「……」
目の前の光景を見て。
一夏が最初に抱いた感情は――
怒りでも、驚きでもなかった。
「……哀れだな」
ぽつり、と零れる。
織斑千冬。
世界中のIS操縦者が認める存在。
憧れ、目標、超えるべき壁。
だが――
「……なれねぇよ」
一夏は静かに言う。
「どれだけ似せても」
「どれだけ形を変えても」
「それは……偽物だ」
目の前の“それ”は。
ただの模倣。
歪んだ願望の産物。
「……っ」
シャルルの声が通信に入る。
『一夏、下がって!』
『試合は中止になった!』
『もう続ける意味は――』
「悪い」
一夏は短く返す。
「それは聞けない」
『……え?』
「このままやれば、止められる」
視線は逸らさない。
「でも」
一拍。
「中にいるラウラは、どうなる?」
『……』
答えはない。
「だったら」
一夏が構える。
「やることは一つだ」
救う。
ただ、それだけ。
――その時。
「……助けたいの?」
耳元で、囁き。
「……っ」
一夏の動きが止まる。
(また、か……)
だが。
いつもと違う。
「委ねなさい」ではない。
問いかけ。
「……あぁ」
迷いはなかった。
「助けたい」
即答。
「なら――」
優しく、囁く。
「力を貸してあげる……あなたの思うままに」
次の瞬間。
指輪が淡く光る。
痣が伸びる。
だが――
「……?」
痛みが、ない。
これまでとは違う。
侵食ではない。
“調和”するような感覚。
「……いける」
一夏が静かに息を吐く。
構え。
居合。
「シャルル」
『……うん』
短い理解。
『援護する』
「頼む」
「……」
目の前の異形。
その佇まいは、ただ静かだった。
だが次の瞬間。
「――っ!」
振り下ろされる。
斬撃。
速い、重い、無駄がない。
「……!」
一夏が咄嗟に回避する。
(能力は……ない?)
AICの拘束は来ない。
射撃もない。
ただ。
「斬る」
それだけ。
「くっ……!」
再び斬撃。
連続。
一切の迷いがない。
「防ぐ」か「斬る」か。
それ以外の選択肢が存在しない動き。
「単純……だけど!」
シャルルの声。
『重い……!』
射撃を当てる。
だが。
弾く。
装甲が変質し、防御に特化した形へと瞬時に変わる。
「攻撃に合わせて……防御を変えてる……!」
『完全に反応型だ……!』
「なら!」
一夏が踏み込む。
正面から。
「はぁっ!!」
斬撃。
受け止められる。
「……っ!」
反撃。
即座に振り返される刃。
「ぐっ!」
一夏が弾かれる。
「重すぎる……!」
「でも――」
シャルルが続ける。
『“それしかできない”』
「……ああ」
一夏が頷く。
(読みやすい)
単純な行動。
だからこそ。
「崩せる!」
「シャルル!」
『了解!』
弾幕。
連続射撃。
意識を分散させる。
その隙に。
「――旋風(つむじかぜ)!」
回転。
連撃。
渦を巻く斬撃が、装甲を削る。
「……っ!」
だが止まらない。
即座に反撃。
「ちっ!」
回避。
距離を取る。
「止まらねぇな……!」
「なら、止めるしかない」
再接近。
今度は接触狙い。
「――雷鳴(らいめい)!」
電流。
「ッ……!」
一瞬だけ、動きが止まる。
「今だ!」
シャルルの集中砲火。
「まだ足りない……!」
一夏が息を整える。
(これじゃ浅い)
(もっと深く、切り込む)
視線を上げる。
「……終わらせる」
静かに言う。
全身に力を込める。
スタミナを、全て解放。
「――晴天流」
踏み込み。
空気が裂ける。
「疾風(はやかぜ)」
一瞬で距離を消す。
異形が反応する。
防御形態へ移行。
だが――
「遅い」
抜刀。
斬撃。
防御ごと――断つ。
「――っ!!」
衝撃。
風が爆ぜる。
装甲が裂ける。
貫通。
内部へ。
「はああああああああ!!」
全てを込めた一撃。
そして。
静寂。
一夏の身体が崩れる。
「……はぁ……っ」
スタミナ、ゼロ。
完全な隙。
だが。
目の前。
崩れ落ちる異形。
装甲が剥がれ落ちる。
中から。
「……っ」
ラウラの身体が現れる。
落下。
一夏が、腕を伸ばす。
受け止める。
「……」
静かな呼吸。
ラウラは、気を失っていた。
その表情は――
穏やかだった。
「……ったく」
一夏が小さく笑う。
「やっと止まったかよ」
静かに、抱き支える。
その戦いは。
“勝利”ではなく――
“救済”で終わった。