地雷系彼女(マイ・フェア・レディ)   作:あなたへのレクイエムです

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37.ネガイ x ト x チカイ

「ミトさん、ジンの置き土産がどこにあるか、わかったよ!」

 

「あら、早いわね。でも、ホントにわかったの?

 じゃあ、聞くわよ。こたえは何?」

 

「……せーの! こたえは──」

 

「「ミトさんが持ってる!」」

 

 

 ドン=ガッパイの三銃士が引き起こした騒動戦から、既に数日が過ぎている。

 すっかり霧も晴れ、眩しい太陽の光を取り戻したくじら島は、いつもの穏やかな時間が流れていた。

 写真に閉じ込められた住人たちも解放し、幻獣の類も片付けて、世は全てこともなし。

 島民の全員消失を隠れ蓑にしたノストラード()()誘拐なんて大それた計画は、未遂のまま露と消えたわけだ。

 

 そんな平和な午後のひととき、ゴンの家……あるいはミトの営む酒場。

 過日の騒動の痕跡は真新しい窓などの形で残っているものの、すっかり片付けられて元の姿を取り戻したその中でテーブルを囲んで、ゴンとキルア、そしてミトさんが向かい合っている。

 俺とネオン、そしてレディは、少し離れた位置からお邪魔しないようにその様子を見守っていた。

 

 ゴンとキルアから「見つけたよ!」と報告を受けたネオンはレディを伴い、当然のようについてきて今に至る。

 予言の内容を聞く気はないけれど、その結果──彼らが答えにたどり着けたかは気になる……というのがネオンの心境らしく、これは占い師としての責任感や使命感というよりは、単なる興味と好奇心だろう。

 まあミトさんとゴンのおばあちゃんもホテルに避難した際に顔を合わせた事もあって歓迎してくれたから、問題はないのだけれど。

 恐らくノストラードファミリーから迷惑料という形で支払われた修繕費なんかは、彼女たちには関係ないのだろう。

 ()()()()()ということが、きっと何より一番重要なことなのだ。

 ネオンがそう扱ってもらえている事が、俺にはたまらなく嬉しく思う。

 

 そして俺達の目の前でゴンとキルアが声を揃え、ビシッとミトさんを指差していた。

 二人の言葉にミトさんは一瞬きょとんとした後、観念したように困った笑みを浮かべた。

 

 

「……バレちゃったかぁ」

 

「そりゃあオレが小さい頃にミトさんから教えてもらって遊んだ場所、全部探したもん」

 

「それで見つからないってことは、探してない場所。

 つまりゴンの家の中……もっと言うならミトさんが持ってる、ってことだろ?」

 

 

 キルアが自慢げに鼻を鳴らす。

 ネオンの予言にあった『託されたものは 誰よりもあなた達の身近にあるのだから』という一節を、彼らなりに解読した結果らしい。

 もちろん予言頼みではなく、他の候補を片っ端から潰した上での判断だ。

 それは間違いなく、ゴンとキルア、二人のハントの成果だった。

 

 

「それにしても、もうちょっと時間がかかると思ったんだけど……」

 

「へへ、だってもうオレ1人前のハンターだからね!」

 

 

 胸を張るゴン。その微笑ましいやり取りを横で見ながら、キルアは呆れたように肩を竦める。

 

 

(おーおー、チョーシのっちゃって)

 

 

 そんなキルアの心の声が聞こえてきそうな顔に、俺は思わず苦笑してしまった。

 

 とはいえ、これでジンのメッセージが録音されたカセットテープと、グリードアイランドのROMカード、そして指輪が入ったあの小箱が、ついに二人の手に渡るわけだ。

 ミトさんが奥の部屋から古びた鉄の箱を持ってくる間に、俺はそっとネオンとレディの手を取って二人を促し、立ち上がった。

 父親のこと……となると、まあ、俺達が聞いて良い話じゃあないだろう。

 それはネオンもわかるのか、特に文句も言わずについてくる。

 キルアもちらっと俺の方を見ると、そっとその場を離れて……ゴンの部屋かどこかに引っ込むのがわかった。

 なら、俺とネオンとレディは、家の外で待たせてもらおう。

 

 玄関から外に出て、くじら島の夏の日差しに目を細める。

 するとネオンが俺の袖を引いてヒソヒソと囁いてきた。

 

 

「ねえルモア、これでゴンのお父さんの……ジンだっけ?

 その人の贈り物が見つかったってことだよね。じゃあ居場所もわかるのかな?」

 

「まあ、手がかりではあるんじゃないかな。けど、そう一筋縄じゃいかないと思うよ」

 

「そうなの?」

 

「ジン=フリークスはトップクラスのプロハンターだからね。

 その人が自分から痕跡も残さず姿を消して、だけど自分の子供に何かを残した。

 ならそれを手がかりに『探してみろ』ってことなんじゃないかな」

 

「ふうーん……何が入ってるんだろうね?

 私さ、子供への贈り物っていうから、すっごい宝石とか、宝物とかかなあって思ってたけど」

 

「宝物っていうか……まあ、たぶん……」

 

 

 俺は少し考えて、ネオンの制約と誓約に触れず、そして原作知識の流出(ネタバレ)にならない程度に情報を整理した。

 まあこれくらいなら良いだろう。どうせハンターサイトにだって書いてあることだ。

 

 

「たぶん……ゲームのデータじゃないかと思う。もの凄く高価で、手に入らないゲーム。

 聞いた話だけど、ジンがその制作者の一人だってウワサがあったはずだから」

 

「ゲームぅ? なーんだ。

 でもちょっと興味あるかも。オークションに出たりする?」

 

「出るんじゃないかな。9月のヨークシンで、何本か競りに出されるはずだ」

 

 

 俺がそう答えると、ネオンのエメラルド色の瞳がパッと輝いた。

 

 

「ホント!? じゃあパパに頼んで買ってもらおうかな!

 あ、でも人体標本も欲しいのがいっぱいあるし……」

 

「最低落札価格でも何十億ジェニーって値段になるだろうからなぁ……。

 そのゲームが一番欲しいってわけじゃなければ、他を優先した方が良いんじゃないかな」

 

「そっかぁ。んー……早くカタログ届かないかなぁ。

 そしたらパパにおねだりするリストを作っておかなきゃ!」

 

 

 ネオンは早くも9月のオークションに思いを馳せ、手帳を取り出してペンを走らせ始める。

 隣に立つレディはそんなネオンの様子を静かに見守りつつ、時折俺の方へと無機質な視線を向けた。

 俺は曖昧に笑うだけ。けれど、ネオンの望み通りになれば良いと思う。

 バッテラ氏にとっては切実な問題だから、ネオンがグリードアイランドを狙うなら間違いなく競り合いになるだろうけれど、それはそれで別に構わないだろう。

 むしろ逆に……9月3日以降に予定されていたはずのグリードアイランドの競売にネオンが関われるのは、歓迎すべきことですらあった。

 何の気兼ね無く、心ゆくまで彼女がオークションを楽しんでくれれば、それで俺は満足なのだから。

 

 

「ソン=リマーチの使用済みティッシュ……は別にいっか。きょーみなーい。

 女優のセーラの毛髪でしょー、それから一角族の頭蓋骨に、龍皮病患者の皮膚に……。

 ねえ、ルモア。リストの最初はやっぱり……()()()かなぁ?

 でも今回はコルコ王女のミイラが出るって噂だし……あー、迷っちゃう!」

 

「お小遣いが幾らあっても足りなくなりそうだな」

 

「いーの! パパに頑張ってもらうし、私も占いいっぱいするから!」

 

 

 手帳にサラサラと欲しいものリストを書き連ねていくネオンを眺めていると、背後の扉が静かに開いた。

 振り返ると、そこには古い小箱を大事そうに抱えたゴンと、その隣で少しばかり呆れたような、けれどどこか嬉しそうな顔をしたキルアが立っていた。

 

 

「あ、アンドーさん、ネオンさん! 待たせちゃってごめんね」

 

「いや、大丈夫だよ。それで、中身は確認できた?」

 

「うん、ジンのカセットテープが入ってたんだ。

 メッセージはダビングできなかったけどね」

 

「すっげえ用心深いのな、ゴンの親父。

 (ネン)使ってメッセージ消去するように仕込んでやがんの」

 

「……それから、これ!」

 

 

 ゴンが箱の中から取り出して見せてくれたのは、小さなROMカードと、()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 キルアがそれを横から覗き込みながら、俺たちに向かって気恥ずかしそうに頭を掻く。

 

 

「いやさ、本当にネオンの占いの通りだったわ。

 霧が出た時から『マジかー!?』って思ってたけど。

 ……最初にオカルト扱いしたの謝るわ。マジで助かった。ありがとな」

 

「ありがとう、ネオンさん!

 ネオンさんの占いのおかげで、ジンの手がかりがこんなに早く見つかったよ!」

 

 

 二人の真っ直ぐな感謝の言葉に、ネオンはペンを止め、誇らしげに胸を張った。

 

 

「でしょー? 私の占いは百発百中なんだから!」

 

「それで……何かお礼をしたいんだけど……」

 

「いーよ、別に。

 普段はすごいお金をパパが取ってるみたいなんだけど、今回は特別にタダ!」

 

 

 あっけらかんと笑うネオン。

 その欲のなさにゴンとキルアは一瞬きょとんとしたが、ゴンは「うーん」と、あごに手を当てて考え込んでしまう。

 

 

(頑固だからなあ、ゴンは)

 

 

 興味のあることには真っすぐで、自分の中で筋が通っていればどんな人とも仲良くし、納得いかなければ絶対にしない。

 ゴンにとってはお礼をしなきゃいけないくらいの事をしてもらった以上は、相手が遠慮したってお礼をしなくちゃいけないのだ。

 俺はそんな原作通りの──そして試験の時から相変わらずなゴンの様子を見て、少しだけ真面目なトーンに声を切り替えた。

 

 

「じゃあさ。かわりに俺から、お礼のかわりに『お願い』をふたつ、させてもらってもいいか?」

 

「え? うん、何でも言って、アンドーさん!」

 

「ただし、オレたちにできることなら……な。なんだよ?」

 

 

 キルアが素早くカットに入るのは、妹のアレコレがあるからだろうか?

 いやでも、針の影響で思い出せてないんだっけ? どうだったかな?

 けど、確かに……俺にとってはどんなにジェニーを積んだって良いくらいのお願いではある。

 二人の視線が俺に集まる。

 俺はまず、ゴンの目を真っ直ぐに見つめた。

 

 

「ひとつめ。

 これから先、もし何処かで……ネオンが困っていたら、その時は助けてあげて欲しい」

 

「…………!」

 

 

 ゴンは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに迷いのない、力強い笑みを浮かべて拳を握りしめた。

 

 

「うん、約束する!

 ネオンさんもアンドーさんも、オレたちの恩人だし、友達だもん。

 何があっても、絶対に助けるよ!」

 

「おいおい、オレも忘れるなよ?

 ま、ノストラードの護衛団がどれだけ優秀でも、手が回らない時はあるだろーしな。

 そん時はオレも手を貸してやるから安心しな」

 

 

 キルアも不敵に笑って親指を立てる。

 ネオンは「えー、私そんなに危ない目に遭う予定ないよ?」と不満げだが、レディが彼女の肩をそっと叩いてなだめていた。

 けれど二人のその言葉だけで俺がどんなに救われた思いになったか、わざわざ言うまでもないだろう。

 

 これから先、俺がどうなろうと、ネオンがどうなろうと……最悪の終わりだけは回避できるかもしれない。

 

 念能力を盗まれて何もかもなくしたとしても……この二人なら、そしてこの二人から繋がる多くの縁があるなら、きっと大丈夫だ。

 そう思えるだけで、この約束に、俺にとってどれほどの価値があるか。

 

 そして俺は、次に視線をキルアへと移す。

 

 

「で、ふたつめ。これはキルアに」

 

「オレに? なんだよ」

 

「ちらっと聞いちゃったけど、お兄さんについて話してただろ。メカや電脳に強いっていう」

 

「ああ、ブタくん……じゃないミル兄、ミルキのことか?」

 

「たぶんね。その人を紹介してほしいんだ。頼めないかな」

 

「えぇー? いや良いけどさ。

 蚊に爆弾つけて喜ぶようなバカだぜ? 賢いけど。そんなんで良いの?」

 

「ゾルディック家の()()()()とのコネなら、()()()()どころじゃあないんだよ」

 

 

 俺が笑ってそう言うと、キルアもなんだかんだ仲の良い兄が褒められて悪い気はしないのか、頬を掻きながら頷いてくれた。

 

 

「なるほどね……。

 あいつ、引きこもりのクソデブだけど、そういうメカとか電脳とかハッキングに関しちゃ凄腕だからさ。

 オッケー、わかった。ゲームのことであいつに連絡する予定だから、アンドーのこともついでに繋いでやるよ。

 兄貴チョロいから、凄腕からコンタクトあるとすぐチョーシ乗るんで簡単だし」

 

 

 キルアはニヒヒと不敵に笑い、俺のふたつめのお願いも快諾してくれた。

 

 ミルキ=ゾルディックとのコンタクト。

 何もかも想定通りにいくとは限らないが……それでも、間違いなく頼りになるものの一つ。

 どうするべきかではなくどう在りたいかだとは教わったし、今も意識はしている。

 けれどそれとは別に、取り得る手段を確保しておくに越したことはないのだ。

 助けなんて、幾らあったって足りないんだから。

 

 

「ねえ、今ゲームって言ってたけど、もしかしてそれジョイステのメモカー?」

 

 

 不意にネオンが横合いから、ひょこっと顔を出してゴンの手元を覗き込む。

 よくある少年漫画の主人公なら距離の近い女の子の仕草にドキッとするものだが、そこは百戦錬磨のゴン。

 動じることもなく、平然と「うん、そうみたい」と頷いた。

 

 

「オレはゲームとか全然詳しくないんだけどね。

 ジョイステーションのメモリーカードだって、キルアが教えてくれたんだ」

 

「ふぅーん。じゃあ次は、そのメモカのセーブデータのソフトを探す感じ?」

 

「たぶんな」とキルアが頷いた。「ジョイステ手に入れて見てみないとソフトわかんねーけど」

 

「ジョイステあれば貸してあげれたけど、持ってきてるのマデマルの方だからなあ。

 ……あ、そうだ!」

 

 

 ネオンが良いこと思いついたとばかりに、顔を輝かせた。

 

 

「じゃあじゃあ、そのゲームが手に入ったら私も遊ばせて! それが私へのお礼!」

 

「おいおいお願い三つかよ」

 

「あとレディも一緒!」

 

「四つになった……!」

 

 

 キルアは苦笑しながらも、ゴンに「良いよな?」と目配せをする。

 ゴンは「もちろん!」と頷いた。

 

 

「どんなゲームか、まだわからないけど。それでも良いなら一緒に遊ぼう!」

 

「わあい、やったあー!」

 

 

 ネオンは無邪気に喜んで、レディの手を取ってくるくるとその場で回った。

 レディはされるがままだが、その無表情に見える微笑みにも、かすかな喜びが感じられる。

 俺としては……ちょっと、いや、かなり胃が痛かった。

 いやまあ、今此処で『その約束の前にグリードアイランドの内容について理解する必要がある。少し長くなるぞ』とは言えないので仕方ないが。

 そもそもネオンに(レン)はできる……できな……でき……いやどうかなあ……。

 

 まあ、ともかくだ。

 

 

「よし、これで取引成立だな。……ゴン、キルア。ジンの手がかり、絶対に見つけろよ」

 

「うん! ありがとう、アンドーさん、ネオンさん!」

 

 

 まぶしい太陽の下、ゴンは宝物の入った箱を抱え、未来への希望に満ちた笑顔で大きく手を振った。

 キルアもまた、その隣で少しだけ大人びた表情で頷いてみせる。

 

 

「じゃあねー! ゲームがわかったら私にも教えてねー!」

 

 

 ネオンが呑気に手を振り返す横で、俺は静かに、けれど深く息を吐き出した。

 レディも伴って三人、ゴンたちに見送られながら、俺達はホテルへの道を歩いていく。

 自分の占いが良い結果に繋がったのを見たネオンは、たいそう上機嫌で、ウキウキとスキップを踏みかねないほどだ。

 

 だけど、俺も同じ気分だ。

 これから先。これから。いつか。

 それが積み重なっていくのは、本当に……嬉しい。

 こんなに素敵な言葉だとは、思いもしなかった。

 

 

「でも、どんなゲームなんだろーね?

 さっきルモアの言ってた、ゴンのお父さんが作ったゲームなんでしょ、たぶん」

 

「きっと拾った素材で装備をひたすら鍛えるローグライクじゃないかな」

 

「なんでそんな具体的なの???」

 

 

 そりゃあ幻のグリードアイランドだし。




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