地雷系彼女(マイ・フェア・レディ)   作:あなたへのレクイエムです

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サマエルの踊り(レッドスネーク・カモン)
 操作系。蛇の大群を一本の鞭として結合して制御する。
 複雑な制御が可能になるが、蛇の保持力自体は弱い。とはいえ蛇さえいれば即座に復旧可能。

ナーガの滅び(イエロースネーク・カモン)
 強化系。黄金蛇の短刀での刺突。刀身および塗布された毒が強化されている。
 オーラを毒に変化させる事はできなかった。

ウアジェトの守り(グリーンスネーク・カモン)
 操作系。蛇の大群を使役して簡単な命令を下す。
 収納用の放出系念空間も組み合わされている複雑で制御困難な(ハツ)
 催眠ガス+アナフィラキシーショックの即死コンボはルールで禁止スよね。



22.ニジ × ト × ヒイロ

「まあ、実際、そう怒ってるわけじゃあないんだよ」

 

 

 俺はにこにこと微笑みながら、努めて静かにおだやかに、諭すように語った。

 

 

「試験中の妨害については別に良いんだ。

 ハンター試験はそういうものだし、それを切り抜けられないようなら合格してもどうせ死ぬ。

 試験合格が終わりじゃない。ハンターは肉体的にも精神的にも強くなけりゃあいけない。

 妨害を受けて心が折れて脱落した。それは悲しい事だけども仕方の無い事だ。

 君たちがやった事についても、うん、怒っているわけじゃあない」

 

 

 俺の目の前にはおそらくはクラピカ達によって「エサは与えないでください」と書かれた札に縛り付けられたトンパ。

 そして推定キルアに打ちのめされ、ナンバープレートを奪われたアモリ・イモリ・ウモリの三兄弟がいる。

 どうしてか、俺はこんなに落ち着いて喋っているのに、彼らの顔から血の気が引いている。

 試験に不合格になる事がそんなにもショックだったのだろうか。

 

 

「ただね。

 君ら、()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()だろう。

 それはまあ、よろしくない。

 何故なら彼は俺の同僚の親戚で、同僚はうちの契約社員で、()()()()()だからだ。

 もちろん、こんな他愛のない事でウチの名前を持ち出してどうこうなんて事はしない。

 当たり前だ。その辺の映画に出てくるような連中と一緒にしないでくれよ?

 ニコルくんが笑い飛ばしてくれたなら、それで済んだ事なんだよ。

 でも、それはできなかった。彼は深く傷ついてしまった。

 悲しいし、残念なことだ。

 だからそうなると、俺としては直接君たちと話さなきゃいけなくなるんだ。

 ()()()のないように。試験とは関係ないところでね」

 

 

 残り一時間の帰還猶予時間。

 船の汽笛と共にアナウンスされたそれを聞いてから、俺は彼らとこうして話している。

 だってこれは試験とは関係のない事で、俺も彼らの試験を邪魔する意図はないからだ。

 もし彼らが合格していたら、俺だって最終試験が終わるまで話すつもりもなかった。

 だから自分の分のプレートを集めた後は、ずっと彼らを探していた。

 無事に見つけた時には、彼らはご覧の有様でプレートを失っていたわけだけれど。

 

 

「ニコルくんは来年、また頑張って再受験をするかもしれない。

 もしくはハンター協会に事務員として就職するかもしれない。

 君たちが今後もハンター試験を受験するなら、また会う事もあるだろう。

 そうでなくたって社会に出れば、どこかで君たちと出会う可能性はあるよね。

 そうなった時にね、君たちがまた彼に()()()()()()()()()をするのは、失礼な事だ。

 とてもとても、失礼な事だと思うんだ。そうだろう?

 社会人の先輩として、きちんとした振る舞いを期待したいんだよ。

 わかってくれると思うんだが」

 

 

 ──()()()()

 

 

 俺がそう確認すると、全員がぶんぶんと首を縦に上下させてくれた。

 俺としても、こうして円満に解決できるのは何よりの事だ。

 

 目線を合わせるためにしゃがみこんでいた俺は、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「じゃあ、俺は船に行くから、君たちも遅れないように。

 ナンバープレートが無いんだろう? 回収されずに島に取り残されたら大変だ」

 

 

 それじゃあと一言告げて、俺は上陸地点でもある帰還地点に向かって歩き出した。

 ……ああ、そうだ。

 一つ言い忘れた事を思い出し、俺は途中で立ち止まり、振り返る。

 びくりと四人が体を震わせるのがわかった。

 

 

「来年以降、もしかしたらまた()()から受験生が来ると思うからさ。

 もし会ったら、その時はよろしく頼むよ」

 

 

 言うべき事を伝えた俺は、そのまま今度は振り返る事なく、今度こそ上陸地点へと向かった。

 トンパ達のことだ。来年も諦めず、新人潰しをするだろう。

 それは別に構わないし、他人の趣味をとやかく言える立場じゃあない。

 だからあとはまあ、俺にはどうにもできない事だった。

 

 というか最終試験直前まで来れたんだから、真面目にやればライセンス取れるんじゃないか。

 原作の来年度試験は、今年で言えばヒソカが最初の地下トンネルで全員殴り倒してボク最強してライセンス貰ってったようなマナー違反なわけだし。

 ハンター協会はちゃんと試験やって。あとゾルディック家の躾はどうなってるんだよ躾は。

 ハンター試験もゾルディック家もルール無用だろ? やっぱ怖いッスねこの世界は。

 

 そんな事を考えながら歩き出した俺は、ふと近くの茂みを見て言った。

 

 

「とりあえず試験に関係ないことなんで、終わってからやったんですけど、問題ないですよね?」

 

 

 返事はない。

 

 だがそこにはハンター協会から送り込まれた、俺担当の試験官が監視についているはずだ。

 なんとなくだがプレートを失ったら回収されないというのも、欺瞞情報じゃないかと思う。

 少なくとも四次試験まで残った受験生は見込みアリで、協会側も見捨てたら損なのでは。

 まあ、だから俺のやり取りも結局は何の意味もない。脅しですらない、と思うのだが……。

 

 

「…………」

 

 

 何も言われないということは、たぶん問題ないか、もう既に赤点が入ったかのどちらかだ。

 俺は苦笑しながら肩を竦めて、そのまま海岸に向かっての移動を再開する。

 

 

 ――そういえば、合格者用の迎えの便は飛行船だったっけ?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 上陸地点が見えてくると、磯の香りに混じって、聞き慣れた騒がしい声が届いてきた。

 木々の間を抜けて開けた砂浜に出れば、そこには既に試験を終えた連中の姿がある。

 

 真っ先に飛び込んできたのは、無駄に姿勢良く腕を組んで立っている、ツルツルの後頭部。

 それが俺の足音を聞き取ったのか、くるりと振り返る。

 

 

「おい、遅かったじゃねえかアンドー!

 まさかギリギリまでプレートを揃えられなかったなんて言わねえだろうな?」

 

「揃えた前提で言ってくれるのは嬉しいな。ちょっと知り合いと話し込んでただけだよ」

 

 

 俺が苦笑しながら手を振ると、ハンゾーの隣にいた影が、弾かれたようにこちらを向いた。

 

 トレードマークの大きな黄色い帽子。

 顔色は青白く、見るからに憔悴しきっている。

 だけど数日前の夜に別れた時よりも、その表情は幾分か凛として見えた。

 

 

「……アンドー、くん」

 

「よう、ポンズ。……その顔を見る限り、わざわざ聞く必要もなさそうだな」

 

 

 俺の言葉に、ポンズは一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 それから、大切に握りしめていたであろうプレート──自分の『246』と、奪い取った『103』を、俺に見せるように掲げてみせた。

 

 

「……うん。守りきったよ。自分の力で、ちゃんと」

 

 

 少しだけ鼻にかかったその声は、まだ微かに震えていた。

 

 

「……見て。6点分、ちゃんとあるから」

 

「俺もな。あの後逃げ回った甲斐があったよ」

 

「もちろん俺もだぜ!

 へへ、ちょーっと確保するのに手間取っちまったがな。

 この俺の忍者動体視力を駆使すれば赤子の手を捻るが如しよ……!」

 

 

 俺が答え、ハンゾーも得意げに言う。

 てことはキルアが投げたナンバープレートのキャッチ、ハンゾーは失敗しなかったのだろうか。

 何にせよ良いことだ。三人揃って最終試験に進める。

 

 そこでようやく、ポンズの表情がふにゃりと、柔らかく緩んだ。

 

 俺達がそうして互いの健闘と試験突破を確かめ合っている間も、三々五々、ナンバープレートを集めた者、失った者が集まってくる。

 キルア、ヒソカやボドロ、ポックル、それにギタラクルと、原作の最終試験参加組と面子は変わっていない。

 イレギュラーは俺とポンズだけだ。

 

 やがてキルアがぴくりと顔を上げて、森の奥を見てニヤリと笑みを浮かべる。

 現れたのはゴン、クラピカ、レオリオの三人組。

 表情を見る限り、は──……。

 

 

(──……プレートは無事集まった、みたいだな)

 

 

 ポンズのナンバープレートを手に入れられなかった分、他で1点のナンバープレートを集めたのだろうか。

 ハンゾーは原作では他のプレートで補っていたが、今回はターゲットのプレートを確保しているので、その辺りでレオリオの確保したプレートが多少入れ替わったのかもしれない。

 まあ、こればかりはもう、俺には確かめようのない事だ。

 

 

(……うん?)

 

 

 ふとした違和感。

 クラピカが、鋭い目線を俺の方へと向けてきている。

 何かそんな、注目されるような事をしただろうか。

 

 島の中で遭遇した覚えはないんだが……。

 

 

「……お」

 

 

 そんな事を考えていると、不意に誰かが声を上げた。

 見ると青空、微かなエンジンの音を彼方から響かせて、二次試験の後にも乗り込んだ飛行船が此方に近づいてくる。

 

 四次試験は終了。

 

 そうなると、いよいよ次は……。

 

 

「最終試験か……」

 

「へっ、どんな試験だろうと此処まで来たんだ。俺達の敵じゃあねえぜ」

 

「どんな内容なんだろうね……」

 

「うむ……」

 

 

 迫り来る最後の試験を前に、気運を上げる受験生たち。

 だがしかしただ一人、老練な武道家ボドロだけが重々しく、深刻な様子でその口を開いた。

 

 

「……これまでの中で、未だ、試されていないものがある。

 ハンターとして必要な知識の数々……即ち、ペーパーテストッ!!

 

「えっ♠」

 

 

 その時、受験生たちに電流走る。

 

 そうかな……そうかも……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「そうだ! この飛行船、たしか図書室があったはずだ!」

 

「なにっ」 「でかした!」 「勉強だ勉強をするぞ!」 「テストに出るよお……!」

 

「……などと何の根拠もないテキトーな事を言ってしまったが……まあヨシ!」

 

「なぁんだ……♣」

 

 

 

 ────ヨシ!

 

 

(あれで存外ボドロさんも愉快な人ではあるんだよな)

 

 原作ではほとんどセリフも出番も無かった人ではあったけれど。

 彼に対しての思い入れは無いに等しいが、この歳まで生きて武芸に励み、そしてハンター試験に挑むだけの理由と気概を持った人で、その背景には彼なりの人生があったに違いない。

 

 飛行船の図書室へとなだれ込む受験生たちの背中を見送りながら、俺は一人、船内後方のランドリールームへと足を向けた。

 トリックタワーで一応は洗濯もしたとはいえ、その後のゼビル島でのサバイバルは一週間だ。

 おまけにスパーやバーボンとの戦闘。泥にまみれたこのスーツのままでは、ネオンに見られた時に格好がつかない。

 

 そう、トリックタワーで最後にネオンの声を聞いてから、一週間以上。

 やはり今日も、ネオンからの『浸液標本の愛(プライベート・アイ)』が繋がる様子はない。

 こんなにも長い間、一度もネオンの声を聞かないなんて、彼女と出会ってからこれまでにあっただろうか?

 

 

(寂しい──ってのは自覚したけど。寂しいだけっていうのとも、またちょっと違うな……)

 

 

 なんと言うべきか、あるべきはずのものがないというか。そんな感覚だ。

 

 

 無人のランドリー。乾燥機の低く重い回転音だけが響く室内。

 俺は上着を脱ぎ、肩の破れた箇所を指でなぞる。

 ネオンが特注で誂えさせたオーダーメイドの黒いスーツだ。

 

 マナーが紳士を作る(Manners maketh man)

 これは前世で俺が見たことのある映画のセリフで、昔の偉い学者のモットーだともいう。

 まさしく、だ。

 俺はこのスーツにふさわしい人間になろうとしているし、スーツを与えてくれた彼女にふさわしくなりたいと思っている。

 その成果はといえば、ただの雑貨屋の息子が、今ではノストラード・ファミリーの護衛団の一人。

 格言の正しさを証明する証拠としては、十分だろう。

 

 狂人の真似をする者は狂人だし、チンピラらしい振る舞いをする者はチンピラにしかなれない。

 当人達の自認がどうあれ、幻影旅団はどうあがいたって幻影旅団に過ぎず、決して清掃戦隊カタヅケンジャーではないように。

 クロロ達は見習うべきだったんだ。

 ハンターになりたいからハンターのような装いをして旅をする事にした、シーラを。

 

 だから俺もネオンにいつ見られても良いように、いつ見られても良い振る舞い、いつ見られても良い生き様(スタイル)を心がけている。

 

 ……つもりでは、いる。

 

 

(これなら修繕もできるな……)

 

 

 上等な生地、上等な仕立て。ネオンにもこの服を仕立ててくれたテイラーにも感謝だ。

 とはいえ、さしあたっては洗濯をしなければならない。

 俺は洗剤に手を伸ばした。

 

 

「……見ての通り、洗濯をしたいんだ。用があるなら、後にしてくれないか」

 

 

 気づかないほど、俺は鈍感じゃあない。

 

 不自然なほど静まり返った空気──殺意──敵意──その一歩手前まで高まった、圧。

 ランドリールームの入り口。いつの間にかそこに立った影は、怒りとも、悲しみともつかない、形容しがたい熱を帯びた視線を俺の背中に突き刺していた。

 

 隠す気もないらしい。俺は息を吐いて、ゆっくりと振り返る。

 

 

「順番待ちなら別に良いけど、洗濯機なら他にもあるだろう?」

 

「ゼビル島で、貴様の左眼を見た」

 

 

 振り返ると、そこには刃のような鋭さを纏ったクラピカの姿があった。

 その両手には、試験中も携えていた、革紐で繋がれた二振りの木刀。

 クラピカの呼吸は深く、重い。平静を保とうとしているのは、わかった。

 だがその瞳は既に平時の色を失い、薄らと、だが確実な意思を持って赤く染まり始めている。

 それは俺ですら思わずハッと息を呑むほどに美しい──()()()

 かつて見た贋作とは、まるで違う。

 

 ──ネオンがこれを見たら、大変だな。

 

 思わず笑いそうになった俺の表情を、クラピカはどう受け取ったのだろうか。

 隠しても無駄だと、その緋色の瞳が俺に突き刺さる。

 

 

「あれは……クルタ族の緋の眼に酷似していた。貴様はクルタ族か?」

 

「違うね。生まれも育ちもサヘルタ合衆国だ。

 まあ移民の多い国だから、先祖にいたかもしれないけど、俺は知らない」

 

「……ではなぜ、その目を貴様が持っている」

 

「俺のこれは生まれつきだよ」

 

「……それを信じるとでも思っているのか?」

 

「……結論ありきで聞かれてもな、とは思ってるかな」

 

 

 実際、この会話にほとんど意味はないだろう。

 単純に互いが互いの隙を伺っているだけだ。

 

 返事のかわりに、クラピカが踏み込んだ。

 狭いランドリールーム。大型の乾燥機が並び、足場も限られた閉鎖空間。

 ヒュン、と空気を切り裂く鋭い音が二つ。二本の木刀が、一閃。

 狭い室内、逃げ場はない。左右からの同時攻撃が、俺の首と脇腹を正確に狙う。

 交差するように振り下ろされた木刀を、俺は紙一重で洗濯機の上に飛び乗り回避。

 身代わりになった洗濯機が大きな破砕音を立ててひしゃげ、中から泡めいた水が噴き出した。

 

 

(これで(ネン)なしだって言うんだから……!)

 

 

 クラピカの踏み込みは、常人のそれを遥かに凌駕していた。

 緋の眼のクルタ族が恐れられるのも納得──クラピカは完全に()()ている。

 

 洗濯機から溢れ出した洗剤の泡が、タイルの床を白く汚していく。

 その泡を躊躇なく踏み越え、クラピカが一気に踏み込んできた。

 

 

「答えろ……! その眼は、誰から奪ったものだッ!」

 

 

 重い。木刀とは思えないほどの一撃が、再び俺の頭上から振り下ろされる。

 俺はそれを横に跳んで躱すが、クラピカは着地を狙い澄ましていた。

 二振りの木刀が、まるで生き物のようにしなり、逃げ場を塞ぐ網となって迫る。

 

 

(逆上すると性格が変わるにも程がある……!)

 

 

 俺は洗濯機の縁を蹴り、クラピカの懐へと潜り込んだ。

 木刀という得物は、至近距離になればその威力を半減させる。

 オーラソードと違って伸び縮みもしなければ、イワレンコフさんのように何処からか武器が飛んできたりもしない。

 ダルツォルネさんの刀のように強化もされておらず、シャッチモーノさんやスクワラさんみたく援軍が現れもしない。

 だが、クラピカの動きは目にも止まらぬほどに速い。リンセンさん並じゃなかろうか。

 クラピカは()()()()()()()()()木刀の柄を交差させ、俺の拳打を強引に受け止めた。

 

 至近距離。

 

 真っ赤に燃え上がる緋の眼と、俺の虹色の瞳が、火花を散らすほどの距離でぶつかり合う。

 クラピカの唇から漏れる「フーッ フーッ」という威嚇するような呼吸が、激しい憎悪と共に俺の顔を打った。

 

 

「貴様も……あの『蜘蛛』と同類か!

 同胞を屠り、その瞳を弄ぶ、おぞましい蒐集家の一味め……ッ!」

 

「否定はできない……なッ!」

 

 

 俺は受け止められた掌を基点に回転させ、クラピカの胸板へ蹴りを叩き込む。

 感触は思いのほか柔らかく、そして軽い。

 クラピカの体がわずかに浮き、背後の乾燥機へと打ち付けられた。

 

 

「……っ、ぐあ……!」

 

 

 しかしクラピカはその衝撃を即座に殺し、獣のような俊敏さで床を蹴る。

 噴き出した洗剤の泡が足元を滑らせるが、その不安定さすら制動の範疇に収めていた。

 

 

「……ならば、死ねッ!!」

 

 

 クラピカの咆哮は、怒りよりも悲鳴に近かった。

 二本の木刀が、狭い室内で円を描く。

 巻かれた布が引きちぎれ──薄暗い中に()()が閃いた。

 

 

(──()()か……!)

 

 

 からんと落ちる鞘の乾いた音。

 かつて見たアニメの記憶がまざまざと蘇るが、感傷に浸っている暇はない。

 一振りの刀がフェイントとして俺の視界を遮り、もう一振りが泡の舞う床スレスレを通って俺の足首を刈りに来る。

 俺は一歩も引かず、むしろ前へ出た。

 ヤバい時は前に出ろというのは、鉄則の一つとして叩き込まれている。

 俺が戦う時、俺の後ろにはネオンがいるのだから。

 

 

「イィヤアッ!!」

 

 

 ランドリールームに金属が擦れるような、あるいは命を削るような鋭い音が響き渡る。

 

 俺とクラピカの予想外の戦いは、このようにして幕を開けたのだった。




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