地雷系彼女(マイ・フェア・レディ) 作:あなたへのレクイエムです
『
『
(編集部からのコメント)ワンダースワンカラー『HUNTERxHUNTER~それぞれの決意~』のゲームについてのご質問には一切お答えできません。特に電話でのご質問はご遠慮下さい。
視界を埋め尽くす乳白色の霧の中を、俺はネオンを抱えたまま駆け抜けていた。
すぐ傍には俺の動きに一糸乱れぬ精度で追随する桃色の髪の少女──レディ。
周囲からは絶え間なく魔獣の咆哮と、それに応戦するダルツォルネさんたちの怒号が響いている。
「しゃあっ オーラソードッ!!」
髭面の男の気合とともに振り抜かれた光の剣が大気を一閃。
切り開かれた霧の向こうに見えるのは、異様な光景だった。
人面猿やオオガキアゲラに混ざって現れるのは、無数の巨大な人影。
筋肉繊維の膨れ上がった青黒い巨体に、各部に埋め込まれたボルト。反面に刻まれた醜い手術痕。
それが──六人。
「「「「「「やああってやるぜええっ!!」」」」」」
異口同音に同じ叫び声を上げてその巨腕を振りかぶり、大地へと叩きつける。
地面が砕けて粉塵が舞い、一打受ければ生身の人間は死ぬと錯覚させるようなその衝撃。
しかしそれ以上に俺に衝撃をもたらしたのは──……。
(マ、
そう、マジタニだ。旅団詐欺でトリックタワーに捕まっていた囚人。見た目だけの男。
だがそのマジタニが六人、十人……いやそれ以上の数、ぞろぞろと霧の中から現れてくれば話は違う。
意味がわからない。なんなんだこれは。こ……こんな事が。こ……こんな事が許されていいのか。
困惑のあまり呆然と立ち尽くす俺をどう見たのか、いやまあ見たままなのだが、ダルツォルネさんが叫ぶ。
「ルモア、手順は変わらん! 行けッ!」
「ボスの安全が最優先です、油断はしないように!」
リンセンさんが怪鳥音と共にマジタニの一体を蹴り倒し、ダルツォルネさんの神字刀が道を切り開く。
強さ自体は然程ではない──だが、ひたすらに数が多い。
おそらくは此処で俺達……正確にいえばネオンとレディを護衛から引き離す敵の作戦だろう。
全員がそれをわかった上で、俺にネオンの事を任せてくれたのだ。
俺は躊躇無く頷いた。
「頼みます!」
俺はネオンを抱き直すと、隣を走るレディに目配せし、一気に山道を駆け下りる。
高所から一望できる光景は、霧が立ち込める港町、まるで巨大な廃墟のようだった。
ひとの気配は無く、ただ怪物が徘徊する、異様な世界……いやさっきの光景も大概だったが。
「静かな丘の街みたいだねえ。ほら、ジョイステのホラーゲーム!」
「もうちょっと女の子らしいゲームのが良くないか……!?」
「だってぇ、マスコットのうさぎが可愛いんだよ?
今日持ってきたのは
あとワンダースワン……カラー!」
血まみれのうさぎを可愛いで済ませて良いのかはともかく、きゃあきゃあと楽しげに俺の首に抱きつくネオンは怯えていない。
なら俺にとってはそれで十分。
やがて俺達は行きに通った、卵の殻を想起させる独特のクレーター、その中心部にある広場へと差し掛かる。
だがその瞬間、一人の青年が軽やかに石畳へと降り立った。
「あーあ、せっかくのバカンスなのに、そんなに急いじゃって。
……もったいないなあ。記念に一枚どうだい?」
青い水夫服に、潮風に焼けた肌。金髪の間から覗く茶色の瞳。
どこか育ちの良さそうな、けれど底の知れない冷たさを湛えた笑みを、彼は浮かべる。
その男が両手を胸の前で合わせた。器用に曲げた親指と人差し指が、四角いフレームを形作る。
「セイ、チーズ……サンドイッチ!!」
俺は反射的に石畳を蹴って、ネオンとレディごと真横に跳んだ。
同時、男の指で作られたフレームから強烈なフラッシュのように、オーラが撃ち出される。
その光が、俺たちの背後にあった巨大な石柱に触れた。
──パシャリ。
場違いなほどに小気味良いシャッター音。
直後、高さ数メートルはあったはずの石柱が、質量ごと虚空へと吸い込まれるように不自然に「薄く」なった。
三次元の奥行きが奪われ、やがて一枚のポラロイド写真がヒラヒラと舞い落ちる。
そこに写るのは──たった今消失した、その石柱だった。
(──写真の中に作り出した念空間に閉じ込める、放出系と具現化系の
着地しながら俺は冷静に分析。どうやら相手も、俺が気づいた事を理解したらしい。
「『
駆けつけるのも速い、撮るのも速い。撮ったものはどこでも持ち運べて、いつでも出せる。
まあヌメーレ湿原からくじら島まで連れてくるのに、アルバムは結構かさばったけどさ」
「またどっかで見たような念能力を……」
エニグマの少年かお前は。いやこの世界だと梟さんの方か。
俺の視線に「そうかな? 結構オリジナリティあると思うけど」などと彼は小首をかしげている。
だが実際、中々に脅威的な
恐らく制約と誓約として、被写体をあの指フレームに収める必要がある。
全身……いや、さっきの石柱は基部も含めて消えている。なら
見切れたとしても問題はないが、普通の写真と同じように『写った』『写っている』と認識される構図でなきゃいけないと見た。
なぜならわざわざ『写真』というモチーフを取る以上、そこにはこだわりがある。
俺が『
(なら、問題は被写体数……)
複数人が一度に写った時、全員まとめて写真にされるのか、あるいは一人だけなのか。
アルバムで持ち込んできたという言動からすると、一枚に対しての限界数はあるはず。
だが単に指フレームに収まる構図の問題かもしれない。迂闊に判断はできない。
俺は目まぐるしく脳内で相手の念能力について探りながら、用心深く声を出す。
「お前が……三銃士の一人か」
「ニーノ。以後お見知りおきを」
ニーノはまるで一端の写真家であるかのように一礼する。
水夫服姿──とすると、船のエンジントラブルもこいつの仕業か。手の込んだ真似を。
「ま、これも仕事でね、悪く思わないでくれよ。
ノストラードファミリーはドン=ガッパイを怒らせすぎた。
オレとしちゃあ可愛い女の子二人を撮影できるっていうのは楽しみだけどね。
双子の美少女姉妹なんてモチーフはめったにないし。
ただ
オレ、ポルノはいけるけど、スナッフ系はジャンル違いなんだよね」
ポルノだのスナッフだの、物騒な単語がニーノの口から滑り出る。
その言葉の意味をどこまで理解しているのか、俺の腕の中でネオンが「むーっ」と不満げに顔を顰めた。
「ねえルモア、この人失礼だよ! 撮影するんなら、ちゃんと許可を取ってからにしてよ。
それに私とレディを撮るのに、そんな安っぽいポラロイド写真なんてありえない!」
ネオンはぷんぷんと怒りながら、ニーノを指差して言い放つ。
危機感の欠如、というよりは、俺への絶対的な信頼。
隣に立つレディもネオンの言葉に合わせるように、無機質な、けれどどこか威嚇するような視線をニーノへと向けた。
「うん、挑発的で良い顔だね、双子ちゃん。
片方が桃色で、片方が水色の髪。うん、カラーバランスも最高だ。
真ん中に男が挟まってるのが減点だけど……いい絵が撮れそうだよ」
ニーノの指が、再び四角いフレームを形作る。
その中心、何もないはずの空間に、オーラが凝縮して発光するのを感じる。
カメラのレンズ代わりといったところか。禍々しい瞳の形。
そのレンズが俺たちを捉えた瞬間、本能が警鐘を鳴らす。
──来るッ!
「セイ、チーズ……!!」
放たれる、文字通りフラッシュのようなオーラの奔流。
俺はネオンを抱えたまま、レディの手を引いて前方へと突っ込んだ。
銃と同じだ。現状見る限り相手の攻撃は直線のみ。防御困難。なら射線を避けるのが最適。
左右に逃げれば、フレームの可動域で追われる。ならば咄嗟に反応できない、銃身──フレームの下へ。
「おっと、アクティブな被写体だねぇ!」
ニーノは軽やかにバックステップを踏みながら、次々とシャッターを切るように指を動かした。
パシャパシャと無機質な音が響く度、俺の足元のタイルや傍らの街灯が、二次元の紙切れへと変えられていく。
「イィヤアッ!!」
「おっと……!」
ネオンを抱えたまま一気に踏み込んだ俺が、自由になる足を振り上げて蹴りを繰り出す。
ニーノは咄嗟に指フレームを解き、大きく上体を反らしてこれを回避。
だが同時に奴はポケットの中から、何枚もの写真を引っ張り出していた。
「こういう事もできるんだぜ!」
ニーノの手でビリビリに破かれ、ばら撒かれるポラロイド写真。
次の瞬間、その内側から石や瓦礫が俺目掛けて礫の如く飛び出した。
「マジで使い勝手いいな、その能力……!」
俺はネオンを抱き上げたまま、その場でダンスを踊るようにターン。
勢いを乗せた後ろ回し蹴りで瓦礫を蹴りつけ、弾き飛ばす。
破片の一つだってネオンには届かせない。レディにもだ。
けれどその大ぶりの動き、生まれた隙、シャッターチャンスをニーノは逃さない。
「いただきだ……!」
「レディ!」
俺の声と同時に、レディが動いた。
瞬く閃光を、レディが投じた白い布──ネオンが彼女に持たせたスカーフが覆い隠す。
シャッター音と共に写真へ収められたのはそのスカーフだけ。
はらりと舞い落ちるポラロイド写真を横目に、俺は断定する。
(やっぱり、基本は銃と同じ……貫通を考慮しないで良い分、有効なのは回避じゃなくて防御!)
ニーノの『
フレームを何かで覆われてしまえば、撮影されるのはその遮蔽物。
何処までいってもカメラと同じ。
舞い落ちたスカーフ写真を苦々しげに見つめたニーノは、すぐに視線を俺たちへと戻した。
指で作ったフレームの奥、レンズのように凝縮されたオーラが、じりじりと揺れる。
「……なるほどね。良い連携だ。双子の絆ってやつかな?」
「良かったな、褒められてるぞレディ」
これでやつの能力は、大体わかった。これなら、問題はない。
俺はネオンを抱えたまま、一歩、また一歩と間合いを詰める。
ネオンは俺の首に腕を回したまま、ひらひらと舞うスカーフの写真を見て「あ、私のスカーフ!」と声をあげた。
「ルモア、あれ取り返して! お気に入りなの! レディに貸してあげたやつなのに!」
「了解……!」
俺は写真を追うようにネオンを抱き上げたまま飛び出し、その後をレディが追う。
ニーノが「よく動く……!」と呻くが、問題ない。女の子は羽のように軽いのだ。
フレームを作った奴の指先が、迷うように揺れ動く。
「くそっ どうせなら二人いっぺんに撮りたかったんだけど……。
まあ良いか。一人ずつでもガッパイからの撮影料は出る……!」
ニーノがレンズをレディへと向ける。
──だいぶ前に、俺はレディに自分を守らせる事ができるのか、と考えた事がある。
結論から言えば答えはNoだ。
俺にとってレディは桃色の髪をした、
だから俺はレディも守りたいと思うし、少なくともレディを平気で犠牲にするような男では在りたくないと思う。
ただ、レディにネオンを守らせる事はできる。
俺にとっても、レディにとっても、ネオンは大切な女の子だから。
その上で……抜け道ですらない、至極当たり前の事実として、ひとつ。
『
「セイ、チーズ……!!」
その瞬間、レディは避けなかった。
避けるどころか自らその指フレームの中心──
閃光。シャッター音。そして……レディの肌の下で、ドロリとした呪詛の黒い血管が脈打つ。
──爆発。
ニーノのフラッシュを塗り潰すかのような眩い光と衝撃。だが、それは物理的なものでは決してない。
噴き上がるピンク色の煙が白い霧と混じり合って立ち込め、何もかも覆い隠していく中で、ネオン=ノストラードを害そうとした許されざる存在の悲鳴があがった。
「っ、が、ああああああッ!?」
至近距離での炸裂。
恐るべき波動の直撃を受けたニーノが、叫び声をあげてひっくり返る。
彼の指で作られていたフレームは容易く崩れ、レンズを形作っていたオーラ……いや、ニーノの全身から溢れていたオーラが、まるで火が消えるように一瞬で霧散した。
「な、んだ……これ……オーラが、出な……ッ!?」
ガクガクと震え、虚空を掴もうとするニーノの手。
だが幾らオーラを練ろうとしても、彼の踏んだ
強制的な
念能力者にとって、これ以上に致命的な事はないだろう。
「よ、っと」
俺は風に飛ばされていたスカーフの写真を掴み、そしてもう一枚、ひらりと舞う写真を確保。
そこには虚空に浮かぶ、レディの
こればっかりは余人に見せられないし、渡すわけにもいかない。
なにせレディの下着だってこの中には収まっているんだ。
俺はスカーフの写真を破り、中からスカーフを取り出すと、ネオンに渡した。
彼女は「ありがと」と受け取りながらも、にこにこと上機嫌で俺の首に抱きつく。
「久々に見たけど、レディの爆発ってやっぱり派手で綺麗だよね。どっかぁんって。
色もピンクで可愛いし……あの人も、もうどうしようもなくなっちゃったみたいだし」
くすくすと喉奥で鈴を転がすような可愛らしい笑い声には、無邪気な残酷さが滲んでいた。
ネオン=ノストラードは、自分の興味がないものに対してはとことん無関心になる。
彼女はきっと、このニーノがこの後どんな末路を辿ろうと、まったく気にもとめやしないだろう。
もし聞いたとしても「うわー、かわいそ」とか一言で済ませて、あっさり忘れてしまうに違いない。
彼女にとってもっと重要な事が世の中にはたくさんあるからだ。
ファッションとか、ゲームとか、9月のオークションのこととか、人体標本のこととか。
俺は石畳の上に這いつくばるようになった、無様なニーノの姿を見下ろした。
どれほどの絶望感だろう?
練り上げようとしたオーラは指先から出る前に霧散し、自慢のレンズも作り出す事はできない。
個人的な感想として言わせてもらえば、
絶望してる暇なんてあの試験中、一度もなかったし。
「……あ……、ああ……」
ただの人間、あるいはそれ以下の無力な肉塊。
念能力という万能の力を奪われたニーノにとって、今の世界はあまりにも冷たく、重い。
俺はネオンを左腕一本で支えながら、ゆっくりと彼に歩み寄った。
「な、何をした……!? オレに……何をする、つもりだ!?」
「まさか、何もされないと思ってたわけじゃないだろう?」
俺は空いている右手をニーノの首元へと伸ばした。
彼は「ひっ」と短い悲鳴を上げて身を縮めたが、俺は構わずその細い首を無造作に掴み上げ、絞め上げる。
じたばたと一瞬藻掻いたが、あっという間に彼は意識を失い、ぐたりとその体から力が抜け落ちる。
殺すのは簡単だ。首の骨を折ったって良いくらいだ。
このままもう少し絞め続けて脳への酸素供給を遮断すれば、念能力者としても再起不能になるだろう。
だが、俺はそれをしなかった。
(……便利過ぎるからなぁ、こいつの能力)
そりゃあクロロだって梟さんの念能力欲しくなる……いや持ち帰ったのは旅団だったっけな。
でも最終的に盗んでるんだから、まあ結果的には一緒。
……一緒っていう意味だとクロロとやる事同じなのか。いやだなあ。すごくいやだ。
「うっわ、ルモアすごくいやそーな顔してる」
「そうか?」
「そうだよ」
そして、ネオンは俺の頬に手を添えると、ぐいっと自分の顔を近づけてくる。
「ねえ、ルモア。ちょっとじっとしてて」
「……はいはい。あんまり時間かけられないぞ?」
ネオンの指先が、俺の左のまぶたを優しく、けれど強引に押し上げる。
霧を透かして届くわずかな光を吸い込んできらめく、俺の左眼──虹色に輝くオパールの瞳。
それがネオンのエメラルド色の瞳に映り込み、きらきらと輝いていた。
「んふふ……。やっぱり、この色が一番好き。
さっきのカメラの光より、ずっと、ずーっと綺麗……」
ネオンの瞳がうっとりと潤み、俺の眼球を舐めるように視線を注ぐ。
彼女にとっては今しがたの戦いも、こうしてコレクションを眺めることに比べればどうでも良いに違いない。
俺はされるがままに鑑賞されながら、苦笑い。
「……ネオン、ダルツォルネさんに連絡して良いか?」
「しーっ。静かにして。今、色が変わるところなんだから。
……あ、今の赤、すっごく鮮やか。
ルモア、今ちょっと怒ってる? それともドキドキしてる?」
「別に感情で色が変わるわけじゃないよ」
「そっかなあ?」
覗き込む彼女の鼻先が俺の鼻と触れ合う。そりゃあドキドキはするさ。しないわけがない。
虹彩の奥で渦巻く色彩の乱舞を、ネオンは宝石を見つめる女の子のような、無垢さと狂気を混ぜ合わせた目で見つめ続けている。
彼女の瞳に映る俺の瞳は、俺の心拍に合わせるように、青から紫、そして熱を帯びた朱色へと変幻自在にその色調を変えていた。
でも別に緋の眼じゃないんだから、単にこの霧と光の入り方、ネオンの瞳との反射のせいだろう。
「まだかかりそうか?」
「んー、まだ足りないけど。……まあ、いいよ。続きはホテルでね」
パッと顔を離したネオンは、満足げに俺の胸をポンと叩いた。
その豹変ぶりに、俺は深い溜息をつくことしかできない。
女の子の機嫌と気分は乱高下するし、くるくると簡単に表裏が返るものだ。
十年以上傍で過ごしていても予測がつかない。慣れるだけで。
俺は少し呼吸を整えてから、耳のインカムを叩いた。
キリヒトノセガメの放つ霧は電波障害を起こすから、通じると良いのだけれど。
「ダルツォルネさん、聞こえますか? ボスは無事です。
あと三銃士を一人……まあ自称ですが、確保しました」
『そうか。こちらも問題はない。敵の……戦闘員と呼ぶべきか。おおよそは片付けた』
インカムの向こうから雑音混じりに聞こえるダルツォルネさんの声は冷静そのもの。
淡々としていて、息一つ上がった気配がない。流石だなと、つくづく思う。
しかし戦闘員。戦闘員か。ホントなんなんだろうな。
「……その、えーと、戦闘員、結局何なんです?
しまったな、気絶させる前にガッパイの居場所共々吐かせるべきでした」
『問題ない。そっちはスクワラとシャッチモーノが既に把握している』
聞けば二人……というより正確にはゴンとキルアが、残り二人の三銃士を片付けたらしい。
倒されたそいつらをシャッチモーノさん達が確保、拘束、絞り上げて全部吐かせたようだ。
うーん流石だ。
こういう事を卒無くこなせるようになりたいものだ。
『ガッパイの部下の中に、ドーナルとかいうイカれた科学者がいたらしい。
そいつが超長期刑囚の複製体を元にして合成生物を作って、量産したようだ』
「りょ、
俺は戦慄した。人類の行いに恐怖もした。
よりにもよって。何故マジタニ。意味がわからない。
こ……こんな事が。こ……こんな事が許されていいのか。
ダルツォルネさんが『知っているのか?』と聞いてきたので「よくわからん詐欺師です」と伝えておいた。
一瞬インカムの向こうで沈黙したのは、ダルツォルネさんも意味がわからなかったからだろう。たぶん。
俺もわかんないよ。量産するならジョネスとかじゃないの? いやでもマジタニの方が制御しやすいのか? けどこいつ見せ筋だしな……。
科学者って怖い。頭がおかしくなりそうだ。
「……てことは、まだまだ沢山いるんですか、その……マジタニは」
『いや、スナカのルートが壊滅した時、一緒にドーナルも死んだらしい。
今いるだけで全部だそうだから、そこの心配はいらん』
俺は心底安心した。
「じゃあ、あとはガッパイだけですね」
『そのガッパイも、洞窟に隠れていたところをシャッチモーノの風船黒子が確保した。
奴め、配下の念能力者は三銃士だけ、他の部下はそのマジタニとかいう奴らだけで、護衛もロクに残してなかったらしい。
洞窟にはまともな戦力らしい戦力もおらず、あっさりと片付いたそうだ』
「……よっぽど追い詰められてたか、よっぽど馬鹿だったのか……」
『両方かもしれんな。
我々は少年たちと合流し、周辺の魔獣どもを始末しつつホテルに向かう。
お前は先にボスをホテルまでお連れしろ』
「了解です」
通信を終えて、まずは一段落。
「終わった?」とにこにこ覗き込んでくるネオンに、俺は頷いた。
「ああ。方針変わらず、一度ホテルには戻ろう。
敵はもういないけど、まだ幻獣はうろついてるからな」
「はぁーい。あ、ルモア、レディも早く呼んであげて?」
「ああ、わかってる。服は頼むよ」
俺はネオンにレディの服だけが写った写真を渡す。
「透明人間みたーい」とはしゃいでるが、まあ確かに写真で見るとそうだな。
(……でも、一つ収穫だ)
レディが
こればっかりはその手の能力者と直接対決しない限り、確かめようがない。
梟さんに包んでもらうわけにもいかないし……それにあれは物理拘束だからなあ。
9月になる前に、試す事ができて良かった。
そんな事を考えながら、俺はオーラでもって少女の姿を形づくり、具現化する。
『
在って当たり前、そこにいて当然。
その意識に基づき霧の中にオーラの粒子が収束し、瑞々しい肉体が編み上げられていく。
出現したのは、ネオン=ノストラードと寸分違わぬ造形を持った、全裸の少女だった。
霧を吸ってしっとりと濡れた、透き通るような白い肌。
ネオンの健康的な若々しさをそのまま写し取ったような、柔らかくも引き締まった四肢。
未成熟さと瑞々しさが同居するその胸の膨らみは、彼女が女性として成熟しつつあることの証拠だ。
そして何より特徴的な、長い桃色の髪。
それが霧に濡れて肌に張り付き、少女の輪郭をより官能的に、かつ神秘的に際立たせていた。
一切の羞恥心を見せず、しかしただ人形とは思えない存在感を持って佇むレディ。
その完璧な美しさを特等席で眺めていたネオンが、感嘆の声を漏らして身を乗り出した。
「わあ……。やっぱり、レディって美人だよねぇ……」
ネオンは俺の腕から離れると、レディの傍らに歩み寄る。
そしてその細い指先でレディの柔らかな頬や、首筋、そして露わになった胸元を愛おしそうに撫でた。
レディが微かに、ぴくんと体を震えさせる。その反応すらも、ネオンは楽しんでいるようだった。
「この肌の質感とか、桃色の髪とのコントラストとか、スタイルとか……。
んふふ、私の身体って、こんなに可愛く見えてるんだね?」
ネオンは鏡に映った自分か、あるいは自慢の妹を褒めるように言葉を並べ、俺の方を見て蠱惑的な微笑を浮かべた。
小悪魔にも似た表情が、きょとんとしたあどけない顔でこちらを見つめるレディと並ぶ。
俺はノーコメントである。言うまでもない事って意味でもあるけど。
「……ネオン、早く服を」
俺は写真を指差し、促す。
周囲に人影はないとはいえ、野外だし、それにゴンとキルアや他の護衛団の皆だっていつ来るかわからない。
この自分の裸体を愛でる少女、二人のネオンという構図は、長年付き添っている俺からしても目の毒だ。
……独占欲だろと言われたら、まあ、うん。否定はできないけども。
「わかってるってば。えっと、破れば良いのかな?
……はい、レディ。服着ましょ」
ネオンが写真をビリビリに破くと、中から二次元に閉じ込められていたレディの衣服が弾け飛ぶように出現した。
レディは淡々とした動作で、空中で実体化した下着を掴み、その滑らかな脚を通していく。
ネオンはそれを手伝うでもなく、ただ「次はもう少しフリルの多いのを着せたいなあ」などと、耳にも悪い言葉を口ずさむ。
目を逸らしている俺は、今のうちにニーノを拘束し、確保しておく。
奴の制約と誓約を察するに、指でフレームが作れなければ
武装解除も兼ねて体を調べていると、くじら島の人と思わしき人物写真が大量に出てきたのでこれも回収しておく。
誘拐して売り払うのか、人質にする気だったのか。
まあ、あとで何処か安全な場所で解放してあげれば良いだろう。
そうして俺の背後で衣擦れの音が響く事、しばし。
「いいよ、ルモア。こっち向いて」
やがて身支度を整えたレディが、再び無表情な、けれどどこか涼やかな佇まいで俺の隣に並んだ。
桃色と水色の髪が、くじら島の白い霧の中で静かに揺れた。
「よし……行こうか」
「うん、連れてって!」
ネオンが「ん」とさも当然のように両手を広げて伸ばすので、俺は苦笑しながらも再び彼女を抱き上げた。
空は依然として霧に閉ざされている。
けれど、俺の首に抱きついて鼻歌を歌いながら足を揺らすネオンは、どこまでもご機嫌で、幸せそうだった。
命を狙われようと彼女にとっては俺が傍にいて、レディが隣にあることの方が、ずっと重要なのだ。
そしてそれはたぶん、俺も同じ。
ネオンが傍にいて、レディが隣にあれば、それで良い。
その上で護衛団の皆、ゴンとキルア、ミトさんやゴンのおばあちゃん、くじら島の人達も皆無事だ。
(上出来も上出来。……
霧の向こうから、ようやく、ホテルの暖かい灯りがうっすらと見えてきた。
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