インフィニット・ストラトス 〜愛のシナリオ〜   作:ぬっく~

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第二十二話 静寂の余熱

――保健室。

 

「……ん……」

 

ゆっくりと、意識が浮かび上がる。

 

白い天井。

 

消毒液の匂い。

 

「……ここは……」

 

身体を起こそうとして――

 

「……?」

 

違和感。

 

視線を落とす。

 

そこには。

 

静かに眠る、一人の少女。

 

「……一花」

 

自分の膝の上。

 

無防備に、頭を預けている。

 

規則正しい寝息。

 

まるで何事もなかったかのように。

 

「……」

 

しばらく、見つめる。

 

そして。

 

ふと、自分の右手を見る。

 

「……痣は……ない」

 

あれほどまでに広がっていた黒い痣。

 

その痕跡は、どこにもない。

 

ただの、いつもの自分の手。

 

「……」

 

ゆっくりと。

 

指輪に触れる。

 

外す。

 

「……普通、だよな」

 

シンプルなシルバーの指輪。

 

特別な装飾はない。

 

だが。

 

「……?」

 

内側に、何かが刻まれている。

 

細い文字。

 

英語の筆記体。

 

「……読めねぇ」

 

小さく呟く。

 

意味は分からない。

 

ただ。

 

どこか、引っかかる。

 

「……」

 

その時。

 

「……ん……」

 

一花が、小さく動く。

 

「……起きたか?」

 

「……んー……」

 

大きなあくび。

 

目をこすりながら。

 

「おはよう……一夏……」

 

まだ、眠そうな声。

 

「おはよう、じゃねぇよ」

 

一夏が苦笑する。

 

「大丈夫なのか?」

 

「んー……」

 

身体を少し揺らす。

 

まだ夢の中にいるような動き。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「だいじょーぶ……」

 

気の抜けた返事。

 

「……なあ」

 

一夏が、少しだけ真剣な声になる。

 

「あれは……一体何をしたんだ?」

 

一花が、ぼんやりと目を開ける。

 

焦点は合っていない。

 

「……んー……」

 

考えるように、ゆらゆらと揺れる。

 

「同じ空間を……作っただけ……」

 

「……は?」

 

「どよ?」

 

得意げなのか何なのか分からない顔。

 

「同じ空間……?」

 

「そう……」

 

こくり、と頷く。

 

「とても小さな……同じ空間……」

 

言葉が、ゆっくりと落ちる。

 

「壊れれば……現実も……同じく壊れる……」

 

「……」

 

一夏は、何も言えない。

 

理解が追いつかない。

 

だが――

 

あの光景だけは、はっきりと覚えている。

 

「……」

 

「だから……」

 

一花が、もう一度あくびをする。

 

「とても……疲れる……」

 

目が、完全に閉じる。

 

「おい……」

 

呼びかける前に。

 

「……すぅ……」

 

寝息。

 

再び眠りに落ちる。

 

完全に。

 

「……マジかよ」

 

一夏が小さく呟く。

 

だが。

 

怒る気にもなれない。

 

「……」

 

そっと。

 

一花の頭に手を置く。

 

撫でる。

 

柔らかい髪。

 

温もり。

 

さっきまで“あれ”をやっていた人物とは思えない。

 

「……」

 

窓の外を見る。

 

夕日。

 

赤く染まる空。

 

長い影。

 

「……」

 

指輪を、もう一度見る。

 

内側の文字。

 

意味は分からない。

 

けれど。

 

どこか――

 

胸に引っかかる。

 

「……」

 

何も言わず。

 

ただ、撫で続ける。

 

膝の上で眠る彼女と。

 

沈んでいく夕日を。

 

静かに、見つめながら。

 

戦いの余熱だけが。

 

まだ、胸の奥に残っていた。

 

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