ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
1944年6月、史上最大の上陸作戦として行われたオーヴァーロード作戦。上陸地点はフランス北部ノルマンディー。第一陣が十万人を超え、最終的には西部戦線を再構築することになる激戦でした。
もちろん、魔法界もこれに呼応して複数の活動を行っています。低地地方の魔法省の奪還、パリの
ただ、当時のイギリス魔法省はかなり人手不足であったことは間違いないでしょう。特に闇祓いを中心としてフランスの「解放」を行うためにごっそりと引き抜かれたのもあって、インターンの名のもとに若手の囲い込みと
そんな中、ヴェルダンディが過ごすホグワーツ最後の一年が始まります。
「スラグホーン局長とアルバス、ああ、ダンブルドア教授から話は聞いている」
部屋にやってきた少女に、髪が薄くなりはじめた
「はい」
「……有能であることも、な。私達の仕事は法律に関する訳語の作成だ。今後あの男と彼の信奉者達を裁くためには、言い逃れのできない、そして我々が一致できる意見が必要になる」
その言葉にヴェルダンディは頷いた。
「つまり、共通した法律が必要だと」
「その通りだ。国際魔法使い連盟において作業は進んでいるが、各国の国内魔法法との整合性の確認ができていない」
「……
「国際魔法戦士連盟機密保持法第十三条違反がある」
「まさか」
ヴェルダンディは呟いた。
「……未だに成立する法だ」
ドージは彼女に返した。
「既に国際魔法戦士連盟の組織再編とともにその法は国際魔法使い連盟に管轄が移り、同様の法文が国際魔法使い機密保持法の十三条としてより精緻な形で定義されています。わざわざ古いものを持ち出すのは道理に反するかと」
「しかし元の機密保持法は魔術的に無効化不能なものだ。条文の精神は死んでいない。そして国際魔法使い機密保持法においては、グリンデルワルドを裁ききれない」
ピエール・ボナコーの名の下で世界中の魔法族を中心とした「存在」を連合させ、そしてマグル世界からの離別を決めた1689年の制定は、近代魔法界における最大の転換点であると言われている。欧米の魔女狩りという局所的問題にそれ以外の魔法界が巻き込まれたであるとか、あるいは王と女王に庇護を認められない程度には魔法族はマグルから信頼を失うようなことを繰り返していたという歴史的背景は、そのような歴史を語る際にはあまり触れられることがなかったのであるが。
その過程で、調印者に対して魔術的制約、あるいは呪いが課せられた。彼らを通し、彼らが代表する魔法行政主体に対しても、その制約は維持される。
「あれは個人を裁くためのものです! 集団扇動の指導者に対して適用された事例はありません!」
「グリンデルワルドは魔法行政主体として行動していた。ゆえに処罰対象となる」
「……怨恨を残しませんか」
「だからこそ、完膚無きまでに彼らを打ちのめさねばならない」
ドージは小さく、しかしはっきりと言った。法とは規則であり、契約だ。それを破れば報いがある。しかしグリンデルワルドはそれを回避した。その法律を二つの世界を共存させるための境界の縄ではなく、魔法族を縛り付けるための縄であると解釈したのだ。
だからこそ、それまでの事故や不作為で起きた機密保持法の違反を前提とした法や判例で裁くことはできない。新しい物が必要であったのだ。
「……わかりました。仕事をさせていただきます」
「ではこちらを頼む。リヒテンシュタイン魔法省からの質問状だ。これについてイギリス魔法省として立場を示す必要がある」
「……国際魔法使い連盟との確執は、まだ続いているのですか?」
「歴史の授業でやったかね?」
書類をめくって目を通していくヴェルダンディを見ながら、ドージはそう言った。目の動きに淀みがない。彼女が読んでいるのは単なる問い合わせの書類ではない。国際魔法法についての歴史的文脈を踏まえたドイツ語の難解な法律文書である。リヒテンシュタイン側が英訳したものもあるのだが、ドージはその訳が適切であるかをヴェルダンディに判断させるつもりだったのだ。
「ええ。『存在』の権利問題、あるいはトロールを認めるかどうか。リヒテンシュタインは被害の存在からトロールに権利を認めたいとは思っていませんでしたが、当時のイギリス魔法省はクラッグ基準、すなわち人間、より正確に言うのであれば魔法族言語の会話能力によって定義するというものを採用し、トロールを存在として扱っていました」
「しかし現代、我々はトロールを存在として扱っていない。これはどういうことかね?」
「近代的な1811年のスタンプ合意において法律の理解と法の形成という基準が置かれたのは、本質的に機密保持法制定以降の理念に基づいています。今回の議論とは関係ありません」
「……素晴らしい。しかし君は不眠症か何かなのかね?」
「ビンズ教授の授業はほぼ寝ています。安心してください」
真面目な顔をして言ったヴェルダンディに、ホグワーツジョークが通じて嬉しくなったドージは小さく笑った。
「では、ひとまずそれを英語に訳して、それに対する意見をいくつか書いてみてくれ。今日中に終わるかね?」
「終わらせます」
そう言ってヴェルダンディは用意されていた椅子に腰掛け、タイプライターの鍵に両手の指を乗せた。
タイプライターの使い方はおじさまの城で学んだのかな。とはいえなんていうかいきなり変なところに詰め込まれて可哀想ではある。有能だから仕方がない。神秘部でないだけマシだったと思いましょう。
ちなみにここのエルファイアス・ドージというのは魔法法制史とかマグル権利とかやっている人は聞いたことあるんじゃないでしょうか。アルバス・ダンブルドアのホグワーツにおける同期であり、国際的な魔法法学者です。アルバス・ダンブルドアが起草した法律の多くには彼の助言が含まれていました。ダンブルドアに詳しい人なら追悼記事の作者と言えば知っている人もいるかもしれません。
第二次イギリス魔法内戦ではダンブルドアの遺志をもとに戦後復興の布石となる国際的な支援の取り付けなどに奔走したのですが、このあたりは正直シャックルボルト政権において限定された個人に功績を集めすぎたのもあって薄れがちなんですよね。ヴォルデモートを倒したのはハリー・ポッターと不死鳥の騎士団であって、戦後のMACUSAとかフランス魔法省からの支援は軽視されているのです。
まあ英国魔法省としてではなくダンブルドアの友人として動いていたし、当時ダンブルドアは半世紀前の影響を引きずってずっと居座っている口先だけの爺さん扱いされて
まあ別に彼らも善意でやったというよりはとっとと魔法省の業務を元に戻してマグル政府との関係性も復活させて機密保持法の維持をやれということだったわけですが。この時の行政改革の方向性や「清廉潔白な魔法省」という弁護、死喰い人のスティグマ化に、あるいはホグワーツの義務教育化への忌避とか、児童保護の失敗なんてものが第二次イギリス魔法内戦終結の二十年後に問題となるのですが、まあそれは今も続く話であり、まだイギリス魔法省も詳細を明かしていない問題になるのでやめておきましょう。
というわけで楽しい学生生活。学生がいない年明けのホグワーツでトムといちゃいちゃしましょう。学生が授業の合間に仕事をしているのか、終戦に向けた工作の裏で勉強をしているのかわからなくなってきたな。まあホグワーツの蔵書は普通に仕事に便利なのですが。
「……無茶をやらされていないか?」
談話室の長椅子で書類を胸に抱えて目を閉じていたヴェルダンディに、監督生のバッジをつけたトムが声をかけた。
「分霊箱になったところで疲労は消えないのよね……保護の呪文が強すぎると肉体的な成長が止まって霊魂や精神の発達と食い違いが生まれるからある程度大きな破壊でなければ防護が効かないようになっているのだけれど、今からでも変えたほうがいいかしら」
「儀式のやり直しが必要になるな。君の中の僕の魂にやらせるならまだしも」
「二重人格になるかと思ったけどなかなかならないのよね、私が寝ている間にトムがN.E.W.T.をやってくれればいいのに」
「冗談でもやめろ」
そう言って、トムは息を吐いて倒れているヴェルダンディの隣に座った。
「……新聞を読んでみたが、これは面白いのか?」
そう言って、トムは持っていた日刊預言者新聞を畳んだ。
「なにか気になる記事でも?」
「『ヘレン・ダンカン、機密保持法違反者か、あるいは狂ったマグルか?』……こんなものよりも、もっと伝えるべきことがあるだろう」
「グリンデルヴァルトの
「……黙れ」
トムが言うと、ヴェルダンディは口を閉じた。
「……マグルの戦争が終われば、グリンデルワルドとの戦争も終わるのか?」
「どうでしょうね。ベルリンを英米が踏むかソ連が踏むかもまだ怪しいし」
年が変わった1945年頭、まだ
しかし、東側には解放されたダームストラング圏の義勇軍を中心とした戦力が展開しており、コルドフストリーツ圏や中国魔法省からの遠征軍もいた。マグルの戦争も、魔法界の戦争も、まだ情勢を読み切ることができないものだった。
「……しかしこのままだと、俺達の卒業までに終わるんじゃないか?」
「でしょうね。よかったわね、グランドツアーが捗るわよ」
ヴェルダンディは片目を開けて、座っていたトムを見上げた。
「知っていたのか?」
「イギリス国内に収まらない魔法の本を読んで、スラグホーン教授にホグワーツ教授職を得る方法を聞いて、ディペット校長にまで相談するなんて。今までのトムならせいぜい闇の魔術の本だけを読んで満足していたでしょうに」
「……魂を読んだな?」
「単に噂話よ、あなたの騎士たちは本当に友達思いで、私に聞いたとわかったらトムが気を悪くするんじゃないかと心配しているの」
「君はそういう人達の心がけというものを無下にするのかね?」
「黙っていたらそれはそれであなたが不機嫌になるでしょう、さすがにもう一度
「……僕が不機嫌になれば、その元凶の相手にすぐ魔法を放つような軽率な愚か者だと?」
「普通はそもそもそういうことをしないのよ。私相手に何度も前科があるのをお忘れなく」
ヴェルダンディにそう言われながらも、トムは今抱いている不満や怒りが衝動的なものではなく、より長期的な計画の原動力として自分の中で渦巻いているのを感じることができていた。
トムくんが大人しくなってますが、普通にこいつN.E.W.T.の主要教科全
というわけで次回、ホグワーツ卒業式。いやぁ七年間は長かった気がするな。卒業したら十年ぐらいかっ飛ばせるので今は操作にちゃんと集中しておくとしましょう。