――教室。
張り詰めた空気。
今にも何かが起きそうな、その瞬間。
「……何の騒ぎだ」
低い声が、空気を切り裂いた。
「ひゃ、ひゃいっ!?」
山田真耶が慌てて続く。
入口には――織斑千冬。
その一言で、空気が凍る。
「授業の時間だ。無駄口を叩く余裕があるなら、外周でも走ってこい」
冷たい視線。
誰も逆らえない。
「……解散」
短く告げる。
それだけで、全員が席へと戻っていった。
騒ぎは、強制的に終わらされる。
だが――
(……また増えたな)
箒が、内心で舌打ちする。
表情には出さない。
だが、確実に焦りがあった。
(中国代表候補生……)
セシリアもまた、静かに考えていた。
新たな存在。
それも、幼馴染。
(……面白くありませんわね)
微笑みは崩さない。
だが、その内側は穏やかではない。
――
昼休み。
食堂。
「で? どういうことよ」
トレーを置くなり、鈴が切り出した。
「久しぶり~って空気じゃないんだけど?」
真正面から。
遠慮なし。
「……まあ、そうなるよな」
一夏が頭をかく。
その隣には鈴。
そして。
「……話は聞かせてもらうぞ」
箒。
「ええ、詳しく」
セシリア。
しっかりと、ついてきていた。
「なんでアンタたちもいるのよ……」
鈴が呆れる。
「当然だろう」
箒が腕を組む。
「織斑のことだ、無関係ではない」
「クラスメイトとしても、把握しておくべきですわ」
セシリアも続く。
「はぁ……」
鈴は一つため息をつく。
そして。
「……で?」
視線を一夏へ。
「アンタとあの女、どういう関係なのよ」
核心。
逃げられない質問。
「……幼馴染だよ」
一夏が答える。
「小さい頃から一緒で……ずっと隣にいた」
「ふーん……」
鈴が目を細める。
「それ、どの時期?」
「え?」
「私、知らないんだけど」
ぴたり、と空気が止まる。
「あー……そうか」
一夏が思い出す。
「箒が転校した後だな」
「……っ」
箒の眉がわずかに動く。
「小1から小4までは箒で……」
「その後、小5から中2までは鈴」
「……なるほどね」
鈴が頷く。
「入れ替わりってわけ」
「……そういうことになるな」
一夏も頷く。
「……ふん」
箒が鼻を鳴らす。
「筋は通っているな」
「ええ、少なくとも話としては」
セシリアも一応納得する。
だが――
問題はそこではない。
「で」
鈴が、改めて口を開く。
「本題」
視線が、一夏の右手へ向く。
薬指。
指輪。
「それ」
短く言う。
「……」
一夏が言葉に詰まる。
説明しづらい。
というより――
説明できない。
「……まあ、いいわ」
鈴が先に視線を逸らした。
あっさりと。
「え?」
拍子抜けする一夏。
「いいのか?」
「いいわよ」
鈴は肩をすくめる。
「大体、予想ついてるし」
「……は?」
「昔からそうだったじゃない」
箒とセシリアが顔を上げる。
「……どういう意味だ?」
箒が問う。
鈴は少しだけ、遠くを見るような目をして。
「一花よ」
名前を出す。
「アイツの独占欲」
「……っ」
箒の表情が、わずかに硬くなる。
「中学の頃から、ずっとあんな感じだったわ」
鈴が続ける。
「一夏の隣は“自分の場所”って顔してさ」
思い出すように、苦笑する。
「正直、今さらって感じ」
「……」
セシリアが沈黙する。
「つまり」
箒が低く言う。
「貴様は、それを知った上で来たのか」
「そ」
鈴が頷く。
「だから、諦めてた部分もあった」
あっさりと。
だが。
次の瞬間。
「でも」
視線が鋭くなる。
「今は別」
はっきりと言い切る。
「ここは学園」
「条件は全員一緒でしょ?」
その言葉に。
空気が変わる。
「……なるほど」
セシリアが小さく笑う。
「面白くなってきましたわね」
「ふん……」
箒も、口元をわずかに歪める。
三人の視線が――
同時に揃う。
向かう先は、一つ。
「……」
流星一花。
この場にはいない。
だが――
確実に、中心にいる存在。
「……勘弁してくれよ」
一夏が頭を抱える。
だが。
そんな願いは――
誰も聞いていなかった。
静かに。
確実に。
戦いは、次の段階へと進んでいた。