――アリーナ。
「はぁ……っ、はぁ……!」
一夏の呼吸は、限界に近かった。
白式の各部が、警告音を鳴らし続ける。
「――シールドエネルギー、残量ゼロ」
無機質な音声。
そして。
「――強制解除、実行」
「っ……!」
装甲が、弾けるように消える。
白式が解除される。
「く……っ」
膝をつく。
身体に力が入らない。
痣は、まだ消えきっていない。
痛みだけが残る。
「一夏!」
鈴が叫ぶ。
だが――
間に合わない。
「……っ!」
所属不明のISが、ゆっくりと向きを変える。
標的。
無防備な一夏。
「やめ――」
鈴が踏み出す。
だが。
距離が足りない。
「……くそっ!」
間に合わない。
その瞬間。
ISが動く。
無機質に。
躊躇なく。
一夏へと――
振り下ろされる一撃。
「――ダメだよ」
声。
静かで。
それでいて、場を支配する響き。
次の瞬間。
――ガシャァンッ!!
地面が裂ける。
そこから。
無数の“鎖”が、噴き出す。
黒く。
重く。
禍々しい鎖。
それが――
所属不明のISに絡みつく。
「――っ!?」
動きが止まる。
強制的に。
「なに……これ……」
鈴が息を呑む。
引きずり込むように。
縛り上げるように。
鎖は、ISの動きを完全に拘束する。
「……っ」
一夏の視界が、揺れる。
意識が、遠のく。
その中で。
見えた。
一人の姿。
「……一花……?」
かすれた声で、名を呼ぶ。
そこにいたのは。
流星一花。
ゆっくりと歩み寄る。
その表情は――
穏やか。
だが。
瞳は、冷たい。
「……」
拘束されたISを見上げる。
まるで。
価値を測るように。
そして。
小さく、息を吐く。
「用済みの役者には――」
一歩、踏み出す。
「退場を願おう」
その言葉は。
宣告だった。
次の瞬間。
鎖が、締まる。
軋む。
圧縮される。
「――っ!?」
所属不明のISの装甲が、悲鳴を上げる。
力任せではない。
制御された破壊。
逃げ場はない。
「……」
一花は、ただ見ている。
淡々と。
終わりを見届けるように。
――管制室。
「……あれは……何だ……」
千冬が低く呟く。
理解の外。
明らかに、ISではない。
「……一花さん……」
山田が震える声で言う。
セシリアも、言葉を失っていた。
――アリーナ。
「……」
鈴が、一花を見る。
理解できない。
だが、確信する。
(……あれが)
(本当の――)
言葉にならない。
ただ一つ。
明確なのは。
“敵ではない”という安心と。
“理解できない”という恐怖。
その両方だった。
「……一夏」
一花が、しゃがみ込む。
優しく。
そっと。
倒れかけた身体を支える。
「よく頑張ったね」
穏やかな声。
先程までとは別人のように。
「……あとは、任せて」
耳元で囁く。
その声は――
甘く。
そして、絶対だった。
「……」
一夏の意識が、完全に落ちる。
その瞬間。
一花の表情が、わずかに変わる。
無表情。
そして――
再び、立ち上がる。
視線の先には。
まだ壊れきっていない“敵”。
「さて」
小さく、呟く。
「続きを始めましょうか」
舞台は、まだ終わっていない。