インフィニット・ストラトス 〜愛のシナリオ〜   作:ぬっく~

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第十一話 刻まれた色

――管理室を出て、しばらく。

 

人気のない通路。

 

足音だけが、静かに響く。

 

「……」

 

流星一花は、無言で歩き続ける。

 

その表情は、いつも通り。

 

柔らかく、穏やかで。

 

何も問題などないかのように。

 

だが――

 

誰の視線も届かない場所に入った、その瞬間。

 

「――っ……」

 

足が止まる。

 

肩が、わずかに震えた。

 

「……は、ぁ……っ」

 

呼吸が乱れる。

 

抑えていたものが、一気に溢れ出す。

 

壁に手をつく。

 

右手だけで身体を支える。

 

左腕は、ない。

 

「……あぁ……」

 

漏れる声。

 

その顔は――

 

先ほどまでの穏やかなものとは、まるで別人だった。

 

頬は紅潮し。

 

瞳は熱を帯び。

 

抑えきれない感情に揺れている。

 

「……やっぱり」

 

震える声。

 

だが、その奥にあるのは――歓喜。

 

「ちゃんと……刻めてる」

 

 

【挿絵表示】

 

 

思い出す。

 

あの瞬間。

 

一夏の右手。

 

その薬指に、嵌めた指輪。

 

「……ふふ」

 

小さく、笑みが漏れる。

 

「愛情、信頼、願い――」

 

ゆっくりと言葉にする。

 

「そういう意味、なんだけど」

 

一度、言葉を切る。

 

そして――

 

「それだけじゃないよね」

 

静かに続けた。

 

視線が、自分の右手へと落ちる。

 

そこには何もない。

 

だが。

 

確かに“刻まれている”。

 

「マーキングは成功」

 

淡々とした声。

 

だが、その奥には熱がある。

 

「使えば使うほど……」

 

唇が、わずかに歪む。

 

「君は、私の色に染まっていく」

 

断言。

 

迷いはない。

 

「思考も、感覚も」

 

ゆっくりと。

 

確かめるように。

 

「少しずつでいい」

 

言い聞かせるように、静かに。

 

「一気にでは……壊れてしまう」

 

その言葉には、確かな重みがあった。

 

「壊れてしまえば――」

 

一瞬、表情が翳る。

 

ほんの僅かに。

 

だが確かに。

 

「あの時と同じになる」

 

過去の記憶。

 

失う恐怖。

 

取り返しのつかない瞬間。

 

「……全部、台無しになる」

 

小さく呟く。

 

その声には、はっきりとした“恐れ”があった。

 

「だから……」

 

ゆっくりと顔を上げる。

 

瞳は、もう揺れていない。

 

「丁寧にやらないとね」

 

優しく言う。

 

まるで壊れ物を扱うように。

 

だが――

 

その実態は。

 

確実な侵食。

 

「……大丈夫」

 

再び、柔らかい声に戻る。

 

「あの時みたいなことには、絶対にさせない」

 

強い意志。

 

守るために。

 

「だから――」

 

そのまま、続ける。

 

迷いなく。

 

「私だけのものになってくれればいい」

 

当然のように。

 

矛盾もなく。

 

「……一夏」

 

名前を呼ぶ。

 

愛おしむように。

 

「その指輪はね」

 

ふと、空を見上げる。

 

誰もいない空間へ。

 

「君が私を信じる証で――」

 

わずかに、声が低くなる。

 

「私が君を離さない証」

 

静かに、言い切る。

 

「大丈夫」

 

最後に、優しく微笑む。

 

「全部、私が導いてあげる」

 

その言葉は。

 

救いか。

 

それとも。

 

「……ちゃんと、壊さないように」

 

――管理か。

 

境界は、もう存在しなかった。

 

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