ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
ホグワーツを卒業してピカピカの新卒として魔法省に入った我らがヴェルダンディ・ルストランジュ。しかし彼女の前に待ち受けていたのは膨大な書類仕事! まあ戦後統治ってそういうものですからね。史実ドイツとか四分割ですよ。オーストリアは永世中立国になったので後から許されましたが、ドイツはそうはならず結局東西ドイツになりました。そして当時のマグルのイギリス政府拠点と同じ場所に、魔法省もちょっと間借りしていたわけです。
──1945年10月、ドイツにおけるイギリス占領地域、バート・エーンハウゼン、旧ホテル・ケーニヒスホーフ、現イギリス陸軍ライン軍団本部
「……ええと、ここか?」
青い外套を着た、背の高くやつれたイギリス風の男が地図を手に建物の前に立った。金と黒のマフラーに、黒い蝶ネクタイ。微妙に何かがちぐはぐな男に、建物の入口の両隣に立っていた衛兵二人は警戒のこもった視線を向けていた。
戦争が終わった。しかし、まだ平和が完全に訪れたわけではない。イギリス占領地域はただでさえ四つの占領地域の中で最大の人口を持つというのに、ソ連統治地域から逃げてきた人もいる。食料の不足、戦犯の処刑、明らかになりつつある戦時中の行為、そして十一月から始まろうとしている裁判。そのような情勢下で、衛兵の精神は緊張していた。
「おいあんた、ここは民間人立入禁止だ」
衛兵の一人が彼に近づき、英語で声をかけた。
「ああ、すまない。怪しいものじゃないんだ。ええとちょっと待ってくれよ……」
そう言って彼はコートのポケットをまさぐった。衛兵は拳銃に手をかけた。とぼけたような顔をしている男だが、その目には狂気にも近い何かがあった。それが何に絡むものかわからない以上、衛兵は最大限の警戒をするしかなかった。
「いやあすまない。彼は私の連れだ」
そう言って話に入り込んできた紳士に、衛兵は背筋を伸ばして敬礼をした。どういうわけだか知らないが、彼を疑ってはならないことを衛兵は理解していた。そしてその紳士の手の中に、奇妙な棒が握られていることにも気がつかなかった。
「テセウス、ここにいたのか」
「あれが見つかったんだろ。一緒に来てくれ」
テセウスと呼ばれた紳士はそう言って、青い外套の男と一緒に建物に入った。しかし、その先にはホテルの広間ではなく、乱雑にものが散らばる空間があった。浮いている机や書類、積み上げられたマグルの機械か装置らしきもの、そして行き交う紙飛行機。
「……見た目が悪いのは気にするな。突貫工事で作ったし、あとから軍の撤収にあわせて壊す計画だ。それより君の話となれば関係者を集める必要がある、少し待っていろ」
そう言って彼はタイプライターを打っていた若い女性に声をかけ、二言三言囁いた。
「……かしこまりました。手が空いている職員と闇祓いを集めます。同時に伝令をホグワーツに」
「ああ。ステビンズ君に頼んでくれ」
そう言って立ち上がった女性を、彼は見送った。
しばらくしないうちに、会議室に関係者が詰め込まれた。そして彼らは全員、やってきた男を、魔法動物学者のニュート・スキャマンダーを見ていた。
「話してくれ」
兄であり、闇祓い局長であるテセウス・スキャマンダーに促されて、彼は机の上に広げられた地図を指でなぞった。
「グリンデルワルドの拠点、ヌルメンガードがどこにあるかはすぐにはわかりませんでした。ホグワーツと同じ魔法のかかった城で、マグルの目には見えない。忠誠の術に似たものもかかっているらしくて、だからまずは場所を絞ることにしたんです。兄が調べてくれた情報でかつてのグラップホーンの生息地に近いということがわかっていたので……」
「結論を言え」
テセウスに話を遮られたニュートは驚いたような目をして、そこから一拍置いて息を吐いた。
「……ここです」
そう言って示された場所を、会議室に集まった人々はじっと見つめた。
「……マグルの地図はあるか?」
誰かが言うと、別の誰かが
「よかった、西側地域だ」
「人がほとんどいないだろうからマグル絡みの問題は最小限に抑えられるだろう。事後の
「ひとまずここに残党を集めないように包囲網を作るのがいいのではないでしょうか」
そういった議論を見ながら、一人の若い女性は地図を睨んでいた。マグルがいないということは、魔法使いにとっても決して容易ではない環境ということだ。敵である
そして、彼女は小さく首を横に振った。問題はそうではない。イギリス最強の魔法使いと、落ちぶれた男をぶつけるだけの作業だ。自分たちのすることはその準備に過ぎない、と考えて、ヴェルダンディは議論されている内容を手元の手帳に書き留めていった。
というわけでエージェント・ニュートの帰還です。ダンブルドアにいいように使われた可哀想な男みたいな評価をしている人もいますが、実際のところダンブルドアがやったのは方向性を調整しただけであって基本的には本人が猪突猛進なだけだと思います。だからこそ勝手にグリンデルワルドと絡みに行って情報をかき集めてくれたんですがね。
このタイミングでヌルメンガード城の場所がわかりました。あとはダンブルドアをここに突っ込めば終わり、と思うかもしれませんが決闘をせず逃げられたら困るので関係者はいろいろな方法で逃げられないような工夫をするわけです。
このあたりについては実際のところグリンデルワルドの収容設備絡みの機密ということで彼が死んだからこそ公開された情報なのですが、決闘のためにどちらかが敗北するまで出られないある種の結界が作られたようです。1927年9月、パリのペール・ラシェーズでされたもの、あるいは1998年5月にホグワーツ城でされたものに近いでしょうか。内側から出てこないようにするという意味ではペール・ラシェーズですけど、通過者を拒むという点だとホグワーツ城ですね。
なお、この時に敗北の判定に使われたのはニワトコの杖の持つ特性でした。これを持ち出して来るあたり、やっぱり二人ともこじらせているんじゃないか?
──1945年11月、アルプス山脈某所
「久しぶりね、トム」
声をかけられた青年は、嫌そうな顔をしながら振り返った。
「……まあ、そうだよな。来ているか」
「計画は最終段階。グリンデルワルドと、我らがダンブルドアの決闘よ」
二人が見る先には、小さな黒い城があった。しかし魔法がかかっている場所において、大きさや距離は当てにならないものであった。
「……君は、いいのか?」
トムはそう言いながら、袖に隠している杖を握りしめた。
「もう愛着がないのよね。そこにいたという記憶はあるのだけれども、うまく切り落としてもらったみたい。まあ『将軍』カーマみたいになにかあったら戻る可能性は十分あるけれども」
「彼を見かけたが、復讐者になっていたからな……」
「まあね、ここ十年の因縁を終わらせる戦いだもの。ダンブルドアに全てを持っていかれるのが不満だというのもわかるけれど」
「しかしあの杖を持っている男に、ダンブルドアが勝てるのか? 対空砲相手に杖一本でしのぎ、身一つで戦車を相手にしたという噂を聞いたぞ」
「それはさすがに戦場伝説……だと思いたいわね」
ヴェルダンディの言葉に、トムはその裏にある否定しきれない何かを感じ取っていた。多くの魔法使いが二つの世界大戦でもたらされた惨禍を見た。そこにあったのは、マグルも魔法使いも問わず、平等に死をもたらすような恐ろしい兵器の数々であった。そしてグリンデルワルドがそれを上回る、マグルを越えた恐怖として語られる事自体が、彼の強さの証拠の一つであった。
「……噂の分は差し引こう。最強の杖を持った相手だ。拮抗する程度の実力で勝てるのか?」
「ダンブルドア教授は世界有数の秘宝の専門家よ。それらを含めて対等な状態にある。まずは体力と精神の削り合い。それが終わったら魔法の力のぶつけ合い。それらを制御するのは知恵。おそらく伝説的な決闘となるでしょうね」
「……その決闘は、作られたものだろ?」
トムは言った。準備されたものを、彼は知っていた。
「フランス魔法省は雇われの末端にまでそういうことを伝えるの? 情報漏洩の可能性があると正式に警告を出したほうがいいかもしれないわね」
ヴェルダンディは小さく笑いながら呟いた。
「……何人かの闇祓いや、魔法使いと手合わせをした。その中で感じたことだ」
「結果は?」
「……勝てない人が、何人もいた」
「理由は?」
問われたトムは、深く息を吐いた。
「……考え方が甘かった。杖を相手の手の中から吹き飛ばしても、東洋では肉体そのままに魔法を出してくる。あれは練習してもほとんどできなかった」
「魔法を練り上げる力を鍛えれば肉体も鍛えられる、という考え方ね。杖に頼る欧州では確かにあまり見ないけれども、それでも
「……前に読んでいた本は、そういうところの話も入っているのか?」
「ホグワーツに蔵書がある占いを中心に読んだからちゃんとした
「もう既に戦った」
その結果については、トムの口調から明らかだった。
「それは何より」
ヴェルダンディはそう言いながら、左手首の腕時計を見た。明日の決闘に備えるなら、早く食事をしてしっかりと寝るためにそろそろ戻らねばならない。
「……時計、あるんだな」
「トムにもあるでしょう?」
「懐中時計は嵩張るんだよ、傷もつくしマグルの店に修理を出す時は魔法の痕跡を消しておかなくちゃいけない。戦利品は手に入れた時が一番だ」
「適当なところに捨てておかないようにね。おすすめはホグワーツのトロフィー室みたいなのを作ることよ。あれはみんなが見るわけだから」
「……見せびらかす趣味はない」
トムはそう呟いて、城を背にして歩きはじめた。ヴェルダンディは彼の数歩後ろを、同じ歩幅にするために少し大股で追いはじめた。
トムのトロフィー収集癖なんですが、あれは価値あるものを手に入れたいというのとはちょっと違うんですよね。創設者の遺物についても、分霊箱にした後の扱いっていい加減じゃないですか。髪飾りは絶対に見つからないような場所に放置したままにしてますし、カップは貸金庫、日記に至ってはろくな説明もないまま渡してライバル家への嫌がらせに使われる始末ですからね。手ずから守った指輪とか、あるいは劇的な舞台を整えたロケットについては親への愛着みたいな要素もあるのでしょうが。
ああいう行動の原因の一つは、自分は相手の大切なものを奪い、自分と同じ状態に引きずり下ろし、幸福を支配できるのだということを確認することだ、という風に捉えることもできます。あるいは自分は創設者たちの一部を自分の秘密にしているのだ、とか。やっぱこじらせているだけだな。
それでもコントロールできない相手、盗まれたことを気にしない人物がいる、ということを信じることが難しいみたいなことが愛着障害ではよく言われることです。
というわけで、次回は決闘ですね。なおこの決闘時間の短さを争うタイプのレギュレーションもありまして、それだと三十分ぐらいが世界記録だったかな。
ちなみに伝説の決闘自体は事実でしたが、予見とかを踏まえると実質的には白いハンカチを杖から出して神妙に降参しただけなんじゃないかみたいな意見は存在します。それにその決闘の結果が胸のすくような勝利ではなかった、というのは当時の記録には確実に残されています。第一次イギリス魔法内戦、あるいは第二次イギリス魔法内戦の時とは異なり、彼が拘束され、裁判を受け、そして刑に服したということは、欧州大陸魔法界がイギリスとは異なる、そしてたぶんマシな方向に進んだ原因なのでしょうね。