ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
1962年のイギリス魔法界における選挙は、実に大変なものであったと言っていいでしょう。そもそも当時の史料はノビー・リーチが勝つ可能性を多くの名家が信じていなかったことを示しています。もちろん彼らが目をそらしていたのもあるでしょうし、ダンブルドアの後援を加味するべきだというのもありますが、このあたりは色々と面倒です。なぜなら当時の事情を証言しうる人の多くが内戦で死んでますからね。
もちろん、このあたりについてマグル政治と比較することでその様子を探ろうという試みもイギリス外では存在します。例えばパトロネージュを行っていた名家がマグル生まれによって魔法省での代々の職が奪われると感じた「クライアント」からの意見のために行動せざるを得なかったこと、第一次英国魔法内戦における省の強硬な振る舞いを北アイルランド紛争と重ねて論じるものなどですね。とはいえ、これらはあまり支持されているとは言えません。
理由としてはですね、やはり魔法史の教育体制にあると言えるでしょう。イギリス魔法界の書店に並ぶ魔法史の本は基本バグショット教授によるものです。いやまあアドルバート・ワフリングの「魔法史」も名著ではあるんですがあれは技術の歴史であって制度の歴史ではないんですよ。魔法の発展こそが魔法界の統治体制を左右したという側面からすれば読む価値はあるのですが。
そして近代魔法史について、イギリス魔法界はろくな本を出していません。確かに「
マグルの歴史学者、ロビン・ジョージ・コリングウッドの言うところの「
つまり何が言いたいかと言うと、ここから先は史実でいわゆる「純血とマグル生まれ」の戦いの本格化した時代だということです。コメント欄も荒れやすくなるので注意してね、ということです。まったく、こんなゲームにマジになっちゃってどうするのさ。そんな騒ぐ暇があるならシャックルボルト政権に対する再評価でもしろっていうんだ。
──1962年夏、ウィルトシャー、マルフォイ邸にて
眠る赤子を腕に、ヴェルダンディ・レストレンジは食堂の机を囲んで言い争う人々を見ていた。
「だから言っただろう! マグル生まれだからと言って侮るべきではないと」
「名のある家が新大臣にすり寄った。純血の恥だ!」
「この問題についてどう思うかね、アークタルス」
上座の方に座っている腕を組んだ黒髪の男は、議論を聞きながらうっすらと目を開いた。
「諸君、落ち着こう」
高貴なる由緒正しきブラック家の当主、アークタルス・ブラックの声に、食堂は静まり返った。
「魔法省は力を持った。それは認めねばならない。
彼の口が閉じてから、一拍置いてまた食堂は騒ぎに包まれた。ならば大臣に仕事をさせられないようにしてやれ、血の裏切り者にふさわしい報いを、そもそも成り上がり者が大臣になったのが間違いだったのだ、という声。
それを聞いて、ヴェルダンディは腕の中の赤子を見て微笑んでいた。もし彼らの言うところの成り上がり者の代表、レナード・スペンサー゠ムーンがグリンデルワルドの時代に大臣ではなかったら今頃マルフォイ家は
そう考えていると議論はまとまりのつかないまま終わり、一人、また一人と席から去っていった。残ったのはヴェルダンディと屋敷の主であるアブラクサス・マルフォイ、そしてアークタルス・ブラックであった。
「待たせたな、ミス・レストレンジ」
アークタルス・ブラックは口を開いた。子を抱えている婦人を独身の女性のように扱うのは、その裏の事情をよく知っているがゆえにできることだった。
「いいえ」
ヴェルダンディは笑顔で返し、どこからともなく現れた
「……今の魔法界は分断の危機にある」
「政治の話でしょうか。私は今日は育児相談で来たのですが」
「省で優秀な君でも子供の扱いは難しいかね?」
「母親であれば特に、です」
その言葉に机の向かいに座った二人は頷いた。特にブラック家は縁戚によって力を伸ばした一族であり、今の時点で生まれた娘たちをどの家と結ばせるかの議論も進んでいた。彼らにとって子は家のための道具であった。そして、家のための道具であるのは自分自身も同じであった。
「……スラグホーン教授のクラブというのは、今はどうなっている?」
「あちこちに友人がいますよ。そして私は別に取りまとめというわけではありません。教授や友人に伝言ぐらいはできますが」
ヴェルダンディの言葉を聞いたアブラクサスは、隣のアークタルスの目尻が僅かに動いたのを見た。
「では彼らに伝えてくれ。私は君達がどこでどのような仕事をしようが、気にかけることはない、と」
「……よろしいのですか?」
それは彼らに対してブラック家の力を使わない、という意思表明であった。縁戚の力、長らくイギリス魔法界に影響を与えてきたゆえの立場、そしてマーリン勲一等という立場。
「彼らとて
アークタルスはそう言って、ヴェルダンディの反応を待った。同意するにしろ、否定するにしろ構わない。新大臣が頭を垂れることはなくとも、握手を求めにやってくる程度の立場を維持できれば、長きを見据えるブラック家にとっては十分だった。
「つまり責めることはなくとも、力を貸すこともない。もし協力をしてほしいのであれば、相応の対価を、ということですか」
「そうだ。家同士では積み上げた信頼がその代わりをするが、そうでない者たちにとっては取引が重要になるのだろう?」
「ええ」
ヴェルダンディは頷いた。彼女は魔法省において有名人というわけではなかったが、彼女と彼女に繋がりのある
「では、伝言を承りました。それはそれとして夜泣きにつけるいい薬はありませんか?」
「……いい癒者を紹介しようか?」
アークタルスはそう言って立ち上がり、机を回ってヴェルダンディの向かいに立った。そして、眠る娘の頭を優しく撫でた。
というわけで荒れつつある魔法界の純血主義派閥の取りまとめ役をなぜかやらされている可哀想なアークタルスさんです。なかなかかっこいいおじさんですね。
史実だとヴォルデモートの台頭と時を同じくして表舞台からは姿を消し、1991年に亡くなるまでの二十年の間ほぼ消息不明となっています。一説によればダンブルドアに和を請いに行って追い返されたとかいう話もありますが、よくわからないです。
というわけで今はのんびりノビー・リーチ政権と
さて、あとは子育てです。子供の育成は特に何か振らなくてもいいでしょう。地下にある父親の色々を見たりしていれば勝手に魔法を習得していきます。母親が教えられる書類の魔法はホグワーツではあまり強くないんですよね、ダンブルドアの握手一つで決まるような場所なので根回しとか取引とかが必要になってきて、それはダンブルドアの得意なことなので。
──1965年、イギリス魔法省
「ライアル・ルーピンの息子が!?」
「噂に過ぎないということだが、癒者や彼の最近の動きから見れば間違いない。いわゆる闇の生物についての専門家だが……知っているのか?」
「マグルとの婚姻もあって出世した、と陰口を叩かれるような同世代については、それなりにね」
そう言ってヴェルダンディは息を吐いた。このところ、闇の生物絡みの事件が次第に増えている。ホグワーツにいる闇の魔術に対する防衛術の専門家が言うには、おそらくは「純血主義者」たちが何かを企んでいるのだろう、とのことであった。
「……狼人間についての扱いは、まだ省内部でも固まっていない。特に被害者が加害者と同種になるとなると、安易に責めるのも難しい。彼を敵に回せば大変なことになる。何かの間違いで彼が闇の生物の側につけば、アズカバンはその機能を果たせなくなる」
「ひとまず狼人間登録簿の作成者を呼んできたいところだけど……どこにいるかわかる?」
「不明だ」
「わかってる、ニュート・スキャマンダーを捕まえられるような魔法動物学者は世界全体を探してもまずいない」
ヴェルダンディは息を吐き、棚から法律文書を取り出した。
「……ダンブルドアがこれをどう使うかが、読めない」
エイブリーの言葉に、ヴェルダンディは頷いた。
「しばらくは黙っているでしょうね。その上で必要なところで声をかけ、恩を売る。溺れている人間をすぐには助けず、一番恩義を感じるところになるまで追い詰めてから救うような人よ」
「それは穿ち過ぎだろう」
呆れたようにエイブリーは言った。
「そう。なら彼は大臣になるべきなのよ。問題を起こさないようにするのがその席に座る者の務めだから」
「だとしたら今の大臣は失格だな」
「微妙な立場を取るエイブリー議員の心情は察するに余りあるわ」
そう言ってヴェルダンディは小さく笑った。全体で見れば、エイブリー議員は名家の血を継ぐ人物である。しかしながらスラグ・クラブの構成員であり、そして
その上で、彼はダンブルドアと協調できているわけではなかった。ホグワーツという安全な場所から愛だの正義だのを賢人ぶって告げてくる男を好かないものは真っ当な議員の中にも少なくなかったし、なにより今の大臣自体が実力でその椅子を手に入れたという自負がある以上、ダンブルドアを警戒するのは自然なことだった。そういった疑念の中で、エイブリーは若手の調整者としての地位を少しずつ手に入れていた。
「……疑われるわけにはいかないからな」
「トムの計画について私は詳しく知らないことになっているので、そこはよろしく」
その言葉にエイブリーは頷いた。
「ところで、君の娘はどうなっている? 一応狙われる可能性がある以上監視するべきだ、との話もあって」
「マグルの学校での生活に向けて準備中よ」
そう言って、ヴェルダンディは写真立てに映る童女の写真を自慢気にエイブリーへ見せた。エイブリーは少し驚いた顔をして、その後小さく笑った。
というわけで親馬鹿になりつつあるヴェルダンディを見ながらまた次回。