――タッグマッチトーナメント当日。
アリーナは、かつてないほどの熱気に包まれていた。
観客席は埋まり、歓声が響く。
「すごい人だな……」
一夏が呟く。
「注目度が高いカードですもの」
セシリアが腕を組む。
「無理もありませんわ」
「……ああ」
一夏の視線は、モニターへ。
そこに映し出された――対戦表。
そして。
「……マジかよ」
思わず声が漏れる。
「初戦で当たるなんてね……」
シャルルも苦笑する。
一回戦。
織斑一夏&シャルル・デュノア
VS
ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒
「無駄な手間が省けた」
ラウラが静かに言う。
「最初から叩き潰せばいいだけだ」
「……上等だ」
一夏が応じる。
「こっちもそのつもりだ」
「……」
箒は何も言わない。
ただ、静かに構える。
その目に宿るのは――
強い意志。
――開始位置。
両チームが向かい合う。
「……行くぞ、シャルル」
「うん」
短いやり取り。
『――試合、開始!』
その瞬間。
一夏が地面を蹴る。
一直線にラウラへ。
「――っ!」
だが。
「甘い」
ピタリ、と。
身体が止まる。
「AIC……!」
「分かっていて突っ込むか」
ラウラが構える。
プラズマ刀。
振り下ろし――
「させない!」
シャルルの射撃が割り込む。
弾幕。
強制的にラウラの意識を逸らす。
その一瞬。
「……っ!」
一夏が歯を食いしばる。
力を込める。
――動いた。
「抜けた……!」
AICの拘束を振り切る。
「今だ!」
「うん!」
二人の連携。
距離を取り直す。
「なるほど」
ラウラがわずかに目を細める。
「対策はしてきたか」
「当たり前だろ」
一夏が構える。
(AICは万能じゃない)
試合前。
何度も考えた。
結論は一つ。
――“集中を崩せばいい”
シャルルの援護。
それで、一瞬でも精度が落ちれば。
「抜けられる!」
「……面白い」
ラウラが低く笑う。
戦闘が加速する。
――
その最中。
「はぁぁっ!!」
箒が踏み込む。
雪片を振るう。
鋭い一撃。
だが。
「遅い」
ラウラが横目で捉える。
最小限の動きで回避。
カウンター。
「っ――!」
直撃。
箒が吹き飛ばされる。
「くっ……!」
立ち上がろうとする。
だが。
追撃。
容赦のない一撃。
「がっ……!」
シールドが削り切られる。
警告音。
『篠ノ之選手、戦闘不能!』
「……っ!」
箒が拳を握る。
歯を食いしばる。
悔しさが、滲む。
「……すまない……」
誰にも届かない声。
だが――
その目は、折れていなかった。
――
「一対二、か」
ラウラが呟く。
「ようやく本番だな」
「こっちのセリフだ」
一夏が踏み込む。
シャルルの援護。
連携。
攻め続ける。
AICを崩しながら。
確実に。
「……っ!」
ラウラの動きが鈍る。
「いける……!」
押している。
確実に。
一夏とシャルルの連携が、ラウラを追い詰める。
「ここで――!」
決定打を狙う、その瞬間。
「……?」
ラウラの視界が揺れる。
(……なぜだ)
わずかな違和感。
(なぜ……押されている?)
呼吸が乱れる。
AICの制御が、僅かにブレる。
(私は――)
脳裏に過る。
過去。
訓練。
教官の背中。
絶対だった存在。
(負ける、はずがない)
だが。
現実は違う。
押されている。
削られている。
追い詰められている。
「……っ」
歯を食いしばる。
(……違う)
(私は……)
(負けない)
その否定の奥底で。
確かに生まれる感情。
――恐怖。
(負ける……?)
一瞬でも、その思考がよぎった時。
「――っ!?」
シュヴァルツェア・レーゲンが、反応する。
「なに……?」
装甲が軋む。
内側から。
膨張するように。
「やめろ……」
ラウラが低く呟く。
だが。
止まらない。
「やめろ……!!」
装甲が溶ける。
ゲル状に変質。
うねり、蠢く。
「……っ!?」
一夏が目を見開く。
「なんだ、あれ……!」
「ISが……変形してる……!?」
シャルルも息を呑む。
「やめろ……私は――」
ラウラの声が揺れる。
「私は……負けない……!」
その言葉に呼応するように。
装甲がラウラの身体へと絡みつく。
拘束する。
包み込む。
「くっ……!」
抵抗する。
だが、止まらない。
(やめろ……)
(これは……違う……)
(私は……)
(負けるわけにはいかない――!!)
その感情を、核にして。
再構築が始まる。
装甲が再形成される。
形を変える。
歪に。
異質に。
「……なんだよ、これ……」
一夏の声が震える。
そして。
完成する。
その姿を見た瞬間。
一夏の脳裏に、過る。
「……嘘、だろ」
あり得ない。
だが。
確かに、そこにある。
「……暮桜……?」
呟き。
そして。
「――織斑千冬」
その姿は。
“最強”の象徴を模したかのような――異形だった。