ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
1945年11月2日の決闘は近代魔法史において重要な節目であるとされています。マグルが同年の5月8日や9月2日を戦勝記念日としている、みたいな枠ですね。もちろん、その決闘が終わった瞬間に
当時の決闘は隔離された場所で行われたため、証言者が限られています。周囲からの観察や通信、その傍受や妨害や活用すらあの二人は決闘に組み込んでいたので色々と複雑になっていたというのもありますが。
ただ、第二次イギリス魔法内戦とは違い、この決闘でたとえグリンデルワルドが勝利したとしても、
それでもなお逆転を賭けて、あるいはだからこそ全てを終わらせるために、グリンデルワルドは決闘を受け、あるいは挑みました。このあたりは資料によってどちらが主体であったかが曖昧であり、かつグリンデルワルドの予見の力がどの程度であったかの評価が論者によって変わるのでわかりにくいんですよね。
では決闘の続くアルプスの山奥から、ムービーを始めていきましょう。
国際魔法使い連盟欧州協力本部の前線拠点は、魔法で構築されたテントの中にあった。
「……ここに私がいていいんでしょうか」
そう言って、ヴェルダンディはハートの七を場に出した。
「構わないよ。ユージーンやトムから君の話は聞いたからね」
そう言うのは前中国魔法省大臣、
テントの片隅でちょっとしたゲームをしている四人のうち、二人はまだ若かった。ホグワーツを卒業したてのイギリス魔法省職員と、特別任用の闇祓い。そして壮年の二人は、東洋系の顔つきをしていた。
「あまり気にするなお嬢さん。
「酷いね
「こうやって恩を売りつけてくる狡猾な男だ。もしホグワーツであればスリザリン寮で優秀だっただろうし、麒麟に頭を下げられなくて当然だ」
「まぁ否定はしないがね。だからこそサントスのやつに呼び出されるとは思ってなかったが」
そう笑う
「……お二人は、グリンデルワルドを見たことがありますよね」
手札を出しながらトムが言った。
「ああ。私はチベットで。彼はパリで」
陰陽合一。彼が闇の魔法に適性と能力があるとはいえ、それを別の形で使ってはいけないという理由はない。何より、既に
「……どうでしたか」
「うん。大物だねあれは。私が
「
チャンは
「……そうだな。私の祖国でも戦争はかろうじて再開していないに過ぎない。私は心の底から中華の統一を望んではいるが、そうでない者もいる。そして私は、彼らを否定できん」
「ミスター・リドル。君は強い。ただ、グリンデルワルドは君の持つ強みを上回り、君よりも冷酷で、人を動かす男だ」
チャンは二十年近く前に見た集会を思い出していた。ルストランジュ廟の中心で、彼が見せた未来は現実のものとなった。あの時に見た閃光が、憎むべき帝国に落とされたと知ったときでさえ、チャンの心のなかに湧いたのは恐怖であった。
「……彼より、強くなれるでしょうか」
「その強さが君に必要なのであれば、君はそれに届きうるだろう」
参考までにこの闇祓いのチャンさんはハリー・ポッターの伝記を読んでいる人は知っているだろうレイヴンクロー寮のチョウ・チャンさんの祖父ですね。
そして時間は過ぎ、決闘は終わりを迎えます。そして英雄の仕事の時間は終わり、書類仕事の時間がやってくるわけです。いやぁこれで世界魔法戦争も終わりですね。よかったよかった。
グリンデルワルドの手から杖が引き剥がされ、ダンブルドアの持った杖が彼の喉元に当てられた。
「……私は死ぬのだろうか?」
「少しだけだ。私も、君も」
顔が近づくほどに迫るダンブルドアの目を見て、グリンデルワルドは息を吐いた。
「……そうか」
割れるような音がした。周囲を囲っていた薄い膜のようなものに罅が入り、そして砕け散った。すぐさま二人の周りを姿現しで何人もの闇祓いが囲み、警戒を隠さずに杖を向けた。
「お二人とも、拘束させてもらうぞ」
「私もかね?」
静かな怒気を持つ、しかし疲れの混じる声でダンブルドアは言った。
「ああ。君達二人の肉体と精神に魔法の痕跡がないか、彼が本当にグリンデルワルドで、あなたが本当にダンブルドアであるかを確認させてもらう」
そう言った男はハインリヒ・エーバーシュタット。スイス魔法省の高官であり、その半生をグリンデルワルドの追跡に捧げた男であった。
「疑ってくれるな。私はここにいて、君達に対して降伏でも何でもしよう」
「罪を決めるのは我々だ。君に、君達に選択肢はない」
そうエーバーシュタットが言う横で、別働隊が城の中に突入していた。
「手紙の一通! 書類の一つも処分させるな!」
「収監されていた人物の搬送を! 呪い破りが要る!」
「抵抗は軽微! 間もなく制圧完了します!」
飛び交う伝令たちの声を聞きながら、ルストランジュを含む非戦闘員は安全が確認された部屋へと踏み込んだ。
「ふん、ここが執務室か」
そう言って、イギリス魔法省国際魔法法務局局長であるユージーン・スラグホーンは部屋の中へと入っていった。壁に置かれた本棚と、作業のための机。
「スラグホーン局長、あまり前に出ないでください」
ヴェルダンディは杖を構えながら言う。
「罠が仕掛けられていたら、誰だろうと終わりだ。なら老い先短い老いぼれこそが先頭にはふさわしいだろう」
スラグホーン局長はそう呟きながら、本を何冊か手に取り、勢いよくめくりはじめた。
「……それは?」
「指示の記録のようだ。具体的に誰にどういう命令が下されたかが書かれているように見える」
「……信じて良いものでしょうか。あるいは根拠になるでしょうか?」
「根拠にする。ここにある行為一つ一つを審査し、立件していく。そういうことになっている」
スラグホーン局長は、淡々とした声で言った。
「そこに名前があるだけで、罪になる人が出るのではないでしょうか?」
「その可能性は否定しない。だが、今後このようなことを起こさないためには不可欠な犠牲だろう」
「大いなる善のために、ですか」
ヴェルダンディは小さく呟いた。
「……大いなる悪のために、彼らは動いてしまった。善のためなら小さな悪は許されるとなれば、善は悪のためになされるようになる。そして最終的に悪へと変化するのだ」
静かに、そして重く、スラグホーン局長は言った。
「それは結果です。我々が自ら悪になる必要はないかと」
「ダームストラングは知っているかね?」
「ダームストラング専門学校。北欧と東欧からの学生を受け入れる、闇の魔術に詳しい場所です」
「そうだ。そして彼らは純血、つまり魔法使いの両親から生まれた子供以外を受け入れない」
「……それは、純血ではないのでは?」
「祖先にマグル生まれや、あるいはマグルがいるかどうかではない。彼らが見ているのは生まれつき魔法の中で育ち、その恐ろしさを知る人だ」
「闇の魔術は大きな力になる。そして防衛を行うためには、その相手を深く知ることが不可欠だ。結果としてグリンデルワルドという卒業生を生み出したが、あの学校はグリンデルワルドを追放し、そしてグリンデルワルドと戦った卒業生を生み出した」
「だから……許される、と?」
「戦争だ。戦争をきれいに終わらせることなどできない。書類と統治に長けるマグルでさえ、無理な法理を押し通さざるを得ないのだ」
「……ならば、きちんとした戦争の反省が必要でしょう」
そう言ってヴェルダンディは彼の隣に立ち、別の本を取り出して開いた。そこにあったのは収容されていた囚人たちの丁寧な様子と、囚人たちに行われていた行為の記録だった。
「反省、か」
「国際魔法使い連盟の実効性の強化。各国の魔法省の連携制度。そして危険思想の取り締まりです」
「イギリス国内の法整備に手を入れるつもり、か」
スラグホーン局長はヴェルダンディの狙いをすぐに見抜いた。この時代、グリンデルワルドが倒された直後であれば、誰もそれに反論することはできないだろう。証拠が精査されている途中で裁判が行われているのであれば、もしかしたら自分もその法廷に立つのではないかという恐怖が生まれるはずだ。
そして、イギリスの少なくない家が、少なくない勢力がグリンデルワルドと関連を持っていた。もちろん、それは不可避のことであった。イギリスにとってドイツは隣国であり、閉鎖的とさえ揶揄されるイギリス魔法省でも国際連携は必須である。強いて言うのであれば最も疑わしいのはスラグホーン局長でさえあったのだが、だからこそ彼はここで前に立ち、裁きを行うという形で自らの、そして家の立場を決めようとしていた。
「はい。イギリス魔法省は、そしてイギリス魔法界は強くならねばなりません。魔法大臣一人、あるいは教授一人がやられた程度では倒れない、より強靭なものにならなければ、次のグリンデルワルドに対峙することはできません。そして省を揺るがし、人々の安寧を傷つけるような闇は、その存在を許さないようにせねばならないのです」
「……君は、自分のやろうとしていることを理解しているのかね?」
「スラグホーン局長と同程度には」
「なるほど。君は碌でもない人物だな」
「局長ほどではありません」
そう言って二人は本から上げた目を合わせ、小さく頷きあった。
ヴェルダンディさんがやろうとしているのは世界魔法戦争のイギリスへの影響の改変ですね。本来ならばホグワーツを卒業してすぐの少女がやる仕事ではないのですが、この様子ならオールド・スラグホーン派閥の最後の仕事の管理人としてある程度の立場を省内で得ることができるでしょう。
スラグホーン局長に対する協力の条件としては、彼の家とネットワークの保証ということが挙げられます。つまり彼について、外交努力をした上でなおグリンデルワルドの台頭を惜しくも阻止できなかったが、彼の人脈と工作によってイギリスは守られた、という物語を作ります。これはスラグホーン局長が英雄になるには足りませんが、戦後の「勝者」としての立場を手に入れるためには十分でしょう。
もちろんこれはもし闇の陣営を率いて魔法省を乗っ取ろうとするような存在が現れた時には機能するでしょう。しかし、同時に色々と罠を仕掛けることもできます。できればダンブルドアが裁判で忙しいうちに、ダンブルドアらしい善の言葉で書いた法案を
これらも全てトム・リドルがイギリス魔法界において力を持つための布石なのです。こう考えるとヴェルダンディさんって普通に闇の魔法使いまっしぐらな気がするな。