ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート   作:魔法省真理部記録局

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最近疲れて執筆ペースが落ちているので初投稿です


Part 10

 ホグワーツの教授陣は普通に有能なんですが、それはそれとしてホグワーツが世界最高の魔法学校というわけではありません。杖を用いた呪文においてはホグワーツは優秀と言って差し支えありませんが、薬草学と魔法動物学ではブラジルのカステロブルーシューに、錬金術や自己変容術ではウガンダのワガドゥーに、官僚育成ではもともと行政組織だった日本の魔法処(マホウトコロ)にそれぞれ強みがある、とされています。

 

 例えば有名なところだとリバチウス・ボラージの「上級魔法薬調合(Advanced Potion-Making)」はホグワーツでは六年生・七年生向けの教科書として選ばれていますが、あれは本来カステロブルーシューの四年生・五年生向けの教科書です。つまり基礎が終わり、応用的な分野に入る頃のものですね。そのため品質を高めるよりも安定して作ることができるように調整されています。ただ半血の王子様の注釈は実際に後の版では研究の進展によって修正された場所も含まれているので普通にレベルが高いし、このあたりについては素人が語るには結構難しいところなんだよな。

 

 で、なんでこんな話をしたかというとトム・リドルの成長が速すぎるからです。いやまあ複貌薬(ポリジュース)は確かにN.E.W.T.程度の難易度で二年生でも作れるわけですが、それでも一年生の終わりまでにスラグホーン教授にかなり難しい質問をして「至强なる魔法藥典(Moste Potente Potions)」の閲覧許可を手に入れるって何だよ。そういうレギュレーションがあったら世界新狙えるんじゃないか?

 

 でもこの成長速度出せるならあのイベント狙ってみますか、うまく行くと秘密の部屋事件をなかなかすごいメンバーで戦えるんですよね。

 


 

「……何語なんだ?」

 

 トムは談話室で読んでいた「至强なる魔法藥典(Moste Potente Potions)」から目を上げて言う。ヴェルダンディの手の中にある「Estudos Avançados no Preparo de Poções」という表題はフランス語に近いように見えたが、何かが違うとトムは感じていた。ただそう感じる理由が文字なのか、あるいは母音なのかはわからなかった。

 

「あら、その本まだ読み切ってなかったの? 借りたのは一年生の時でしょうに」

 

 夏の休みが終わり、ホグワーツには新入生が加わり、二人は二年生になっていた。トムは育った孤児院に、ヴェルダンディはロジエール家にそれぞれいて、会話をするのは新年度になって初めてだった。

 

「質問に答えろよ」

 

 トムも聞かれた質問に答えず、ヴェルダンディの方を見た。

 

「ポルトガル語。スラグホーン教授から借りていますの。リバチウス・ボラージについてはご存知? ……ブラジルの魔法薬学者で、この分野では世界有数の人よ」

 

 トムは自分の知らないことをあたかも一般常識かのように話すヴェルダンディにいつもの些細な苛立ちを感じながら、じっとその本の表紙を睨む。

 

「スラグホーン教授よりも凄いのか?」

 

「例えばボラージの『瓶詰めの祝祭(フィエスタ)をあなたに!』は自宅の大鍋で作れる簡単だけれども面白い、そして奥深い魔法薬の紹介で有名ね。版を重ねていますし、少なくとも英語とフランス語とドイツ語には訳されています」

 

 ヴェルダンディの説明に、トムは少し不機嫌になりながら読んでいた本を閉じた。

 

「じゃあそれは……上級魔法薬準備……いや、調合、の練習(Étude)、か?」

 

「英訳するならもっと単純に上級魔法薬調合(Advanced Potion-Making)程度でもいい気はしますが、そうですわね」

 

「どんな魔法薬が載っているんだ?」

 

「あくまで教科書ですよ。そんな複雑なものまであるかはわからないですけれども」

 

 そう言いながら、ヴェルダンディはぱらぱらと(ページ)をめくる。

 

「例えばこれですね、『よって混合毒薬の解毒剤の成分は、その毒薬を構成する個々の成分に対する解毒剤の総和より大きくなければならない。これがゴルパロットの第三法則である』……このあたりは具体的な素材が生む組み合わせとその効果をいかに打ち消すかの話、のはず」

 

 そう言ってヴェルダンディが開いた場所に並んだ薬草や素材を、トムは指でなぞっていく。呪文から類推できるラテン語と、英語で覚えている魔法薬の知識、そして素材同士で効果が相殺される組み合わせがあれば、それらの単語が何を意味しているのかはある程度把握できた。

 

「……この程度の組み合わせなら、ベゾアール石で十分じゃないか」

 

「それは何?」

 

 首を傾げるヴェルダンディに、トムは大きく、思いっきり溜め息を吐き、満面の笑みで手の中の本を広げて読み上げ始めた。

 

「ベゾアール石は山羊の胃から見出される石のような物質であり、それは多くの一般的な毒に対する解毒剤として作用する」

 

 そこには解体される山羊と、手のひらの上に載せられたしなびた塊の絵があった。

 

「それに、そこにある魔法薬の組み合わせは実際には役に立たないんじゃないか?」

 

 トムは満足げに、ゆったりと言い聞かせるように、口を閉じたままのヴェルダンディへ話を続けた。

 

「複数の素材から作った魔法薬なら、その一つ一つを打ち消した上に、相乗効果で生まれた効果をさらに考慮しないといけないわけだ。たとえ首尾よくスカーピンの暴露呪文で成分を特定できたとしても、それがどのように組み合わされたかを特定するのは、もはや錬金術だよ」

 

「……そうね」

 

 ヴェルダンディは小さく頷いた。

 

「ちょっとした毒薬に対して、何ダースもの材料を煮込むことにどこまで意味があるのか、僕に理解しかねるね。それに適切な理解があれば、そうやった解毒剤を作れない毒薬だって考えられる」

 

「……トム、お願いがあるの」

 

「僕に?」

 

 ようやく立場をわきまえるつもりになったか、とトムはヴェルダンディを見下ろす。

 

「翻訳、手伝ってもらえません? もちろん後でスラグホーン教授と、あと彼の教え子で魔法薬の材料店をやっている人がいてその人に見てもらうつもりなんだけど、トムから見て翻訳がおかしくないかを確認してほしくて」

 

 少し上目遣いに言うヴェルダンディに見上げられて、トムは自分が誘導されていたことに気がついた。

 


 

 仲良しですね。ちなみにこの頃に当時のドイツの東端、グライヴィッツ市にあるラジオ局が何者かによって襲撃されてポーランド語で反ドイツ的な放送がされ、これに対してドイツはポーランド国内の迫害されたドイツ人解放のために九月一日に宣戦布告を行いました。第二次世界大戦の始まりです。えっラジオ局で見つかった遺体が前日にゲシュタポに逮捕された男と良く似ていて、体内から致死量の毒物が? 何の話かさっぱりわかりませんね……。

 

 つまりは「何故ダンツィヒのために死なねばならないのか?」とドイツががんばってフランスに向けて宣伝している時代です。さすがにこのタイミングで帰省すると問題が多すぎるんですよ、だからロジエールさんのところにお泊まりさせてもらいました。いやぁ勉強を教えるだけで衣食住保証してくれる名家はありがたいですね。

 

 あとはイベントフラグを立てておきたいので、ちょっとスラグホーン教授と悪いことをしに行きましょう。本当は二年生が休日にホグワーツ外に出歩くのって良くないんですが、スラグホーン教授は優秀な生徒には甘いですからね。

 


 

「ああ、スラグホーン教授。お久しぶりです」

 

 ヴェルダンディとスラグホーンが暖炉を抜けた先に、陰気な男が立っていた。ヴェルダンディは煤と灰に少しむせながら、急いで周囲に視線を走らせた。窓の外には魔法使いや魔女が歩き、部屋の中にはランプに照らされた魔法薬の材料が並んでいた。スラグホーン教授の教授室に比べると、換気がされているのか匂いは少なかったものの、どこか闇の気配が漂っていた。

 

「元気にしていたかい、アージニウス」

 

「もちろん。教授もお元気そうで……」

 

 そう言って、アージニウスと呼ばれた男はヴェルダンディの方へと視線を下げた。

 

「もしや、この少女が手紙で言っていた」

 

「そうだ。ほら、自己紹介をしなさい」

 

 そう言って、スラグホーンはヴェルダンディの背中を軽く叩いた。

 

「はじめまして、私はヴェルダンディ・ルストランジュと申します」

 

「アージニウス・ジガー。このスラグ・アンド・ジガーズ薬店の店主をしている」

 

 二人はそう言って、握手を交わした。

 

「それだけじゃあない。彼は魔法薬学だけではなく闇の魔術に対する防衛術への造詣も深い。そしてアージニウス、彼女は私の父ほどではないがこの年齢で国際的でね。ポルトガル語だってお手の物だ」

 

 自慢げにスラグホーンは語った。

 

「そこまでではありませんわ。英語でも少し怪しいところがありますもの」

 

 アージニウスは紹介された少女を見て、少なくとも、ホラス・スラグホーンが紹介するのだから有望な人材であるのは間違いないだろうと考えた。

 

「海外からの学生か」

 

 アージニウスはそう言いながら、今の情勢を思い出す。今の欧州大陸ではマグルの独裁者と、そしてグリンデルワルドが勢力を拡大していた。ドイツ魔法省は既に信奉者(アコライト)の手に落ち、中欧の魔法省もそう遠くないうちに勢力圏に入るだろうと日刊予言者新聞(デイリー・プロフェット)が連日一面で報じるのを彼は読んでいた。

 

「ええ。フランスからです」

 

「……そうか、大変だな」

 

 そう言いながら、アージニウスは海を越えた先で起こっていることに対してまだ他人事でいた。ドーバー海峡があるし、ダンブルドアもいる。イギリスの優秀な闇祓いたちの手にかかれば、いずれ戦いも終わるだろう。一市民として、アージニウスはあまり難しいことを考えることができなかった。

 

「構いませんわ。今はイギリスで学んでいる身ですもの」

 

「なら、本題に入ろうか。ボラージの原稿でわからないところがある。おそらく錬金術の用語なんだが、どう訳すべきかがわからなくてな」

 

 彼は羽ペンで書かれた羊皮紙を取り出しながら言う。翻訳の英文の隣には、実際に調合して確認した結果が細かく書かれていた。

 

「教授に尋ねたら良い翻訳者を連れて行くと言われて、魔法省のスラグホーン局長か彼の関係者だと思ったが、まさかこんな若い学生とは……」

 

 そう呟きつつ、彼は羊皮紙を見るヴェルダンディの視線に同類として親近感を覚えていた。

 


 

 ここから一年かけて翻訳をして、監訳をこのアージニウス・ジガーさんにお願いします。ガラテア・メリィソートの後任として一時期ホグワーツで闇の魔術に対する防衛術を教えていた人ですね。ダイアゴン横丁にある「スラグ・アンド・ジガーズ薬店」の店主でもありました。

 

 彼の書いた教科書としてはセブルス・スネイプ教授も採用していた初学者向け魔法薬学教科書「魔法薬調合法」とリーマス・ルーピン教授の指定教科書「闇の魔術に対する防衛術必携」があります。どちらも基礎をしっかり押さえている名著とされていますね。

 

 それに比べれば彼の名声はあまり高くないんだよな。没落したジガー家をスラグ・クラブの後援で立て直して、それに敬意を払って店名を「スラグ・アンド・ジガーズ」に変えたなんてエピソードは感動的なのに。

 

 そしてここでトムが高めの魔法薬学の知識を持った上で最低限のポルトガル語の技能があるとカステロブルーシュー留学フラグが立ちます。それはそれとしてポルトガル語は帰省するときに便利なのでヴェルダンディが覚えておいて損はありません。

 

 カステロブルーシューは昔から留学プログラムをやっていて、学生を受け入れるかわりにうちの学生も受け入れろという取引で世界各地に留学生を派遣しています。例えば元カステロブルーシュー校長のベネディッタ・ドゥラードが一時期ホグワーツに留学していたのは有名ですね。

 

 ここでトム・リドルを四年生でカステロブルーシューに留学させると、本来ならその時にホグワーツに来るはずだったベネディッタの交換留学一年ずらされ、トムが五年生のタイミングで彼女がホグワーツにやってきます。なおこの裏には上級大魔法使い(シュープリーム・マグワンプ)のヴィセンシア・サントスによる人質としての派遣みたいな側面もあるのですが、それはまあそのタイミングになったら説明するとしましょう。

 

 そういうわけでトムを横目に真面目に勉強をしていきます。そうでもしないと追いつけないというか、今は勉強についてかなりバフがかかっているのでこれを利用しない手はありません。お世話になったミランダ・ゴスホーク先輩は卒業してしまいましたが、教科書の草案が定期的に送られてくるのでトムと一緒に読んで修正案を送ったりしていきましょう。

 

 次は三年生の十月末、ホグズミード行きですね。えっヴェルダンディの親はいないのにどうするのかって? まあダンブルドア教授とスラグホーン教授にお願いすれば普通に許可してもらえるのでそこは別に詰まるところじゃないですよ。さすがに母親が死んで父親が不明の少女にそれを求めるほどホグワーツは酷な場所ではないのです。

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