アリーナ。
「ふぅ……」
一夏は軽く息を吐く。
白式を展開した状態での基礎機動訓練。
まだ稼働時間の制限が厳しく、長時間は持たない。
「相変わらず、制限がネックですわね」
セシリアが腕を組む。
「けど、動き自体は悪くない」
横でシャルルが頷く。
「一夏は近接寄りだけど……装備的にはかなり尖ってるよね」
「ああ」
一夏も同意する。
「白式はほぼ近接特化だしな」
「対して、僕のは――」
シャルルが軽く手を上げる。
次の瞬間。
展開されるIS。
「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」
流れるような白銀の機体。
両肩、背部に複数の火器。
「僕は銃火器メインで戦うタイプ」
シャルルが軽く手を上げる。
次の瞬間。
展開されるIS。
「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」
展開された機体は――
鮮やかなオレンジを基調とした装甲。
白式とは対照的に、温かみのある発色。
各所に配置された火器ユニットが、実戦的な印象を強めている。
「へぇ……」
一夏が感心したように見る。
「結構派手だな」
「そう?」
シャルルが少し笑う。
「視認性は高いけど、その分――」
肩部の武装が展開する。
「制圧力で押し切るのが僕のスタイル」
「遠距離制圧か」
「うん。近づかせない戦い方だね」
「対照的ですわね」
セシリアが頷く。
「わたくしは機動戦寄り……一夏は近接特化」
「バランスはいいかもな」
一夏が言う。
白・青・橙。
それぞれ違う役割。
それが、自然と並んでいた。
「……で」
一夏が白式のコンソールに目を落とす。
「さっきから気になってたんだけど」
「どうかしたの?」
シャルルが覗き込む。
「なんか……変なデータが入ってる」
「変な?」
「見たことない項目だ」
操作する。
画面に表示される文字。
『晴天流奥義書』
「……は?」
セシリアが眉をひそめる。
「なんですの、それ」
「俺が聞きたい」
一夏が苦笑する。
「こんなの、入れた覚えないぞ」
「外部からの干渉……?」
シャルルが真剣な顔になる。
「いや……」
一夏が首を振る。
「システム的には“元からある”扱いになってる」
「……妙ですわね」
「とりあえず、中身見てみるか」
恐る恐る開く。
表示されるのは――
技の一覧。
構え。
呼吸。
斬撃の軌道。
「……なんだこれ」
一夏が呟く。
「完全に“剣術の教本”だな……」
「しかも、かなり具体的」
シャルルが食い入るように見る。
「再現できるレベルで書かれてる」
「……試してみるか?」
一夏がぽつりと言った、その時。
「――貴様も専用機持ちだったな」
声。
上から。
三人が同時に見上げる。
そこにいたのは――
カタパルトデッキの上。
ISを展開した少女。
黒い装甲。
鋭い存在感。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
一夏が呟く。
「シュヴァルツェア・レーゲン」
低く名乗る。
「なら、話が早い」
ラウラが見下ろす。
完全に上からの視線。
「私と戦え」
「……は?」
一夏が眉をひそめる。
「なんでそうなる」
「理由など不要だ」
「いや、必要だろ」
一夏はため息をつく。
「悪いけど、今は訓練中だし――」
「逃げるのか?」
ラウラが言葉を被せる。
「……あ?」
空気が変わる。
「女の影に隠れることしかできない弱者か」
ぴたりと。
一夏の足が止まる。
「……」
「どうした」
ラウラが口元を歪める。
「あの女がいなければ何もできない――」
「……」
沈黙。
次の瞬間。
「――取り消せよ、今の言葉」
低い声。
明確な怒気。
「……」
セシリアとシャルルが息を呑む。
「ほう」
ラウラがわずかに笑う。
「ようやくその気になったか」
「……」
一夏が構える。
白式が反応する。
「来い」
ラウラも応じる。
完全な臨戦態勢。
――その時。
『両者、戦闘行為を中止せよ』
管制室からの警告。
『許可されていない戦闘は禁止だ』
「……ちっ」
ラウラが舌打ちする。
「興がそれた……」
そう言い残し。
ISを解除。
そのまま踵を返す。
「……」
一夏はしばらく動かなかった。
拳を握りしめたまま。
「……一夏」
シャルルが声をかける。
「大丈夫?」
「……ああ」
短く答える。
だが、その目には。
確かな火が灯っていた。
「……あいつ」
小さく呟く。
「次は、逃げねぇ」
静かに。
だが、はっきりと。
新たな対立が――
確実に、動き出していた。