――アリーナ。
「さて」
流星一花が、静かに歩み出る。
拘束された所属不明のIS。
だが――
「……っ!」
鎖を軋ませる。
力任せに、引きちぎろうとしている。
「無駄だよ」
一花が淡々と告げる。
「それ、私の“領域”だから」
――バキィンッ!!
数本の鎖が弾ける。
「……へぇ」
わずかに目を細める。
「まだ動けるんだ」
興味を持ったように。
ISが再び構える。
出力が上がる。
空気が震える。
「……来る!」
鈴が身構える。
だが。
一花は動かない。
ただ、見ている。
「……」
突進。
高速。
殺意。
――だが。
「遅い」
一花の姿が消える。
次の瞬間、背後。
「そこ」
軽く触れる。
――ドンッ!!
内部から爆ぜる衝撃。
装甲が歪む。
「……っ!?」
だが、それでも倒れない。
「……しぶといね」
小さく呟く。
そして。
一歩、引く。
距離を取る。
「じゃあ」
右手を、ゆっくりと上げる。
「終わりにしようか」
その瞬間。
空間が――揺らぐ。
「……?」
鈴が眉をひそめる。
何もない。
何も起きていない。
――ように見える。
だが。
「……そこ」
一花が、何もない空間を見つめる。
その手のひらの中に。
“何か”があるように。
「……」
指先が、わずかに動く。
まるで――
掴んでいる。
見えない“何か”を。
「……それ」
静かに、告げる。
「もう、いらないよね」
その言葉と共に。
右手が――振り下ろされる。
――ビキッ。
何かが、裂ける音。
だが。
目には見えない。
ただ――
その瞬間。
アリーナ中央にいる所属不明のISが。
――ズレた。
「……え?」
鈴が、思わず声を漏らす。
次の瞬間。
――斬。
何の前触れもなく。
ISの機体が――
真っ二つに裂ける。
遅れて。
空間が、裂けた。
そこに、亀裂が走る。
一花の手元と。
ISの存在していた場所。
同じ“何か”が、同時に断たれたように。
「……なに、今の……」
鈴の声が震える。
理解が、追いつかない。
攻撃が、見えない。
動作も、原理も。
何もかもが。
「……」
一花は、何も言わない。
ただ、手を下ろす。
それだけで。
すべてが終わっていた。
――管制室。
「……今のは……」
セシリアが呟く。
言葉が続かない。
「……」
千冬も、沈黙する。
理解できない。
いや。
理解してはいけない類の“何か”。
「……一花さん……」
山田が震える。
モニターの向こう。
そこにいるのは。
もはや――
“生徒”ではない。
――アリーナ。
「……」
鈴は、ただ立ち尽くす。
目の前の現実を。
受け入れきれずに。
「……何よ、あれ」
かすれた声。
返事はない。
ただ一つ。
確かなこと。
「……次元が違うとか、そういう話じゃない」
理解できない。
分類できない。
「あれは……」
言葉を探す。
だが。
見つからない。
その先で。
一花は、振り返る。
そして。
何事もなかったかのように。
静かに、一夏の元へと歩いていく。
舞台は終わった。
――誰も、何が起きたのか分からないまま。