ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
ではムービーの続きからやっていきましょう。うろたえるトムくんは何度見てもいいものですね。
ヴェルダンディは指輪を持って逃げ出したということにすればいい、とトムは思考を巡らせていた。争った痕跡も最小限であるから問題は死体を隠すことだけであり、それは適当なものに変容させればいいだけだ、と考えながらトムは長椅子の上のそれを見た。
咳き込む音がした。
トムは本能的に床に落ちていた杖を拾い上げ、それが長椅子から身体を起こすのを見た。
「……何をした?」
眼の前のものを見て、トムは何が起こったのかを飲み込めずにいた。それは殺されたはずだ。先程、自分の手で。
「教えてもいいけど」
そう言って、ヴェルダンディはまた咳をした。
「……大丈夫、か?」
「骨がやられたか、どこか内出血を起こしてそう。治せる?」
「……
もちろん、先程殺した相手の言いなりになるのはトムにとって屈辱であった。ただ、完膚無きまでに自分は負けたのだ、とようやく落ち着いて理解できるようになっていた。
ヴェルダンディを相手に、トムもいくつか罠を仕掛けていた。夏休みの療養中、トムはダンブルドア教授からそれとなくヴェルダンディの居場所を知らないかと尋ねられていた。知らないと答えると、彼はトムの指輪について語った。そして教授がほのめかしたのは、ヴェルダンディは、そして彼女の裏にいるだろう男は、その石を使ってある恐ろしいことを企んでいるということだった。
断片的な情報から、トムにはそれが
ならばヴェルダンディの復活はその系譜か、とトムは考えたがそれだけでは足りなかった。いつものように座り、自分の喉のあたりを撫でる彼女から感じられるのは、闇の気配であった。それはトムが未だ見たことがないほどの複雑で、強力で、そして理解しにくいものだった。
「さて、どこから聞きたい?」
「……君は、
「違う。あれは死した肉体に精神を埋め込むものであり、霊魂を有する訳ではない。魂無きゆえに、それは
「じゃあ、君は」
「
ヴェルダンディの言葉に、トムはオウル・ブロックの手によって書かれた本の内容を思い出した。殺人により割られた魂を封じ込めた器。魂は分割により不安定となるが、それを器に埋め込む過程で器自体に強力な魔法的防護が生まれる。大抵の魔法と破壊への試みを拒むゆえに、埋め込まれた魂は守られるというわけだ。
「……ありえない、あの儀式は、魂の欠片を肉体と精神から引き剥がすのは、強力な呪文と複雑な手順が必要だ」
「砕けた霊魂が一回肉体から出てしまえば、そのあたりは比較的どうにでもなるのよ。あとは霊魂を引き寄せやすい器を用意しておけばいい」
そう言って、ヴェルダンディは寝間着のシャツをめくり上げた。
「……入れ墨、か?」
渦を巻く、腫れたように鮮やかな赤色がヴェルダンディの脇腹にあった。明らかに複数の、高度な闇の魔法が使われている。そのうちの一つが死霊術と呼ばれるものであることは、実践のないトムでも理解できた。
「似たようなものね。魔法道具に刻むルーンにも似ているけれども、詳しくは私も知らない」
「だから、
「……一口だけだから、許してくれない? 殺された分と引き換えと言うことで」
申し訳なさそうに上目遣いをしながらポケットから少し中身の量が減った小瓶を取り出すヴェルダンディを見て、トムは息を吐いてから瓶を受け取った。
「しかし道理が合わないだろう、分霊箱には犠牲者が必要だ」
「必要なのは術者が魂を割るための殺人であって、犠牲者の魂ではないわ」
「同じだろう」
「死んでから復活すればいいのよ。かつてある男がそれによってルーン文字を学んだ話を、授業で聞かなかった?」
「……オーディンは苦しみを受けた、君はどうだ」
「目を失ったわ。あるいは声を」
トムはそう言われてヴェルダンディが何を犠牲にしたのかを理解した。肉体は死にたての自分のものを使った。魂は蘇りの石によって留め、そして分霊箱の儀式によって引き寄せたものを入れた。ならば犠牲になったのは精神の一部、未来を見る力のはずであった。
「ブランの大釜、か」
「よく勉強しているようで」
ヴェルダンディはトムを褒めたが、トムは自分が教えられている側であることをよく理解していた。闇の魔法を深く実践し、その神秘を理解し、その上で応用的な活用までやってのける。自分でも思いついた闇の魔法の発展はあったが、こういったやり方をするのだと見せられたあとでは、ただ闇雲に分霊箱の数だけを増やすという発想さえ陳腐に見えてきてしまっていた。
「……僕が悔恨をすれば、君の分霊箱としての防護は失われるのか?」
「できると思う?」
「無理だろうな」
トムはこういう状況になっていながら、自分がやったことが軽はずみであることは認めたとしても、誤りであるとか、あるいは道徳的にどうだと考えるつもりはなかった。そもそも道徳を語るのであれば、他人を巻き込んで自殺まがいのことをしたヴェルダンディこそが悪ではないか、と責任転嫁を考えるほどの余裕まであった。
「あとまあ、少し特別な加護があなたにかかっている」
そう言われて、トムは軽く目を閉じて自分の状態に集中した。しかし、何も感じられるものはなかった。
「……それは、何だ」
「あなたはきっと、それを理解しないし、軽蔑するのでしょうね。古い、くだらない、愛の加護よ」
ヴェルダンディはそう言って、小さく微笑んだ。
分霊箱トリックについては説明されたので、愛の加護について話しておきましょうか。ニワトコの杖とリリーの血があれば生き残る、なんてものではないかなり複雑なもので相互の選択とか色々と面倒なものが絡むのですが、ある程度儀礼的なパターンを踏襲すれば、そして幸運判定に成功する条件を揃えれば、引き起こせる可能性はあります。
例えば複数回生を拒むこと。今回はトムの三回の問いかけに対して挑発的に返したことが該当します。利他的に死を受け入れること。今回のヴェルダンディさんの目標はまだ生まれてもいない娘なので十分利他的ですね。死ぬべき運命ではないのに死を選ぶこと。まあ史実というかベースタイムラインにはヴェルダンディさんがいないのでこのあたりは結構無茶が通りますし、マートルと引き換えに彼女が分霊箱の犠牲者としての運命を引き受けたという解釈になるのかな。
そうなると、だれが加害者かということになります。史実ではヴォルデモート卿でしたが、今回の場合はたぶん運命自体が加害者扱いされているんだよな。こうなるとトムに対してかけられる運命からの修復力がある程度無効化されるはずです。
あとはトムの衝動性についてもヴェルダンディとの魂の共有によってある程度は抑えられるはずです。一回しか魂を割っていないこと、本来なら七回も割れたほどの強さというか耐性があることを踏まえれば、トムがこの程度で取り返しのつかない悪になるとはならないでしょう。あとヴェルダンディはあからさまに悪寄りなので殺してもカルマが上がらない。
というわけで分霊箱と愛の加護を両立させるチャートでした。トムの有能さを残したまま闇に偏らせすぎるようにせずうまくやるにはこれがたぶん一番いいと思います。失敗するとインフェリになったり、あるいは指輪にトムの魂と一緒に閉じ込められてトムにしか見えない背後霊みたいな相方になったりするんですがまあそれはそれで。
あとトムくんが教養をしっかり学んでいてくれて嬉しいですね、魔法がまだ自然にあった時代の神話とか伝承とかって大事ですから。今ではネットで調べられるような内容も当時は本を読まなくちゃいけなかったと考えると、そのために時間を割いたいじらしさがありますね。
それはそうとこのまま何事もなく六年生として過ごすってのは難しそうですね、ダンブルドア教授に呼ばれちゃった……。
変容術の教授室にやってきたヴェルダンディに、柄の銀飾りにルーン文字が刻まれた杖をダンブルドア教授は向けていた。
「……学生に向けてそういうことをするものではないのでは? ダンブルドア教授」
「なぜ戻ってきた?」
「質問をする時は、できれば前提の話をしていただきたいのですが」
そう言うヴェルダンディを壁に追い詰めるように、ダンブルドア教授は一歩踏み出してきらめく目でヴェルダンディを睨みつけ、そして驚いたような顔をした。
「
ダンブルドアが見たのは、ある少女が老人に問いかける場面の記憶。それを聞いた老人は笑い、そしてそれは自分の専門であると告げていた。
「見たいものは、見ることができたようですね」
「あの石を、どうするつもりだった?」
「……別に、私はトムと違ってそこまでの収集癖はないのです。欲しい一つのものが手に入れられれば、それで満足です」
「……グリンデルヴァルトは、まだ無謀な試みを続けているのか?」
「私はそれを無謀とは思いません。彼の愛する信奉者たちに永遠の闘争を、復活する肉体を、幾度も戻る霊魂をもたらそうとするのは、神気取りだとが思いますが」
それは彼が積み上げ、そしてダンブルドアが断片的な情報から予測し、あるいは目をそらしたものだった。ただ、ヴェルダンディはその先に、ある一人の少女を死の淵より戻すという目的があるのではないかという推測をもっていたが、それを確かめる方法はもはやなかった。
「それは死者に過ぎない、エインヘリャルのような神話でいくらごまかそうとも、だ」
そう語るダンブルドアのきらめく目は、悔恨に揺れていた。
「……死んだ人に会いたいと思うのは、罪ではないでしょう。長く生きたいと思うことも、伝えきれなかった事を言いたいと思うのも」
そう言うヴェルダンディを見て、ダンブルドアはゆっくりと杖を下ろした。ヴェルダンディからはいくつかの記憶を見る事ができたが、その中に欲しいものはなかった。おそらくは、記憶を操作されたのだろうとダンブルドアは考えた。
「……彼は、私を戦わせるために、君をよこしたのか?」
「互いの利害が一致しただけです。そして私はもう、彼が求める力をもっていない」
「予見だけが君の力だと思っていたのかね、ヴェルダンディ」
ダンブルドアは教え子を諭す教授としての声で語った。
「……他にあるのですか?」
「トムに対して、君は私ができなかったほどに注意を払い、彼の運命を変えることに成功した。手強い相手とも対等に話し、そして優位に立ってきた」
「先を見ることができたからにすぎません。そしてその力はもうない」
「いいや。君は他人の弱さを知り、強さを認める人だ。それは予見ではない」
「……教授が言うのであれば、そうなのでしょう」
ヴェルダンディはダンブルドアが予見者を相手にしながら、見事に振る舞っていたことを知っていた。ダンブルドアは自分の陣営が繰り出すあらゆる攻撃が、あらゆる策略が読まれることを前提として、例えばタイコ・ドドナスの書とぶつけることで幾度かの予見を無効にすることさえしてきていた。予見の力は絶対ではなく、知恵はそれに対抗しうるという証拠が、この教授であった。
「君が学生として振る舞うならば、ホグワーツは君を受け入れるだろう」
「最初から、私は学生ですよ」
「……多くの学生は学んだ上で目指すものを見つけるのだ。目指すものがあって学ぶものは少数に過ぎない」
「何が言いたいのですか?」
ヴェルダンディは首を傾けた。
「変えても良い、ということだ。運命は君を縛ってなどいないのだから」
ダンブルドアはそう言いながらも、自分がかつて袂を分かった人物と改めて戦う日が近づいていることを感じていた。
うーん、これは許してもらえたってことでいいのかな。記憶とか色々見られましたけど予見そのものはもうほとんど空っぽですし重要なものはおじさまに抜いてもらってから戻ってきてますからね、ネタバレを伝えてはいないはず。
ちなみにここからチャートを変えてもいいというダンブルドア教授の話ですが、ここで普通に終わらせるとたぶんハッピーエンドです。トムも改心して、自己愛憤怒でいきなり変なことをするとかもなくなって、十五年後には魔法大臣になっているでしょう。でもそれじゃあ足りないんです。
というわけでここからはチャートの後半をやっていきましょう。ヴェルダンディの予見の力が使えなくなったかわりに政治で頑張るぞというわけですね。