(完結)恋愛系短編集「懇々千記」   作:埴輪庭

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「貴女を愛する事は、私にはできない」──近衛騎士団長ガリューは、セレスティアにそういった。そして彼女は人を辞めた。


第25話「血と鉄と愛」

 ◆

 

 鋼鉄だけがこの地上における唯一の真実である──近衛騎士団長ガリューは常々そう思っていた。

 

 彼にとって、世界は二つの相反する物質によって構成されている。すなわち、愛すべき硬度と冷徹な機能美を持つ「無機物」と、腐敗し、弛緩し、裏切りを孕んだ卑俗な「有機物」である。

 

 彼の魂は魔銀鋼で造られた愛剣の妖しい波紋の中にのみ安住の地を見出し、その切っ先が放つ絶対的な冷気だけが彼の下腹部に宿る熱狂を鎮め、あるいは煽ることができた。

 

 人々は彼を英雄と呼ぶ。

 

 魔竜の喉元を一撃で切り裂き、囚われの姫セレスティアを救い出した武勲は王国の歴史書に金文字で刻まれるであろう。だが姫を抱き上げた時、彼が感じたのは勝利の喜びではなく腕の中に存在する「柔らかさ」への生理的な嫌悪であった。

 

 人間とはなんと不格好で、温く、湿っぽい袋であることか。そこには研ぎ澄まされた機能美も永遠不変の輝きもない。

 

 だが王は二人の結婚を命じた。セレスティアがガリューの勇壮さに惚れ抜いた結果そうなったのだ。王にせよ、ガリューならば愛する娘を託せると思ったのであろう。しかし当のガリューにとって、それは死刑宣告にも等しい。

 

 とはいえ拒絶権などないし、するつもりもなかった。なぜなら彼は確かに剣狂いではあるが、国への忠誠心も非常に高かったからである。でなければどうして魔竜などに挑めようか。彼は絶望しながらも責務を果たすべく、次の年の最初の日──すなわち、新年に初夜の儀に臨んだ。

 

 ちなみに王国ではこれは「姫はじめ」と呼ばれている。

 

 その起源は建国神話にまで遡る。初代国王アルヴァンが冬至の闘いで魔神を打ち倒した翌朝──すなわち新しき年の幕開けに、月の巫女エルシアと契りを交わしたことに由来する。二つの血統が交わり、王国の礎が築かれたその日は「始まりの中の始まり」として神聖視されるようになった。

 

 以来、王族の初夜は必ず新年の第一日に行われることが不文律となっている。これは単なる慣習ではなく、国家の繁栄と継承を天に誓う神事でもある。新年という「再生」の象徴と、婚姻という「創造」の象徴を重ね合わせることで、王家の血脈に神々の祝福が宿ると信じられているのだ。なお、一般の民がこれに倣い、新年に夫婦の契りを新たにする風習も広まっており、庶民の間でも「姫はじめ」の語は縁起の良いものとして親しまれている。

 

 ◆

 

 初夜の寝室は薔薇の香油と獣脂の蝋燭の匂いで満ちていた。天蓋付きの寝台に座るセレスティアは純白の薄絹を纏い、恥じらいに頬を染めている。世の男ならば理性を焼き切る光景だろうが、ガリューの股間は北方の凍土の如く沈黙を守っていた。

 

 彼は義務感に駆られ、姫の肩に触れた。温かい。弾力がある。そのすべてが彼にとっては不快なノイズだった。求めているのは指先が切れそうな鋭利な感触であり、舌を乗せた時に広がる鉄の味なのだ。

 

 結句、行為は惨憺たる失敗に終わった。ガリューの肉体はセレスティアの裸体を前にしても、ピクリとも反応しなかったのである。一時間ほどの無意味な格闘の末、ガリューは寝台に仰向けになり、天井の染みを睨みつけた。隣では女としての尊厳を粉々に砕かれたセレスティアが押し殺したような嗚咽を漏らしている。

 

「……私に魅力がないのですか」

 

 濡れた声がシーツの隙間から漏れ出した。ガリューは眉間を揉む。嘘をつくことは騎士道に反するがしかし、真実を告げることは人間としての尊厳に関わる問題だ。だがこのまま彼女を悲しませ続けることもまた、騎士の沽券に関わる。彼は意を決し、重い口を開いた。

 

「姫、貴女は美しい。それは万人が認めるところ。だが私の愛は人には向かない。貴女を愛する事は、私にはできない」

 

 ガリューは立ち上がり、迷わず佩剣を手に取った。鞘を払うと、月光を浴びた刃が青白く光った。彼はその刀身に頬を擦り寄せ、うっとりとした表情で冷たい鋼に口づけを落とす。

 

 セレスティアがシーツから顔を出し、呆気にとられた表情で夫を見つめていた。ガリューは構わず、切っ先を自身の喉元に突きつけ、その鋭さを肌で感じながら恍惚とした声で語り始めた。

 

「私はこの研ぎ澄まされた機能美しか愛せないのです。見てください、この無駄のない曲線。触れれば血を流す危険な純粋さ。私は夜毎、この刃の腹に己を擦り付け、切っ先に舌を這わせることでしか男としての昂ぶりを得られない。人は──いや、姫は私にとって余りにも()()()()()

 

 ガリューの告白はあまりに異常で、そしてあまりに切実だった。そう、彼は変態である。それも極めつきの。後の世であるならば、医者は彼を極めて重度の対物性愛であると診断したであろう。要するに病気なのだ。

 

 セレスティアの瞳から涙が引いていく。代わりに宿ったのは軽蔑でも恐怖でもなく、底知れぬ理解への渇望であった。

 

 彼女は涙を拭い、寝台の上に正座した。その瞳がガリューの手にある剣を見据える。

 

「つまり、貴方様は武器しか愛せないと?」

 

「左様。殺傷能力を持たぬものに私は愛を向けられない。嗤うならば嗤ってくれて構いませぬ。罵るならば罵ってくれて構いませぬ」

 

「……嗤いませんし、罵りもしません。しかし、理解しました」

 

 セレスティアは短く答え、枕を抱きしめた。それ以上の問い詰めも罵倒もない。そしてその晩、二人は背を向け合って眠った。

 

 ガリューは剣を抱いて安眠し、セレスティアは闇の中で瞳を見開き、何かを燃やすように思考を巡らせていた。彼女の中で倫理や常識といったものが音を立てて崩れ去り、代わりに凄絶な覚悟が構築されていく。

 

 覚悟が囁く──愛されないのなら、愛される形になればいい、と。

 

 人間であることを辞め、物質へと、凶器へと堕ちること──それこそが彼女が見出した唯一の救済であった。

 

 ◆

 

 翌朝から、王女セレスティアの姿が城の深奥から消えた。表向きは病気療養とされていたが彼女が向かったのは城の地下深くに存在する古びた拷問部屋であった。

 

 彼女は悟ったのだ。

 

 ガリューが愛さないのは「人間」としての自分であり、「女」としての自分であると。

 

 ならばそれを捨てればよい。

 

 彼が愛するのは武器。ならば、私が武器になればよい──単純にして明快、しかし狂気を含んだ論理の飛躍である。恋は盲目というが彼女の場合は盲目どころか、己の肉体という現実すらも見失っていた。いや、むしろ現実をねじ伏せるための闘争を開始したのである。

 

 ◆

 

 最初の一年は皮膚と感覚の破壊に費やされた。セレスティアは美しいドレスを脱ぎ捨て、粗末な麻の稽古着を身に纏った。

 

 彼女はまず、樽に満たした砂利の中にその白魚のような指を突き入れることから始めた。突き指をし、爪が割れ、血が滲む。痛みに涙しそうになるたびに、あの晩のガリューの剣を見る熱っぽい視線を思い出した。

 

 ──あれを私に向けさせる。

 

 その執念だけが彼女を突き動かす燃料だった。砂利は次第に砂鉄へと変わり、最後には焼き熱した鉄の粒となった。皮膚は破れ、再生し、また破れる。そのサイクルを繰り返すうち、指先は角質化し、感覚は麻痺し、やがて岩をも穿つ硬度を獲得していった。

 

「姫様、これ以上は……お体に障ります」

 

 老いた侍従が涙ながらに止めるのを、セレスティアは一顧だにせず跳ね除けた。

 

「剣が『熱いから打たないでくれ』などと嘆きますか?」

 

 食事は筋肉の修復を促す高タンパクな獣の肉と、骨を強化するための小魚のみとなった。甘菓子など論外。茶の代わりに、痛覚を鈍らせるための薬草酒を煽る。

 

 鏡を見ることはやめた。そこに映るのが「可憐な姫」であるうちはガリューの愛を得られないからだ。彼女が目指すのは生物としての美しさではなく、機能としての美しさ。

 

 すなわち、殺傷能力である。

 

 ◆

 

 二年目、鍛錬は骨格と筋肉の改造へと移行した。彼女は城壁の石組みに拳を打ち付け、脛を蹴り込む。骨には微細なヒビが入り、それが修復される過程でより太く、強固になるという理論を彼女は身をもって実践した。夜な夜な聞こえる鈍い打撃音に、城の兵士たちは「地下に魔物が棲みついた」と噂し合ったがその正体が王女であるとは誰も知る由もなかった。

 

 柔軟性もまた、武器としての必須条件である。

 

 彼女は関節を極限まで引き伸ばし、ありえない角度で四肢を曲げる訓練を積んだ。敵の攻撃を紙一重でかわし、予測不能な軌道で打撃を繰り出すためだ。その動きはもはや人間というより、精巧に作られたからくり人形か、あるいは軟体動物のようであった。

 

 ある日、彼女は実験的に森で捕らえた野生の熊と素手で対峙した。熊が咆哮を上げ、巨大な前足を振り下ろす。セレスティアは瞬きもせず、その懐へと滑り込んだ。

 

 彼女の貫手(ヌキテ)が的確に熊の喉仏を捉える。硬質化した指先は毛皮と脂肪を容易く貫通し、気管を粉砕した。巨獣がどうと倒れる。返り血を浴びたセレスティアは自身の手を見つめ、満足げに口角を歪めた。しかしまだ足りない。もっと鋭く、もっと重く、もっと致命的に。ガリューの愛剣の輝きに勝るには生半可な凶器では足りないのだ。

 

 ◆

 

 三年目は精神と肉体の完全なる融合、すなわち生きた兵器としての完成を目指した。彼女は呼吸法を会得し、心拍数を自在に操る術を身につけた。殺気を消し、気配を断つ。あるいは逆に、膨大な殺気を放ち、相手を威圧して動きを封じる。

 

 そしてついに──彼女の全身はもはやどこをとっても凶器となっていた。髪の毛一本一本にまで気を張り詰めさせ、束ねた髪を鞭のように振るえば、石像の首をも刎ね飛ばせる。爪は研ぎ澄まされたナイフの如く、歯は鋼鉄を噛み砕くプレスの如く。乳房や臀部といったかつて女性性の象徴であった部位でさえ、筋肉の鎧によって弾丸をも弾き返す防具となり、同時に相手を窒息させるための制圧兵器へと昇華されていた。

 

 だが最も力を入れたのは女性器の改造である。彼女は恥も外聞も捨て、その内部の筋肉を自在に操る術を磨いた。獲物を咥え込んだら最後、絶対に離さない万力の如き締め付け。あるいは侵入者を圧殺するプレス機のような威力。それはもはや生殖のための器官ではなく、敵を無力化するための死の罠であった。

 

 彼女は自らの女性器を「鞘」と呼んだ。愛する剣を収めるための、最強にして最悪の鞘である。

 

 ◆

 

 そして四年目──王国の暦が新たな年を告げる日。世間では「姫初め」と呼ばれる、男女が睦み合う習わしのある日だ。ガリューは自室で、相変わらず剣の手入れに余念がなかった。妻であるセレスティアとはこの三年間、ほとんど顔を合わせていない。彼女が何をしているのか噂には聞いていたが、余り興味を持てなかった。

 

 そうこうしていると扉が静かに開く。気配はない。熟練の騎士であるガリューでさえ視覚で捉えるまで侵入者に気づかなかったほどだ。

 

 そこに立っていたのはかつての深窓の令嬢ではなかった。身に纏うのは裸身に一枚の薄衣のみ。しかしその下にある肉体はかつての柔らかな白磁ではない。鋼のように引き締まり、無数の小さな傷跡が歴戦の証のように刻まれた、褐色に焼けた肌。

 

 大腿四肢の筋肉は動きに合わせて蛇のように蠢き、静止すれば岩のように凝固する。だが不思議と醜くはなかった。極限まで機能を追求した獣が持つ、畏怖すべき美しさがそこにはあった。

 

「……セレスティア姫、か?」

 

 ガリューが呆然と呟く。セレスティアは無言で頷き、ゆっくりと彼に歩み寄った。その一歩一歩が重量感を持って迫る。彼女はガリューの目の前で立ち止まり、纏っていた薄衣を脱ぎ捨てた。

 

 露わになった全裸の肉体──それはエロスというよりは暴力の具現化であった。

 

「ガリュー様。……三年、お待たせいたしました」

 

 声は低く、ハスキーに変質していた。彼女は右手を掲げる。その指先は黒く変色し、まるで猛禽類の爪のようだ。

 

 彼女は近くにあった真鍮の燭台を掴むと、指先の力だけで、まるで粘土細工のようにそれをねじ切り、粉々に握り潰して見せた。金属が悲鳴を上げ、粉末となって床に散らばる。

 

「私の指は五本の槍。いかなる鎧も貫きます」

 

 次いで彼女は自身の豊満でありながら鋼鉄の如き弾力を帯びた胸を突き出した。

 

「この胸は打撃を吸収し、相手の肋骨を粉砕するハンマー。そしてこの太腿は」

 

 彼女は近くの樫の椅子を蹴り上げた。一瞬の閃き。椅子は空中で四散し、木片となって飛び散った。

 

「巨木の幹さえへし折る破城槌です」

 

 ガリューの瞳がかつてないほど大きく見開かれた。彼が見ているのはセレスティアという人間ではない。そこにあるのは意思を持った凶器。歩く殺戮機械。彼の網膜に焼き付いたのは彼女の肉体が放つ、冷たく、鋭利で、圧倒的な殺意のオーラだ。

 

 心臓が早鐘を打つ。剣を前にした時にしか感じなかった、あの痺れるような高揚感が背骨を駆け上がってくる。

 

「美しい……」

 

 ガリューの口から本音が漏れた。セレスティアは微笑む。それは慈愛の笑みではなく、獲物を追い詰めた捕食者の笑みだった。寝台へとガリューを押し倒と、愛と殺意に濡れた目で口を開いた。

 

「美しいだけはありません。今この瞬間、私はこの世界の誰よりも強い──そう確信しております。こんな私を、愛してくださいますか」

 

 恐るべきは王家の血よ。彼女にはあったのだ──そう、頂点殺戮者としての才能が。

 

 その瞬間、ガリューは股間に熱い血が奔流となって集まるのを感じた。目の前にぶら下がる乳房は柔らかい脂肪の塊ではない。触れれば骨を砕かれるかもしれない、致死的な質量兵器だ。

 

 肌に触れてみるとかつての滑らかさは消え、紙やすりのようにざらつき、鋼のように硬い。だがそれがいい。まるで鮫肌の鞘を撫でているかのような、あるいは未研磨の鉄塊に触れているかのような、スリルと危険な快楽にガリューの全身の筋肉細胞の一つ一つが戦気を帯びる。

 

「ああ、愛しているとも。君は君は最高の……『名剣』だ」

 

 ガリューの手が震えながらセレスティアの腹筋に触れる。それは洗濯板のように割れ、内臓を守る堅牢な装甲となっていた。ガリューにはわかる。その腹筋を突き破るには、剣の一本や二本を使い潰すくらいでは済まない事を。

 

 すう、と息を吸い込めば汗と鉄と、獣の匂い──これだ。これこそが。

 

「さあ、ガリュー様。私の『鞘』に、貴方の剣を収めてくださいませ」

 

 恐れゆえか、情欲ゆえか──あるいはその双方か。ガリューの背に震えが一つ走った。

 

 ◆

 

 寝室で何があったかは、語るよりも見るほうが早いだろう。

 

 事果てた後、二人は瓦礫のようになった寝室の中央で大の字になって横たわっていた。部屋は完全に破壊されている。二人とも血まみれで、ガリューの腹には常人なら三秒で死にそうな深い傷が刻まれていた。無論セレスティアも無傷ではない。

 

 だが幸せそうにしていた。ガリューは精根尽き果て、しかし満ち足りた顔で、セレスティアの鋼鉄の太腿を枕にしている。セレスティアは天井を見上げながら、自身の腕についたガリューの爪痕──ようやくついた、わずかな傷を愛おしそうに眺めていた。

 

「セレスティア──」

 

 ガリューが掠れた声で呼ぶ。

 

「はい、ガリュー様」

 

「今年は大きな戦争があるかもしれない。隣国がきな臭い動きを見せている。君も……来るか?」

 

 その言葉の重みをセレスティアは正確に理解した。

 

 ガリューにとって戦場とは聖域である。

 

 彼が唯一己の魂を解放できる場所。愛する刃と共に在り、その切れ味を存分に振るえる血と鉄の楽園。そこに()()を連れて行くなど、これまでの彼には考えられないことだった。

 

 足手まといになる。邪魔になる。何より、自分と剣だけの神聖な時間を汚される──そう感じていたからだ。

 

 だが今、彼はセレスティアを誘った。

 

 それはつまり、彼女を()()として認めたということ。己の愛剣と同等の、あるいはそれ以上の存在として。共に血を浴び、共に敵を屠り、共に死線を駆ける──その資格があると。

 

 ガリューという男にとって、これ以上の愛情表現は存在しない。

 

 花を贈ることも、甘い言葉を囁くことも、彼には不可能だ。だが「共に戦場へ」という一言には、常人が一生かけて注ぐ愛情のすべてが凝縮されていた。

 

 セレスティアの唇がゆっくりと弧を描く。

 

「……喜んで」

 

 その返答に、ガリューは目を細めた。

 

 彼もまた、笑っていた。剣を前にした時とも、戦場で敵を斬った時とも違う──穏やかで、しかし確かな熱を帯びた笑み。

 

 それは紛れもなく、伴侶に向ける顔だった。

 

「殺そう、セレスティア。百人を殺そう。いや、千人を、万人を殺そう」

 

「ええ、ガリュー様──いえ、あなた。たくさん、たくさん、殺しましょう」

 

 ・

 ・

 ・

 

 こうして王国には新たな伝説が生まれた。武器しか愛せぬ騎士と自らを剣と化した王女。二人の愛は多くの敵の屍の上に、永く、そして鋭く刻まれることとなるだろう。それは歪んだ愛の形かもしれない。だが本人たちが幸福であるならば、誰がそれを否定できようか。

 

 人間であることを辞めた二人の前にはただ鮮血に彩られた、輝ける未来だけが広がっているのである。もはやそこには常識的な幸福も、安穏とした家庭もない。あるのは鋭利な刃物の上を歩くような、スリルに満ちた破滅的な日常だけだ。

 

 女から堕ち、人間から堕ち、ただの機能へと成り果てたセレスティア。しかし彼女は掴んだのだ、自らの幸福を。

 

 ガリューもまた同様である。

 

 これは世界で最も歪で最も純粋な愛の形だ。

 

(了)

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