丈夫だよ。リンとは長い付き合いだもん、そんな事せずとも心が通じ合ってるってヤッチョは信じてるから、ね? だからさ、このヤチヨカップが終了したら覚悟しておいてよね?

 

 「え、こわ。な、何をですか……!?」

 

 「もちろんナニをだよ。もう、女の子の口からそういう事言わそうとするのはダメだよ」

 

 「何言ってんのお前…?」

 

 「ヤッチョ、野球チームが作れるくらい頑張るから、リンも一緒に頑張ろうね!

 

 「ダメだこいつ!? ちょ、誰か酒寄連れてこい! こいつの保護者呼んで落ち着かせろ!」

 

 「は? いきなり彩葉も一緒にだなんてそんなの許さないから

 

 「頼む、頼むからもう静かにしててくれ! 一旦冷静になろう!? お前疲れてるんだよ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 なんだこれ(ヤチヨLV999暴走状態を見ながら


 

執筆中その作品の用語とか設定を使う際に、なんとなく気になりました。

  • 『超かぐ』も『スタレ』も知ってる!
  • 超かぐや姫!しか知らんで!
  • 崩壊:スターレイルしか知らんで!
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