インフィニット・ストラトス 〜愛のシナリオ〜   作:ぬっく~

31 / 35
第三十話 秘密の共有

――夜。

 

学園・大浴場。

 

湯気が立ち込める静かな空間。

 

「……はぁ」

 

一夏は肩まで湯に浸かり、息を吐く。

 

(誰もいない……はずだよな)

 

そう思った、その時。

 

「……」

 

視線の先。

 

湯気の向こうに、人影。

 

「……誰か、いるよな?」

 

静かに問いかける。

 

「……」

 

少しの沈黙。

 

そして。

 

「……うん」

 

返ってきたのは、聞き覚えのある声。

 

「シャルル……?」

 

「……」

 

ゆっくりと、姿がはっきりする。

 

だが――

 

一夏は言葉を失った。

 

「……」

 

そこにいたのは。

 

見慣れた“少年”ではなかった。

 

華奢な肩。

 

滑らかな肌。

 

明らかに――女性の身体。

 

「……」

 

「……」

 

お互いに、目を合わせない。

 

微妙な距離を保ったまま、湯に浸かる。

 

「……その」

 

先に口を開いたのは一夏だった。

 

「男装、してたのか」

 

「……うん」

 

小さな声。

 

「最初から、全部」

 

「……そうか」

 

一夏はそれ以上驚かなかった。

 

ただ、受け入れるように頷く。

 

「理由、聞いていいか」

 

「……」

 

少しの沈黙。

 

やがて、シャルルが口を開く。

 

「僕は……デュノア社の人間なんだ」

 

「デュノア社……」

 

「その……愛人の子で」

 

「……」

 

一夏は何も言わない。

 

「会社が今、かなり厳しくて」

 

「……」

 

「だから……」

 

少しだけ声が震える。

 

「一夏のISデータを手に入れるために」

 

「男装して、潜入した」

 

「……」

 

静かな告白。

 

「……そっか」

 

一夏は、ただそれだけ言った。

 

責めるでもなく。

 

驚くでもなく。

 

「……怒らないの?」

 

シャルルが、わずかに視線を向ける。

 

「怒る理由あるか?」

 

一夏は苦笑する。

 

「事情があるんだろ」

 

「……」

 

「それに」

 

少しだけ間を置く。

 

「今こうして話してる時点で」

 

「もう敵って感じじゃねぇしな」

 

「……」

 

シャルルの肩が、少しだけ緩む。

 

「……でも」

 

再び、声を落とす。

 

「正体がバレた以上……」

 

「ここには、もういられない」

 

「……は?」

 

一夏が顔をしかめる。

 

「なんでだよ」

 

「だって……」

 

「スパイだって知られたら――」

 

「いや、関係ないだろ」

 

一夏はあっさりと言い切る。

 

「え?」

 

「この学園の規則、知らないのか?」

 

「……?」

 

「“在学中は、いかなる勢力の介入も受けない”」

 

「……あ」

 

シャルルが小さく息を呑む。

 

「つまり」

 

一夏が続ける。

 

「ここにいる限り、お前は守られてる」

 

「……」

 

「三年間はな」

 

「……でも、その後は」

 

「その時考えればいいだろ」

 

一夏は即答する。

 

「三年あれば、なんとかなる」

 

「……」

 

シャルルは何も言えない。

 

「だからさ」

 

一夏が少しだけ笑う。

 

「残れよ」

 

「……」

 

「俺と、組むんだろ?」

 

「……っ」

 

その言葉に。

 

シャルルの表情が揺れる。

 

「……いいの?」

 

「いいに決まってる」

 

迷いなく。

 

「……」

 

しばらくの沈黙。

 

そして。

 

「……ありがとう」

 

小さく。

 

でも、確かに。

 

その言葉は、湯気の中に溶けていった。

 

――

 

静かな時間が流れる。

 

だが。

 

二人の距離は、確かに変わっていた。

 

“嘘”ではなく。

 

“秘密を共有した関係”へと。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。