――放課後。
アリーナ。
「そこですわ!」
鋭い声と共に、光が走る。
「っ!」
一夏が機体をひねり、直撃を避ける。
だが――
「甘いですわ」
追撃。
正確無比な射撃が、白式の装甲をかすめる。
「ぐっ……!」
距離を取る。
呼吸が乱れる。
(やっぱり、強い……!)
セシリア・オルコット。
代表候補生としての経験。
その差は、まだ埋まらない。
「集中なさい、織斑一夏」
冷静な声。
だが、どこか楽しんでいるようでもあった。
「……ああ!」
踏み込む。
だが。
「時間ですわ」
ぴたり、と動きが止まる。
同時に、管制の声が響く。
「訓練時間終了。ISを解除してください」
「……はぁ」
一夏が息を吐く。
「今日はここまでですわね」
セシリアが静かに言う。
「悪かったな、付き合わせて」
「構いませんわ」
少しだけ、柔らかく。
「あなたの成長を見るのは、悪くない時間ですもの」
「……そりゃどうも」
苦笑する。
――
控室。
「はい」
ペットボトルが差し出される。
「お疲れ様」
「……鈴か」
一夏が受け取る。
スポーツドリンク。
冷たさが、手に心地いい。
「サンキュ」
一口、飲む。
身体に染み渡る。
「相変わらず、無茶するわね」
鈴が隣に腰を下ろす。
「見てたのか?」
「ちょっとだけ」
肩をすくめる。
「セシリア、強いでしょ」
「……ああ」
素直に頷く。
「まだ全然追いつけない」
「ま、当然でしょ」
あっさりと言う。
「向こうは何年もやってるんだから」
「だよな……」
視線を落とす。
自分の手。
右手の薬指。
指輪。
「……」
鈴が、ちらりとそれを見る。
だが、何も言わない。
代わりに。
「ねえ」
話題を変えるように。
「覚えてる?」
「何が?」
「中学の時」
少しだけ、懐かしむような声。
「アンタ、体育の時間でさ」
「あー……」
思い出す。
「バスケで突っ込んで、派手に転んだやつか?」
「そうそれ!」
鈴が笑う。
「で、私が保健室まで連れてったの!」
「無理やり引きずられただけだろ……」
「細かいことはいいの!」
軽く肘でつつく。
その距離感。
あの頃と、変わらない。
「……なんか、懐かしいな」
一夏がぽつりと呟く。
「でしょ?」
鈴も頷く。
少しだけ、柔らかい空気。
だが。
「……でもさ」
一夏が続ける。
「なんで俺、ここにいるんだろうな」
ぽつりと。
本音がこぼれる。
「入試で、間違えてIS起動させて……」
「気づいたら入学決まってて」
苦笑する。
「正直、流されてるだけっていうか」
「……」
鈴は、何も言わず聞く。
「代表とかもさ」
「やるつもりなかったし」
視線を天井へ。
「なんか、全部勝手に進んでる感じでさ」
「……らしいわね」
鈴が小さく言う。
「でも」
少しだけ、真剣な声になる。
「それでも、ここにいるのはアンタでしょ」
「……まあな」
「逃げてないじゃない」
一夏を見る。
まっすぐに。
「それだけでも、十分でしょ」
「……」
言葉に詰まる。
だが。
「……サンキュ」
小さく、返す。
「どういたしまして」
鈴が軽く笑う。
そのまま、少し沈黙。
だが――
気まずさはない。
「……なあ」
一夏が、ふと聞く。
「鈴はさ」
「ん?」
「なんで戻ってきたんだ?」
その問いに。
鈴は、一瞬だけ視線を逸らす。
そして。
「……決まってるでしょ」
小さく、笑う。
「アンタがいるからよ」
あっさりと。
だが、はっきりと。
「……っ」
一夏が固まる。
「な、なんだよそれ……」
「何よ、文句ある?」
「いや、別に……」
照れくさそうに視線を逸らす。
その反応を見て。
「……ほんと、変わってないわね」
鈴が、少しだけ優しく笑った。
あの頃と同じ距離。
だけど――
状況は、もう同じじゃない。
それでも。
この時間だけは。
確かに“変わらないもの”だった。