インフィニット・ストラトス 〜愛のシナリオ〜   作:ぬっく~

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第三十二話 救いの一閃

「……」

 

目の前の光景を見て。

 

一夏が最初に抱いた感情は――

 

怒りでも、驚きでもなかった。

 

「……哀れだな」

 

ぽつり、と零れる。

 

織斑千冬。

 

世界中のIS操縦者が認める存在。

 

憧れ、目標、超えるべき壁。

 

だが――

 

「……なれねぇよ」

 

一夏は静かに言う。

 

「どれだけ似せても」

 

「どれだけ形を変えても」

 

「それは……偽物だ」

 

目の前の“それ”は。

 

ただの模倣。

 

歪んだ願望の産物。

 

「……っ」

 

シャルルの声が通信に入る。

 

『一夏、下がって!』

 

『試合は中止になった!』

 

『もう続ける意味は――』

 

「悪い」

 

一夏は短く返す。

 

「それは聞けない」

 

『……え?』

 

「このままやれば、止められる」

 

視線は逸らさない。

 

「でも」

 

一拍。

 

「中にいるラウラは、どうなる?」

 

『……』

 

答えはない。

 

「だったら」

 

一夏が構える。

 

「やることは一つだ」

 

救う。

 

ただ、それだけ。

 

――その時。

 

「……助けたいの?」

 

耳元で、囁き。

 

「……っ」

 

一夏の動きが止まる。

 

(また、か……)

 

だが。

 

いつもと違う。

 

「委ねなさい」ではない。

 

問いかけ。

 

「……あぁ」

 

迷いはなかった。

 

「助けたい」

 

即答。

 

「なら――」

 

優しく、囁く。

 

「力を貸してあげる……あなたの思うままに」

 

次の瞬間。

 

指輪が淡く光る。

 

痣が伸びる。

 

だが――

 

「……?」

 

痛みが、ない。

 

これまでとは違う。

 

侵食ではない。

 

“調和”するような感覚。

 

「……いける」

 

一夏が静かに息を吐く。

 

構え。

 

居合。

 

「シャルル」

 

『……うん』

 

短い理解。

 

『援護する』

 

「頼む」

 

「……」

 

目の前の異形。

 

その佇まいは、ただ静かだった。

 

だが次の瞬間。

 

「――っ!」

 

振り下ろされる。

 

斬撃。

 

速い、重い、無駄がない。

 

「……!」

 

一夏が咄嗟に回避する。

 

(能力は……ない?)

 

AICの拘束は来ない。

 

射撃もない。

 

ただ。

 

「斬る」

 

それだけ。

 

「くっ……!」

 

再び斬撃。

 

連続。

 

一切の迷いがない。

 

「防ぐ」か「斬る」か。

 

それ以外の選択肢が存在しない動き。

 

「単純……だけど!」

 

シャルルの声。

 

『重い……!』

 

射撃を当てる。

 

だが。

 

弾く。

 

装甲が変質し、防御に特化した形へと瞬時に変わる。

 

「攻撃に合わせて……防御を変えてる……!」

 

『完全に反応型だ……!』

 

「なら!」

 

一夏が踏み込む。

 

正面から。

 

「はぁっ!!」

 

斬撃。

 

受け止められる。

 

「……っ!」

 

反撃。

 

即座に振り返される刃。

 

「ぐっ!」

 

一夏が弾かれる。

 

「重すぎる……!」

 

「でも――」

 

シャルルが続ける。

 

『“それしかできない”』

 

「……ああ」

 

一夏が頷く。

 

(読みやすい)

 

単純な行動。

 

だからこそ。

 

「崩せる!」

 

「シャルル!」

 

『了解!』

 

弾幕。

 

連続射撃。

 

意識を分散させる。

 

その隙に。

 

「――旋風(つむじかぜ)!」

 

回転。

 

連撃。

 

渦を巻く斬撃が、装甲を削る。

 

「……っ!」

 

だが止まらない。

 

即座に反撃。

 

「ちっ!」

 

回避。

 

距離を取る。

 

「止まらねぇな……!」

 

「なら、止めるしかない」

 

再接近。

 

今度は接触狙い。

 

「――雷鳴(らいめい)!」

 

電流。

 

「ッ……!」

 

一瞬だけ、動きが止まる。

 

「今だ!」

 

シャルルの集中砲火。

 

「まだ足りない……!」

 

一夏が息を整える。

 

(これじゃ浅い)

 

(もっと深く、切り込む)

 

視線を上げる。

 

「……終わらせる」

 

静かに言う。

 

全身に力を込める。

 

スタミナを、全て解放。

 

「――晴天流」

 

踏み込み。

 

空気が裂ける。

 

「疾風(はやかぜ)」

 

一瞬で距離を消す。

 

異形が反応する。

 

防御形態へ移行。

 

だが――

 

「遅い」

 

抜刀。

 

斬撃。

 

防御ごと――断つ。

 

「――っ!!」

 

衝撃。

 

風が爆ぜる。

 

装甲が裂ける。

 

貫通。

 

内部へ。

 

「はああああああああ!!」

 

全てを込めた一撃。

 

そして。

 

静寂。

 

一夏の身体が崩れる。

 

「……はぁ……っ」

 

スタミナ、ゼロ。

 

完全な隙。

 

だが。

 

目の前。

 

崩れ落ちる異形。

 

装甲が剥がれ落ちる。

 

中から。

 

「……っ」

 

ラウラの身体が現れる。

 

落下。

 

一夏が、腕を伸ばす。

 

受け止める。

 

「……」

 

静かな呼吸。

 

ラウラは、気を失っていた。

 

その表情は――

 

穏やかだった。

 

「……ったく」

 

一夏が小さく笑う。

 

「やっと止まったかよ」

 

静かに、抱き支える。

 

その戦いは。

 

“勝利”ではなく――

 

“救済”で終わった。

 

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