インフィニット・ストラトス 〜愛のシナリオ〜   作:ぬっく~

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第十六話 変わらない距離

――放課後。

 

アリーナ。

 

「そこですわ!」

 

鋭い声と共に、光が走る。

 

「っ!」

 

一夏が機体をひねり、直撃を避ける。

 

だが――

 

「甘いですわ」

 

追撃。

 

正確無比な射撃が、白式の装甲をかすめる。

 

「ぐっ……!」

 

距離を取る。

 

呼吸が乱れる。

 

(やっぱり、強い……!)

 

セシリア・オルコット。

 

代表候補生としての経験。

 

その差は、まだ埋まらない。

 

「集中なさい、織斑一夏」

 

冷静な声。

 

だが、どこか楽しんでいるようでもあった。

 

「……ああ!」

 

踏み込む。

 

だが。

 

「時間ですわ」

 

ぴたり、と動きが止まる。

 

同時に、管制の声が響く。

 

「訓練時間終了。ISを解除してください」

 

「……はぁ」

 

一夏が息を吐く。

 

「今日はここまでですわね」

 

セシリアが静かに言う。

 

「悪かったな、付き合わせて」

 

「構いませんわ」

 

少しだけ、柔らかく。

 

「あなたの成長を見るのは、悪くない時間ですもの」

 

「……そりゃどうも」

 

苦笑する。

 

――

 

控室。

 

「はい」

 

ペットボトルが差し出される。

 

「お疲れ様」

 

「……鈴か」

 

一夏が受け取る。

 

スポーツドリンク。

 

冷たさが、手に心地いい。

 

「サンキュ」

 

一口、飲む。

 

身体に染み渡る。

 

「相変わらず、無茶するわね」

 

鈴が隣に腰を下ろす。

 

「見てたのか?」

 

「ちょっとだけ」

 

肩をすくめる。

 

「セシリア、強いでしょ」

 

「……ああ」

 

素直に頷く。

 

「まだ全然追いつけない」

 

「ま、当然でしょ」

 

あっさりと言う。

 

「向こうは何年もやってるんだから」

 

「だよな……」

 

視線を落とす。

 

自分の手。

 

右手の薬指。

 

指輪。

 

「……」

 

鈴が、ちらりとそれを見る。

 

だが、何も言わない。

 

代わりに。

 

「ねえ」

 

話題を変えるように。

 

「覚えてる?」

 

「何が?」

 

「中学の時」

 

少しだけ、懐かしむような声。

 

「アンタ、体育の時間でさ」

 

「あー……」

 

思い出す。

 

「バスケで突っ込んで、派手に転んだやつか?」

 

「そうそれ!」

 

鈴が笑う。

 

「で、私が保健室まで連れてったの!」

 

「無理やり引きずられただけだろ……」

 

「細かいことはいいの!」

 

軽く肘でつつく。

 

その距離感。

 

あの頃と、変わらない。

 

「……なんか、懐かしいな」

 

一夏がぽつりと呟く。

 

「でしょ?」

 

鈴も頷く。

 

少しだけ、柔らかい空気。

 

だが。

 

「……でもさ」

 

一夏が続ける。

 

「なんで俺、ここにいるんだろうな」

 

ぽつりと。

 

本音がこぼれる。

 

「入試で、間違えてIS起動させて……」

「気づいたら入学決まってて」

 

苦笑する。

 

「正直、流されてるだけっていうか」

 

「……」

 

鈴は、何も言わず聞く。

 

「代表とかもさ」

「やるつもりなかったし」

 

視線を天井へ。

 

「なんか、全部勝手に進んでる感じでさ」

 

「……らしいわね」

 

鈴が小さく言う。

 

「でも」

 

少しだけ、真剣な声になる。

 

「それでも、ここにいるのはアンタでしょ」

 

「……まあな」

 

「逃げてないじゃない」

 

一夏を見る。

 

まっすぐに。

 

「それだけでも、十分でしょ」

 

「……」

 

言葉に詰まる。

 

だが。

 

「……サンキュ」

 

小さく、返す。

 

「どういたしまして」

 

鈴が軽く笑う。

 

そのまま、少し沈黙。

 

だが――

 

気まずさはない。

 

「……なあ」

 

一夏が、ふと聞く。

 

「鈴はさ」

 

「ん?」

 

「なんで戻ってきたんだ?」

 

その問いに。

 

鈴は、一瞬だけ視線を逸らす。

 

そして。

 

「……決まってるでしょ」

 

小さく、笑う。

 

「アンタがいるからよ」

 

あっさりと。

 

だが、はっきりと。

 

「……っ」

 

一夏が固まる。

 

「な、なんだよそれ……」

 

「何よ、文句ある?」

 

「いや、別に……」

 

照れくさそうに視線を逸らす。

 

その反応を見て。

 

「……ほんと、変わってないわね」

 

鈴が、少しだけ優しく笑った。

 

あの頃と同じ距離。

 

だけど――

 

状況は、もう同じじゃない。

 

それでも。

 

この時間だけは。

 

確かに“変わらないもの”だった。

 

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