黄権伝   作:高島智明

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第11席 7度捕らえて7度放つ

山また山脈の雲南でも其処は大陸。

山と山の間には其れなりの平野が在り、そこに劉備軍と南蛮軍が布陣していた。

 

その「劉備軍」が自軍の半数程しか居ないと見たのか、南蛮軍はいかにも「蛮軍」らしい勢いで先制攻撃に出た。

ただし、敵はもう2軍居たのだ。

 

南から北へ向かう南蛮軍と、北から向かい合う劉備軍。

その東から接近する軍の武将は星。軍師は胡蝶。

 

更に、西から接近する軍の武将は桔梗。軍師は狭霧。

「儂(わし)らをまるで荊州か、いっそ幽州から連れて来た者みたいに使(つこ)うてくれるのう」

「そんな事も考えていらっしゃらないでしょう。あの方たちは。

ただ「伏竜鳳雛」は、厳将軍が長兵(射程の長い兵器)に熟練しているとは考えたでしょうが」

その通りだった。

桔梗たちには虎牢関以来自慢の連弩(連発ボーガン)を預(あず)けていたのだ。

 

その連弩部隊を直接に指揮しているのは霧花だった。

四川に生まれ育ち「蜀」に仕えてきた「黄権」にしてみれば、南蛮から益州を守っての戦いは、自分が守るべきものの為の戦いだった。

”あの”戦いで蜀に帰れなく成っていなければ、当然に”その”翌年の「南蛮征伐」には従軍していただろう。

”その”戦いを、共に劉備に「使えてきた同士」の「法正」(狭霧)や「厳顔」(桔梗)と同じ軍で戦う事が出来るのだ。

霧花にしてみれば「黄権」の晩年「魏」の武将として戦わされた、どの戦いよりも充実していた………。

 

……。

 

…南蛮軍が正面衝突した劉備軍は、数こそ半分ほどでも今までの益州地方軍とは質が異なっていた。

当然である。桃香と「天の御遣い」の下に愛紗・鈴々・朱里・雛里が揃っていたのだから。

 

如何にも蛮兵らしい勢いと数を頼んで押し寄せる南蛮軍を劉備軍の本隊が押しとどめている間に、桔梗、狭霧、霧花たちの指揮する長兵が南蛮軍から見て左手、すなわち矢を防ぐ盾を正面の敵に向けた為に無防備になっている側から接近した。

狭霧の戦術眼と桔梗と霧花の「老練」によって最大効率で統制された1点集中射撃が、正面の戦いに熱中する南蛮軍に迫っていた。

 

「1点集中…狙え・・・撃て―!」

桔梗は自ら豪天砲を放つと同時に、連弩を1斉につるべ撃ちさせた。

 

完璧な1点集中射撃が完璧な「ポイント」に打ち込まれた。

何本かの矢に襲(おそ)われた1人が、その衝撃で跳ね飛ばされて周囲の何人かを巻き込む。

あたかも、鏨(たがね)を打ち込まれた石が砕ける様に反対側へ陣形を崩した。

 

その方向には星と胡蝶の率いる騎兵が待ち構えていた。

「白眉」をもってすら「ここは突撃するしかない」その「タイミング」で、星は指揮する騎兵の全軍を、ひたすら只突撃させた。

ドミノ倒しのように崩れかかる其の出鼻を思いっ切り叩かれて、もはや統制を取って戦う兵士ではなく、逃げ惑う群集となった南蛮兵たちは、只1つ敵のいない方向すなわち最初の布陣での後方へ逃げ散った。

 

その後を追って、劉備軍は更に雲南の南へと進軍して行く………。

 

……。

 

…第2戦。

南蛮王孟獲は前回の敵の戦術をそっくり其のまま真似して「お返し」を狙ったが、自分が使用済みの戦術の弱点ぐらい把握(はあく)していない「伏竜鳳雛」では無い。

完璧に各個撃破されてしまった………。

 

……。

 

…益州永昌郡。すでに益州も南端の“南蛮”との“国境”の郡。

南蛮王孟獲の軍は既に劉備軍から6度敗走し、ここまで追い返されていた。

次の第7戦に備えて、竜鳳の軍師が全軍に指示した陣形は「8陣図」今度は逃がさない積もりだった。

ようやっと霧花も思い出した。

「前世」で「黄権」が従軍していなかったから、6度目まではワザと孟獲を逃がしていた事にやっと思いいたった。

そして、永昌郡も南西の「後漢」帝国が「南蛮」との国境線と設定した「1線」が、既に間近い山際の盆地で、南蛮王孟獲が率いる南蛮軍と劉備軍は7戦目を戦った。

 

この第7戦で使用されたのは「伏竜鳳雛」がお得意の「8陣図」

完全に包囲してしまえば、そのまま殲滅するのも降伏勧告するのも、動機と結果は正反対ながら、こちらの思いのまま。

 

桔梗などは自分も犠牲者だけに南蛮に同情すらした。

 

彼女の時と同様、包囲が完成した段階で桃香が説得を始めた。

その途中、

「もう、こうしゃんにゃのにゃ―」

…ちょっと、思いっ切りが良くないか?

「しょのしょうこに、まにゃをおしゅえるにゃ~。みぃはこうしゃんしゅるにゃ―」

 

「この」世界の少女たちにとって、真名を教える事がどんなに重大な意味を持っているか。

これが「漢人」同士なら、これだけで、降伏を信じても好いかも知れない。

けれども、最初に思ったことは、

「“南蛮”にも、真名ってあるの?」

だった。

 

何れにしろ「7たび放つ」の作戦方針からいえば願ったりだ。

南蛮兵たちも次々に武器を捨てだした。

1番外側の兵だけは流石に盾を構えて身を守っているが、もうそれだけ。

それを確かめて軍師の白羽扇が振られる。

「8陣図」がまた形を変えて包囲が緩められた………。

 

……。

 

…降参した南蛮王孟獲(真名美以)が、桃香や一刀たちと対面している。

見た目やしゃべり方、それに“南蛮”に対する先入観からすれば、話している内容はしっかりしていた。

 

従来の国境、つまり益州永昌郡までは「漢」の領土だと認め、それより南は“南蛮国”として、相互不可侵を誓い合う。

それを信じるか否かは、結局は美以と桃香が互いに信頼できるかであり、

美以の方は、完全に桃香を信じる、と言い切った。

 

さらに細かい条件がいくつか取り決められたが、その1つとして「蜀」と南蛮との貿易関係についても話し合われた。

美以が希望する「蜀」からの輸入品として、“食料”が挙げられた時に「天の御遣い」が何故か驚いていた。

 

「天の国」では“南蛮”に当たる地方から農産物を輸入していたらしい。

その一刀の「お告げ」で、南蛮から「蜀」へ「天の国」の言い方での“とろぴかる”なあれこれが輸出され「蜀」から南蛮へ輸出される主食と等価交換される事に成った。

 

そう、等価ということがこの際は重要だった。

つまり「中華」が「南蛮」を対等に扱(あつか)うという事。

やはり「蜀」の面々も「中華」の民である以上「天の御遣い」だけが、この発想を持てた。

それだけに、美以の心理には信頼度という意味では、トドメになったかもしれない………。

 

……。

 

…美以もとい孟獲は永昌郡の南の「国境」を越えて引き揚げて行き、劉備軍は再び巴郡を目指して北上しつつあった。

 

南蛮軍が降参する際に投げ捨てた武器。特に南蛮王の持ち物である事も確かな美以本人の武器。

さらに、貿易が取り決められて提供された“とろぴかる”な輸入品。

それらを大量に抱(かか)えて、北へ帰還した。

 

軍師たちが解説した。

「これらを持って帰るのは、これから大事な意味を持ちます」

すなわち、南蛮との問題を解決したという証拠品だった。

「この「証拠」をもって、桔梗さんとかが説得すれば大きな効果が期待出来ます」

 

確かに、巴城に立て篭(こ)もって劉焉を益州に入れなかった桔梗だから説得力がある。

そこへ「実績」を示すこの「証拠」が加わるわけである。

 

「それで、成都を守っている賈龍さんが納得してくれれば、無駄な戦いをする必要が無くなります」

 

桃香や一刀たち、同志たちの目的は「蜀」の国作り。

戦う事が目的で益州を侵掠したのでは無い。

前々任の益州刺史が戦死した後、その補佐官だった賈龍が有志を集めて益州を守ってきた。

その功績を認める積もりはあっても出来れば戦いたくは無い。

霧花にしてもそうだった。

 

「南蛮」から守るべきものを守って戦う間に、霧花は心から「黄権」に戻る事が出来た。

もう、狭霧や桔梗も懐かしい「法正」や「厳顔」としか思えない。

それに「今」の成都には「劉備」の前に仕えた「あの」主君が居る訳でも無い。

この上「益州」の兵と戦う理由が霧花には無かった。

成都に帰る理由こそ、当然に帰るべきだったろうが。

巴郡まで戻って来た劉備軍は、益州の州都成都を目指して、四川盆地を横切るように進撃し始めた。

けれども、決っして自分から戦おうとはしない。

既に同志と成った狭霧や桔梗たち、益州出身者たちが同郷の者を説得して、無血で開城させては着実に前進して行く。

 

こうして、盆地の中央付近まで来たところで劉備軍の主力は進撃を休め、桔梗や狭霧、簡雍たちが成都へ説得に赴いた。

後は成都に入城するだけだろう。劉備軍としては。

従軍する霧花にとっては、帰る道だった。

 

蜀の国主の城であり、そして「黄権」にとっては仕えるべき主君の城である成都。

その成都に、もうすぐ帰れる。

霧花にとっては其の内心の準備期間を意味していた。現在、進軍を休めている事は。




無謀と思いつつも書き始めた此の未熟な作品も、とうとう此処まで辿り着くことが出来ました。

それでは続きは次回の講釈で。
次回は『最終席 帰りなん成都』の予定です。

ここまで読み続けてきて頂いた皆様には、心より感謝致します。
また、温かいご意見ご感想には、重ね重ねお礼を述べさせて頂きます。
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