インフィニット・ストラトス 〜愛のシナリオ〜   作:ぬっく~

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第二十九話 停止する世界

――保健室。

 

「……っ」

 

「無理しないでくださいまし」

 

セシリアが小さく息を吐く。

 

隣のベッドでは、鈴も同じように手当てを受けていた。

 

「くそ……あいつ……」

 

悔しそうに呟く。

 

「完全に遊ばれてたわね……」

 

「ええ……」

 

二人とも理解している。

 

実力差は、明確だった。

 

「一夏」

 

セシリアが視線を向ける。

 

「あなたも見ましたわよね?」

 

「ああ……」

 

一夏が頷く。

 

「あの、動き止められたやつだろ?」

 

「ええ」

 

「……あれ、なんなんだ?」

 

その問いに答えたのは――

 

「AICだと思う」

 

シャルルだった。

 

「AIC……?」

 

一夏が聞き返す。

 

「アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略」

 

少しだけ真剣な顔になる。

 

「慣性停止結界って呼ばれてる」

 

「結界……?」

 

「うん」

 

シャルルが頷く。

 

「もともとISにはPICっていう慣性制御機能があるんだけど」

 

「それを発展させたのがAIC」

 

「発展……?」

 

「簡単に言うと――」

 

一拍置く。

 

「“相手の動きをその場で止める”技術」

 

「……は?」

 

一夏の思考が止まる。

 

「止めるって……そのままの意味か?」

 

「そう」

 

シャルルが頷く。

 

「運動そのものをキャンセルする感じ」

 

「だから、一夏は動けなかったんだと思う」

 

「……そんなのアリかよ」

 

一夏が顔をしかめる。

 

「正直、かなり上位の技術だよ」

 

シャルルが続ける。

 

「簡単に使えるものじゃない」

 

「ラウラは、それが使えるってこと」

 

「……」

 

一夏は拳を握る。

 

「だから、何もできなかったのか……」

 

悔しさが滲む。

 

「……でも」

 

シャルルが少しだけ柔らかく言う。

 

「対策がないわけじゃないと思う」

 

「え?」

 

「完全に止められる前に動くか、出力で上回るか……」

 

「もしくは別の方法で干渉するか」

 

「……なるほどな」

 

一夏が小さく頷く。

 

「やることは見えた」

 

「うん」

 

シャルルも頷く。

 

――その時。

 

ガラッ!!

 

「一夏くん大丈夫!?」

 

「聞いたわよ今の戦闘!」

 

「ねえねえタッグ誰と組むの!?」

 

クラスメイトたちが一気に流れ込んでくる。

 

「うわっ!?」

 

一夏がたじろぐ。

 

「なんだなんだ!?」

 

「マッチ戦よマッチ戦!」

 

「ルール変更でタッグ戦になったの!」

 

「は!?」

 

一夏が目を見開く。

 

「だからさ!」

 

一人の女子が身を乗り出す。

 

「一夏くんと組みたい人が――」

 

「山ほどいるのよ!!」

 

「……」

 

一夏、沈黙。

 

「いや待て待て」

 

「落ち着けって!」

 

だが、止まらない。

 

「私と組めば勝てるって!」

 

「いや私の方が――」

 

「ちょっとあんた――!」

 

収拾がつかない。

 

「……」

 

一夏が横を見る。

 

「シャルル」

 

「うん」

 

察した顔。

 

「組むか」

 

「いいよ」

 

即答。

 

「――俺、シャルルと組むから!」

 

その一言で。

 

「ええええええ!?」

 

教室が崩壊する。

 

「なんでよー!?」

 

「抜け駆けずるい!」

 

「今からでも――」

 

「決定だから!」

 

強引に締める。

 

「……はぁ」

 

ようやく静かになる。

 

「……」

 

その様子を見ていたセシリアと鈴。

 

「……」

 

「……」

 

二人とも、無言。

 

「……あのさ」

 

鈴が口を開く。

 

「私たちは?」

 

「……」

 

一夏が少し言いづらそうにする。

 

「さっきのダメージ……結構きてるだろ」

 

「医務室からも安静って言われてるし」

 

「今回は無理だ」

 

「……っ」

 

鈴が歯を食いしばる。

 

「そんな……」

 

セシリアも目を伏せる。

 

だが――

 

「……分かりましたわ」

 

静かに受け入れる。

 

「今回は……見送ります」

 

「……次は負けないわよ」

 

鈴が一夏を見る。

 

「ああ」

 

一夏も頷く。

 

――

 

その日の夜。

 

「……なんでこうなった」

 

一夏は呟いた。

 

場所は――学園の大浴場。

 

週に一度だけ開放される場所。

 

普段は各部屋のシャワーを使うため、利用者は少ない。

 

……はずだった。

 

「……」

 

湯気の向こう。

 

気配。

 

「……」

 

「……なあ」

 

一夏が静かに言う。

 

「……誰か、いるよな?」

 

沈黙。

 

――チャプン。

 

水音。

 

「……」

 

嫌な予感しかしない。

 

そして――

 

その予感は、当たっていた。

 

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