ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
さて、前回はクーデターが成功したところまででした。えっ特に権力を乗っ取っているわけではないのでクーデターではない? そう言われると困るんですよね……。そもそも魔法界におけるクーデターの研究はほぼないしマグルの方だってPowellとThyneの定義もあれデータベース作成の基準であるからな……。
とはいえ、一部の人間が半ば公的にとはいえ権力を握り、それ以外の派閥であったり集団たちを追いやったという形にすれば比較的いいでしょう。例えばあれですね、内戦を制した陣営の上の方に近い人物がいて、省の部長級にとある男の息子と娘婿、そして大臣級に義理の娘がいるような政権を考えてみましょう。いやこれただの今のイギリス魔法省だな。やめておこう。
そういう定義であっても、今回のやつはそこまでクーデターではないんですよね。こういうのは落ち着いたあとが問題なんです。ほとんどの人は裏の事情を知りませんし、知っている人も魔法界の上層部に巣食っていた悪を追放するための大きな戦略ということになっているのです。嘘ではないですけれどもね。
ゲーム内の色々を見る限り、この時点で理解できている部外者はダンブルドアぐらいかな。ダンブルドアはあれです、理解の度合いが異常なので。
さて、というわけで今回のあれこれの目標の一つがそれなりに厳重な警備の下でホグワーツに届きますね。陸路で行けよという話もありますが、まあ一番手っ取り早い方法なので。
セストラル四頭立ての馬車が、緩やかにホグワーツ城の近くへと降りた。馬車から出てきた人々は周囲を見渡し、確認をしてから鞄を持って、城へと向かった。
「ボーンズ次官、大丈夫ですか?」
背筋を伸ばしたアメリア・ボーンズの隣を歩きながら、空を飛んで少し酔っていたヴェルダンディ・レストレンジは尋ねた。
「ええ。……しかし、私がここに来る必要はどこまであったのかしら」
今回の問題において、魔法省の人事にはいくつかの穴が空いた。そしてそうなった時に、誰がどこに立つべきかを把握している人間がほとんどいないことが明らかとなった。縁故による採用や補填も考えられたが、そのような態度自体が今回のような腐敗を招いたのだという認識が広がる中ではそれにも限界があった。
結果として、魔法省は全職員についての技能調査と人事再配置を決定した。その統轄者として任命されたのが、アメリア・ボーンズであった。
彼女は厳格で、平等で、多少苛烈ではあったがそれでも誠実であるという認識が得られていた。省内からも、あのアメリアであればいいだろうという意見があった。ただ、その立場がどの程度作られたものなのかを知る人間は省内にも少なかった。
ヴェルダンディは、最初から人事や制度についての影響力を持っていたわけではない。それでも、いくつかの候補の中で有用な人物をどこに配置するべきかをスラグ・クラブを通して助言する程度の立場はあった。それを通して、アメリア・ボーンズはその実力にふさわしい難しい仕事を、しかし多くの支援を受けてこなす部署にいた。
その判断の多くは妥当なものであった。だからこそ、彼女は不相応な場所に立っているわけではなかった。平時であれば年齢や経験の少なさ、あるいは派閥対立から難しくなるようなものであっても、今の環境なら彼女は及第点を取れる状況であった。むしろ、平時において合格できる人間がいないことを考えれば、彼女の能力は高く評価されていた。
「顔を知られる、ということは大切です。特にホグワーツは今回の問題から離れた場所にいる。だからこそ、ホグワーツとの関係性は保たれるべきです」
「あなたが言うと怪しく聞こえるわね」
アメリアに言われ、ヴェルダンディは笑顔を返した。
城に入ると、色とりどりのマントやマフラーが制服から覗く学生たちがざわめきながら魔法省の人々を見ていた。
「あれがあのリドル教授の……」
「見ろよ、バークの店に入った闇祓いだ。新聞どこにあったかな」
「なんで来ているんだ?」
「闇の魔法の品の鑑定よ、教授が防衛術の授業で言っていた」
噂話を聞きながら、ヴェルダンディは息を吐いていた。
「ようこそ、皆様」
三階に来た時、彼らを迎えたのは闇の魔術に対する防衛術教授、トム・リドルであった。
「お久しぶりです、リドル教授」
そう言ってアメリアはトムと握手を交わした。
「そして今日は部屋は六階だ」
トムの言葉に、後ろを歩いていた省の職員たちから溜息がこぼれた。
「あの部屋は気まぐれだな」
「省だって似たようなものだろ」
「それもそうだ」
そういう話をしながら彼らはまた階段を進み、記念品室に向かった。
「見学として何人か学生を入れている。危険はないように心がけるが、彼らは既に覚悟を問われた身だ。軽んずることのないように」
部屋には多くの物品が、よく手入れされた状態で並んでいた。学生の一人、青と銅色の小物からしてレイヴンクロー寮の若者が丁寧な手つきでトロフィーを磨いていた。
「ブラグナム、魔法省から来た専門家たちだ。知りたいことがあれば彼らに尋ねるように」
「はい」
そう答えた学生の隣で、トムは持ってきていた道具箱を広げた。木の枝、何かの結晶、古いルーン文字の書かれたもの、その他魔法道具の専門家でも一目では何のためのものかわからないような代物が並んでいた。
「事前に伝えたように、この品はヘプジバ・スミスの屋敷から回収されました。グリンゴッツからの鑑定は二つとも古く、しかし
それを聞きながら、トムは手袋をつけた。
「開いてくれ」
鞄の中に入っていたものは、小さなロケットと金の盃であった。
「……蛇、Sの文字。サラザール・スリザリンを示唆するものであるが、しかし後世に彼の名を騙るために作られた遺物である可能性もある。盃の方は穴熊の彫金がある。描かれたヘルガ・ハッフルパフの持つものと特徴がよく似ている」
「しかし教授、ああいうものが描かれたのはホグワーツができた後の時代ですよ」
隣で見ていた学生のブラグナムが声をかけた。
「魔法使いは長寿であり、多くのものを書き残す。絵であってもそうだ。彼らが生き生きとするのは、画家が彼らが生きていた時代に思いを馳せ、写し取っているからに他ならない」
そう言いながら、トムはいくつかの道具を使ってそれらの観察を続けていた。
「……ほぼ間違いなく、これらは創設者の遺物だ。近年アルバニアで見つかったレイヴンクローの冠、あるいは組分け帽子が持つグリフィンドールの剣と並ぶ品物だ」
抑え気味に言ったはずのトムの声は震えており、彼の手の中にロケットが握られていた。
よし、というわけでお母さんの遺品が手に入りましたね。史実では洞窟の奥とかにしまっていましたが、こちらのトムくんは記念品室に飾られるのでしょうね。あとさっき画面の隅っこに灰色の
遺物の輸送が終わったらアメリアさんたちは人事の仕事の続きで帰ってしまいますが、ちょっと呼ばれているので面談をすることになりそうですね。というわけで校長室に行きましょう。ほら、入学前の相談会みたいなやつですよきっと。
「久しぶりじゃのう、ヴェルダンディ」
「お久しぶりです、ダンブルドア校長。最近は大変だと伺いましたが」
二人は抱き合い、和やかな笑顔を浮かべた。部屋の中では、リドル教授が足を組んで座っていた。
「おお、そうじゃ。なんと儂に大臣になれ、という話が来たのじゃ」
ダンブルドアは意図的に話を切り出すことにした。今の時点で、ダンブルドアが後手に回っていた。状況は把握できたが、そこへあからさまな陰謀を見出すことは彼にはできなかった。
確かに、根拠の怪しい拘束の話もあった。しかし捜査後、彼らの多くは釈放されている。一部の人物は逃げ出した過程で闇祓いに拘束された。既に
そして、彼らの罪はダンブルドアから見ても明白であり、かばうつもりになれないものであった。そのおぞましさゆえに新聞は一部を書いて騒ぎ立てていたが、詳しい話をダンブルドアは友人のドージから聞いていた。
「……なるのですか?」
「ならねばなるまいのぅ、頼みじゃ。しかし、
「それを唱えた宰相のいた国は分割され、地図から消え、そして今なお混乱した状態にありますが?」
「難しいものじゃ。しかし、儂がその頼まれた相手と約束したことは名前を貸すことだけじゃ。のうヴェルダンディ、君は魔法省に詳しいのじゃろう?」
「それなりに働いていますが、長いかと言われるともっと働いている人も珍しくありませんからね」
「構わんよ。ただ長く生きただけで賢者になれるのであれば、儂は失敗などすることはなかろう。それで、ヴェルダンディ。君は今の状況をどう見る?」
ダンブルドアはそう言って笑いながら、きらめく目でヴェルダンディを見た。揺らぎのない、落ち着いた姿勢。それでもなお、緊張を感じ取ることはできた。なにか大きなことのために、何かを賭けている態度。ダンブルドアはそういう目をしている人物を多く友としていたが、同時に彼らが起こす色々な事も知っていた。なにより、その目はかつて戦った男のものともよく似ていた。
「……アルバス・ダンブルドア。あなたが大臣にならない場合、魔法界は間違いなく混乱に陥ります。現在のところなんとか耐えている、という段階に過ぎません」
「そういう形になったのは、偶然かね?」
「あなたがグリンデルワルドを倒し、魔法界の英雄になったことを偶然と言うなら、そうなのかもしれません」
「……問題は多い。魔法大臣はかつてより強権を持つことを許されていた。法廷での裁きを、闇祓いの動員を、あるいは法の制定や行政的な判断を。なぜだかわかるかね?」
「そうしなければ混乱を招くからでしょう。合議制であった
「よく勉強をしておる。しかしそうじゃとすれば、現代において大臣の存在はどこまで必要なものとなるかね?」
「……省の体制にも変化が必要、ということですか」
「そうじゃ。大臣として権力を使うのであれば、そういう形になるじゃろう」
ヴェルダンディが頷いたのを見て、ダンブルドアは息を吐いた。それであれば、考えていたことがある。かつて愛した男と語り合った魔法界のあるべき姿。その議論は多くの経験の上でなお、彼の頭の中に残っていた。
「……トム、この後話そうとしていた暴れ柳の件についてだが、また明日で良いかね?」
「構いませんよ」
そう言ってトムは足を組み替えた。
「迷惑をかけるのう。大臣になった後のことについて、いくつか相談と確認があるのじゃ。もちろん儀礼的なものであるし、派手な就任式典などは考えておらぬからその点は心配ご無用じゃが……」
そう言って話しだしたダンブルドアを見ながら、ヴェルダンディは呼吸が速くなりすぎないようにするだけでかなり神経を使っていた。
英国でザモイスキの話をするなよ、ややこしくなるだろ。さて、この状況からするとダンブルドアは完全に魔法大臣を儀礼職として運用するつもりのようですね。それがどこまでうまくいくかはともかく、トムの目標の達成には少し不利、といったところでしょうか。
なぜなら尊厳ある側、あるいは象徴というものは実効的な部分と異なって責められることが少ないのです。それがやったことが正しいのは循環論法的に証明されてしまいますし、失敗してもあのダンブルドアでさえ無理だったんだみたいなことになりかねません。
そのあたりを演出するのは本来かなり難しいはずなのですが、ダンブルドアならやってのけるだろうなという信頼があるのが嫌なところ。
まあともかくルートとして安心できる方向に乗せることはできました。あとは娘の入学を待つだけですね。