ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート   作:魔法省真理部記録局

29 / 32
あくどい政治の話になってきたので初投稿です


Part 29: 1946年

 マグルの第二次世界大戦、欧州戦線の収拾をつけるために行われたニュルンベルク国際軍事裁判は一年近くにわたり、そしてその後の継続裁判が終わったのは1949年。つまり相当揉めたわけです。それでもなお現代においてこの裁判の判決について色々と意見があるあたり、面倒くさいことこの上ないものであったと言えるでしょう。

 

 それに比べれば、魔法界のヌルメンガード裁判は単純でありました。なにせ主要人物を城に閉じ込めるだけで良かったですし、弁護人もなく、主犯は協力的でさえあったのですから。彼であれば裁判の構造的な問題点を見抜くことができたかもしれないのに黙っていたせいで、史実ではダンブルドアが腑抜けた感じになって別の男と戦い始めるという被告からすれば憤死しかねないことに繋がったんですがね。とはいえ諸説ありますが彼は最後に新しい元恋人の男に対して嫌がらせできたので結果オーライなのだろうか。

 


 

 国際魔法使い連盟および国際魔法使い警察による国際魔法法廷における主要犯罪魔術師に対する裁判、通称ヌルメンガード裁判。世界魔法戦争と呼ばれる大規模な衝突を引き起こし、マグルへの魔法の暴露と、マグルの魔法による支配を計画したとして、ゲラート・グリンデルワルドおよび彼の配下であった「信奉者(アコライト)」の起こした残虐行為について、各地域の魔法行政主体による対応が困難な広域問題についての解決を行うものであった。

 

「……以上より、ジェイコブ・コワルスキーによる証言を終了する。また、これより休憩に入る。法廷の再開は午後一時からである」

 

 その言葉を聞いて、コワルスキーは深く息を吐いた。かつての恰幅の良い体躯は痩せ衰え、その目は光を失っているわけではなかったが見てきた苦悩と取り去ることのできない疲れを抱えていた。彼は杖を頼りにふらふらと歩きながら退場し、そして途中から妻に脇から抱えられていた。

 

「どうだったかね、ミス・ルストランジュ」

 

 ヴェルダンディの隣に座っていた白髪交じりの黒人の男が口を開いた。アーノルド・グスマン、MACUSA(アメリカ合衆国魔法議会)から派遣された人物であり、事実上のMACUSA代表者と言ってもよい男だった。

 

「……私は彼のグリンデルワルドとの戦いを伝聞でしか知りません。しかし……彼の言葉は、多くの人の心を動かすでしょう」

 

「そうだな。あの証言はマグルから、すなわち我々とともにあり、しかし交わらない距離を保つべき者たちからされたことに意味がある」

 

「あなたはラパポート法に対して、少し特別な視点を持っているようですね」

 

 ルストランジュは声に批判を混ぜず、同情を込めて言った。MACUSAはその歴史上マグルとの距離を取るべきだ、という政策を進めていた。ジェイコブ・コワルスキーの妻が元MACUSA職員の魔女であるということも、高度な政治的判断のもとで黙認されているに過ぎなかった。

 

「法は守られねばならないが、同じぐらいには変えられねばならない。マグルは我々を知りつつあり、戦いが進みつつある。君達の国の魔法動物学者がやらかしてくれたおかげであるが」

 

 そう言って、彼は傍聴席で先ほど証言していたコワルスキーとともにいる背の高い男を見た。その首には金と黒のマフラーが巻かれていた。

 

「……本件については彼の責任であり、我が国の魔法省は関知するものではありません。また、最終的に彼の行為はグリンデルワルドの逮捕に繋がったことで免責された、と記憶しているのですが」

 

「書類としては、な」

 

 彼はそう言って、息を吐いた。英雄を裁判にかけたとなれば、MACUSAのグリンデルワルドへの態度が難しくなってしまう。セラフィーナ・ピッカリーの地位は長らくの反グリンデルワルドによって知られており、ゆえにMACUSAは「不幸な事故」に目をつぶることを選んだのであった。

 

「書類、書類、書類! 魔法使いとして恥じるべきですね。杖の一振りで解決できるような呪文を作るべきです」

 

「そうなれば我々もする仕事がなくなるがな……そして先日君と話した提案は、ICWの会合を通りそうだ。各国も具体的にどうやってやるかは考えあぐねていたところに、ICW主導でそういう計画があるとなれば乗ることになるだろう」

 

 その言葉に、ヴェルダンディは目を開いた。彼女にとってそれはあまり期待していない保険に過ぎなかった。

 

「……本当でしょうか。私のような若手の思いつきを?」

 

 驚いたようにヴェルダンディは言った。

 

「ああ、確かにそれは思いつきだ。私のような熟練の外交官から見れば、修正すべき点も、調整すべき場所もある。だがね、それはあくまで我々の仕事だ。君をユージーンの後継者とみなす人がいるが、実際のところ私の見立てでは違うね。君は国際的な協力よりも、国内の安定を見ている。ユージーンは外交を目的としていたが、君にとっては道具だ」

 

「……否定は、いたしません」

 

「強い言葉になってしまうがね、君は陰謀にはそこまで向いていない。堂々とやるのがいい。各国による信奉者(アコライト)残党の共同監視制度と、国際的な危険思想の再発を防止する政策。ダンブルドア教授が法廷でその必要性について証言したのは、君の計画のうちかい?」

 

「いいえ。しかし、彼であればその重要性を私とは多少異なった経路であっても、私より深く理解しているでしょう」

 

 そう言いながら、ヴェルダンディは自分がやっている綱渡りを自覚していた。裁判の間、証人の多くは拘束される。ダンブルドアはどういうわけか神秘部と話を通してかなり危険な行為をしたという噂とともにミネルヴァ・マクゴナガルを変容術の臨時教授として配置し、そして冬の間の裁判に参加していた。

 

 その間に、ヴェルダンディはドージ経由でイギリスにおける法整備を進めていた。ダンブルドアの裁判での証言と揃えた各種の法案。それらは第二のグリンデルワルドを、次なる信奉者(アコライト)を阻止するためのもの、として次々と魔人議会(ウィゼンガモット)を通過していた。ダンブルドアが後から気がついたとしても、それを止めることはできない。彼の代理人はホグワーツにしかいなかった。

 

 予見のための目を失った人の身である彼女には、まだそれがどこまで連なりうるかは読み切れていなかった。しかし、一つの目的のために使えることは理解していた。

 


 

 というかこのチャートってここで法律を仕込んだらあとは十年ぐらい放置なんですよね。普通に真面目に仕事をすれば出世できますし。魔法省は人材不足甚だしいので少しでも才覚を見せると政治的問題がなければ取り立てられてしまうということでもあります。アーサー・ウィーズリーをしがない局長に押し込めるためにルシウス・マルフォイは相当裏工作頑張ってましたからね。

 

 まああれについてはウィーズリーが他の仕事したくないというのもありましたが。史実でも最後の奉公でDMLE長官ちょろっとやって引退しているあたり、今のウィーズリー門閥の支配はアーサーの綿密な計画というよりも無計画ゆえに起こったと考えるべきでしょう。少しは考えてほしかったな。

 

 ああ、一応最後の判決ぐらいはちゃんと見ておきましょうか。まあどうせ決まりきった有罪判決ですけどね。よく考えてみると終身刑を下された人の中で一番長生きしたのがグリンデルワルドだっていうのは皮肉なものですよね。やっぱり分霊箱とかいう変なもの作ると馬鹿になって寿命が縮まるのでは?

 


 

「ゲラート・グリンデルワルド」

 

 声が響く。通訳や翻訳のための魔法が駆け巡り、羽ペンが踊り、写真機が彼を撮影する。複数人の闇祓いが子鬼(ゴブリン)の銀製の拘束具をつけられた男に杖を向ける。彼らは無言で、一瞬のうちに多くの魔法を放つことのできる実力者揃いであった。

 

 法廷にはずらりと裁判官が並び、手元の書類を見ていた。証言はあくまで被害の確認のためであり、この構図は裁判の始まる前、ダンブルドアと彼との決闘の前から既に決まっていた。老人にはそのようなことは全てわかっていた。

 

 長々とした朗読にはあくびが出そうであった。マグルの新聞からでも持ってきているのだろう文面も散見された。ただ、老人はその判決を受け入れるつもりであった。それが自分たちがやってきたことについての、誠実な態度だと考えていた。

 

 既に彼以外への判決は終わっていた。情報提供により無罪となった者もいた。自分の年齢を超える期間を牢の中で過ごすことになるだろう者もいた。彼らの多くは、自分の理念に殉じることを選んだ。そして、老人にはそうでないものを許すだけの心の余裕が生まれていた。彼らは裏切ったのではなく、新しい時代を作るのだと老人は考えることにしていた。

 

 そして、老人の番が来た。

 

「ああ」

 

 老人は落ち着いた表情で、そしてかつて抱いていた狂気のような力も全てを見通すような目もなしに、小さく呟いた。

 

「国際魔法使い連盟および国際魔法使い警察による国際魔法法廷は、ここに、被告人ゲラート・グリンデルワルドに対する刑罰を言い渡す。終身刑」

 

 老人はその結末を知っていた。死刑にはできない。もしここで彼が死ねば、信奉者(アコライト)は聖人を得てしまう。そうなるように、老人は信奉者(アコライト)の印象を作り上げていた。マグルを無慈悲に殺す男。高貴な魂を持つ魔法使いであれば拒まない男。そして狂気に飲まれた殺戮者。

 

 そしてそれは老人の内面をも蝕んでいた。かつて愛した男と交わした約束は、彼のために立てた計画は、共に語った夢は、結局果たすことができなかった。それでも、老人は満足だった。

 

 彼は目を上げた。白髪の混じった、きらめく瞳の男と目が合った。

 

 悔いる時間は多くあるだろう、と老人は重い枷を引きずって、法廷を後にした。

 

「本法廷はこれにて解散する」

 

 その言葉とともに、法廷の魔法が解け始めた。積み上げられた文書は重ねられ、机と椅子は折りたたまれるように消えていき、そして最後には殺風景な大広間から立ち去る人々だけが残された。

 

「……終わったね」

 

 一人の女性が、隣の男性に声をかけた。

 

「……ああ」

 

 男性は彼女に返した。

 

「ねえトム、もしあなたが世界を変えるなら、あなたはどちらになる必要があるかわかる? 法廷に立ち、既に決められた罪で裁かれる側になるか。あるいは裁判官として座り、罪を定める側になるか」

 

「後者だ」

 

「となれば闇に足を踏み入れるにしても、それはきちんとした評判を伴わねばならない。意味はわかる?」

 

「僕のことを何だと思っているんだ、そこまで確認しなければ信頼できない子供扱いしているのか?」

 

「そうされても仕方がないぐらいのことはしてきたでしょう」

 

 ヴェルダンディの言葉を聞いて、彼女の脛をトムは靴の踵で蹴飛ばした。

 

「……ともかく、しばらくイギリスに帰るつもりはない。君の顔を見なくて済むとなるとせいせいする」

 

「で、まず目的地は?」

 

「アルバニア」

 

「アルバニア人民共和国。あそこは今実質的にソ連の勢力下に入っていて、反共産運動の抑止のためにまともでない手段が取られるような場所だということはご存知?」

 

「ああ。それでも……約束があるからな。レディには無茶を聞いてもらった分、きちんと対価を用意せねば」

 

「ナギニから何か言われないの?」

 

「……何も、彼女は言ってこなかった」

 

 その言葉を聞いて、ヴェルダンディは深く息を吐いた。

 

「ちゃんと旅に連れていってあげなさい。彼女を縛っていたものはもう解けたのだし、蛇であることを認めてくれるあなたもいる。学校でお世話になった先人からの仕事、と言えば変な勘違いをされることもないでしょう」

 

「……そうだと、いいがな」

 

「やましい自覚があるならなおさら」

 

 ヴェルダンディはそう言って、大広間の外へと押しやるようにトムの背中を叩いた。

 


 

 というわけでトムを見送ってヴェルダンディさんはしがない魔法省の職員として頑張るわけです。夜騎士団の皆さんは時たまトムと連絡取って暇なら一緒に旅行とかするんですが、魔法省の出世ルートに乗るとなるとあまりそういう余裕がないんですよね。それと実際に法を通した人がその運用をするべきだろうとかなって多分途中から国際魔法協力部から魔法法執行部へと異動になるんですよね。

 

 これはグレンジャー大臣と同じような枠になりますね。彼女も魔法生物規制管理部から始まって屋敷妖精(ハウスエルフ)とか狼人間関連の法整備を行い、結果として魔法法執行部で働くようになったという流れがあります。まあ魔法法執行部は省の中の省、王道の出世ルートですからね。立法と司法と行政が一体化した部署が弱いわけないだろ。

 

 というわけで次はちょっと時代を飛ばして五年後ぐらいかな。ヴェルダンディさんが過労死することにならなきゃいいけど。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。