――翌日。
教室。
「……」
重い空気が漂っていた。
昨日の戦闘。
そして、その結末。
誰もが言葉を失ったままだった。
「えー……」
山田真耶が、気まずそうに口を開く。
「昨日のクラス代表戦ですが……」
一拍。
「安全性の問題により、中止となりました」
「「「ええええええええ!?」」」
教室が一気に騒がしくなる。
「スイーツ券は!?」
「……ありません」
「「「そんなぁぁぁぁぁ!!」」」
一気に沈む空気。
「……そこまでかよ」
一夏が呆れる。
その時。
「それと」
千冬が教室に入ってくる。
「今日から一組に転入生が二人入る」
ざわつく教室。
「入れ」
扉が開く。
銀髪、眼帯の少女。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
短く、鋭い声。
続いて。
金髪の少年。
「シャルル・デュノアです。よろしくお願いします」
対照的な二人。
「以上だ。席につけ」
千冬が告げる。
だが――
ラウラは動かない。
そのまま、一夏へと歩み寄る。
「……?」
一夏が顔を上げた、その瞬間。
――パァンッ!!
乾いた音。
「……は?」
頬に走る衝撃。
思考が止まる。
「私はお前の存在を認めない!」
ラウラの声が教室に響く。
ざわめきが起きる。
だが――
次の瞬間。
それすら、消えた。
「――っ!?」
ラウラの身体が、宙に浮く。
顔面を、片手で掴まれていた。
流星一花。
何も言わない。
ただ、見ている。
その目は――
完全に冷えていた。
「くっ……!」
ラウラが反応する。
腕を掴み、引き剥がそうとする。
だが、動かない。
まるで固定されているかのように。
ミシ、と音が鳴る。
骨が軋む音。
「……っ!」
ラウラの表情が歪む。
さらに力が強くなる。
メキメキ、と。
明らかに危険な音。
「流星! 離せ!」
千冬が腕を掴む。
だが。
反応はない。
完全に、外界を遮断している。
力は、止まらない。
「……っ!」
ラウラの抵抗も、通じない。
このままでは――
その時。
「――もう大丈夫だから!!」
一夏の声。
その瞬間。
ぴたりと、止まる。
指の力が、抜ける。
ラウラの身体が床に落ちる。
「はぁ……っ」
荒い呼吸。
「……」
一花はゆっくりと一夏を見る。
そして、近づく。
「……大丈夫?」
優しい声。
先程までとは別人のように。
「……ああ」
一夏が苦笑する。
「びっくりしたけどな」
「……ごめん」
小さく呟く。
視線が頬に落ちる。
「痛い?」
そっと手を伸ばす。
優しく触れる。
撫でるように。
「いや、平気だって」
「……ほんと?」
少しだけ不安そうに覗き込む。
「ああ」
一夏が軽く笑う。
「だから、落ち着けって」
「……うん」
素直に頷く。
そして、そっと手を離す。
「……」
そのやり取りを。
教室中の視線が、見ていた。
誰も、言葉を発せない。
ついさっきまでの“それ”と。
今の姿。
あまりにも違いすぎる。
「はぁ……っ」
ラウラが床に膝をついたまま、荒い呼吸を繰り返す。
解放された直後。
だが、その視線はすぐに上がる。
「……」
真っ直ぐに。
流星一花を睨みつける。
その目にあるのは、恐怖ではない。
「……貴様」
低く、押し殺した声。
「……」
一花は何も答えない。
ただ、一夏の方へ視線を向けたまま。
まるで、ラウラなど存在しないかのように。
「……いいだろう」
ラウラが、ゆっくりと立ち上がる。
まだ息は乱れている。
だが、その姿勢は崩れない。
「訂正する」
一歩、踏み出す。
「貴様は“例外”だ」
その言葉。
教室の空気が張り詰める。
「私は任務において、無駄な感情は排除する」
淡々と。
だが確実に、宣言する。
「だが――」
視線が鋭くなる。
「貴様は違う」
明確な意思。
「危険因子として、排除対象に認定する」
ざわり、と教室が揺れる。
完全な“敵宣言”。
「……」
それでも一花は、反応しない。
ただ――
一夏の頬に触れたまま。
「……」
ラウラの眉が、わずかに動く。
無視されている。
それが、理解できる。
だが。
怒りではない。
むしろ――
「……いい」
小さく呟く。
「それでいい」
その瞳に、宿るもの。
それは、戦意。
「貴様は、いずれ私が――」
言葉を切る。
だが、その先は誰でも分かる。
倒す。
そう言っている。
「……」
教室の空気は、完全に変わった。
新たな対立。
明確な軸。
そして。
「……」
流星一花は。
そのすべてを。
意にも介さない。
ただ、一夏だけを見ていた。
その構図が。
何よりも異常だった。