ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
1969年。史実ではノビー・リーチが不可解な病により退任しジェンキンスが就任してしばらく、純血主義の過激化が誰の目にも明らかになっていた頃です。そしてあと一年で第一次イギリス魔法内戦、あるいはいわゆる「第一次魔法戦争」が勃発することになります。この名前本当に良くないよな。魔法族中心主義がすぎるだろ。
この世界ではまだリーチさんは元気です。アブラクサスさんが仕事をしていないのか、遅らせているのかはわかりませんが。とはいえ
そういうわけで仲間作りをしていきましょう。大きなことをする時には友を頼ることは大切ですからね。今回は味方の友人に立ち向かって行くタイプの蛮勇はご遠慮したいところですが。
「こういう場所は不慣れと見えるね、クラウチ君」
招かれた小さな部屋に、バーテミウス・クラウチは驚いていた。豪華絢爛というわけではないが、飾られる小さな品一つ一つが魔法界の歴史を示す名品と言ってよかった。マルフォイ・アポセカリーの上等な葡萄酒が開けられ、彼のために注がれていた。
「バーティと呼んでください」
少しの、しかし可愛げのある恐縮をバーテミウスは見せた。
「……私はね、自分より立場が上の人間をそう呼ぶのには慣れないんだ。なにせ官僚だからね。ただ、もし許してもらえるならバーテミウス君と呼ばせてもらおう」
「立場が上などとは、レストレンジさん。魔法法執行部でのあなたの活躍は聞いています。闇祓いや『
とはいえ、バーテミウスにとってはこの招きは歓迎するべきものであった。彼は多くの言語を理解し、組織の中でどう振る舞うべきかを学んだ一族に生まれていた。マルフォイ家が補佐たる位置を、スラグホーン家が人脈を求めるのであれば、クラウチ家は個の栄達を求めるのであった。
「……本題に入ろうか。事実上の魔法省大臣の椅子は欲しくないかね?」
その言葉に、バーテミウスは纏っていた雰囲気を変えた。
「大臣ではないのかね?」
まだ若い彼であったが、その目には野心と焦りが渦巻いていた。そして彼は実質と肩書であれば、肩書にこそ力が宿ると考える人であった。
「今の魔法省において君の立場は実質的に三番目か四番目だ。もし大臣が倒れ、魔法法執行部長が消えれば、君は大臣に最も近い人物になる。もし大臣が仕事をしない人物であれば、実質的に君が魔法省を支配することになる」
「……出世には間違いない。それで、何が目的だ?」
「目的というほどではないんだが、少し気になることがあってね。純血主義については知っているか?」
「ああ。……興味はないがな」
クラウチ家は名家であった。ブラック家との繋がりもあり、魔法大臣にはなれなかったものの高官を輩出してきた家だ。しかし、それは同時に世情を読む力をも一族に要求していた。悪に走るのではなく、むしろ支持される善の方に。力がなくとも、評価される立場を。それを目指し、しかしなお届かないクラウチ家を継ぐものとして、今の情勢で大臣の、そして民衆の主流である反純血という流れに逆らうことはできなかったのだ。
「彼らが大臣を狙っている可能性がある」
「だろうな」
バーテミウスに驚きはなかった。
「……これ自体がかなり彼らにとっては秘密の情報だと思っていたのだが、君にとってはそうではない、と?」
そう尋ねたヴェルダンディに、バーテミウスは頷いた。
「フランス魔法省との仕事で色々と動物の密輸が増えていると聞いた。金の動きは旧い家絡みだ」
「なるほど、そこまでは私も追えていなかったな……」
そう言って葡萄酒を味わう相手を見ながら、招かれた側であるバーテミウスは考えていた。彼らには読みの甘いところがある。魔法省をどうにかする計画を立ててはいるが、出世頭とはいえ若手の自分に話を持ってくるほどには人が足りていない。ならば優位性はある、とバーテミウスは思考をまとめた。
「いいでしょう。もしそのような事態が起これば、私は治安の維持と魔法界の安寧のために動きます」
「ありがとう。不穏な情勢下で信頼できる有能な人物の協力が得られたことを嬉しく思う」
そう言って差し伸ばされたヴェルダンディの手を、バーテミウスは握り返した。
「それで、他に誰がこの計画に参加しているんだ?」
バーテミウスにとって重要なのは終わった後の立場であった。今であれば、まだ何も約束はしていない。もし大臣が何らかの理由で倒され、それに加えて魔法法執行部長がその席を追われるなら、適当な人物が大臣となる形になる。バーテミウスの知る魔法省内部の人物でそれにふさわしいと思える立場の人はいなかったが、だからこそ若くとも補佐の仕事で大臣に近づくことができる可能性をバーテミウスは考えていた。
「詳しくは言えない。魔法界の敵がどこにいるかはわからない。君への話だって、相応に調べた上での共有だ。これ以上、彼らに浸透されてはならない」
「……大事のようだな」
「ええ。特に大臣の周囲、あるいは省の高官であればあるほど彼らの関係者である可能性は高まる。名家というのはそれだけ長い人と人とのつながりの歴史を持つのだから」
「ならなぜ、私を選んだ?」
バーテミウスは眼の前の人物に、葡萄酒を掲げながら尋ねた。
「あなたは家よりも出世が好きそうだから」
その言葉に満足したバーテミウスは、葡萄酒に口をつけた。
バーテミウス・クラウチ。史実では魔法法執行部部長時代に「クラウチ・ライン」を定め、その息子が闇の魔術に対する防衛術においてかなり良い授業をしたことで知られています。あの授業がどのぐらい演技でどのぐらい本心だったのかは当時の授業を聞いた人たちの間でも意見が分かれていますし、本当のムーディーであっても同じような授業をしただろうというのはかつてのムーディーを知る人物のある程度の共通見解ではありますが。
その上で、今回はクラウチを魔法省の副大臣にする方向を選びます。当時の人事の中で一番真っ当そうなのが彼なんですよね。あと国際関係にも強い。史実だと1994年のクィディッチ・ワールドカップや
このあたりの評価は現代でも難しいところがあります。もしヴォルデモートが真に復活しておらず、あくまで残党が騒いでいるだけであれば「強いイギリス」を見せることがもたらす外交的価値はそれなり以上にあったでしょう。しかし彼の予想とは外れてヴォルデモートは復活し、彼は呪文によって縛られ、そして殺されました。
とはいえ、この世界だとそういうことにはならないはずです。ただもう少し家族サービスをする時間とかは用意したほうがいいんじゃないかな。息子の行動についての調査はあまり行われていませんし、ロングボトム夫妻の襲撃に参加したことは事実ですが、主体的にどこまで動いたかという点においては議論の余地があります。
それに追い詰められて捨てられたと思う人間は自分を否定しなかった主を求めるものなんですよ。そういう意味でヴォルデモートのカリスマが救いになった人は多かったのでしょう。夫と不仲な年下の人妻と子供作るのはどうなのか知らないけどさ。でもその夫のほうも義理の娘にちゃんと魔法教えるあたりあそこらへんの人間関係はなんだかんだできているような気がするんだよな……。
と、そんな感じで準備をしていたら屋敷にお客人です。
議会での面倒な審議が終わったアブラクサス・マルフォイは、友人の働く執務室の扉を叩いた。
「どうぞ」
「失礼するぞ」
部屋の主であるヴェルダンディ・レストレンジにアブラクサスはそう言って、鞄の中から紐で束ねた手紙や書類を取り出し、杖で軽く叩いた。紐がほどけ、書類が浮かび、その関係性に従ってヴェルダンディの前に並べられていった。
「これは……」
ヴェルダンディは息を呑んだ。密輸された品。呪いの数々。そしてそれらが今の魔法大臣、ノビー・リーチに向けられたものであるということ。
「いやあ、ついに彼らが動いてしまった。私は止めようとしたんだが……もしかすると、記憶を弄られたり、彼らが私に
アブラクサス・マルフォイは、誠実な声色で淡々と告げた。
「……よろしい。本格的に動くのは年明けになるでしょう。息子さんにはその間ホグワーツから出ないように言ってください。人質にされるのは避けたいところです」
「わかった。大臣の体調はかなりまずいようだ、と聞いているが」
「まだ仕事はできていますが、回しきれているとは言えません。就任したてのあの切れ味は失われています。激務に次ぐ激務にこの呪いがかかれば、省自体が持っている加護と個人でやっている対策であっても完全には対応しきれないでしょう」
「私に準備できるものはあるかね?」
アブラクサスの言葉に、ヴェルダンディは少し考えた。
「過激派とまでは言い切れない、今回の件に直接手を出していない派閥を宥めて取りまとめること。それと、ダンブルドアへ大臣就任を依頼するように、とアークタルスに対して言伝をお願いします」
「あの男を大臣にする? 正気かね?」
驚いたのはアブラクサスだった。先の戦争の英雄であり、政治的には「純血」の名家と強く対立している。善と愛と法を盾に難しいことを言ってくる、しかし責任を問われる場所から一歩下がっている男は、アブラクサスから見て恐るべき敵であった。
「ええ。この情報を流してしまえば彼らが後戻りすることはできなくなります。もちろん魔法省における有力者と、イギリス魔法界屈指の腕利きはこちらにいるとはいえ、相手が純血と呼ばれるのにはそれなりの理由があります。闇の品々を用いられ、彼らに有利な場所で決闘まがいの戦いで負けた場合、我々は相手の卑怯さを指摘するという最も有利な地位を失うのですよ」
「……彼らは良いものを持っている。正しく怖れるべきだろう」
「もしこれで有能な率い手がいればよかったんですがね、幸いアークタルスという老人一人が狂っただけで、彼を抑えれば基本的にはどうにかなるのでしょう?」
「トムから聞いたかね?」
「ええ」
ヴェルダンディの言葉に、アブラクサスは笑顔を返した。
「そうか。息子が卒業したら省で働くことになるだろう。肩身が狭くならないよう、配慮を頼みたい」
「もちろんですとも。私にもトムにもアブラクサス先輩への恩義があります。アブラクサス先輩も、もし不正義が正された後の時代となれば仕事は増えるでしょうが、その時はご寛恕を」
アブラクサスは良い取引ができたと満足して、変化に備えるために魔法省の一室を出ていった。
なるほど、今回はアブラクサスではなく他のところがノビー・リーチの排除を試み、その過程でアークタルス・ブラックが動いたという証拠が生まれ、結果として追い詰める手札がアブラクサス・マルフォイの手に握られたということですね。
というか
しかしうまくやるものです。このあたりは微妙な人間関係の力学がわかっていないと難しいので貴族系の社交界から切り離されて書類仕事ばっかりやっているヴェルダンディさんの人脈や大学に閉じこもりがちなトムだと難しいんですよね。
というわけでルシウス・マルフォイ君が魔法省に入ってきても優しくしてあげましょう。まあ多少しごくぐらいは教育扱いにしてもらえるだろうけれど……。