地雷系彼女(マイ・フェア・レディ)   作:あなたへのレクイエムです

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38.イル? × ソレトモ × イク?

 くじら島の夜は驚くほど静かだった。

 波の音だけが、ホテルの窓を優しく叩いている。

 ベッドの背もたれに身体を預けながら、俺は携帯電話の画面に視線を落としていた。

 

 画面に映し出されているのは、9月のヨークシンオークションのプレカタログの電子データだ。

 もちろん正式なものではない。参加を悩んでいる客のための告知を兼ねた、予告版のようなもの。

 此処に記載されていない競売品ももちろんあるし、此処には出品される日時や場所も書かれてはいない。

 ネオンが「早く届かないかなぁ」と言っていた物理カタログの見本版。それを俺はツテで入手し、確認している。

 世界最高峰の競り。そこに並ぶ奇奇怪怪な財宝や、血塗られたコレクションの数々。

 当然、その中には『緋の眼』の記載もある。

 

 

(いよいよ……9月か)

 

 

 バカンスは……途中の騒動もあったが、あっという間に終わった。

 明日には島を離れ、エルバト市へと戻らねばならない。

 すぐに8月になる。

 8月からの一ヶ月だって、ほんの31日。

 最終日はヨークシン入りの移動日とすれば30日、僅か720時間。

 そこが俺にとっての正念場、ノストラードファミリーの、そしてネオンの運命が大きく転換する分岐点。

 

 来たるべき、()

 

 どうすれば良いかではない、どう在りたいか。

 

 これまでの十年間、俺の全てはこのためだけに費やされてきたようなものだ。

 泣いても笑っても一度きり。失敗は許されない。何としても成功させなければならない。

 考えうるだけの事を考えて、やれるだけの事をやってきた。

 けれど、胸の奥にある焦燥感だけは、どうしても拭い去れずにいた。

 

 本音を言えば──このまま、いつまでもくじら島に残っていたかった。

 そうはいかない事は、よくわかっていたけれど。

 

 その時だった。

 

 

「ルモア、起きてるー?」

 

 

 控えめなノックの音と、聞き慣れた声が静寂を破った。

 ドアの向こうから聞こえたのは、ネオンの弾んだ──けど少しだけ緊張した声。

 時計を見れば、もう日付が変わる直前だ。俺は慌ててベッドから下り、鍵を開けて扉を引いた。

 

 

「ネオン、こんな夜更けにどうしたんだ? もう寝る時間だろ」

 

「んふふ、ちょっとね!」

 

 

 入ってきたネオンはシルクの透けるようなネグリジェで、その手には何やら大切そうに小さな平たい包みを抱えていた。

 その後ろからは同じくネグリジェ姿のレディが、まるで影のように音もなく室内に滑り込んでくる。

 

  遮光カーテンの隙間から差し込む青白い月光が、極薄の生糸を柔らかく透かし、まだ少女の瑞々しさを残したしなやかな身体の輪郭を容赦なく描き出す。

 逆光の中で艶やかに浮かび上がる、寸分違わぬ二つのシルエット。

 双子のように重なり合うその陰影はどこか現実味を欠き、月明かりの冷たさも相まって、思わず目を背けたくなるほどに無防備で、同時に完成された美しさがあった。

 

 けれど俺が何かを言うよりも早く、ネオンは俺のベッドに我が物顔でちょこんと腰掛ける。

 そこが自分の場所だと、彼女はとっくの昔に決めていたらしい。

 ずいぶんと昔──あの深夜鉄道での戦いを終えた後の夜を思い出す。

 あの時も、こうして彼女は……彼女たちは俺の部屋にやってきたのだったっけ。

 

 俺がそんな事を考えていると、ネオンは抱えていた包みを差し出してきた。

 

 

「はい、これ! ルモアにプレゼント!」

 

「プレゼント……?」

 

「もう、忘れたの? ちょっと過ぎちゃったけど……7月7日、ルモアの誕生日!」

 

「え──あ……」

 

 

 言われて、思考が一瞬フリーズした。

 自分の誕生日。そうだ、すっかり忘れていた。

 ここ何か月かとてつもなく忙しくて、それに9月のヨークシンのことばかり考えていた。

 そうか。俺は17歳になっていたのか。

 そして12月14日になれば、ネオンも17歳になる──なれる、はずだ。

 

 

「最近ルモアったら忙しくて全然ゆっくり話せる時間がないんだもの。コレクションの自覚が無いよね。

 レディと一緒に色々と考えたんだけど、結局バカンスもこんな風になっちゃって予定変更。

 すっかり遅くなっちゃったけど……ルモアのせいなんだから私たちは悪くないもんね」

 

 

 ねー? と、ネオンが隣のレディを見つめる。レディは無表情のまま、けれどどこか誇らしげに、小さくコクりと頷いた。

 俺の記憶から紡ぎ出された存在であるレディが、俺の誕生日を覚えているのは当然といえば当然なのだが……。

 それでも、ネオンがこうしてそれを祝福してくれる事が、純粋に胸を熱くさせる。

 

 

「ありがとう、ネオン、レディ。……開けてもいいか?」

 

「うん、開けて開けて! すっごいプレミアものなんだから! たぶん!」

 

 

 ネオンに促され、包装紙を丁寧に剥がしていく。

 ずいぶんと薄いと思っていたが、中から現れたのは一枚の色紙だった。

 そこには、達筆な文字で流麗なサインが書かれており、その横には『ルモア君へ』と、俺の名前まで添えられていた。

 

 だがそのサインの主の名を目にした瞬間、俺の全身の血がスッと冷たくなった。

 

 

「……カストロ……さん?」

 

 

 心臓が嫌な音を立てて脈打つ。

 カストロ。天空闘技場の闘士。虎咬拳の使い手。

 そして──ヒソカに敗れて、死んだはずの人。

 

 

「そう! カストロさんの直筆サイン!

 ルモア、テンクートーギジョーの話すると、いっつもカストロさんのこと言ってるんだもん。

 だから私、ルモアに内緒でもらってきたんだよねー!」

 

 

 あっけらかんと言うネオンの言葉が、脳内で上手く処理できない。

 動揺を隠せないまま、俺は震える声で尋ねた。

 

 

「もらってきたって……いつ、どこで?」

 

「え? ルモアがほら、パパのお仕事の書類整理とかで、どうしても手が離せない日があったじゃない。

 えーっと……いつだったかな。4月くらい?

 その時、私とレディでこっそり飛行船に乗って、テンクートーギジョーまで遊びに行ったの!」

 

「は……?」

 

 

 初耳だった。

 そんな俺の混乱を見たネオンは、自分が完全に俺を出し抜いた事実に気をよくしたのか「んふふー」と笑う。

 

 

「もちろん、皆知ってるよ?

 ダルツォルネさんにお願いして、護衛団の人にもついてきてもらったし。パパも承認済み。

 ルモアには黙っててって命令したもんね」

 

「…………」

 

 

 ビーチで散々に俺に奢れだの何だのと言っていた先輩がたの顔が目に浮かぶ。

 せめてリンセンさん辺りは止めに入ってくれなかったのか。知らなかったのは俺ばかり。

 思わず頭を抱えそうになった俺だが、しかし目の前のサインがそれを許さない。

 

 

「それでね、闘技場の待合室でカストロさんにお願いしたら、すっごく優しくて、サイン書いてくれたんだー。

『ルモア君によろしく』って!

 ……あ、でも、この間の試合はちょっと残念だったよね。まさか負けちゃうなんてさ」

 

 

 ネオンはベッドの上で足をパタパタさせながら、気の毒そうに眉を下げた。

 

 カストロさん。

 

 俺の知っている彼は、やはり俺の知る通りに死んでしまったのだろうか。

 俺はそれを確かめる勇気が無い。

 ヒソカに勝って欲しいとか、負けて欲しいとか、そういう次元ですらない。

 その次の言葉を、俺は聞きたくなかった。

 だけど、ネオンは無邪気に、残酷に、そして何処までも明るく言い放った。

 

 

()()()()()()()()!」

 

「…………え?」

 

 

 次は、勝つ?

 何を言っているんだ。カストロさんは死んだ。ヒソカに殺されたんじゃあないのか。

 死人に次などあるはずがない。

 混乱が泥のように脳を埋め尽くしていく。

 

 だけど、ネオンは嘘を言っている風ではない。

 彼女にとってカストロさんは「俺が応援している、この間の試合で負けた人」止まりなのだ。

 

 そんな俺の呆然とした様子を、ネオンとレディはきょとんと不思議そうな顔で見上げてくる。

 エメラルドの瞳が、きらりと煌めいた。

 

 

「テンクートーギジョーってルールよくわかんないけど、別に負けたら終わりじゃないんでしょ?

 なら次勝てば良いんじゃないの? えっと、フロアマスター? っていうのにもなれるんじゃないかな」

 

「…………死んで、ない?」

 

「? うん、そうだけど? 怪我はしちゃったみたいだけど……」

 

 

 俺は、自分の声が震えていないかどうかすら、自信がなかった。

 死んでない? なぜ? カストロさんが? 生きてる?

 

 

「……なんで」

 

「えー? なんでって、知らないよ。私、カクトーの事なんてわかんないもん。

 あ、でもカストロさん、会った時に今度ヒソカって人と大事な試合があって、ちょっと緊張してるって言ってたから……」

 

 

 ネオンは人差し指を唇に当て、可愛らしく小首を傾げた。

 

 

「だから、お礼代わりに()()()あげたの」

 

「──」

 

 

 俺の喉から漏れたのは、言葉にすらならない、掠れた吐息だった。

 

 

「占って、あげた……?」

 

「うん!

『いつもルモアがココーケンについて話してるし、絶対に勝ってほしいんです!』って言ったら、カストロさんすっごく照れちゃって。

 私も応援してあげようと思って、だから、その場でササッと占ってあげたんだよねー」

 

 

 ネオンは自分の手柄を褒めてほしい子供のように、無邪気に笑って胸を張る。

 もちろん、彼女自身は自分がどんな詩を綴ったのかを一切知らない。

 だから、彼女はカストロさんにどんな未来の警鐘を鳴らしたのかを知らないし、それが彼の運命をどう変えたのかも理解していない。

 ただ俺のために、俺の応援してる人を喜ばせようという、それだけの理由で、彼女は運命を変えてしまった。

 

天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)』。予言詩。100%的中する、死の回避ルート。

 

 カストロさんだ。

 カストロさんなのだ。

 あらかじめヒソカの『伸縮自在の愛(バンジーガム)』や『薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)』を示唆する警告を受け取っていれば。

 あるいは自身の『ダブル』の致命的な弱点を指摘されていれば。

 そりゃあ当然、負けはしたとしても……死を回避することくらい、容易かったに違いない。

 

 ヒソカが俺に話さなかったのも当然だ。

 俺が試合を見ていないわけがないと、そう思っていたはずだ。

 それに何より自分が完勝できなかったことを、友達にわざわざ言いたくはないだろう。

 原作でも腕は持っていかれていたけれど──ああ、でも。……それでも。

 

 

「は……はは……」

 

 

 こみ上げてきたのは、乾いた笑いだった。

 俺は泣きたくなった。涙が出そうだった。

 胸の奥の一番深いところに澱のように溜まっていた、十年間ずっと俺を縛り付け、窒息させようとしていた重苦しい圧迫感が、一瞬にして弾け飛んでいく。

 驚き、安堵、そして──爆発するような、圧倒的な歓喜。

 

 変えられるかもしれない。

 

 原作の知識がどうだとか、決まった運命がどうだとか、そんなものは関係ないのだ。

 俺が必死になって「守らなければならない」と気負い続けていた、このネオン=ノストラードという少女は──。

 

 

(……本当に、敵わないな)

 

 

 最初からわかっていたことじゃあないか。

 俺の矮小な想像力なんて、彼女は何処までも軽々と飛び越えていってしまう。

 我儘で、残酷で、奔放で、そして世界で一番素敵な、俺の特別な女の子。

 

 俺がどんなに心配したって、俺がもしこの先いなくなったって関係ない。

 彼女はきっと自分の力で9月のヨークシンを越えて、その先の未来だって笑って生きていけるに違いない。

 

 ネオン=ノストラードは、自分で自分を幸せにできる女の子なのだ。

 

 

「ちょっと、ルモア? 急に笑い出したりして、どうしたの?

 ……あ、もしかして、嬉しすぎておかしくなっちゃった?」

 

 

 ネオンがベッドの上で身を乗り出し、心配そうに、けれどやっぱり楽しそうに俺の顔を覗き込んでくる。

 その隣ではレディがいつも通りの無表情のまま、その瞳の奥にネオンと同じ優しさを滲ませてこちらを見つめていた。

 

 

「いや……。うん、嬉しいよ。本当に、最高のプレゼントだ。ありがとう、ネオン」

 

 

 俺はこっそりと目尻を拭うと、心からの感謝を述べた。

 嘘じゃあない。今まで生きてきて──前世と合わせたって──こんなに嬉しい誕生日プレゼントはなかっただろう。

 

 

「もう、本当に喜んでる? なんか泣きそうな顔して。変なルモア。

 あ、でも、今の瞳の色は……好きだな。

 ……うん、好きだよ」

 

 

 ネオンはくすくすと笑いながら、俺の頬に手を添えて、瞼の縁をなぞるように俺の瞳を覗き見る。

 彼女は俺の瞳の事をきれいだ、好きだと言ってくれるけれど、俺にはそうは思えない。

 俺の視界いっぱいに広がる、無邪気なエメラルドの輝きの方が、俺にはよっぽど美しいし、綺麗だと思うからだ。

 

 

「本当に嬉しいよ。……大事にする」

 

「えっへへー……ならヨシ。大事にしないと瓶詰めだからね!」

 

 

 俺が色紙をそっと机に置くと、ネオンは満足げに深くベッドに背中を預け、それから思い出したようにパッと顔を輝かせた。

 

 

「あ、そうだ! ねえルモア、せっかくバカンスの最後の夜なんだし、これからレディと一緒にお風呂に行こ?

 山の方から温泉が出てて、ホテルの浴場に引っ張ってあるんだって! 夜中だし、貸し切りにしちゃえば三人で入れるよ!」

 

「……却下だ」

 

 

 俺は即座に、一秒の迷いもなく首を横に振った。

 このお嬢様はすぐにこれだ。

 

 

「えーっ!! なんでよ! いいじゃん、減るもんじゃないし! レディだって一緒だよ!?」

 

 

 ネオンはベッドの上でジタバタと足をバタつかせて猛抗議する。

 その横でレディがいつも通りの無表情のまま、けれど当然とばかりに静かにコクリと頷いていた。

 自分のオーラから生まれた存在が、完全にネオンの味方に染まっているのが本当に頭が痛い。

 

 二人のネグリジェから透けて見える裸体のシルエット。

 その華奢で繊細ながらもしっかりと肉づいた体の女性らしさを、俺ははっきりと理解している。

 肌の白さも、滑らかさも、柔らかさも、甘やかな匂いも、何もかも把握している。

 だからといって入浴はダメだ。それはダメ。

 同衾も日焼け止めも良くてもこればっかりはダメなのだ。イーじゃんじゃない。良くない。

 

 

「男一人と女子二人で混浴なんてダメに決まってるだろ。はしたないにもほどがある」

 

「ルモアは私の護衛でコレクションなんだから拒否権無いでしょ!

 ね、レディもそう言ってるよ!」

 

「レディ、お前もネオンを甘やかすな。二人で行ってきなさい」

 

「ルモアのケチ! 分からず屋! 瓶詰め!

 せっかくお誕生日のお祝いに、私とレディの可愛いパジャマ姿まで見せてあげたのに!」

 

「はいはい、いつも見てるけど今晩もありがたく眼福でした。

 ほら、もう日付が変わる。夜更かしはお肌に悪いぞ。風呂に入って部屋に戻って寝る!」

 

「えーっ!! もう、ルモアのばかーっ!」

 

 

 最後までピーピーと不満を並べるネオンを、俺は半分押し出すようにして部屋から送り出した。

 ノストラード邸なら抵抗の余地はないが、ここはアウェーなので俺はきちんとネオンを拒否できるのだ。

 レディは最後にほんの少しだけ悪戯っぽく微笑んだような気がしたが、ドアが閉まると再び静寂が部屋に戻る。

 

 一人になった室内で、俺はカストロさんのサイン色紙を見つめ、それから窓の外の静かな夜の海へと視線を向けた。

 胸の奥の焦燥感は、不思議なほど消え去っていた。

 

 ……翌朝エリザさんにすごい目で見られたけど、今回は俺に非はないと思うんですよ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その夜も、いつものように夢を見た。

 

 

 それは桃色の髪の女の子が、ベッドの上で父親に首を絞められている夢だ。

 

 静まり返った部屋。豪奢なベッドの上で、少女が信じられないものを見る目で父親を見上げていた。

 かつて彼女を蝶よ花よと甘やかしていたはずの男の手が、今や彼女の細い首を容赦なく締め上げている。

 

 小さな指が父親の肉厚な腕をかきむしる。だが、男の瞳には狂気と保身の光しか宿っていない。

 能力を失いただの金食い虫に成り下がった小娘など、冷酷なマフィアの世界では負債でしかなかった。

 どれだけ彼女が涙を流し、父親の愛を求めて泣き叫んでも、その懇願は怒号にかき消される。

 なぜならとっくの昔に、父親から娘への愛情なんてものは消え失せていたから。

 

 ミキミキと嫌な音が室内に響く。喉を押し潰され、悲鳴さえも言葉にならない掠れた喘ぎへと変わっていく。

 かつて世界で一番わがままに、けれど誰よりも無邪気に笑っていた少女の瞳が、恐怖と絶望に染まりながら、じわじわと光を失っていく。

 助けを求めるように虚空へ伸ばされた手のひらは誰の温もりにも触れることなく、ただ力なくベッドへと落ち、二度と動かなくなった。

 

 

 

 それは水色の髪の女の子が、人間とは思えない姿に生きながら切り刻まれる夢だ。

 

 彼女は男たちに囲まれ、冷たい鉄の台の上に拘束されている。

 人形のように美しかった肢体は今は見る影もなく、解剖狂の男たちの手によって標本として解体されつつあった。

 

 少女の喉から、血を吐くような悲鳴が上がる。彼女の尊厳のすべてが、激痛によって引き裂かれていく。

 だがメスを握る男たちは彼女がどれほど涙を流しても、人間とも思わぬ手つきでその生肌を削ぎ、肉を割き、骨を暴いていく。

 鮮やかな桃色と赤色の中に見え隠れする白い骨は、はっとするほどに美しかった。

 

 水色の髪を幾らで売ろう。この緑の瞳を幾らで売ろう。

 処女のまま卵巣を摘出しよう。子宮を抉り出してやろう。

 そうしてから残った穴に突っ込んでやろう。

 その一部始終を写真に撮ろう。ビデオを回して記録しよう。

 彼女の体と一緒に競売にかけてやろう。

 ゲラゲラと下卑た笑い声が地下室に木霊する。

 

 少女は狂いそうなほどの苦痛の中で、何度も、何度も、心の底から許しを乞い、助けを求めた。

 しかし、その祈りは誰にも届かない。

 それは今まで少女が綺麗だからと集めていた収集物と、同じ末路。だから誰も彼女に同情などしない。

 自分が何故こんな目にあうのかもわからない彼女には、反省も後悔も、悔い改める事も不可能だ。

 助かりたくて謝っているだけの子供が、誰かから許されるはずもない。

 暗闇の中でどれだけ声を枯らして泣き叫んでも、世界は彼女を完全に無視し続ける。

 

 やがて肉体をバラバラに解体され、ただの物へと変えられていくプロセスの中で、いつの間にか彼女の絶叫は途絶えた。

 広がった赤黒い血溜まりに浸る数本の水色の髪が、無惨に、無様に、ただ静かに揺蕩うのだけが、少女が存在した名残だった。

 

 

 

 そんな夢を見て、目が覚めた。

 

 いつものことだった。




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