ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート   作:魔法省真理部記録局

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Kindleでハリー・ポッターの合冊版を買ったので初投稿です


Part 8

 魔法界最強キャラランキングを作ると、トム・リドルはたいてい最上位tierに来ます。単純な魔法の力だけで言えばグリンデルワルドを上回るんじゃないでしょうか。よくあるトム・リドル最速討伐チャートの一つにダンブルドア中立を維持して信奉者(アコライト)の総力で卒業直後のトム・リドルを追い詰めてグリンデルワルドとの決闘をさせるなんてルートがありますが、あれでさえ勝率あまり高くないんですよね。

 

 なので今回はトム・リドルに自分が負けたと思わせるルートを取りません。少なくとも直接的には。そもそもあいつ認識ずらしてくるからな。ズルだろ。「古くさい議論だ」とか「おそらく、君は間違ったところを見てきたのじゃろう」とかは禁止カードっスよね?

 

 ではどうするか。まあ愛ですね。愛された少女ならではのムーヴを見せつけてやります。愛を知らない少年を愛を知る少女が受け止める。うーん王道の攻略ですね。

 


 

「呼び立ててすまんな、ミス・ルストランジュ」

 

 棚に並ぶ乾燥した薬草や、大釜の中の魔法薬が放つ独特の匂いが漂う魔法薬学の教授室で、部屋の主であるスラグホーンは来客の少女を椅子に座らせた。

 

「構いませんよ。それで、どのようなご要件でしょうか」

 

「冬の休暇の間に、予定はあるかね? もし急いで帰らなければならないようなら……」

 

冬至祭(ユール)の頃はホグワーツに残るつもりですわ、切符代が高すぎますの」

 

「ほう! それはいい」

 

 スラグホーン教授は明らかに上機嫌になった。

 

「もしよければだが、私の開くパーティーがあるんだ。来てくれないかね?」

 

「『クラブ』の噂は聞きますわ。私でよろしければ喜んで……と言いたいところですが、問題が一つ」

 

「ふむ、何かね?」

 

 ちょっと恥ずかしそうに、あるいは気まずそうに言う教え子に、教授は柔らかい声色で尋ねる。

 

「相方がいませんの。それと、ホグズミードも行けない年頃の少年少女が夜遅くまで踊る、というのはちょっといけないことではありません?」

 

「そんなことか。私も昔は悪いことをよくしてきたものさ」

 

 そう言って教授はにやりと俗っぽい笑顔を浮かべた。それに、ヴェルダンディが誘うにふさわしい相方がいることについてはスラグホーン教授はよく知っていた。噂を集めるのは、良い立場を維持するためには不可欠だったのだ。

 

「……それと、もし誘うのであれば私よりも本命がいるのでしょう?」

 

「はは、手厳しいね。アルバスの言う通りのようだ」

 

 スラグホーンは組んでいた足を戻し、椅子にしっかりと腰掛けた。ヴェルダンディもそれに合わせて、小さな身体を少し大きな椅子の中で整えた。

 

「トム・リドルを、私のクラブに招きたい」

 

「だから私を経由するというのですの? 直接彼を誘えばいいではないですか」

 

「……アルバスのやつが、どうやら才能に嫉妬しているのか、トムのことをあまり好いていないらしくてね。しかし君の付き添いとして来てしまったならば、私も面目というものが立つ」

 

 二人は友人であったが、それでもグリフィンドールとスリザリンであった。両者はよく似ていたし、だからこそ嫌い合っている場所もあった。

 

「彼であれば、冬に帰ることはないでしょう。彼は自分の育った場所を好いてはいませんわ」

 

「そうか。いや、ホグワーツの冬は実はいいものでね。それをわかる学生は少ないのだが」

 

「一年生たちには、親に会うほうが大事なのでしょう」

 

 その言葉を聞いて、スラグホーンは笑った。部屋の隅にあった砂時計の砂は、蜂蜜のようにゆっくりと落ちていた。

 

 ヴェルダンディは面白い少女だ、と教授は考える。確かに策謀もある程度できるだろうし、頭の回転もいい。だが、その程度だ。そしておそらくは自分と同じ、過度に求めるものがない人だとスラグホーンは判断した。

 

 スラグホーン家はマルフォイ家と似て、表よりも裏を好む伝統を持つ。ただ、マルフォイ家とは違って自分が力を得ることをそこまで考えてはいるわけではない。あえて言えば、彼らは俗であった。

 

 美食を愉しみ、音楽に浸り、国境を越えて交わり、人間関係と愛に生きる。それ以上に楽しいことが、生きるに値するものがあろうか。それがスラグホーン家の、そしてホラス・スラグホーン教授の信条であった。国際魔法法務局局長をしている父に比べればホラスは内向的であったが、それでも良い友人の価値を知っていた。

 

 実のところ、スラグホーン家が純血かどうかはホラス・スラグホーンもわからなかった。曾祖父母の代まではマグル生まれはいないが、それより先は曖昧であった。それを踏まえ、スラグホーン教授は表向きは「純血名鑑」に対して言及はしないが、そういった関係の相手には血の繋がりをほのめかし、そうでない才能には実力を認めることで、彼は多くの知り合いを作ってきた。

 

 そうしてホグワーツを卒業した「スラグ・クラブ」のメンバーは今や、イギリス魔法界の若手層のあらゆる場所に浸透している。あと二十年すれば、その層は実権を握るようになるだろう。その時にちょっとした便宜を図ってもらえば、教授にとっては十分なのだ。

 

「……正直に言ってしまおう。私は、私の知り合いを君に紹介したい」

 

 スラグホーンにとって、目の前の少女はなかなか見込みがあった。没落した令嬢に人脈を提供すれば、見返りは期待できる。そうでなくとも、彼女のある種の優秀さはあのダンブルドアが保証しているのだ。

 

 もちろんわかりやすい学業成績も重要であるが、スラグホーン教授は多様な才能を見出すことを心がけていた。ただ、同僚のダンブルドア教授ほどには人の能力を見出す力がないとも思っていた。だから、彼は彼の知っている方法、すなわち人間関係の力で彼女を取り込むことにした。

 

「ルストランジュの娘にそれをする意味を、理解していまして?」

 

 もちろん、彼女が裏で何かと繋がっている可能性は考えていた。ただ、たかが十一歳の少女ができることの限界も理解しているつもりであった。それならば、今のうちにこちらの陣営に引き込んでしまえばいい。思想に生き、過激に戦うよりも、平和にパイナップルを食べればよいではないか。スラグホーン教授は、その選択が決して容易ではないことをあまり深くは自覚していなかった。

 

「なに、真の才能の前では家名など誰も気にしないものだよ」

 

 その言葉は、彼が純血であるからこそ言えるものだった。

 


 

 スラグホーン教授は強い人です。基本的には善寄りですし、政治系のプレイするならスラグ・クラブ加入はほぼ必須です。なにより何か高い技能があれば勧誘チャンスがあるのでイベント誘発自体は案外なんとかなる。彼はヴェルダンディが予見者であることを知りませんが、チャートによっては早めにその事実を寮監に相談して色々と便宜を図ってもらうこともなんてこともできます。

 

 ハリー・ポッターという少年の物語では魔法薬学の教授に過ぎませんが、1990年代のイギリス魔法界を見るとだいたいスラグ・クラブが裏にいます。もちろん彼と強い関わりを持たなくたって出世したりはできるのですが、それは純血名家の力で殴るか、発明とか商売で手に入れた金の力で対応するか、あるいはマイナールートを歩くかになります。

 

 あ、パーティーはカットです。正直言ってここで接触できるような人は別にこのイベントでなくても繋がれますし、むしろ招待されていないような人のほうがチャートでは助けになります。それはそれとしてご飯はおいしいのでしっかり食べましょう。

 

 しかし一年生でトム・リドルが呼ばれるのはちょっと珍しいイベントではありますね。史実だともう少し様子を見てから呼ぶのですが。まあいいや。彼はこういうイベントで人気者になれますが、仮面を被ってやり過ごすタイプですからちょっとストレスが溜まっているはずです。

 

 ではここで好感度調整イベントをやっていきましょう。まだ銀時計について執着があること、他のコレクションを持っていないことが前提になるので早いうちにやりたかったんですがクリスマスらしいイベントと一緒にやると効果が上がるのでどのタイミングでやるか悩んでいたんですよね。今やろう。

 


 

「お疲れ様、トム」

 

 二人きりのスリザリンの談話室で、ヴェルダンディは冷たいかぼちゃジュースの瓶を一つ、トムに手渡した。

 

「……君さえいなければ、楽しいパーティーだったよ」

 

 トムはそう言いながら、少しだけ疲れを顔に出していた。その表情を見せるのはヴェルダンディの前だけだということを、トムはまだ自覚していなかった。

 

「まあ、ここはスラグホーン教授に免じてというものですわ」

 

「……彼らに俺を見張らせているのは、君か?」

 

 そう言って、トムはヴェルダンディの目を覗き込む。

 

「いいえ」

 

「……そうか」

 

 そう呟いたトムはかぼちゃジュースを飲みながら、ヴェルダンディについて考えていた。嘘はついていない。だが、何かを隠しているようだった。ここしばらくは特にそうだ。パーティーに緊張しているのかとも考えていたが、今は特に動きが多い。

 

「薄っぺらい人たちだ、と思ったでしょう?」

 

「……なんのことだ」

 

「あそこにパーティーを楽しんでいる人は少なかった。誰もが栄誉とか地位とか、そういうものを求めて集まっていた。スラグホーン教授は素直に楽しんでいたけど……」

 

 トムはそれに答える前に、かぼちゃジュースをもう一口飲んだ。

 

「……そんなもんだろ」

 

「そう。なら、私のこれも、そんなものかもしれないわね」

 

 そう言って、ヴェルダンディは小さな厚紙製の箱をポケットから取り出し、トムの方に差し出した。

 

「……なんだよ、これは」

 

「数日早いけれど、クリスマスおめでとう、トム」

 

 そう言ってヴェルダンディは微笑んだ。

 

「なんだって聞いているんだよ」

 

「開けてみればいいじゃないの。それではおやすみなさい、できたら大切にしてね」

 

 それだけ言って、ヴェルダンディは寝室の方に去っていった。

 

 トムはかぼちゃジュースの瓶と箱を机の上に置き、杖を取り出した。心の中で呪文を唱えるだけで、リボンがひとりでに解け、箱の蓋が開く。銀色のきらめきがそこにはあった。

 

 ひったくるように、トムはその銀無垢の時計を掴み取る。いつか手に入れようと思っていた、ヴェルダンディが日頃から使っていたものだ。箱の中には、筆記体で何かが書かれた紙も入っていた。

 

 ──冬の試験で私に全教科勝ったトムに、ちょっとしたご褒美を

 

 冷たい床に、ものを叩きつける音が響いた。

 

 砕けたガラスと、飛び散る歯車の響きは、数秒して高い天井の空間へと吸われていった。息が落ち着いてから、トムは周囲を見渡した。廊下の先、陰になっているところで、小さく微笑む少女が立っていることに、彼は気がつくことができなかった。

 


 

 うーん破壊ルート、まだ素直に受け取れないか。それはそれでGG値調節できるのでいいんですが。

 

 この行動を説明できる心理学のモデルは色々ありますが、ここではアルバート・エリスの論理療法の枠組みを使ってみましょう。提唱が1955年なのでこの時代にはまだないんですけれどもね。

 

 まず起きたことを分析してみましょう。出来事と結果の間に、論理療法の枠組みでは信念体系というものを導入します。信念体系によって人間は出来事を解釈し、異なる信念体系は異なる結果を生みます。例えば今回であれば時計をプレゼントとして素直に受け取って喜んだ可能性もあるのに、トムはそれを壊しました。

 

 この信念体系として今のトムが持っているのは「自分が主導権を握っていなければならない」とか「他人に頼ることは負けである」とかみたいなものですね。強迫的なまでの、かくあるべきという考え方は彼が生まれ育った環境で培われてきたもので、これを壊したり変えたりするのはかなり大変です。現代の認知行動療法ですら普通にうまく行かないことありますからね。

 

 その状態で贈り物をされると自分の主導権が奪われた、自分以外に支配されるべきではない自分そのものが侵害されたと解釈します。その状態で起こる感情は不安、怒り、羞恥。それを処理するために、自分の主導権を取り戻すために、彼は時計を壊しました。

 

 世界を影響を与える側か与えられる側かに分類して、影響を与えられる側が弱いとして、そして受け取って一瞬とはいえ心が動かされた自分を否定するためにそれを壊した。かわいいね……。

 

 ちなみに彼は社会性をちゃんと持っているので、自分が時計を床に叩きつけた理由に無自覚なままパーツを集めて修復呪文(レパロ)をかけるのですが、たぶんうまく行きませんね。というかうまく行かないでくれ。今後のチャートに絡んでくるんだ。

 

 ホグワーツのカリキュラムでは修復呪文(レパロ)呪文学(Charms)変容術(Transfiguration)の両方で扱います。しかし修復ってかなり難しいんですよ。単純に形を似せたり、あるいはもともと実体的形相と附帯的形相がよく照応しているものであればうまく行くのですが、複雑な装置や道具となると単純にそうとはいきません。杖を魔法で修理できないみたいな話ですね。スペロテープでぐるぐる巻きにするな。

 

 この種の時計をちゃんと修理するとなると、マグルの道具に精通し、この種の機構を把握していて、かつ変容術の専門家であることが望ましいと言えます。そんなやついたっけな。

 

 というわけで次回はトムくんに「いま何時?」と煽るところからですね。壊して自分で直したからといってヴェルダンディさんからの愛から逃れられると思うなよ。

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