インフィニット・ストラトス 〜愛のシナリオ〜   作:ぬっく~

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第九話 認められないもの

――試合前日。

 

格納庫。

 

「ここだ」

 

案内された先で、足を止める。

 

目の前にあるのは――一機のIS。

 

白を基調とした機体。

 

装甲は無駄がなく、滑らかに流れるようなラインを描いている。

 

派手さはない。

 

だが――

 

「……綺麗だな」

 

思わず、そう呟いていた。

 

それは兵器というより――

 

“完成された何か”に近い印象だった。

 

「これが……俺の専用機」

 

近づく。

 

その時だった。

 

――ピッ

 

小さな電子音。

 

「……え?」

 

まだ触れていない。

 

それなのに。

 

機体が、反応した。

 

「おい、まだ接触してないぞ!」

 

整備員の声が飛ぶ。

 

だが、止まらない。

 

白い装甲が、微かに発光する。

 

(……来てる?)

 

そんな感覚。

 

呼ばれている。

 

拒絶ではない。

 

むしろ――

 

「……待ってた、みたいだな」

 

自分でも驚くくらい自然に、手を伸ばしていた。

 

触れる。

 

その瞬間――

 

――起動。

 

光が、静かに広がる。

 

「は!? 同期プロセスが――」

「早すぎる! 一瞬で完了している!?」

 

ざわめき。

 

だが一夏は。

 

「……分かる」

 

確信していた。

 

操作が“理解”ではなく、“直感”で繋がる。

 

思考が、そのまま機体に伝わる。

 

まるで――

 

最初から一つだったかのように。

 

「機体名称、表示されました!」

 

整備員の声。

 

モニターに浮かび上がる文字。

 

――『白式』

 

「白式……」

 

口に出す。

 

しっくり来る。

 

違和感がない。

 

「……お前、名前まで決まってんのかよ」

 

小さく苦笑する。

 

だが、その時。

 

「気に入った?」

 

背後から声。

 

振り返る。

 

そこにいたのは、一花だった。

 

プラチナの髪が、静かに揺れる。

 

「……お前か」

 

ため息混じりに言う。

 

「これ、お前だろ」

 

「うん」

 

あっさりと頷く。

 

否定しない。

 

「“白式”も?」

 

「それは元から」

 

軽く言う。

 

だが――

 

どこまでが本当か分からない。

 

「……どういう機体なんだよ」

 

「君に合わせてあるだけ」

 

簡単に答える。

 

それ以上は言わない。

 

「……雑すぎる説明だな」

 

「使えば分かるよ」

 

微笑む。

 

すべてを知っている側の顔。

 

「……」

 

一夏は黙る。

 

だが、不安は薄れていた。

 

「大丈夫」

 

一花が言う。

 

「ちゃんと応えてくれるから」

 

その言葉には、不思議な説得力があった。

 

「……それと」

 

一花が、小さな箱を差し出す。

 

「なんだこれ」

 

「プレゼント」

 

軽い口調。

 

だが、その目は逸らさない。

 

受け取る。

 

開ける。

 

「……指輪?」

 

シンプルな銀色のリング。

 

だが、どこか精密な造り。

 

ただの装飾ではないと分かる。

 

「つけてみて」

 

「……理由は?」

 

「あとで分かるかもね」

 

曖昧な返答。

 

だが――

 

拒否する理由もない。

 

指輪を手に取り。

 

右手の薬指に嵌める。

 

――カチリ。

 

その瞬間。

 

「……っ?」

 

一瞬だけ、感覚が変わる。

 

白式との“繋がり”が、わずかに深くなる。

 

(……今のは)

 

気のせいではない。

 

だが――

 

すぐに元に戻る。

 

「……なんだこれ」

 

「お守りみたいなものだよ」

 

一花が言う。

 

「……ほんとか?」

 

「さあ?」

 

微笑むだけ。

 

否定はしない。

 

「……」

 

外す気にはならなかった。

 

理由は分からない。

 

ただ――

 

(必要な気がする)

 

それだけは、確信できた。

 

「明日、頑張ってね」

 

「……ああ」

 

短く返す。

 

「勝つ」

 

言い切る。

 

迷いはない。

 

「うん」

 

一花が頷く。

 

「それでいい」

 

その笑顔は――

 

やはり、すべてを知っているようだ。

 

アリーナ上空。

 

セシリア・オルコットは、自身のISの中で静かに目を細めていた。

 

視線の先。

 

対峙するのは――織斑一夏。

 

(……あれが、例外)

 

深く息を吐く。

 

冷静でいなければならない。

 

感情に流されるなど、あってはならない。

 

「――準備はよろしいですか?」

 

通信を開く。

 

「……ああ」

 

返ってきた声は、落ち着いていた。

 

拍子抜けするほどに。

 

(強がり……ではなさそうですわね)

 

わずかに眉をひそめる。

 

通常、初搭乗でここまで平静ではいられない。

 

ましてや――

 

(専用機など)

 

本来、あり得ない。

 

「では――」

 

思考を切り替える。

 

「始めましょう」

 

合図と同時に、機体を前へ出す。

 

無駄のない動き。

 

洗練された制御。

 

それが、代表候補生の戦い方。

 

(まずは様子見)

 

出力を抑えた牽制射撃。

 

直線的な一撃。

 

回避は難しくない。

 

――普通なら。

 

「……っ」

 

一瞬。

 

ほんの一瞬だけ、思考が止まった。

 

(避けた……?)

 

違う。

 

ただ避けただけではない。

 

(“最適な軌道”で……?)

 

無駄がない。

 

初搭乗の動きではない。

 

「まぐれ……?」

 

あり得る。

 

だが。

 

(二度、三度と続けば――)

 

再び射撃。

 

角度を変える。

 

タイミングをずらす。

 

だが。

 

「……嘘でしょう」

 

すべて、躱される。

 

それも――

 

最小限の動きで。

 

(読まれている……?)

 

否。

 

それも違う。

 

(……違いますわね)

 

理解する。

 

これは。

 

(“分かっている”動き)

 

操縦しているのではない。

 

まるで――

 

(機体と、同調している……?)

 

あり得ない。

 

そんなことは。

 

だが、現に起きている。

 

「……っ!」

 

わずかに、焦りが走る。

 

その隙を突くように。

 

一夏の機体が動いた。

 

「なっ――!」

 

加速。

 

一瞬で間合いを詰められる。

 

(速い……!)

 

反応が遅れる。

 

辛うじて防御を展開。

 

衝撃。

 

「くっ……!」

 

押し込まれる。

 

出力差ではない。

 

技術でもない。

 

(……何ですの、これは)

 

理解できない。

 

だからこそ――

 

恐ろしい。

 

「……」

 

一度距離を取る。

 

呼吸を整える。

 

冷静に。

 

分析する。

 

(落ち着きなさい、セシリア)

 

自分に言い聞かせる。

 

(相手は素人)

(経験値はこちらが上)

 

そのはずだ。

 

だが。

 

「……認めませんわ」

 

小さく呟く。

 

視線を上げる。

 

そこには、変わらず立つ一夏の姿。

 

隙のない構え。

 

だがそれは――

 

訓練されたものではない。

 

(……自然すぎる)

 

そう。

 

“作られていない”。

 

「……なるほど」

 

理解する。

 

そして、同時に――

 

否定する。

 

「だからこそ、ですわね」

 

通信を開く。

 

「織斑一夏」

 

静かに呼ぶ。

 

「なんだ?」

 

返事は短い。

 

「あなたは――」

 

言葉を選ぶ。

 

だが。

 

やめた。

 

「不愉快ですわ」

 

はっきりと言い切る。

 

「……は?」

 

戸惑いの声。

 

だが、構わない。

 

「努力も、積み重ねもなく」

「当然のようにそこに立っている」

 

声が、わずかに強くなる。

 

「その在り方が――気に入らない」

 

これは、ただの怒りではない。

 

「私は、それを認めません」

 

宣言だった。

 

代表候補生として。

 

一人のパイロットとして。

 

「だから――」

 

出力を上げる。

 

空気が震える。

 

「ここで叩き落とします」

 

本気。

 

完全な戦闘態勢。

 

「……」

 

一夏は、何も言わない。

 

ただ。

 

「来いよ」

 

短く言った。

 

その一言に――

 

余裕はない。

 

だが。

 

覚悟はあった。

 

「……結構」

 

セシリアは微笑む。

 

「その覚悟ごと、打ち砕きますわ」

 

次の瞬間。

 

二機は、再び激突した。

 

その戦いは――

 

もはや“試験”ではなかった。

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