――昼休み。
屋上。
風が心地いい。
「ここ、空いてていいよな」
一夏がレジャーシートを広げる。
その周りに集まる六人。
一夏、一花、箒、セシリア、鈴、シャルル。
「ふふ、気持ちいいですね」
シャルルが微笑む。
「で、今日は弁当組か」
鈴が腕を組む。
「おう」
一夏が頷く。
「俺と、箒と、セシリアと、鈴だな」
「四人か」
箒が静かに腰を下ろす。
「……一夏」
「ん?」
「二つあるが」
弁当箱を指す。
「ああ、これか?」
一夏が笑う。
「一花の分」
「……」
一花は当然のように隣に座っている。
「……相変わらずね」
鈴が呆れる。
「仲がいいんだね」
シャルルが素直に言う。
その一言に。
「……いや」
鈴が即座に否定する。
「いいどころか――危険人物よ」
「え?」
シャルルが目を丸くする。
「一花の行動原理、知ってる?」
鈴が箸を構えながら言う。
「“一夏をいじめる奴は死刑”だから」
「……」
「え?」
シャルルが固まる。
「冗談……だよね?」
「冗談じゃないのよ、これが」
鈴がため息をつく。
「というか、ついさっきもあったじゃない」
「え?」
「朝よ、朝」
鈴が軽く顎で示す。
「ドイツの代表候補生」
「……ああ」
一夏が苦笑する。
「……?」
シャルルが首をかしげる。
「一夏に手出したでしょ」
「ああ……まあ」
頬を軽く触る一夏。
「で?」
シャルルが促す。
「結果?」
鈴があっさり言う。
「返り討ち」
「……」
「……え?」
シャルルの思考が止まる。
「しかも一瞬」
鈴が付け加える。
「……」
シャルル、無言。
「ね?」
鈴が肩をすくめる。
「冗談じゃないでしょ?」
「……うん、全然冗談じゃないね……」
完全に引いている。
少し視線を遠くへ向ける。
「一花が腕なくして帰ってきたでしょ?」
「……ああ」
一夏が苦笑する。
「そしたらさ、ファンクラブが本気でキレて」
「朝、呼び出されたのよ。一夏が」
「朝!?」
シャルルが声を上げる。
「そう、登校時間よ」
鈴は平然としている。
「使われてない教室に連れてかれて」
「部屋はカーテン閉めて真っ暗」
「ロウソクだけ灯ってて」
「全員、覆面」
「……もうダメでしょそれ」
シャルルが頭を抱える。
「で、“異端審問会を開始する”って」
「……」
一夏が目を逸らす。
「罪状は“流星一花に重傷を負わせた罪”」
「いや……まあ……」
否定はしない。
「完全に有罪の流れでね」
鈴が続ける。
「判決は――」
一拍。
「死刑」
「は!?」
シャルルが立ち上がりかける。
「しかもね」
鈴の声が少し低くなる。
「壁に十字架、立ててるやつがいたのよ」
「貼り付け用の」
「……」
「……」
「……」
空気が止まる。
「本気だったのよ、あいつら」
鈴が肩をすくめる。
「で、判決下そうとしたその瞬間――」
――バンッ!!
「ドアが開いた」
静かに言う。
「一花が立ってた」
「……」
一夏も、わずかに表情を引き締める。
「何も言わずに入ってきて」
「……」
「空気が、変わった」
鈴の声がわずかに低くなる。
「で、“執行”って言おうとした瞬間」
「……止まったのよ」
「止まった?」
「動けなくなったの」
きっぱりと。
「……」
「そのまま、一花が一夏の前に立って」
「一言だけ」
小さく、再現する。
「“その判決、取り消して”」
「……」
「そしたらさ」
鈴が苦笑する。
「全員、従ったのよ」
「はぁ!?」
「満場一致で“無罪”」
「意味が分からないよ!?」
シャルルが完全に崩れる。
「でしょ?」
鈴が頷く。
「……あれは、やばかったな……」
一夏が遠い目をする。
「普通に死ぬかと思った」
「軽く言わないでよそれ!?」
「いやマジで」
「……」
シャルル、絶句。
「……で、結論」
鈴が箸を持ち直す。
「一花のファンクラブがやばい」
「それはもう間違いないね……」
シャルルが深く頷く。
「常識通じなさすぎでしょ……」
「ほんとそれ」
鈴も同意する。
その横で。
「はい、あーん」
一花が箸を差し出す。
「ん」
一夏が普通に食べる。
「……」
「……」
「……」
三人が固まる。
「……何してるのよ、あんたたち」
鈴が呆れる。
「いや……その……」
シャルルが戸惑う。
「普通なの……?」
「普通よ」
鈴が断言。
「慣れれば」
「慣れたくないんだけど!?」
思わずツッコむシャルル。
「ほら、一夏」
今度は一花が口を開ける。
「……はいはい」
一夏が箸でつまんで運ぶ。
「あーん」
ぱくり。
満足そうに頬を緩める一花。
「……」
箒の箸が止まる。
セシリアも、静かに視線を逸らす。
「……で」
鈴が仕切り直す。
「せっかくだし、交換する?」
「いいな」
一夏が頷く。
「じゃあまず箒のから」
「うむ」
箒が弁当を差し出す。
一口。
「お、うまい」
「当然だ」
誇らしげな顔。
「次、鈴」
「ほい」
「これも普通にうまいな」
「“普通”って何よ!」
「褒めてるって!」
軽い言い合い。
「では、わたくしのも」
セシリアが自信満々に差し出す。
見た目は完璧。
彩りも、美しさも文句なし。
「……じゃあ、いただきます」
一口。
「……」
止まる。
「あれ?」
「どうです?」
セシリアが期待の目で見る。
「……これ」
一夏がゆっくり言う。
「味見した?」
「……え?」
セシリアが固まる。
恐る恐る、自分でも一口。
「……」
「……」
「……っ!?」
次の瞬間。
「な、なんですのこれぇぇぇぇ!?」
崩れる。
「味……しませんわよ!? いや、しますけど変ですわよ!?」
「自分で作ったんだろ!?」
「こんなはずでは……!」
頭を抱えるセシリア。
「見た目は完璧なのにねぇ」
鈴がニヤニヤする。
「料理は見た目じゃないってことだな」
一夏が笑う。
「くっ……!」
セシリアが悔しそうに俯く。
その横で。
「……美味しい」
一花がぽつり。
セシリアの弁当を食べている。
「え?」
全員が見る。
「……ほんと?」
一夏が聞く。
「うん」
普通に頷く。
「一夏が作ったのよりは落ちるけど」
「比較対象おかしくない!?」
鈴がツッコむ。
「……」
セシリアが固まる。
「……」
そして、ゆっくりと一夏を見る。
「……後で教えていただけます?」
「いいけど」
即答。
「……お願いしますわ」
小さく頭を下げる。
その様子に。
少しだけ、空気が柔らぐ。
「……なんだかんだ、楽しいね」
シャルルが微笑む。
その言葉に。
「……まあな」
一夏が笑う。
屋上に、穏やかな時間が流れていた。
――ただ一人。
その中心にいる存在の“危うさ”を。
全員が、どこかで意識しながら。