うわっ、前からタケノコが!!   作:七夕ナタ

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 感想、評価、ここ好き、誤字報告、ありがとうございます。励みになるし大変助かっております。

 今回でようやく原作開始ですね、長かった…!











親方! 電柱の中から新種の赤ちゃんが!

 

 

 

 

1:一般ナナシビト

 ちゃおっす。

 季節の移ろいも早いですね、『BAMBOOcafe』は今日も平和です。ただしなぜか客足が増える木曜日を除くことにします。俺はひっそりと裏方、というかキッチンでの雑用とか希望していたのに「あらやだイケメンじゃないの〜!採用〜!!」とのことでホールを兼任させられてます。店長は従業員を顔で選ぶ人かもしれないです。

 そんな俺の最近の悩みは若い子と会話する際の話題がわからないことです。推しのライバーの話をされてもよくわからんとです…!

 

2:名無しの転生者さん

 草、おじいちゃんみたいな悩み抱えてんなイッチ

 

3:名無しの転生者さん

 そりゃガワはバチクソイケメン好青年だけど中身は何千年以上生きてるおじいちゃんだもん

 

4:名無しの転生者さん

 若い子と会話する際には発言には気を使うんやでイッチ、いまの世の中すぐにセクハラとかパワハラになってしまうからな。世知辛い世の中やで…

 

5:名無しの転生者さん

 そうだぞ。自分の発言と振る舞いには責任を持つんだぞクソボケ

 

6:名無しの転生者さん

 イッチがバイトし始めて結構経つな、面接の時はイッチの職歴というか経歴?がとんでもない誤魔化され方されてて笑ったわ

 

7:名無しの転生者さん

 今までどんな事をされていましたか?って質問の時に「銀河、じゃなかった世界中を旅してました! 雪国に行ってデカいロボットと破滅願望のあるお姉さんと戦ったり、中国っぽいとこで傍迷惑な壊滅厨のデカい熟女と戦ったり、古いアメリカっぽいところではワーカーホリックを列車で轢き飛ばして仲間にして、最近はギリシャっぽいとこでバッドエンドしかないシミュレーションゲーで遊んでた天才とクソデカ巨人ぶっ飛ばしてハッピーエンドにして来ました!」って答えたやつがいるんですよね…

 

8:名無しの転生者さん

 なんで店長さんもこれで「あら〜、イケメンで面白いのねッ、嫌いじゃないわ!いつからシフト出れる?」になるんだよ。即断即決がすぎるって、どう考えても怪しくてヤバい奴が面接に来てる状況でしょうに…

 

9:名無しの転生者さん

 戦ってばっかだぞ、このバイト希望の新人くん

 

10:名無しの転生者さん

 ちょっと濁して答えたつもりなんだろうけど、元が大味というか濃すぎて少し薄めた程度じゃ何も変わってないんだよな。なんで馬鹿正直に答えちゃうんだよイッチ…!

 

11:名無しの転生者さん

 そりゃ、泥水には何入れても泥水だろうし…

 

12:名無しの転生者さん

 オネエ店長がキャラ強すぎて…え?そんなキャラだったんか店長

 

13:名無しの転生者さん

 でも仕事はきっちりできるし、力仕事にクレーマー対応、もしかしたら強盗が入って来たなんて事になっても余裕で対処できるだろうから、色んな意味で期待の新人なんだよね

 うおっ、このバイト腕っぷしが強すぎる…!

 

14:一般ナナシビト

 隠し事はするけど嘘はつかないようにしてるから。ほら、後からボロが出るのも嫌じゃん、交友関係にも誠実でいたいじゃん

 

15:名無しの転生者さん

 誠実云々はともかく、ボロが出るというか、既にボロボロなんだけど? 修繕不可能なくらいに罅だらけなんですけど?

 

16:名無しの転生者さん

 えらいね、でもそうじゃないんだよこのバカちん

 

17:名無しの転生者さん

 草

 

18:名無しの転生者さん

 気になってたんだがイッチは今バイト中なんだろうけど、そういやヤッチョさんはその間何してんの?

 

19:一般ナナシビト

 基本家にいる、といってもダラダラしてるわけでもない

 ありがたい事に家にいる間は家事なんかもやってくれてるし、ライバーとして配信しながらツクヨミの運営もこなして、FUSHIとお散歩に行って出かけたり、バ先のカフェにも頻繁に遊びに来てるゾ

 

20:名無しの転生者さん

 リアルライフを満喫してるみたいでこっちも嬉しくなっちゃう。よかったわねヤチヨちゃん…! 推しの笑顔にオネエさんも笑顔になっちゃうってもんよネェー!

 

21:名無しの転生者さん

 在宅ワークみたいな感じになってるのか。まあヤッチョは『ツクヨミ』の管理人だから多忙だろうしな、新しい企画やら配信やらに加えてサーバーやユーザー情報の管理なんて大変だろうに

 

22:名無しの転生者さん

 もしかしなくてもカフェでバイトしてる英雄よりも、配信とかでの稼ぎが多くてしっかりしてるのでは? え、まさかとは思うがイッチって現状ヒモだったりする?

 

23:名無しの転生者さん

 はは、まさか英雄がヒモだなんてそんな……え、マジ?

 

24:名無しの転生者さん

 こいつヤッチョにパチンコ代とか貢がせてるんだ! うわっーん!!

 

25:一般ナナシビト

 そんなわけないだろうが!!

 た、確かに1ヶ月の収入という面で見ればヤチヨのほうが多いかもしれんが、貯金は俺のほうが多いですぅ!! 手元にあるコレクションとか埋蔵金とか売ればもっと増えるもんね!! というかお金の貸し借りなんてしてないから!

 

26:名無しの転生者さん

 なんだ、ヒモか

 

27:名無しの転生者さん

 ヒモじゃん

 

28:名無しの転生者さん

 お、ヤッチョちゃんの稼ぎで食う飯は美味いかイッチ?

 

29:名無しの転生者さん

 これだから戦うことしか知らない英雄は……、お前もライバーになって配信するんだよ! 列車組みんなでゲーム配信とかして俺たちに見せてください! 投げ銭はちゃんとするから!

 

30:一般ナナシビト

 ボロクソ言うじゃん。え、普通に泣くぞ?

 というかライバーになるのは嫌だ、気づいたら炎上とかしてそうだし。そういうのは配信者適正高そうな星ちゃん、なのか、そこら辺の2人ならやりたがりそうだけど俺はいいや

 >>28 昨晩頂いたお手製ビーフストロガノフは大変美味しゅうございました……! ヤチヨの料理のレパートリーとクオリティが凄すぎて正直舌がバグりそうです、もう普通の手料理に戻れない…!

 

31:名無しの転生者さん

 ヨウおじちゃんとかもゲームうまそうだな

 

32:名無しの転生者さん

 そういや、バイト云々話に戻るが件の酒寄彩葉ちゃんはもう上京して来たんか?

 

33:名無しの転生者さん

 結構前に面接に来てたとか、もう一緒に働いてるとかなんとか言ってなかったか? そこらへんはどうなったんだイッチ

 

34:名無しの転生者さん

 >>30 胃袋鷲掴みされてて草、2人で美味しいものいっぱい食べるんやでイッチ

 

35:一般ナナシビト

 上京して面接受かってた

 酒寄彩葉嬢はバイト先の後輩って事になってるで、一緒にお仕事してる。歳の割にはしっかりした子だな、なんて感心したりもしたがヤチヨの言ってたこともなんとなくわかったのでさりげなくサポートしてる。

 酒寄彩葉がバイトを初めたてだった頃の数ヶ月、今までバ先に遊びに来てたヤチヨが酒寄が働き始めた途端遊びに来なくなって、本当は会いたい癖にビビって会おうとしないウジウジかぐヤッチョに痺れを切らした俺がお米様抱っこで引き摺っていき顔合わせさせました

 【写真】

 

36:名無しの転生者さん

 ようやくか、長かったな

 まあ彩葉ちゃんが全部を理解した上での感動の再会ってわけじゃないが、ヤチヨにとってはおおよそ8000年ぶりの大好きな人の再会だもんな

 

37:名無しの転生者さん

 ボロ泣きしてるヤチヨちゃんの前で、明らかに動揺しつつイッチに視線で助けを求める彩葉ちゃんおって草……草じゃないが、俺も涙で前が見えねえや…!

 

38:名無しの転生者さん

 ヤ゛チ゛ヨ゛よ゛か゛っ゛た゛ね゛ー゛!

 

39:名無しの転生者さん

 この写真、感動の再会の記念した一枚なんだけど、背景のファミレスの窓に、ニヤニヤしながら中腰カメラマンみたいな体勢で写真撮ってるイッチの姿が反射して写ってて吹いた。

 俺の感動の涙とモーニングコーヒーを返せ

 

40:名無しの転生者さん

 マジじゃん、今気づいた

 

41:名無しの転生者さん

 楽しんでないで酒寄彩葉嬢を助けてやれイッチ

 

42:一般ナナシビト

 もちろん助けたぞ

 どういうことなのか理解出来ずあたふたしていた彩葉嬢だったけど、詳しくは説明できなかったので「酒寄の可愛いさに感動して泣いてるんだろ、うん」で押し切ったゾ。なんかドン引きされたような気もするが知らん。

 それからはまあ、なんやかんやありつつ、仲良くというか打ち解けられてはいるみたいだぞ。その日の夜は「手段が強引過ぎる!でもありがとうね!!」ってお叱りを受けつつお礼を言われるというわけわかんない感じになってた。

 彩葉嬢には俺とヤチヨの関係は兄妹って事にして誤魔化してる。それと彩葉嬢にヤチヨの正体というかライバーだってことは今のところバレてはいないっぽい、以上

 

43:名無しの転生者さん

 やめてくれ俺は涙脆いんだ…!

 

44:名無しの転生者さん

 女子高生と青春を謳歌するんだぞおばあちゃん

 

45:名無しの転生者さん

 >>44 おばあちゃんじゃなくて8000歳のお姉さんな? 2度と間違えるなよ。次間違えたら56すぞ?

 

46:名無しの転生者さん

 この先の物語の事を考えると問題は山積みな気もするが、ヤッチョが幸せそうだから何も問題ねえなぁ!

 

47:名無しの転生者さん

 あとはこの後来るであろう過去のヤッチョ、というよりは地球に来たばかりの頃のかぐや姫リリィとこの先の展開がどうなるかやな。イッチ頼んだで〜

 

48:一般ナナシビト

 とりあえずバイト終わって今から運転して帰るのでここで落ちる。また今度な、なんかあったら連絡入れるわ〜

 

49:名無しの転生者さん

 りょー

 

50:名無しの転生者さん

 おつおつおつ

 

51:名無しの転生者さん

 乙

 

52:名無しの転生者さん

 安全運転で帰るんやで

 

53:名無しの転生者さん

 イッチ免許持ってたんか…?

 

54:一般ナナシビト

 【写真】

 

55:名無しの転生者さん

 おい無言で写真乗せて消えるなイッチ

 

56:名無しの転生者さん

 なに女子高生バイクの後ろに乗せてるんだ犯罪だぞイッチ

 

57:名無しの転生者さん

 きゃー、このロリコン!! おまわりさんこのおじいちゃんが犯人です!

 

58:名無しの転生者さん

 イッチのバイクかっけえなぁ

 

59:名無しの転生者さん

 ヤマハVMAXじゃん。かっけえー!

 

60:名無しの転生者さん

 なりが獅子心王で乗ってるバイクは騎士王ってもうわけわからんな。でも似合ってるぞイッチ

 

61:名無しの転生者さん

 夜道の運転は気をつけるんやで。イッチは事故ったくらいじゃ無傷でピンピンしてそうだけど、後ろに乗ってる彩葉ちゃんの為にマジで安全には気をつけてもろて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 「つ、疲れた…へ、へへへ今日もなんとか乗りきった…!」

 

 

 自動ドアを抜けると背後からお疲れ様でーす、と声が聞こえる。

 だがそれに言葉を返す余裕はなく、ヘロヘロと力なく手を上げて振っておく。

 

 今日も今日とて注文という名の弾丸がひっきりなしに飛び交うアルバイト先から命からがら生還することができた。

 

 私が週5勤務でシフトを入れているアルバイト先は住宅街にある隠れ家カフェ『BAMBOOcafe』は、どういうわけなのか週末よりも木曜日という平日のほうがお客さんで賑わっている。

 

 嵐のようなピークタイムを乗り切ったと思ったら、すぐさまピークタイムのお替わりに襲われるなんてことは日常茶飯事である。大変だけどやりがいがある、なんて理由で続けているわけではない。単純にこの店が他のアルバイトよりも時給が高い為だ。

 

 私が家を飛び出してどれくらいたったか。

 

 母親とは反りが合わず、私はそれに耐えきれずに家を飛び出した。中学3年生の冬に、何度目かの衝突の後にかねてから計画していた上京を決心した。学費や生活費の全てを自分で賄う事を条件に半ば家出同然に故郷を飛び出て来た。

 

 多分、自分は自由になれたのだと思う。

 それでもあの日、告げられた母の言葉が脳裏にこびりついて離れない。

 

 ───今でも彩葉はすぐに泣いて帰ってくると思ってます、だって彩葉は甘ちゃんやから

 

 ………っ。

 母の言葉は、どれだけ遠く離れていても折に触れて耳元で囁いて来た。まるであの人がすぐそこに居て、隣に立って私を見下ろして来ているかのように。

 

 その姿が鮮明に映り込んでくる。

 母の言った言葉の数々は正しかった。それは冷酷なほど正しくて、無慈悲なほど理にかなっていた、きっと目を逸らしたくなるほどの経験に裏打ちされた言葉だったんだ。

 

 (───ああ、まずいな……)

 

 気を抜けばいつだって母の声が聞こえてくる。

 不意に涙が溢れそうになった。どうやら今日の私は少し疲れすぎているようだ、こんな事でへこたれてなんて居られないというのに。

 

 無意識にヤチヨ(推し)の歌を口ずさむ。

 自分でも気が付かない内に、震えてしまっていた手で鞄のサイドポケットからイヤホンを引っ張り出す。優しい歌声が聴きたくて、そして母の言葉から逃げるように慌ててイヤホンを耳に突っ込もうとして。

 

 

 「あっ、やば……!」

 

 

 震えた指先からこぼれ落ちてしまった。

 ゆっくりと、それが道路の溝へと落下していく様を眺めながら、ああ…また買い替えなきゃ、なんてどこか他人事のように考えながら見つめていると、横から伸びて来た大きな手が穴に落ちる寸前で綺麗に掴み取った。

 

 

 「───おっと、どうした? 随分と疲れた顔をしてるみたいだが」

 

 

 呆気に取られ、下を向いていた視線を上げればそこには金髪の青年が立っていた。

 

 私よりも高い身長、特徴的な赤毛混じりの金髪。気温も低くなった夜とはいえ、もう七月の夏だというのに長袖のジャケットに身を包んだ青年が不思議そうに首を傾げながらこちらを見ていた。

 

 

 「せ、()()……!」

 

 「お、やっぱりその呼ばれ方は新鮮でいいな! 基本は名前か愛称、もしくは通り名とかだったからな。くぅー! 先輩かぁ。うん、いいなっ!……あ、そうだった。バイトお疲れさま、何か飲むか?」

 

 

 いや、通り名ってなんだ?

 気がつけば目の前には、私のアルバイト先の先輩である男性───()()()()がそこに立っていた。因みに“みつき”ではなく“みづき”らしい、そこは間違えないようにと念を押されて言われた。

 

 じゃないと、()()()()()()()()()()()()()()になってしまうとかなんとか……いや、意味がわからん。

 

 因みに先輩という呼び方は消去法でこうなったというべきか。「俺のことはリンくん、リンたん、もしくは先輩なんて呼び方で呼んでくれ!」なんて初めましての時にそう自己紹介をされた。

 

 初対面でいきなり名前呼びは色々とハードルが高すぎる。なので最初こそ苗字で読んでいたが、()()()の登場によって被るからと呼び名は変わっていった。

 

 最終的には先輩で落ち着いたと言ったところか。

 

 

 「おーい、酒寄? どうした大丈夫か」

 

 「うぇ!? い、いやいやなんでもないですヨ!?」

 

 

 あっぶね、ぼんやりし過ぎて意識が飛びかけてた。

 こちらを心配そうに覗き込んでいたイケメンから飛び跳ねるようにして距離を取る。どういうわけか、この()()は距離感がバグってるというか色々と近過ぎる…!

 

 と、というかなんで先輩がここに?

 この人、私よりも少し早く勤務時間を終えて上がっていたはずでは?

 

 

 「お、その顔はどうしてここにいるんだって考えてるな?」

 

 「なぜこちらの思考が…!?」

 

 「酒寄が顔に出やすいだけだな。ほれこれ、無くすなよ?」

 

 

 そんなバカな。どれだけピンチな状況であろうと学校では完璧女子高生、酒寄彩葉を演じきっているというのにこの兄妹の前ではどうしてか、まるでエスパーに思考を読まれたかのように露呈してしまう。

 

 ……もしくは、私が本当に顔に出やすいのかもしれない。

 

 差し出されたイヤホンを受け取る。

 息を吐いて、周りを見渡せばカフェの少し離れた所にある駐車場まで歩いて来ていたらしい。疲労のあまり気が付かなかった、殆ど意識がないような状態でここまで歩いて来ていたようだ。

 

 事故とかに遭わなくてよかったー。

 

 

 「もう暗い時間だしな。流石に夜道を女子高生1人だけで歩かせられないさ、何かと物騒なことも多いからな。酒寄の家の近くまで送っていくから乗ってくれ」

 

 「い、いやいやそんな! いつも送ってもらってますし悪いですよ! 徒歩で20分も掛からない距離ですし、今日くらいは歩いて帰りますって! それに迷惑かけてばかりも申し訳ないというか……」

 

 「別に迷惑だなんて思ってないさ、こっちが勝手に世話を焼いてるだけだ。それに暗い夜道を君1人で歩いて帰らせたなんてさせたら、ヤ……おほん、俺がチヨのやつに怒られる。正直、何をされるのかわからなくてそっちが怖い……!」

 

 「え? は、はは……確かに」

 

 

 ()()()()、先輩の妹さんである可愛い女の子だ。

 アルバイト先には頻繁に遊びに来ていて私もよく顔も合わせている。なんなら連絡先だって交換したし、今度一緒に遊ぶ約束もした……うごご、でも遊びに行くとなると出費が…! すいません、苦学生なんです!

 

 綺麗な白い髪に澄んだ青い瞳。なんというか先輩とは似ても似つかないというか、兄妹のようには見えない容姿をした2人だが、もしかしたら()()()()()()()()()()()()と深く聞くような真似はしなかった。

 

 だけど、本当に仲が良さそうに並んで歩く姿は『家族』のそれに違いなかった。

 

 ───それと先輩の妹さんはめちゃくちゃ可愛い。

 なんとなくというか、どことなくというか、気のせいかもしれないがチヨちゃんは私の尊い推しであるAIライバー、月見(るなみ)ヤチヨの面影を感じるのだ。

 

 突如として現れた謎に包まれた電子の歌姫、私の世界を文字通りにひっくり返して私を救ってくれた大きな存在。もしかしてヤチヨ本人なのでは? なんて可能性にチヨちゃんに聞いてみたところ。

 

 

 『チガウ、ワタシ、ヤチヨ、チガウ』

 

 

 ……どうやら私の勘違いだったようだ。

 そうだよね、ヤチヨはAIライバーだって公言してたしそれを裏付けするかのように、私の推しは様々な謎に包まれているのだ。うんうん、今日も私の推しは尊い。

 

 

 『バカ! なんで嘘ついたんだよ! ここまで来たらヤチヨ本人であることくらいはぶっちゃけちゃえばよかっただろうが!?』コソコソ

 

 『だ、だってぇ…! せっかく現実世界で彩葉に会えたのに、色眼鏡をかけた状態でヤッチョと話してほしくなかったというかぁ…! ありのままの彩葉とお喋りしたくてぇ…!』コソコソ

 

 『だとしても話がもっとややこしくなるだろォ!? ただでさえお前の存在をバラすまでの色々がややこしいってのにっ!』コソコソ

 

 

 ヤチヨの尊さに感慨深くなっていると、後ろで2人が何かこそこそ話していたが会話は聞き取れなかった。やっぱり仲良いな、なんの話してたんだろ?

 

 でも、チヨちゃんの雰囲気というか、きっとチヨちゃんもヤチヨのファンなのだろう。髪色とかもそんな感じだし。

 

 ───ふと、見月チヨと名乗って私の前に現れた不思議な女の子との出会いを思い返してみる。

 

 ある時、突然先輩が彼女を肩に抱えながら現れたのにはびっくりした。びっくりし過ぎて最初は誘拐でもして来たのかと疑ってしまったくらいだ。

 

 

 『コイツ、イモウト、カワイイ、ボッチ、ナサケナイ』

 

 『え゛……は、はぁ…?』

 

 『よっと……というわけで、あまり友達が居ないから仲良くしてあげてほしい。ほれ、念願の自己紹介の時間だぞ』

 

 

 それだけ伝えると先輩は後ろに控えてしまった。

 私の前には、何かを伝えようとしているが、口を開いてもすぐに閉じてしまう、少女だけが残されていた。え、どうしろと?

 

 なんて先輩に視線を送り助けを求めたが、そんなのはどこ吹く風と言った様子で無視されてしまった。え、なにこれどういう状況?何かの罰ゲーム?

 

 なんて考えていると、女の子が口を開いた。

 

 

 『───()()()()()、見月チヨです』

 

 

 初めて会うはずの彼女は、なぜだか少しの寂しさと、懐かしさを滲ませるような声音で、目に涙を浮かべながら、嬉しそうに私を見て微笑んでいた。

 

 ……その後、2人と連絡先を交換したりもしたのだが、チヨちゃんが号泣し出した時は本当に訳が分からず、どうすればいいかも分からずに先輩に助けを求めるしかなかった。

 

 今ではアルバイト先に遊びにくる彼女とお喋りをしたり、チャットをしたりするのが日常の一つにもなっている。

 

 

 「酒寄? どうかしたのか……相当疲れてるみたいだな」

 

 「あ、すいません。 ただボーッとしてたというか、ここ最近はなんというか、だいぶ濃かったというか…」

 

 「はは、まあ気持ちは分からんでもない。ほれ、乗ってくれ」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 

 先輩の呼びかけに飛んでいた意識が戻る。

 大きな黒いバイクに跨っていた先輩からヘルメットを渡される。いつも思うが準備がいい、最初はチヨちゃんが使っていたヘルメットを借りていたが、今では私用の物まで用意させてしまったみたいで少し申し訳ない。

 

 ヘルメットを被り、先輩の手を借りながらバイクの後ろへと私も跨った。なんというか、バイクという都合上、密着するこの距離感には慣れそうにない。

 

 ───こうして私がバイト終わりに送ってもらうのは初めてではない。

 

 私が夜遅い時間に徒歩で家まで帰っていると知ったチヨちゃんが『ダメだよ彩葉! 女の子が夜1人で出歩くなんて危ないよ!』と信じられないと言わんばかりに声を挙げたのが始まりだった。

 

 私はあまり気にしていなかったが、チヨちゃんのあまりの剣幕に押されてしまった。それからこうやって先輩に送ってもらうことが、当たり前になってしまっていた。

 

 優しいな、この2人に助けられる度にそう思った。

 強引に上京して、何もかも全部1人でどうにかしなければならないような状況の中で、当たり前のように差し出された温かい優しさに甘える度に何度もそう思った。

 

 でも人に甘えるばかりでは、きっと私は弱くなってしまうから。だからそれを拒まなければならないなんて何度も考えていたのに、自分の為に振り払った筈の手を気がつけばいつも握られていた気がする。

 

 

 「いつも通り、この辺で降ろすぞ」

 

 「……いや、もうちょっと進めば家なのでそこまでお願いします」

 

 「ん? それは構わないが…いいのか」

 

 

 心配そうにチラリとこちらを見る青年と目が合う、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? と聞いているのだろう。

 

 

 別にそれくらいは構わない。

 そもそも、私だってチヨちゃんに連れられて2人が住んでるマンションにお邪魔したことがある。

 

 なら私だけそれを隠すというのも不公平だろう。

 ……その時はみんなで食卓を囲むという暖かい空間に、思わず弱音をこぼして私が号泣する事になってしまったが、これは恥ずかし過ぎて死にたくなるような出来事だった。

 

 そんな私に先輩もチヨちゃんも、何も言わずに優しく微笑んでいた……いや、チヨちゃんも途中から一緒になって号泣してた気がする。

 

 そんなことがあったにも拘らず、何事もなかったかのように先輩は接してくれている。普段は結構ハチャメチャな性格をしているだろうに、そういったところで配慮というか変な気遣いをしてくるもんだからこっちが変な気持ちになる。

 

 あー、チヨちゃんが愚痴ってたのは()()()()()()()なんだろうな……なんて彼女が言っていたことを理解して息を吐く。いやいや、ナイナイ。私に限って()()()()()()()()、チヨちゃんの惚気を聞かされすぎたせいだろう。

 

 うん、絶対ない。

 どちらかというと、兄みたいな感じだろう。

 

 夜の街を照らす街灯を横目に、優しい青年の背に顔を埋めて視線を外す。それを了承したと受け取ったのか、先輩はなにも言わずにバイクを走らせていた。

 

 いや、早いって。安全運転でお願いしますよ!?

 

 

 「お、見てみろ酒寄! ()()()だぞ! 何か願い事でもするか?」

 

 「……か、金っ!」

 

 「マジかおい、とても華の女子高生とは思えない願い事が出て来たな」

 

 「し、仕方ないじゃないですか! こちとら限界苦学生なんですよっ! 文句ありますか!?」

 

 

 先輩の言葉に上を見上げてみれば、一瞬だけほんの小さな光が、月が浮かぶ夜空を横切っていた。神頼みをする奴は阿保だ、なんて母は言っていたが私としては願わずにはいられない。

 

 そんな咄嗟に出た願いごとに、マジか私とは自分でも思う。女子高生らしくないつまんねーやつすぎるが、こちとら切実なんだ。

 

 とりあえず、推しに貢ぐお金と生活費が欲しいんです…! あとヤチヨの新しいグッズも欲しい。

 

 そして気がつけば、私の住むアパートの前まで帰り着いていた。

 

 もう一度、先輩の手を借りて大きなバイクから跳ねるように降りると借りていたヘルメットを手渡した……いやこれ、もういっそのこと私が自分で管理した方がいいのでは? 毎回先輩に持ち運びさせるのも申し訳ないし。

 

 

 「あんまり夜更かしせずにしっかり睡眠は取るんだぞ? どれだけ効率的に頑張ろうが、コンディションが下がって意味ないからな。それに酒寄は頑張ってるからな、もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃないか?」

 

 「わ、わかってますよ。チヨちゃんや先輩からも言われて、もう少し睡眠時間は取るようにしましたし……」

 

 「じゃあ、夜遅くまでやってる推しの配信も我慢できるようになったか?」

 

 「それは話が別なんで配信は見ます」

 

 「意味ねえじゃん」

 

 

 そりゃそうだ。なにせヤチヨの配信だ、最後までしっかり見なければならない。なので睡眠時間はしっかり取りつつも、配信は最後まで見届ける義務が私にはある。

 

 そんな私に、先輩は呆れたような顔をしていたがこれだけは曲げられないのだ……っ!

 

 でも最近はヤチヨも配信時間が前よりも少しだけ短くなったというか、不思議な事に私が眠りにつくには()()()()()()()に区切りがつくのだ。

 

 なんという偶然、感謝せねば。

 

 

 「よし。それじゃあ……あ、そうだ。これ渡すの忘れるところだった」

 

 「え、なんですかこれ?」

 

 「今日の夜飯、と言ってもカフェの厨房借りて作った賄いみたいなもんだが。いつも頑張ってる酒寄に俺と店長、後はチヨから差し入れみたいなもんだから、気にせず美味しく頂いちゃってくれ」

 

 「え、そんな、いつの間に……あ、ありがとうございます」

 

 「冷凍しても大丈夫なやつもあるから、結構日持ちすると思う。そんじゃまたバイトの時にな。あんま夜更かしするなよ、それと困ったことがあればなんでも言ってくれよ後輩。お疲れさま!」

 

 

 それだけ言うと、先輩はバイクを走らせて去って行ってしまった。

 ()()()()()()()()()()()()()というのか。手渡された大きなビニール袋の中には、作りたてのような温かさを感じさせる、お持ち帰り用の弁当として梱包されたうちの商品が入っていた。

 

 え、これ本当に貰っちゃっても大丈夫なんですか?

 い、いやいや、すごくありがたいですけど!?

 

 思わぬところで食費が浮いたことと、自分を支えてくれる人たちの温かい優しさに、自分でも気が付かないうちに頬が緩んでしまう。

 

 とりあえず、お腹減ったし冷めないうちに食べてしまおう。そう思いながらアパートの階段を登ってる最中のことだった。

 

 アパートのすぐ横の電柱が七色に光り出した事によって、私の意識はそちらへと移り行くことを余儀なくされた。

 

 

 「げ、ゲーミング…電柱……!?」

 

 

 ゲーミング電柱。

 そう言い表すしかないほどに、アパートの横にあった電柱が七色に光り輝いていた。え、なにこれ? 新手の防犯装置? 思わず近づいて確認しに行ってしまう。

 

 待て待てなんだこれ、わけがわからない。

 スマコンは付けてないし、AR機能が働いてるわけでもない。

 

 

 「……よし、今日は夜更かしせずに寝よう!」

 

 

 先輩の言う通り、やはり睡眠はとても大事なことなのかもしれない。だって睡眠不足と疲労によってこんな幻覚を見始めるくらいだ、きっと私は自分が思っている以上に疲れているんだろう。

 

 よし、寝よう。

 光輝く電柱に背を向けて自分の部屋まで戻ろうとした時だった。

 

 七色に輝く電柱がスモークを吐き出し始めた。まるで立ち去ろうとする私を呼び止めるかのように……おい、おいおいおい、嘘だろ? 勘弁してください、一体なにが始まろうって言うんですか。

 

 意味がわからない。

 目の前で起こっている超常現象に、脳が理解を拒んでいる。なんで電柱が光っているだとか、どうして電柱に扉のような切れ目は入って竹をモチーフにした取っ手がついてるだとか、そんなことはどうでもいい。

 

 なぜ、いま、ここで、私の前で、こんな意味のわからないことが起こっているのだ。変な私を巻き込まないでくれ。

 

 そんな私の願いも虚しく、電柱に現れた扉は観音開きに開いていく。

 

 

 「いや、開くな!」

 

 

 咄嗟に手で押し込んで止めようとするが、少し遅かった。なすすべなくバイーンと開かれた扉の中には、ベビーベッドと思われる空間が広がっていた。フリフリのクッションにピンクのガラガラ、クルクルと回る小さなメリーゴーランドのおもちゃ。

 

 ……い、意味がわからない。

 

 

 「あ、赤ちゃん……!?」

 

 

 そしてその空間には、それらのベビー用品の主たる存在が電柱の中に存在していたことだ。

 

 え、なにこれ? なにが起こってるの?

 目の前の光景に、頭がこの謎すぎる状況に理解が追いついてくれない。お、落ち着け、冷静になって状況を整理しよう……ごめん、やっぱ無理!

 

 気がつけば、震える手でスマホを取り出していた。

 頼む出てくれ、そんな願いが通じたのか3コールもしないうちに、相手は電話に出てくれた。それだけでありがたくてしょうがなかった、声を震わせながらどうにか言葉を絞り出した。

 

 

 「せ、先輩……!」

 

 『はいもしもし、どうした? 何か忘れ物でもしたか……酒寄?』

 

 「あ、赤ちゃんの名前はなにがいいですか……!?」

 

 『なに言ってんだお前』

 

 「さっき困ったことがあればなんでも言ってくれって言いましたよね。じゃあ今すぐその発言の責任とって助けてください……!!?」

 

 『なに言ってんのお前???』

 

 

 おっと、不味いな。

 どうやら私も相当疲れてるというか混乱してるみたいだ、初手から選択肢をミスった気がする。

 

 疲労困憊でこの意味のわからない状況を理解できずに、もはや笑うしかない。そんな私を見ながら、電柱の中にいた小さな赤ちゃんはそれはもう楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 ・『見月リン、見月チヨ』
 戸籍とか用意する時に使用していたバリバリの偽名。
 月見(るなみ)なんてライバーの苗字を普段から使えないだろ、とリンが苦し紛れに搾り出した偽名。月見→見月と並べ替えただけだったが、あれこれじゃ三月と被るくねと、後になって気づいた様子。

 だけど電子の歌姫は与えられた名前にご満悦な様子。

 ・『酒寄彩葉』
 みんな大好き超人スパダリ限界苦学生。上京した手で精神状態限界で誰にも甘えられないし誰にも頼れないと限界ギリギリまで頑張っていたが、強引に甘やかされて早々に懐柔されてる。
 
 最近の悩みは自分の不安を感じ取ると全肯定してくれるアルバイト先の先輩、推しにそっくりで優しいその妹に密かにバブみを感じてしまっていること。うおっ、この沼深い…!
 
 因みにナナシビトは8000年もウミウシから、彩葉の個人情報ダダ漏れな惚気話を聞かされまくったせいで、もはや他人の気がしないレベルで彩葉のことにシンパシーを感じてるし、キュートな悪童に振り回されるであろう同士に何かと目を掛けるし、素でパーフェクトコミュニケーションできてる、多分、きっと…
 
 

 

執筆中その作品の用語とか設定を使う際に、なんとなく気になりました。

  • 『超かぐ』も『スタレ』も知ってる!
  • 超かぐや姫!しか知らんで!
  • 崩壊:スターレイルしか知らんで!
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