――保健室。
「……っ」
「無理しないでくださいまし」
セシリアが小さく息を吐く。
隣のベッドでは、鈴も同じように手当てを受けていた。
「くそ……あいつ……」
悔しそうに呟く。
「完全に遊ばれてたわね……」
「ええ……」
二人とも理解している。
実力差は、明確だった。
「一夏」
セシリアが視線を向ける。
「あなたも見ましたわよね?」
「ああ……」
一夏が頷く。
「あの、動き止められたやつだろ?」
「ええ」
「……あれ、なんなんだ?」
その問いに答えたのは――
「AICだと思う」
シャルルだった。
「AIC……?」
一夏が聞き返す。
「アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略」
少しだけ真剣な顔になる。
「慣性停止結界って呼ばれてる」
「結界……?」
「うん」
シャルルが頷く。
「もともとISにはPICっていう慣性制御機能があるんだけど」
「それを発展させたのがAIC」
「発展……?」
「簡単に言うと――」
一拍置く。
「“相手の動きをその場で止める”技術」
「……は?」
一夏の思考が止まる。
「止めるって……そのままの意味か?」
「そう」
シャルルが頷く。
「運動そのものをキャンセルする感じ」
「だから、一夏は動けなかったんだと思う」
「……そんなのアリかよ」
一夏が顔をしかめる。
「正直、かなり上位の技術だよ」
シャルルが続ける。
「簡単に使えるものじゃない」
「ラウラは、それが使えるってこと」
「……」
一夏は拳を握る。
「だから、何もできなかったのか……」
悔しさが滲む。
「……でも」
シャルルが少しだけ柔らかく言う。
「対策がないわけじゃないと思う」
「え?」
「完全に止められる前に動くか、出力で上回るか……」
「もしくは別の方法で干渉するか」
「……なるほどな」
一夏が小さく頷く。
「やることは見えた」
「うん」
シャルルも頷く。
――その時。
ガラッ!!
「一夏くん大丈夫!?」
「聞いたわよ今の戦闘!」
「ねえねえタッグ誰と組むの!?」
クラスメイトたちが一気に流れ込んでくる。
「うわっ!?」
一夏がたじろぐ。
「なんだなんだ!?」
「マッチ戦よマッチ戦!」
「ルール変更でタッグ戦になったの!」
「は!?」
一夏が目を見開く。
「だからさ!」
一人の女子が身を乗り出す。
「一夏くんと組みたい人が――」
「山ほどいるのよ!!」
「……」
一夏、沈黙。
「いや待て待て」
「落ち着けって!」
だが、止まらない。
「私と組めば勝てるって!」
「いや私の方が――」
「ちょっとあんた――!」
収拾がつかない。
「……」
一夏が横を見る。
「シャルル」
「うん」
察した顔。
「組むか」
「いいよ」
即答。
「――俺、シャルルと組むから!」
その一言で。
「ええええええ!?」
教室が崩壊する。
「なんでよー!?」
「抜け駆けずるい!」
「今からでも――」
「決定だから!」
強引に締める。
「……はぁ」
ようやく静かになる。
「……」
その様子を見ていたセシリアと鈴。
「……」
「……」
二人とも、無言。
「……あのさ」
鈴が口を開く。
「私たちは?」
「……」
一夏が少し言いづらそうにする。
「さっきのダメージ……結構きてるだろ」
「医務室からも安静って言われてるし」
「今回は無理だ」
「……っ」
鈴が歯を食いしばる。
「そんな……」
セシリアも目を伏せる。
だが――
「……分かりましたわ」
静かに受け入れる。
「今回は……見送ります」
「……次は負けないわよ」
鈴が一夏を見る。
「ああ」
一夏も頷く。
――
その日の夜。
「……なんでこうなった」
一夏は呟いた。
場所は――学園の大浴場。
週に一度だけ開放される場所。
普段は各部屋のシャワーを使うため、利用者は少ない。
……はずだった。
「……」
湯気の向こう。
気配。
「……」
「……なあ」
一夏が静かに言う。
「……誰か、いるよな?」
沈黙。
――チャプン。
水音。
「……」
嫌な予感しかしない。
そして――
その予感は、当たっていた。