連合軍と菫卓軍の第1戦は、結果からすればあっさりと終わった。
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洛水沿いの街道を封鎖する「汜水関」を波状攻撃する連合軍の中で公孫賛軍の出番が回ってきた時、雛里の「中策」を採用した桃香が「魔王菫卓の10の罪」を糾弾すると、守将の華雄は完全に逆上してしまい愛紗との1騎打ちに乗ってしまった。
そして、愛紗に1撃どころか「ミネウチ」で気絶させられてしまい、その好機に乗じた孫呉軍が突入して占領してしまった………。
……。
…だがしかし、次の「虎牢関」はこうはいかないだろう。
何せ”あの”呂布が待ち構えている………。
……。
…結果はある意味では霧花の知る通りの様で、けれども結果としては異なる顛末を迎えた。
「天の国」では「電撃戦」とか言うらしい如何にも呂布らしい戦いを仕掛けてきた雄将を、連合軍の本営の手前で愛紗と鈴々と公孫軍の客将に居た趙雲(真名星)が総がかりで押し止めた。
確かに呂布ではこの手段しか無かっただろう。
その間に、曹操軍や孫呉軍などの連合軍が立ち直って逆に虎牢関に迫ろうとする。
これに対して反転した菫卓軍と連合軍が混戦になっている間に、虎牢関の直前に空白が出来ていることを竜鳳の軍師が見抜いた。
愛紗と鈴々、そして「こちらの方が面白そうだ」と客将の気軽さで付き合った星が突破口を切り開き、劉備玄徳の「劉」の旗と「天の御遣い」を示す「十」の旗を押し立てた劉備軍は1気に戦場を駆け上がった。
当然に霧花も其の中に居る。
陣頭に最大の攻撃力が集中してしまった劉備軍の側面を援護する任務に就いていた。
虎牢関の門前に到着すると、そのまま守備の兵士もそれを率いる将も今は不足している関城に襲いかかる。
霧花も、朱里が改良した連弩(連発ボーガンであり「前世」の孔明も発明している)を指揮して、城壁上の敵兵に頭を引っ込めさせる。
その間に愛紗が鈴々を、文字通りに城内に投げ込むと内側から城門を蹴り破った。
1気に突入すると楼門城に「劉」と「十」の旗を高々と掲げる。
この旗が菫卓軍に対してのトドメとなった。
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呂布と軍師の陳宮は、逃亡して行方不明。
副将格の張遼は曹操軍に捕らえられて、虎牢関の菫卓軍は壊滅した。
残るは帝都洛陽だった。
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だがしかし、霧花が「黄権」として知っている筈の「前世」よりも手際が良過ぎた。
「伏竜鳳雛」が付いているからだろうが、その「3顧の礼」をこんなに早く成立させてしまったことと言い「天の御遣い」というのは、あながちホラとも思えない。
「前世」を知るだけに、桃香たちとは異なる意味で「天のお告げ」の威力に感嘆する霧花だった。
それは微かに疑惑を伴っていた………。
……。
…後漢帝国の帝都であり続けで来た洛陽。
「黄権」にとっては、後漢に取って代わった「魏」帝国の帝都でもあり、遠く故郷を思いながら其の生涯を終わった土地でもあった。
その帝都洛陽を、現在の霧花は反菫卓連合軍の1軍である劉備軍の1員として包囲していた。
連合軍から現在の劉備軍に与えられた任務は、帝都近郊の「食糧備蓄基地」の確保。
したがって、霧花も「基地」城内で「当直」の警備任務を行っていた。
本来なら帝都への食糧の搬入路だが、治安上の理由から「かくれ道」になっていた為「抜け道」として利用される場合があった。
実際に「かくれ道」を利用して、連合軍に接触しようとした胡散臭(うさんくさ)いヤツがいた。
済成(成(な)り済(す)ます)などと名乗っている胡散臭いヤツ。
ここまで2度は、丁度「かくれ道」の「当直」で無かった為に直接は会っていない。
その「胡散臭いヤツ」と主君やその側近が何を話したか、その後で連合軍の参謀である曹操に何を報告したかは、いまだ立ち会う程の立場でない霧花は後で聞いた。
尤(もっと)も、部下に隠し事をする主君でもない。
そして、今回の「当直」は「その」事と無関係では無かった。
「“あの”菫卓を生け捕りにして来る?胡散臭い」
……けれども、本当に連れて来た。
余程こちらの方が「黄権」だった時に話に聞いていた「菫卓」のような絵に描いたような悪漢が、数人の「部下」というより「手下」とともに、2人の少女を担ぎ込んで「かくれ道」の出口から現れた。
「“菫卓”を連れて来るのではなかったのか?菫卓の侍女など献上しても、わが主君は喜ばんぞ」
残念ながら、今の霧花の立場では主君に取り次ぐしか無かった。
… … … … …
何とも「人形の様な」あの儚(はかな)げな少女は、本当に「菫卓」だったらしい。
曹操たちが捕虜にしていた張遼や華雄を連れて来て、首実験をして行った。
(…どうなっているのだ?「この世」は…)
疑惑が進む思いの霧花だった………。
……。
…何方(どちら)にせよ「菫卓」と軍師の賈駆はそのまま、桃香や「ご主人様」の侍女にされていた。
侍女が仕えている事自体は好い。「黄権」だった霧花が知っている「主君」は蜀の帝王だった。
それに中国人の考える「面子」からすれば「相国」まで成り上がった身が、侍女にまで成り下がった姿を晒せば首を取ったも同然。
そして、取ったのは「劉備」である。
尤も桃香等は、こうするのが月(ゆえ=菫卓の真名)を助ける事に成ると、自分の軍師たちに説得されていた。
だがしかし、霧花の中の「黄権」は疑惑を進行させていた………。
……。
…あの「成り済まし」は、月たちを引き渡して菫卓軍を乗っ取ると、今度は曹操と交渉をした。
結果は見事に帝都の外に誘き出されて「旧」菫卓軍は壊滅。
皇帝は曹操の手中に取り戻された。
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解放された帝都の中で、霧花いや「黄権」は疑惑をさらに進行させていた。
劉備軍は手際良く「より」大きな手柄を立てた。その事自体は喜ばしい。
だが……
(…この「世」はおかしい。いや、この方がマシだろうという事は分かる…)
「黄権」が知っている限りでは、この連合軍は失敗した筈だった。
後漢の帝都として繁栄した洛陽は、実は此の時1度焼け落ちている。
「黄権」の終(つい)の場所となった「洛陽」は、曹魏によって再建された都だった。
けれども「今回」は、劉備軍のみならず曹操軍までが上手く立ち回っていた。
その結果が「燃えなかった」洛陽だった。
無論、虎牢関等で董卓軍がより弱体化していたこともあり、その上に「主君」と其の軍師を失って、本来の董卓軍で無く成っていたことも大きいだろう。
だがしかし、それにしても……
(…「この」後の「歴史」はいったい、どう成って行く?…)
「黄権」が生涯を終わった時点で、天下に太平は訪れていなかった。
「魏」「呉」「蜀」に三分されたままであり、太平を知らない「黄巾の乱」以降に物心ついた子供が、年老いて人生を終えていく時代だった。
だがしかし、霧花の目前での「歴史」の展開は、間違い無く「黄権」が見聞したよりも早く成っている。
(…「天」は「歴史」そのものを変えてしまう積もりなのか?ならば、あの「天の御遣い」は…)
霧花の疑惑はある意味では、今や確信未満の”LV”だった。
それでは続きは次回の講釈で。
次回は『第8席 天の御遣い』の予定です。
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