ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
さて、今の時点での攻略対象の状況を整理しておきましょう。トム・マールヴォロ・リドル、11歳、独身。見かけは真面目な、何事もそつなくこなす優等生ですが、行動の多くは表面的で今ひとつ世界に情熱のない少年。
気品の漂う雰囲気のおかげで他人から信頼を得ることはできていますが、その背後にあるのは反応性愛着障害に基づく自己愛の形成不全と具体的操作期における感情面での自己中心性からの脱却不全であり、それらに基づいた素行症から発達した反社会性パーソナリティ障害に進もうとしているところです。うん、マグルの用語は難しいですね。
つまりきちんと愛されなかった経験のせいで自分を無条件に安心して認められない状態が生まれ、そのせいで他人に頼ることも、他人からの感情を受け取ることもできず、無力感や孤独感を持つようになったわけです。そして、それを埋め合わせるように自分が世界の中心だと思うようになります。そうすると他者を傷つけても困らない経験が積み重なり、結果として罪悪感や社会性の形成が不完全となり、他者への攻撃や脅迫、あるいは欺瞞を行うようになります。
そしてこの原因には彼が育った環境が悪かったというのもありますが、彼自身の賢さも重要な要因です。孤児院という閉じた環境では自分を中心としたヒエラルキーが一度できてしまうと、内側には圧政、外側には欺瞞という形で閉じた世界を作れてしまうとはいえ、そこまでできる人はそうそういません。そして同時にその中心にいる自分が失われること、つまり死を恐れるようになります。
現代の心理学的にはリスクのある環境から引き剥がして統制された環境に置き、自尊心を持てるように働きかけ、自分が行っている行動が周囲にどのような影響を与えているかを理解させる必要があります。でもそれはかなり難しいですし、ましてや1938年にはこれらの心理学の基盤となる理論すら曖昧なんですよね。
あっ解説が長いからって読み飛ばしたでしょ! このゲームこういう心理的側面がちゃんとしているのがいいのに! 養父母から虐待を受けて学校では英雄として育った結果、子供を育てるのに苦労する親の描写とかしっかりしているんですよ!
というわけでトムくんを調整するのは並大抵ではありません。史実でもダンブルドア教授以外からは信頼されていましたからね。つまり他の教授も彼を警戒するように調整して、かつ彼ときちんと向き合う相手を用意する必要があります。前者はトムくんとヴェルダンディさんが仲良くすればダンブルドアのGG値が上昇してホグワーツ全体でトム・リドルを監視するようになるので比較的なんとかなります。後者の彼ときちんと向き合う相手ってほうが難易度高いですね。
ちょっとやそっとの介入では、それが操作的な意図を持っていると見抜かれかねません。なにせ十一歳で自分が世界からどう見られているかを理解できる天才ですからね。重要なのは彼が愚かだからではなく、賢いからこそそういう行動を取っているということです。
では具体的にどうしていくか。事前にナギニお姉様から教わった一言、予見の力で見た彼の弱いところ、そして
──1938年9月1日、ロンドン、キングス・クロス駅
列車から少しだけ尖った空気の3と1/3番線へと降りた少女は、濃い灰色をした大きめの
「お嬢さんは、ホグワーツ生かしら?」
帽子をかぶった制服の女性は、そう言って懐中時計をしまった少女に声をかけた。眼の前の少女の服装は質素なものであったが、みすぼらしいというほどではなかった。今の情勢を考えれば、娘だけでも安全なイギリスで学ばせようとしているのかもしれない、と感じさせるものだった。
「はい。ええと、もしよろしければ、荷物を運んでいただけないでしょうか?」
「もちろん、喜んで」
運搬人の女性が杖を軽く振るうと、少女の荷物がふわりと宙に浮いて揺れながら進んでいった。少女は先を行く荷物に足取りを合わせ、階段を登った。
「一年生?」
「そう。フランスから来ましたの」
「いいわねぇ、フランス。私も何度か汽車で行ったことがあるけれども綺麗なところよね」
「どこに行ったのですか?」
「パリの
そういった世間話を運搬人としていると、少女はまだ汽車の到着していない9と3/4番線に着いていた。
「ありがとうございます、これを」
そう言って彼女は銀貨をポケットから何枚か取り出した。チップとしては妥当な額だったが、運搬人の彼女はぶんぶんと首を横に振った。
「いいのいいの! あのね、今日はホグワーツ生を見かけたら助ける日なの。だからそれは大切に取っておいて、車内でお菓子買うのに使いなさい!」
運搬人の女性はそう告げてウインクをし、少女を置いてまた次の学生を助けるために去っていった。
プラットフォームに残された少女は、荷物に腰掛けて周囲の人を見ていた。両親とともにいて、期待しているのだろう新入生らしい少年。カートを一緒に運んでいる二人の少女は姉妹だろうか。明らかに慣れている上級生の中にはもう制服を着ている人もいる。
人を見ている間、彼女は飽きることがなかった。学校を楽しみにする生徒たちのおかげかもしれないが、このプラットフォームは先程までいた3と1/3番線と違ってまだどこか柔らかい雰囲気が漂っていた。その中で一人、目に留まった少年がいた。
少し背の高い、それでも幼い顔の黒髪の少年。灰色の地味な上着を着て、ぼろぼろの衣装鞄を担いでいる。その外見にもかかわらず、目は挑戦的に、あるいは侮蔑的に周囲を見ていた。
「ああ、彼がそうだったのね」
少女はそう呟いて、懐中時計を確認した。紋章が内側に刻まれた蓋を開けると、針は発車の四分の一時間前を示していた。
ムービーが長い! というわけで皆様のためにさっきのシーン解説をしましょう。3と1/3番線はグレート・ウィザーディング・エクスプレスのためのプラットフォームです。1932年に当時
あそこで工作員が乗った列車は平気な顔をしてロンドンのキングス・クロス駅からベルリンのフリードリヒ
さて、条件は揃えて方向性は決めてあるはずなのであとは祈るだけです。うまく行ってくれよ……。
コンパートメントで窓から流れる景色を見ながら、少年は一人で息を吐いていた。
新しい生活を送れる機会を手に入れたのに、自分の見せたくない部分をすでに知ってしまっている人がいる。自分の力も魔法と名前がつくもので、ここに詰め込まれた大勢の子供たちも自分と同じように、あるいは自分以上に魔法が使えるのだ。
それでも蛇と話せる力だけは稀だ、とあの男も言っていたのを思い出し、トム・リドルは微笑んだ。
「君 ガ
「アア。僕 ガ リドル ダ」
自分が何を話しかけられて、自分が何を返したかに少年が気がつく前に、一人の少女が彼の向かいに座っていた。
「よかったわ。他のコンパートメントは埋まっていましたの」
「……君は?」
トム・リドルはすぐに切り替えて笑顔を浮かべたが、警戒心を途切れさせることはなかった。ただ、どんなに観察しても眼の前の少女が自然体であるようにしか彼には見えなかった。
「ヴェルダンディ。ヴェルダンディ・ルストランジュ。ヴェルって呼んでくれても構わないのですよ?」
そう名乗って握手のために手を差し出す彼女は、どこか奇妙な訛りを持っていた。ルストランジュと発音する時の独特の息は、フランス語か何かなのだろうというのはトムの知識でも少しだけ察しがついた。
美人というわけではない。冷たくて、重くて、着ているコートと同じ鉛色を感じさせる少女だった。ただ、自分には持てなかった何か、自分とは違う環境で育ったから持てたのであろう力のようなものを感じ、トムは少しだけ感情を抑える必要があった。少なくとも、握手ができる気分にはなれなかった。
「……ヴェルダンディ。君はあの教授に、なにか言われたのかい?」
トムにとってはそれ以外に推理で導ける要素はなかった。彼の名前がリドルであり、彼が蛇と話せることを直接知っているのは、あの男だけのはずだった。
「いいえ。少し誤解があるようですが、私はアルバス・ダンブルドア教授からは何も伝えられていませんわ」
嘘を見抜くのは、トムの得意とするところだった。それでも彼女の言葉にも、目にも、疑わしいものは何もなかった。ただ、簡単には読み取れなさそうな何かが彼女の奥底にあることだけはトムにも感じ取ることができた。
「……君は何年生だ?」
「あなたと同じ新入生ですの。ホグワーツについてはあなたよりも少しは知っているかもしれませんけれど」
「へえ、じゃあホグワーツっていうのはどういうところなんだい?」
眼の前の少女が馬鹿ではないことはトムにも理解できた。アルバス・ダンブルドアの名前がすぐ出たところからすると、教授がトムを警戒していることを知っているが、それをダンブルドア教授から直接伝えられたわけではない立場の人間となる。だからまずは、彼は情報を集めるところから始めることにした。
「ホグワーツ魔法魔術学校、千年の歴史を誇るイギリス魔法界最大にして唯一の学び舎ですわね。もちろん世界には他にもフランスのボーバトン魔法学院、北欧のダームストラング専門学校、あるいはアメリカのイルヴァーモーニー魔法魔術学校や日本の
「なら、イギリス中から人が、魔法使いが来るのか」
そう言いながら、トムはこの列車に詰まった人数を考えていた。この中で特別になることなどできるのだろうか、という想いが少しだけ彼の頭をよぎる。
「正確にはアイルランドからも来ますわ。あるいは条件さえ揃えば、私のように海外から来ることも」
「君の出身はどこだい? フランスかい?」
「生まれと育ちはフランスですが、魔女の母が亡くなった後は各地を転々としておりましたわ」
「……そうか」
そう言って、トムは少し顔を伏せた。
「気にしなくて構いませんよ。人は死に抗えぬものです。死の秘宝を作り上げた三兄弟でさえ、最後には皆、死とともにあったのですから」
そう語る少女に、トムは不信感を持っていた。それは負け犬の考え方だ。届かないものがあるから、手に入らないと最初から諦めて、それがなくてもいいと平気な顔をしているだけだ。ただ、死の秘宝という言葉には少し興味を惹かれた。
「三兄弟?」
「ええ。魔法使いの家に生まれた子は、そういった物語を親から聞かされますの。オリヴァー・ツイストやルイス・キャロルを読んだことはありますか?」
「……昔に、少しだけだ」
そう言って、トムは車窓の外を流れる景色を見る。孤児院にあったのはぼろぼろの子供だましの本だけだった。ならどうせ、その秘宝とやらも嘘なのだろうとトムは考える。
「ただ、死の秘宝は完全な童話ではありませんわ。そのうちの一つ、最強の杖とされるニワトコの杖は確実に存在していますもの。残り二つ、完璧で朽ちることなき透明
「蘇りの、石……」
そう言いながらトムがヴェルダンディの方を向くと、彼女は懐中時計を見ているところだった。それは決して新しいわけではなく、銀の外装は小さな傷でくすんでいたが、よく手入れされているように見えたし、彼女がそれを見る目には愛着が感じられた。
「……魔法使いっていうのはみんな、そういうものを持っているのか?」
「いいえ。これはおじさまからの特別な贈り物ですの」
欲しいな、とトムは考えていた。このよくわからない少女を、ホグワーツで最初に狙う相手として彼は見定めていた。
不思議キャラに絡まれて疑心暗鬼だけどホグワーツの初めての相手として選ぼうとしているのかわいいですねトムくん。しかし初手
今後必要な前提を整えている作業中ではありますが、うまく本命のイベントを起こせるかどうかは完全に未知数です。ある程度はキャラクターが自分から狙いに行ってくれますが。
忘れてほしくないのですが、こんなものを毎年六年生の優秀者にプレゼントしてくれるホラス・スラグホーン教授は、仕事の片手間に脱狼薬を作れるセブルス・スネイプと並ぶ程度には恐ろしく天才ですからね。
このままなら次回も列車かな。それでは。