――翌日。
教室。
ざわつく空気の中、山田真耶が教壇に立つ。
「え、えーっと……では、クラス代表を発表します」
一瞬の静寂。
全員が注目する。
「本クラスの代表は――織斑一夏くんです」
「……は?」
間の抜けた声が、教室に響いた。
それは当の本人、一夏のものだった。
同時に、ざわめきが広がる。
「え? 勝ったのセシリアじゃ……」
「どういうこと?」
その中で。
「異議はありませんわ」
凛とした声。
セシリアが、静かに立ち上がる。
「今回の件、私が辞退しましたの」
「えっ!?」
山田が驚く。
だがセシリアは続ける。
「少々、大人げなかったと反省しております」
「彼の可能性に賭けてみるのも、悪くないと思いましたので」
視線が一夏に向く。
「……いや、ちょっと待て」
一夏が立ち上がる。
「俺、やるなんて一言も――」
「決定事項だ」
織斑千冬の声。
逃げ道はない。
「……分かりました」
渋々、受け入れる。
その様子を――
一花が、静かに見ていた。
そして、微笑む。
――
放課後。
食堂は貸し切り。
クラス代表決定パーティーで賑わっていた。
「なんでこうなるんだよ……」
ぐったりする一夏。
「主役ですもの」
セシリアが涼しく言う。
そこへ。
「新聞部の黛薫子ですの」
インタビューが始まる。
だが。
「……あら?」
薫子の視線が止まる。
「その指輪……」
一夏の右手、薬指。
「……」
一瞬の静寂。
「右手の薬指って……恋人の意味じゃ……」
――爆発。
「誰!?」
「彼女!?」
大混乱。
その中で。
箒とセシリアの視線が同時に動く。
そして――
一花へ。
「……」
一花は気づく。
そして、微笑む。
勝ち誇るように。
「……貴様か」
箒が詰め寄る。
「その指輪、お前が――」
「そうだよ」
あっさり認める。
ざわめきがさらに広がる。
「なんでそんなものを……!」
一花は、ため息をつくように。
「一夏には、責任を取ってもらわないといけないから」
静かに言った。
「……責任?」
空気が凍る。
一花は、自分の左肩に触れる。
空の袖。
「私を、傷物にした責任」
その言葉に――
全員が息を呑む。
「……」
一夏は、言葉を失う。
何も言えない。
否定も、肯定も。
ただ立ち尽くす。
その時。
「……そんな顔しないで」
一花が、ふっと表情を緩めた。
ほんの少しだけ。
優しい声で。
「あの日の事を後悔しているかも、知れないけど……」
一夏を見る。
まっすぐに。
「私は、私の選択でこの左腕を差し出した」
はっきりと言い切る。
「そこに後悔はないわ」
その言葉は――本心だった。
誰のせいでもない。
自分で決めたこと。
だからこそ。
一瞬だけ、空気が緩む。
だが――
次の瞬間。
「……だけど」
声の温度が、変わる。
わずかに低く。
静かに。
「責任を取らないのは、流石にないわよ?」
微笑む。
優しく。
逃げ場を塞ぐように。
「……っ」
一夏の喉が詰まる。
言葉が出ない。
周囲も、何も言えない。
その構図は、あまりにも完成していた。
「だから」
一花が、最後に言う。
「ちゃんと傍にいてもらうよ」
穏やかな声。
だが――
拒否は許されない。
その意味が、はっきりと伝わる。
食堂の空気は、完全に変わっていた。
祝福の場は。
いつの間にか――
逃げ場のない舞台へと変わっていた。