――翌日。
「転入生?」
一夏が顔を上げる。
「そうなんです! 二組に転入してくるらしくて……中国からの方だとか!」
山田真耶が嬉しそうに説明する。
「へぇ……中国から」
何気なく呟いた、その時。
ふと――
一つの顔が、脳裏に浮かんだ。
「……まさか」
中学二年の頃。
突然、転校していった少女。
気が強くて。
よく怒って。
でも――
(……鈴)
名前が、自然と浮かぶ。
「いや、そんなわけ……」
あり得ない、と頭では分かっている。
だが。
胸の奥が、妙にざわつく。
その時だった。
――ガラッ!!
教室の扉が、勢いよく開かれる。
「――織斑一夏はどこ!?」
響く声。
はっきりとした口調。
教室の空気が、一瞬で変わる。
全員の視線が、入口へ向く。
そこに立っていたのは――
赤を基調とした制服の少女。
ツインテール。
鋭い目つき。
一目見て、分かった。
「……鈴?」
思わず、名前がこぼれる。
その瞬間。
少女の表情が、ぱっと変わった。
「――!」
そして。
「久しぶりね、一夏!!」
満面の笑み。
迷いなく、こちらへ歩いてくる。
「中国代表候補生――凰鈴音よ!」
胸を張って名乗る。
教室が、一気にざわつく。
「え、代表候補生!?」
「またかよ……!」
だが、一夏にはそんな声は入ってこない。
「……マジで鈴かよ」
目の前の現実が、まだ信じられない。
「何よ、その反応!」
鈴――凰鈴音が頬を膨らませる。
「久しぶりの再会なんだから、もっと感動しなさいよね!」
「いや……急すぎてな……」
苦笑する。
だが。
(ほんとに、鈴だ)
懐かしさが、じわじわと込み上げてくる。
その空気を――
「相変わらず、小さいわね。鈴ちゃんは」
軽く壊す声。
「へ?」
鈴の後ろから、ふわりと手が伸びる。
そのまま――
頭を撫でる。
「なっ――!?」
「ちょ、ちょっと何すんのよ!」
鈴が慌てて振り払おうとする。
だが。
びくともしない。
「やっぱり軽いね」
くすくすと笑う声。
その主は――
流星一花。
「……っ!」
鈴の表情が引き締まる。
「相変わらずの馬鹿力は健在なのよ……一花!!」
名前を呼ぶ。
睨みつける。
だが、一花は気にした様子もなく。
「久しぶりだね」
穏やかに微笑む。
「元気そうでよかった」
「よく言うわよ……!」
鈴は、ようやく手を振りほどく。
一歩下がる。
警戒するように。
「……アンタもいるんだ」
視線が細くなる。
「当然でしょ?」
一花は肩をすくめる。
「だって――」
ちらりと、一夏を見る。
そして。
「彼の傍にいるのは、私だから」
静かに言った。
その一言で。
空気が変わる。
「……は?」
鈴の眉がぴくりと動く。
「何それ」
明らかに、引っかかる言い方。
「どういう意味よ」
「そのままの意味だよ」
一花は、あっさりと返す。
余裕を崩さない。
むしろ――
楽しんでいるようにすら見える。
「……っ」
鈴が歯を食いしばる。
視線が、一夏へと向く。
そして。
「……あ」
気づく。
右手。
薬指。
嵌められた指輪。
「……は?」
空気が、もう一度変わる。
「ちょっと待ちなさいよ、それ」
鈴が一歩踏み出す。
「何、その指輪」
問い詰めるような声。
一夏が固まる。
(……またか)
嫌な予感しかしない。
そして。
その中心にいるのは――
「……」
一花。
変わらず、微笑んでいる。
その表情は。
完全に“仕掛ける側”のものだった。
――新たな火種が、落とされた。