――翌日。
教室。
「えー、本日は皆さんにお知らせがあります!」
山田真耶が声を張る。
「来週、クラス代表戦が行われます!」
「おおー!」
教室が沸く。
「優勝者には――食堂のスイーツ券が贈られます!」
「「「おおおおお!!」」」
歓声が爆発する。
「代表! 頼んだぞー!」
「絶対勝てよー!」
「お前ら目的それかよ!?」
一夏が突っ込むが、止まらない。
「……はぁ」
頭を抱える。
「やるしかないか……」
その様子を――
「……」
一花が、静かに見ていた。
――
放課後。
「ならば私が鍛える」
箒が前に出る。
「剣道場での稽古が最適だ」
「非効率ですわ」
セシリアが即座に否定する。
「実戦経験が必要です。アリーナで私が指導します」
「何だと……」
「当然の判断ですわ」
火花。
「いや、ちょっと――」
「黙っていろ」
「口を挟まないでください」
「はい」
終了。
「……どうする?」
鈴が呆れる。
その時。
「――どっちでもいいんじゃない?」
後ろから、声。
「……っ」
一夏の身体が固まる。
次の瞬間。
背中に、柔らかな感触。
腕が回される。
「一花……!」
逃げられない。
「一夏は私のものよ」
耳元で、静かに。
「……っ」
箒とセシリアが動く。
だが。
「……はぁ」
鈴がため息をつく。
「やっぱりね」
「ちょっと待ちなさい」
二人の前に立つ。
「今はやめときなさい」
「何故だ!」
「無駄だから」
即答。
「これ、初めてじゃないのよ」
鈴が一花を見る。
「昔も同じことがあった」
「一夏の周りに人が増えた時、必ずこうなる」
「最近、一花は一夏の傍にいなかったでしょ?」
「……ああ」
「だから反動。“取り戻してる”のよ」
空気が重くなる。
「しかも今――完全に入ってる」
「……何に?」
「遮断モード」
はっきりと言う。
「一夏に触れてる間、外の言葉は届かない」
「……っ」
箒が声を張る。
「一花! 離れろ!」
「……」
反応はない。
微笑んだまま。
抱きしめたまま。
「ほらね」
鈴が言う。
「何も聞こえてない」
そして。
「でも例外がある」
視線が、一夏へ向く。
「……」
一夏は、わずかに目を伏せる。
知っている。
それを。
「……一花」
静かに呼ぶ。
その瞬間。
「……なに?」
即座に返る声。
はっきりと。
迷いなく。
「――っ!?」
箒とセシリアが息を呑む。
「……やっぱりね」
鈴が小さく呟く。
「一夏の言葉だけは、届く」
「……」
一花が顔を上げる。
だが、腕はまだ離さない。
「どうしたの?」
柔らかい声。
「……離れてくれ」
一夏が言う。
迷いはない。
その一言に。
ほんのわずかな間。
そして――
「……うん」
静かに。
素直に。
腕がほどける。
離れる。
だが。
完全には離れない距離で立ち止まる。
「……まだ」
小さく呟く。
「足りないから」
視線は、一夏だけを捉えている。
「また来る」
それだけ言い残し。
くるりと背を向ける。
「……」
去っていく背中。
静かで。
迷いがない。
「……なんだ、今のは」
セシリアが呟く。
「……異常だな」
箒も低く言う。
「だから言ったでしょ」
鈴が肩をすくめる。
「アイツ、一夏に対してだけは――別物なのよ」
「……」
一夏は何も言わない。
ただ。
自分の右手を見る。
薬指の指輪。
そして。
去っていった一花の背中を思い出す。
(……分かってる)
あれが、どういう状態か。
(でも……)
止められるのは、自分だけ。
その事実が――
妙に重く、胸に残った。